「ヨカシキ 中尾勘二音楽帖 其GVの二」(OFF NOTE NON−3)
中尾勘二・岸川晃
しかし、このアルバムをはじめて聴いたときはひっくり返りそうになった。すごすぎるやおまへんか。何度も何度も聴いていると、これは俺が高校生の時に演奏していたあのテープじゃないか、と思えてきたりしてヤバい。本作は中尾さんが大村高校というところの高校生だったころに録音したテープだということだが、私も高校生のころ、おんなじようなことをしていてそのテープは今も持っていて、ときどき聴く。もちろんこんなすごいクオリティではないのだが、目指すところはよく似ているというか、とにかく自分にできるかぎりの変な音楽をやろうという気持ちはあったと思う。たとえば「インチキクラシック」とか「シルクロードの民族音楽」というタイトルの曲があったりするが、我々も「ポリネシア」とか「ゲルマン民族大移動のテーマ」とかいった曲をやっていたのだが、それは「南洋音楽やろうぜ」「わかった」といってすぐに演奏をはじめるというでたらめ即興で、録音してあとで聴くとこれがすごく面白かったりするのだ。本作は、理想も高いが、意外にも音質もよく(というか、えげつないほどリアルな録音でびっくりする)、鑑賞に堪えるし、なにより内容がすばらしい。とにかくめちゃくちゃ面白い。フリージャズというより、それをびょーんと飛び越えたミシャ・メンゲルベルグ〜ハン・ベニンクのような自由で洒脱でしかも「ただではおわらんで」的な若さゆえの凄みもあって、ああ、いつまでも聴いていたい。高校生ならではのギャグもある。中尾さんはこのころから金管と木管、ドラム、ベース、ピアノなどを演奏しており、どれも上手い。なかでもサックスの音は朗々と鳴っている。「バスケットセッション」というのは吹奏楽部院が遊びでバスケットをしながら即興演奏をしている風景で、これはもう信じられないようなドキュメントであり、ボールをドリブルする音や歓声などが音楽を構築しており、しかもサックスの響きがすごい。ドン・チェリーかよ! と思った。堂々たる演奏で本当に感激する。この音源がこうして発売されたのはある意味奇跡だと思う。しかも二枚組で。レーベルも、彼らの意図をちゃんと受け止め、この音源の意義を理解したゆえの二枚組ということだと思うが、本当にすばらしい。オフノートはえらい! 本作での演奏は互いに互いを面白がるちゃんとした共演者というか理解者を得られての演奏だと思うので、これはなかなか稀有なことではないかと思う。それはたとえばピアノで伴奏する「おじいさんの箱」という朗読を聴いても明らかである。表現力がすごすぎる。コンポステラを結成する3年まえなのだが、もうすでにコンポステラ的なサウンドなのである。無限の可能性を秘めたすばらしい演奏の数々だ。傑作! ただし、おまけ的な映像がついているような気がするが、どうしてもそれが観られないのではありますが……。なお、だれがリーダーというわけでもないと思うが、便宜上、最初に名前が出ている中尾勘二の項に入れた。