tatsuya nakamura

「OVER THE RAINBOW」(PADDLE WHEEL RECORDS KICJ136)
NEW YORK UNIT

ファラオ・サンダースが入っていればどんなアルバムでも聴く私だが、本作も完全にファラオ目当てで買った。この「ニューヨーク・ユニット」というバンドはドラムの中村達也がジョン・ヒックス、リチャート・デイヴィスとのトリオを中心にして黒人フリー系の人脈で何作かのアルバムを制作している、一種のセッションだが、一作目はジョージ・アダムスを加えたカルテット。2作目はトリオだけのアルバム。3作目はハンニバル・マービン・ピーターソンのラッパを加えたカルテットだった。どれも聴いてみたが、1作目はジョージ・アダムス参加という興味があったが、ほかはさほどの関心もなく、言ってみれば興味の範疇にはなかった。しかし、本作はなんといってもファラオが全面的にテナーで加わっているわけで(8曲中、5曲参加)、これは聴くしかないということで発売と同時に購入(といってももう15年もまえか……)。ファラオは中村達也がニューヨークに本作の録音のためにいったときにジョージ・アダムスが急病のため、急遽録音のためだけに白羽の矢がたったらしい。それでいいんです。そういう偶然の結果、私はファラオをこういうセッティングで聴けるんだから。選曲は、8曲中7曲が「グリーンスリーブス」「ネイマ」「サマータイム」……といったコルトレーン関連の曲や、「スカイラーク」「オーバー・ザ・レインボー」などのスタンダード、「ストーミー・マンディ」のようなブルースで占められていて、オリジナルはリチャード・デイヴィスの「マーラ」という曲一曲だけだが、これがいいんですねー。スタンダードやコルトレーン曲では「自分の役目」に忠実に吹いていたファラオが、本来のすがたを取り戻したようにフリーキーに吹きまくる。正直なところ、この一曲のために買ったとしても惜しくはない。我々は、ファラオがテナーで「ギャーーーーーーーーーーッ」と言ってくれてりゃ、それでいいんです。そういう点ではけっこう点数が高い作品といえる。

「NAIMA」(WHAT’S NEW RECORDS WN1005)
WE FOUR

 ドラムの中村達也がリーダーで、ジョン・ヒックスを招いてのレコーディングカルテット……ということでいいのかな。それだけなら、ニューヨークユニットとかいうやつで、ジョージ・アダムスやファラオやハンニバルを迎えてのアルバムもあるが、本作で特筆すべきはテナー。あの「あにやん」こと清水末寿さんである。清水さんのアルバムはアケタズディスクからのリーダー作「ホット・ケーキ・ミックス」をはじめ何枚かあると思うが、本作はぶっちぎり最高の作品。清水さんの魅力が、ほかのアルバムとは比べものにならないぐらいズドーン! と表出している大傑作。正直言って、収録されている曲は、「マイルストーンズ」「ハッシャバイ」「コルコヴァード」「ファッツ・ニュー」「インヴィテイション」「ネイマ」「フェン・サムシング・イブ・ロング・ウィズ・マイ・ベイビー」「アワ・ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」「サイドワインダー」……と手垢のついたスタンダードばかりで、多くのひとはそれを見ただけでげんなりして、食指が動かないかもしれないが、いやいや、ところがどっこい、そういったスタンダードならではのストレートアヘッドなアプローチが清水さんやジョン・ヒックスの魅力を引き出す結果になった。いやー、ほんと超かっこいい。ほかのアルバムではいまいちわかりにくかった清水さんのテナーの鳴り、瑞々しい音色、表現力などが如実にとらえられている録音もすばらしいです。もちろんフレーズもよくて、スタンダードジャズの枠からともすればはみ出すようなアグレッシヴな演奏が随所で聴かれ、ジョン・ヒックスもガンガン弾きまくって、最高のアルバムになった。きっとこのアルバムが再発されれば多くのひとが「あにやん」の凄さに目覚めてファンになるだろうと思う。テナー好きは、なんとか探して聴いてみて! 傑作!