grachan moncur 3

「NEW AFRICA」(BYG/SOLID ULTRA−VIBE CDSOL−3890)
GRACHAN MONCUR V

 これも、今回の再発ではじめて聴いた。なにこれ、めちゃくちゃええやん! BYG的なマラソンセッション(?)とはちがい、リーダーのグレイシャン・モンカーの並々ならぬ気合いを感じる。冒頭の超重たいデイヴ・バレルのピアノのオスティナート、アンドリュー・シリルのバネのある叩きっぷり、アラン・シルヴァのベースのからみつき具合……どれをとっても最高である。グレイシャン・モンカーのまさに「ニュー・アフリカ」という感じのゆったりとしたトロンボーンの吹きっぷりを聴いていると、大原さんの「アフリカ組曲」を思い出す。やっぱりBYGのなかでも、これぐらいいいメンバーだと最高の内容に達することができるのだ。聴くまえは、このころに録音されたアメリカ・ヨーロッパ混合フリーによくある、混沌とした、つかみどころのない演奏かと思っていたが、とんでもなかった。モンカーは70年代ジャズの凛として深くて黒いあの感じを先取りしているようだ。モードジャズとフリージャズの良いところが合体したような、ファラオ・サンダースやビリー・ハーパー、ウディ・ショウ、ゲイリー・バーツ……といったひとたちの一連の演奏が思い浮かぶ。しかし、そこに「異物」としてのロスコー・ミッチェルが今も変わらぬ変態の限りを尽くしており、それもまた聴きどころである(デイブ・バレルのピアノソロも相当ヘンテコで面白い!)。いやー、この一曲目は圧倒的でありました。2曲目もバレルのピアノがびしびし利いた、かなり面白い曲。4曲ともモンカーのオリジナルだが、このひとはやはり作・編曲の才能はすごいですね(ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラを聴いてもわかる)。今にも崩壊しそうな灼熱のマグマのような熱いリズム(ビート感はないが、シリルのドラムが凄すぎる)に、シェップとロスコーが加わり、続いてソロをするモンカーのトロンボーンが空間を切り裂いていく。溶岩というより、岩の裂け目から血が噴き出しているかのような緊張感が延々持続する演奏。この2曲目もめちゃくちゃいい。3曲目は激しいコレクティヴインプロヴィゼイションで、全員がまっすぐまえを向いて疾走しているすばらしい演奏。シリルも凄いが、とくにデイブ・バレルのガンガンいくピアノが凄い。そして、シェップは当時としては最高のブロウを繰り広げている。モンカーのトロンボーンソロもフリーキーだが、アブストラクトではなく、具体的なフレーズをバシバシ決めていてかっこいいにもほどがある。しかし、全体にバレルが大活躍する曲でありました。ラストの4曲目はちょっとハードバップ風の曲。なかなかいい感じ。グレイシャン・モンカーの悠々たるソロのあと、ロスコーがけっこうハードバップ風のソロをするのもほほえましい(といってもロスコーはロスコーなのだが)。そのあとに出て来るシェップもめちゃくちゃいいソロをしていてびっくり(失礼な話だが)。やはり、ロングソロでなければ破綻しないのだ。「ワン・フォー・トレーン」(グレイシャン・モンカーも参加している)とか「マジック・オブ・ジュジュ」とかは情念(?)が優先されてしまっていて、途中でダレるように思うが、こうして聴くと、しっかりしたフリージャズのソロイストだと思う。大傑作として推奨します。