sachiko nakajima

「REJOICE」(VVV MUSIC & NATURE VVVMN−001)
中島さち子

 いや、もうめちゃくちゃよかった。一時、毎日聴いてた。ものすごーくいい意味で、伝統的なものが土台にしっかりとあって、それをてらいなくストレートに出している感じが好ましい。ポップな面とへヴィな面が同居していて、かなり濃密なのに楽しく聴けてしまう。1曲目はおなじみの童謡「ふるさと」をピアノソロで弾き、そこからリズムが入ってきてジャズアレンジになる……という、一歩間違うとかなりダサい演出が、すごく好感の持てる自然な流れになっていて、これを一曲目に置くという大胆さも含めてめっちゃ好き。短い演奏だが、毎回、すごくひかれる。2曲目以降はラストの「ダニーボーイ」を除くと全部オリジナル。2曲目はポップな雰囲気のあるラテンフュージョンっぽい曲で、カカンカ・カカンカというお決まりのフレーズも、これ一歩間違うとダサく……あ、それはさっきも書いたが、こういうパターンも、なにしろ曲のテーマがよくて、ソロの明るさというか本人が楽しんで弾いているのが伝わってきて、めっちゃいいです。3曲目は、これもちょっと懐かしさを感じるような、ベースがオスティナートなパターンを弾き、ピアノがガンガンとパワフルに弾きまくるという、マッコイ・タイナーの演奏を思わせるような作風の曲で、いやー、これが超かっこいいのです。炸裂する重いコードとドラムが見事にかみ合って、「人間がやってる音楽」って感じ(なんのこっちゃ)。こういうタイプの演奏ってだれでもやってるのかもしれないが、こういう風に迫力と躍動感と説得力を伴っているプレイはそんなにないですよ。和旋律のモードでのソロの迫力と、それを煽るドラムは本作中の白眉。つの犬さんのドラムもほんとにかっこいい。4曲目はちょっとゴスペルっぽい曲で、それを真っ直ぐな解釈で、というか、真っ向勝負に弾く感じ。5曲目は3拍子の変わった雰囲気の曲で、すばらしいコンポジションだと思う。この曲でのソロもすごく変わっていて、ライヴで聴いたときの中島さんはこういう印象のソロをしていたなあ、と思った。めちゃかっこよくないっすか。ベースソロも短いけどフィーチュアされて、ええ感じです。6曲目はわらべ歌というか、まんが日本昔話的な曲で、これもいいなあ(結局どれもいいのか)。3曲目とかこの曲みたいな70年代的モードジャズがやはり一番私の好みなのだ、というだけのことかもしれないが、とにかくめっちゃかっこいいのだ。しつこいようだが、こういうのも一歩間違えるとダサくなるのに、このひとはたぶんすごくセンスがいいのだと思う。あるいは、本物はいつの時代もいいのだ的なことか? 7曲目はアルバムタイトルでもある曲で、なるほどタイトル通り楽しいノリノリの曲なのだが(テーマに一瞬のブレイクというかストップモーションがあるのがかっこいいね)、ピアノのエキサイティングなソロのバックでベースが変なエフェクターをかけてワウワウワウワウ……といわせるのが、これがまたダサさギリギリの超かっこよさで、ほんま泣ける。ドラムソロもあり。8曲目は「ハッピーチャイルド」というタイトル通り、子供の声が最初に挿入される楽しい曲で、セサミストリートで使われても違和感ないような曲。これもほんとまっすぐな作曲だよなー。こういう曲調だとドラムがかっこよくないとがっかりなわけだが、その点、つのださんのドラムはすばらしいです。9曲目は「山越え」というタイトルで、冒頭いきなり広沢哲の濁ったテナーが登場し、スパニッシュっぽくもあるし演歌っぽくもあるし渋さ知らず的でもある哀愁のテーマを吹く(ちょっと「ナーダム」っぽくもある)。アルバムもあと2曲、クライマックスのこの時点で、せっかくピアノトリオで来ていたのになぜここでテナーが入るのか……と最初はかなり驚いたが、このテーマにテナーが欲しかったという気持ちもわかるなあと思いつつ、毎日ずっと聴いてたら、これはこれで正解と思うようになった。たぶん、聴くひとによってはアルバムとしての統一感がなくなっていると思うかもしれない。ラストは「ダニーボーイ」で、これもテナーがフィーチュアされる。アイラーの「家路」みたいな感じで、しみじみとしてアルバムのエンディングにふさわしい。何度もダサいと書いたが、本作はまったくダサくないということを言いたいがためにそう書いてるので誤解なきよう。とにかく傑作なので、ぜひ皆さん聴いてください。