teruhisa nanbu

「FREE IMPROVISATION TOUR AT KESENNUMA AND RIKUZENTAKATA」
TERUHISA NANBU KIM TONG JOO

 2012年2月に、ドラム〜ジャンベの南部輝久とアルトサックス〜チャンゴの金永柱のふたりが震災の傷跡深い気仙沼と陸前高田を訪れ、あちこちで即興デュオを行ったときの実況。なかには保育所での演奏も含まれている。1曲目はアルトソロで、これにはほんとにしびれる。しびれるという言葉は死語か? とにかくかっこいい。いわゆるフリー系のギャーッという演奏ではなく、あくまで安定した音色、音程、リズムで歌心溢れるソロを展開する。しかも、自然で、サックスの高音から低音までを無理なく使い、そのうえ自由を感じさせる。うまい。2曲目以降はデュオになるが、それも同様の、聴いていて心が休まり、しかも熱くなる演奏。聴くまえは、震災や津波に対する慟哭の思いなどを剥きだしにしたような演奏かもと思っていたのだが、見事に予想を裏切られた。ごく普通の上質な即興デュオとして存分に楽しめる。もちろんその奧にある熱い思いも感じ取ることができるが、なによりも根本的に音楽として純粋に成功しているので、すばらしい。購入してから何度も聞いたが、それは要するに聴いていて心地よいからなのだ。ふたりとも、おそらく音響的にはなかなか難しい状況で、たがいの音を聴きあい、集中し合い、「間」を大事にしあって、ひとつのものを作ろうとしているのがわかる。これは即興の原点であり、いつまでも忘れてはならないことだと思う。いろいろな即興演奏の方法があり、なかには古いとか今時じゃないとか言われるものもあるが、そんなことはない。ええもんはええ。5曲目は最初の半分はドラムソロ。音が少し遠いが、そのライヴ感がいい。後半サックスが加わり、長尺の演奏に。6曲目は保育園での演奏らしいが、ドラムソロですぐにフェイドアウトする。7曲目は叙情的な、童謡のようなアルトソロ。8曲目はもっとも長尺な演奏(15分ぐらい?)。手数の多いドラムに朗々とした吹き伸ばしで対するサックスのブレンド。そこからシンプルな3拍子のリズムを強調した演奏になり、サックスがペンタトニック風の少ない音数でメロディックなフレーズを吹く。このノリが最後まで続き、だんだん複雑にパワフルになっていく。ラストはドラムソロからサックスのフリークトーンの嵐に(祭りの笛みたいに聞こえる)。9曲目はまた保育園での演奏で、ドラムとチャンゴのデュオ(?)。こどもの声が入ってる。手拍子らしきものも聞こえる。10曲目はドラムソロではじまり、力強いアルトが加わるという、もっともサックス〜ドラムデュオのオーソドックスな形でのシンプルかつストレートアヘッドな演奏。途中でパターンが変化し、飽きさせない。