yuki nakagawa

「音楽と、軌道を外れた」(YUKI NAKAGAWA BAND OTCCDS 001)
中川裕貴、バンド

 このひとのチェロの即興ソロを生で聴いたのだが、すばらしかった。普通に弾くだけでなく、本体を叩いてパーカッションにしたり、ルーパーでオーケストレイションしたりする。でも、それだけなら多くのひとがやっていることだが、結果として作り上げられた音楽がものすごく魅力的で美しく、かなり繊細なのにライヴならではの迫力と興奮に満ちていて、しかもエスカレーションというかどんどん盛り上がっていく感覚もあって、すっかり感心してしまった。そのときに物販で買ったCDなのだが、これはバンド形式で、ヴォイスのひとが朗読したり、ストリートレコーディング(なのか?)の音源を切り刻んだり、端正なピアノのメロディとノイズを混ぜたり、多種多様な試みが行われているが、おもちゃ箱をぶちまけたようで、ふざけているようで、しかもじつはシリアスで楽しい。4曲目の「チェロのボディを叩き5拍子のフレーズ」とか、今やっていることを詩のように朗読していく曲とか「変」ですよ。確信犯であることはわかっているのだが、なんとなく巻き込まれてしまう。朗読者のイントネーションがときに関西弁だったりするのも笑える。まあ、正直に言ってしまうと、「なにがしたいねん!」という感じなのだが、なにがしたいのか最初からはっきりわかり、その状態のまま最後まで行く音楽のなにが面白いのかと思うので、こういう試みは刺激的でうれしい。ベーシックなメロディはどの曲もシンプルで、幼稚園児が歌えるようなものでありながら、そこに混ぜ込まれるもろもろのノイズが、ある種のメッセージを聴き手に与える。メッセージの受け取り方は聴き手それぞれによってちがうだろうが、この演奏を真摯に聴いて刺激を受けないひとはいないだろう。6曲目の冒頭など、レコーディング風景をそのまま録音しているわけだが、そのあとに登場するヴァイオリンソロのあまりの美しさや生々しさなどに胸を掻きむしられる。私がこのアルバムでもっとも「かっこいい!」と思ったのはラストの7曲目で、仕掛けもてらいもなくストレートアヘッドに表現されている。唐突ともいえるノイジーでリズミックな展開などさまざまな山場があったあげく、最終的にはシンプルで力強い表現に回帰する。こういう音楽にはあまり慣れていないが(ライヴで観たチェロの無伴奏ソロは私にとって親しいタイプの音楽だった)、とても楽しめた。またライヴに行ってみたいなあ。