mooney

「WE GOT RHYTHM」(AIRPLANE LABEL AP−1073)
ムーニー & 藤井康一

 横浜のムーニー(橋詰宣明)というボーカル、ギターのひととボーカル、サックスの藤井康一のデュオによる2017年作品。本作はスウィングジャズだが、ムーニーも藤井康一も古いジャズやスタンダード、ブルース、ジャイヴ、ロックンロール、R&B、カントリー……といったアメリカのルーツミュージックが大好きなのだろう。雑食的に見えるが底には一本、筋が通っている。ゲストを交えず、徹底してふたりだけの世界で、けだるい歌、きびきびしたリズム、シンプルだがムードのあるサックスのオブリガートで構成されているが、その雰囲気作りのすごさは同じような志向のバンドのなかでも突出しているのではないか。ムーニーの声(ええ声や)と歌い方(ダルい歌い方なのに言葉が端々までくっきりと聞こえる)、シンプルなリズムギターは最高だし、テナーのとくに低音のサブトーンはまるでバディ・テイトだ(ソプラノも使用)。藤井康一がよくやっている日本語でのジャイヴとかはないのだが、楽しさは十分に伝わってくる。基本的にはゆったりスウィングするテンポの曲が多く、スキャットバトルが展開する8曲目「アイ・ガット・リズム」はアップテンポで、多重録音がほどこされている。9曲目の藤井康一が歌う「チェリー・レッド」はしゃくれた歌い方もクリーンヘッドの完コピになっていて笑える。選曲もすばらしく、おなじみの曲ばかりが並んでいるのだが、正直こういうのは逆にやりにくいと思う。しかし、それを奇をてらったやり方をせず、さらりと洒脱にできる、しかも深いし、楽しい……というのが、このふたりの年季ということでしょう。ラストのボーナストラック「ティーン・エイジ・ブギー」はムッシュかまやつに捧げられたものだが、これだけ女性コーラス(といっても「へいへい」とか「ほーほー」とかいうだけだが)が二人入っている。ライヴハウスでの録音だが、たぶん無観客。