「準備万端」(SASAGE RECORDS SRCD−1402)
メキシコトリオ+浅川太平
真っ向勝負のジャズ。たとえば70年代あたりの、ガッツのある日本ジャズを連想するような、熱く、虚飾のない、ひたすら真摯で一本気でまっすぐなテナーのワンホーンカルテット。オリジナルでかため、ビバップ〜モード〜フリーを行き来しながら、煮えたぎるようなブロウでそこを突きぬけようとする「ジャズ」を感じた。6曲目、8曲目、10曲目あたりのバラードにもこのテナーのひとの音色やアーティキュレイションなども含んだ表現の巧みさが現れている。ソプラノも見事。ああ、上手いなあ、ではなくて、ああ、ええなあ……と音楽を聴くときの本来の感動が素直に口をついて出るタイプの演奏で、とてもはまった。それにしてもええ曲書くなあ。ベースはあいかわらず、豪快のようでじつは細かいところに手が届くワンアンドオンリーのすばらしい演奏。ドラムも堅実(これはとても重要)かつ個性的で軽々とスウィングし、細部にも気配りがある。ゲストのピアノも大活躍。エレピもいい味を出している。こういうある意味剥きだしの、ジャズの「芯」みたいなものを飾り気なくドーンと突きだしてくるような演奏は、今は案外貴重なのかもしれない。めちゃくちゃ気に入った。でも、どこが「メキシコ」なのかはまるでわかりませんでした。
「滝の見える熱帯の風景」(SASAGE RECORDS SRCD−1301)
メキシコトリオ
この音楽をひとことで言うとどうなるか。「モードジャズ」。演奏者としてはそれでは不満だとは思うが、正直いって、これだけ真っ向からモードジャズというものに斬り込んだ、そして、モードジャズ(のテナートリオ)の魅力をあらわにしてくれる演奏というのは貴重であり、感動的である。この表現が大げさだと思うひとは本作を聴いてみてほしい。森田修史、岩見継吾、永田真毅によるテナートリオ。これって、正直、テナートリオとして理想の状態ではないでしょうか。もう10年もまえの演奏なのか。森田氏のテナーは、いつもながら本当に私の好みで、モーダルな曲調のなかで自分を訥々とつむいでいく。その過程でスクリームするような表現も交えながら、じつに真摯にフレーズを重ねていく。非常に抑制のきいた表現ではあるが、ベース、ドラムとあいまってじわじわと熱量を高めていき、ついにクライマックスに達する。こういう表現が好きなひと(私もそうですが)にとっては「たまらんなあ」ということになる。2曲目のアフロビートのもろモードの曲など、こんな風に真っ向勝負でゴリゴリのブロウをかますというのはうれしくってしかたがない。上手い下手でいえばもちろん上手いのだが、そういう技術的なことを越えた「俺はこういう風に吹きたいんだ」という気持ちが伝わってくる。それでいいのだ! するすると上手いテナーではないかもしれないが、ごつごつしたこの吹き方は完全に私の好みであります。SE的な波の音(?)みたいなのも聞こえる。こういう自主製作のアルバムのなかから聞こえてくる音が、たとえばマイルスやコルトレーンなどの歴史的傑作と肩を並べるすばらしい演奏だったりすることを、知らないひとがけっこう多いのではないかと思う。本作に収めらている音源を先入観なく聴けば、そういった偉大な先達の作品に十分肩を並べる内容なのである。いや、マジで。7曲目のバラードも見事である。8曲目で大きくフィーチュアされるベースもいい。9曲目は沖縄民謡をアレンジしたものでここにも波音のSEが聴かれる。シタールの新井ごうが1曲目と9曲目に入っている。傑作。