seijiro murayama

「READY’N」(TENSELESS MUSIC TLM−001)
SEIJIRO MURAYAMA/MASAFUMI ESAKI/KAZUSHIGE KINOSHITA

 これはある意味驚きのアルバムで、ドラム〜パーカッションの村山政二郎さん、ヴァイオリンの木下和重さん、トランペットその他の江崎将史さんの3人が公開状態で行ったライヴ即興がすべて収録されているのだが、それが40分、20分、10分の3曲で、その順番で演奏され、しかも曲ごとに演奏位置を交替するという取り決めがされていたらしい。完全即興で、曲長が指定されているのも面白いが、もっと面白いのは内容で、たとえば1曲目は最初の2分半ほどは無音で、ようやくヴァイオリンの弦をべろんと掻き鳴らす音がしたかと思ったらまた無音になり、4分半ぐらいからなにかを引っ掻くような音が聞こえ出す。しかも音がめちゃめちゃ小さいのでプレイヤーのボリュームをかなり上げて聴きながら、ほかのふたりはどうなってるのかと思っていたら、14分すぎくらいに突然ラッパの短いロングトーン(というのも変な表現だが)が鳴り響き、あわててボリュームを下げるが、そのあとまた無音……そのあともいろいろと展開するのだが、正直、音のない部分がめったやたらと多く、途中からそれが気にならなくなってくる。つまり、「無音」の部分も演奏だと感じるようになるのだ。そんなの即興とか現代音楽なら当たり前じゃん、というひともいるかもしれないが、事前にそういうものだと知らされているならともかく、ライヴとかこういう録音物で、ちょっとでも無音の箇所が長く続くと、あれ? 機械が壊れたかなとかマイクがトラブってるのかな、と思ってしまうのが普通だと思う。それをこれだけ頻繁に、しかも何分にもわたって、繰り返し無音にするというのは、まるで無音の部分が主で、音が出ているところが従なのではないかという感覚の逆転現象さえ起こる。絶対に聞き流したりできないタイプの演奏だが、真剣に70分間聴いてみたら、それはとても貴重で、いろいろ考えさせられる体験だった。しかもとても楽しかった。本作を聴こうというひとがいたら、ちゃんと70分の時間をあけて(最低でも40分)、向き合って聴くことをおすすめします。内容的にも、よくこの演奏をCDにしたなあ、という意味でも驚いた。ライナーには「江崎将史のオーガナイズにより」と書かれているが、3人対等の演奏だと思うので、便宜的に最初に名前の出ている村山政次郎の項に入れた。