ralph moore

「623 C STREET」(CRISS CROSS JAZZ CRISS1028CD)
RALPH MOORE QUARTET

傑作としか言いようがない。本作が出たとき、なにげなく聴いて瞠目しまくり、その後、出るアルバムをことごとく買ったが、結局本作を超えるものはなかった(ロイ・ヘインズのアルバムは別として)。とにかくすばらしい。1曲目に、バド・パウエルの「ウン・ポコ・ロコ」を持ってくるあたりのセンスもいい。ピアノトリオにしかなじまないように思えるこの曲のテーマをテナーのワンホーンでやる、というのは一種のチャレンジだが、その結果は見事の一言。まあ、とにかくこの曲を聴いてみてくださいませよ。この曲でのムーアのソロは、音がいい。太くて、やや濁った、リンクの一番いい感じの音。ちょっと昔の(リンクを吹いていたころの)ボブ・バーグっぽいかも。そして、テナーの上から下まで、音色が変わらないのもボブ・バーグっぽいかも。これはなかなかできることではない。アーティキュレイションも完璧だし、しかも私好み。フレーズはバップ的なものと露骨な半音ずらし、一音ずらしのメカニカルなパターン(しかも、私がいつも練習しているやつ)などを組み合わせており、歌心もあるし、モーダルな曲にも対応していてほれぼれする。ビリー・ハートのドラムがめちゃくちゃ煽りまくるが、それがどうしたのという感じでクールに吹きまくるのもかっこいい。ピアノのデイヴ・キコスキーも最高の演奏。いやー、この1曲目はだれが聴いてもびっくりするんじゃないの? 私も、その昔、なんとなくレコードが出たときに購入して卒倒しそうになった。世の中でいちばん上手いテナーじゃないの?とさえ思った。ソプラノも、ええ音やしピッチもいいし、言うことおまへん。じつはソプラノのほうがアーティキュレイションは上手い下手がはっきり出てしまうのだが、ムーアはさすがです。バラードも聞かせるし、もうめちゃくちゃ傑作なのだ。前にも書いたかもしれんが、私はJJジョンソンクインテットが某ライヴハウスに来る、しかもテナーがラルフ・ムーアということでものすごく期待していたところ電話がかかってきて、JJの奥さんが病気でJJは来日はしているのだが演奏ができないことになった、ついてはラルフ・ムーアのワンホーンカルテットで演奏はするけど、キャンセルしかったらどうぞ、とのことで、しかもチャージはものすごく安くなるし、入れ替えだったのもやめて2ステージとも観られるというのだ。向こうはすまなさそうに、JJを楽しみにしていた皆さんには申し訳ないのですが……と言うのだが、こっちとしては「きゃっほーっ」てなもんで、と大喜びでラルフ・ムーア・カルテットを堪能したが、ショーターの「フィー・ファイ・フォー・フーム」などもやってくれて、大満足でした。話がそれたが、このアルバムはだれかに貸してそのままいまだに返ってこないので、こうしてCDで再入手できるとうれしくてしゃーないわけで、毎日聴いてるけど飽きないですねー。まー、だまされたと思って聴いてみてください。冒頭にも書いたけど、これ以降のアルバムも悪くはないんだけど、(聞いた範囲では)これが一番いいと思う。それにしても、こんなに上手いひとが今なにをしてるんだろう(ネットで調べると、元気に演奏は続けているようだが……)。傑作です。