david moss

「VOCAL VILLAGE PROJECT」(INTAKT RECORDS INTAKT CD068)
DAVID MOSS

 四人のヴォイスに、キーボード、エレクトロニクスのひとが加わった五人組。「ファイブ・メン・シンギング」とはフィル・ミルトン、デヴィッド・モス、巻上公一の3人がかぶっている。やっぱり面白いなあ。やってる側の楽しさがびんびん伝わってくる。激しいものから幻想的なもの、ユーモラスなものからノイジーなもの、朗読的なものや演劇的なものからホーミーまでめったやたらと盛り込まれていて、とにかくボーッと聴いてるだけでただただ面白い。巻上さんのパートはすぐにわかるなあ。「ファイヴ・メン・シンギング」は本当にヴォイス5人だけのパフォーマンスでかなり圧倒的だったが、本作はドラムがリズムを刻んだり、パーカッションが入ったり、ベースラインがあったり……とロックっぽい曲もあるし、巻上さんもいろいろ小道具を使っている。(たぶん)デヴィッド・モスが叩いているのだろうドラムもすごくいいし、キーボードのリフが効果的な曲もあり、バラエティ豊か(ある程度譜面がある曲もあるのかもしれないが、そういうキメもじつは即興かもしれず、よくわからん)。ほとんどは5人全員による即興だが、ふたりもしくは3人のピックアップによる演奏もある。芸術的であることはもちろん、エンターテイメントであり、前衛的であり、演劇的であり、音楽的であり、高尚であり、チープであり、超人的であり、身近であり、精神的であり、肉体的であり、西洋的であり、民族音楽的であり、ポップである。喜怒哀楽すべての感情が詰まった演奏だが、それはやはり「声」というものがもともとそういうものだから、としかいえないな。ほんと、聴いてて楽しいので、前衛ヴォイスパフォーマンス? とか敷居を上げずに、ニュートラルに聴いてみたら、めちゃくちゃ面白いことまちがいなしです。

「TIME STORIES」(INTACT RECORDS INTACT CD 054)
DAVID MOSS

 デヴィッド・モスが7人のミュージシャンとそれぞれデュオを行った短い演奏を22曲並べてある。クリスチャン・マークレイとのデュオの1曲だけが別日の録音で、ほかは全部、同じときに行われたライヴ演奏。フランク・シャルテのターンテーブルとのデュオで幕を開けるが、浪曲のレコードとか出てきてぶっ飛ぶ。おもろすぎる。つぎつぎととっかえひっかえのように登場するデュオ相手とモスの対決(?)はぱらぱらマンガをめくっているように現れては消え、その効果は抜群。コント集の芝居を観ているようでもあり、楽しいことこのうえない。短いデュオを並べ立てるという趣向は見事に成功しているが、並べ方というか編集も大事なのだろうな。3つ、あるいは4つごとに区切りがあって、7つのパフォーマンスとしてまとめられているが、バラバラに聴いてもかまわないと思う。とくに心に残ったのは、1曲目の上記フランク・シャルテとの、チープなリズムパターンのうえで展開する浪曲対決、4曲目巻上さんとの口琴のリズム鮮やかでファンキーなやつ、8曲目の最初は静かに、後半ドラムが入って盛り上がり、また静謐に戻るハイナー・ゴッペルスとのやつ、9曲目のハンス・ピーター・クーンとの、町工場で旋盤が回ったり、なにかを焼きつけたりしているような音響のやつ、10曲目のシャルテとの、低音のドローンのようなヴォイスとひらひらするシンセ音と語りやノイズで構築される不穏な世界、13曲目のミントンとのストレートアヘッドなヴォイスデュオ、14曲目の巻上さんとのホーミーとのデュオ、15曲目のシャルテとのサンプラーを駆使した(と思う)正統派的な演奏、16曲目のミントンとのゲロを吐くようなえぐい表現、17曲目のキャサリン・ジャウニオーとのダークファンタジー的な世界(と私が勝手に思ってるだけだが)、18曲目の巻上さんが高音で「にょーにょーにょー」と言ってモスが低音で受けているやつ、22曲目のマークレイとの超切迫感のある演奏などがとくに心に残った。いやー、めちゃくちゃおもろいやん。