「LIVE FROM LOS ANGELS」(IMPULSE 0602498842256)
OLIVER NELSON’S BIG BAND
オリバー・ネルソンのビッグバンドというと、フライングダッチマンの「スイス組曲」(ほら、ガトー・バルビエリとクリーンヘッド・ビンソンが入ってるめちゃめちゃ大編成のやつ)が有名であって、この作品はいわゆる「隠れ名盤」的扱いのようだが、私が学生のころは誰でも知っているアルバムだった。というのも、一曲目の「ミス・ファイン」をはじめとして、「マイルストーンズ」、「ナイト・トレイン」、「ダウン・バイ・ザ・リヴァーサイド」など、学生ビッグバンド御用達の曲がずらりとそろっているからである。だからといって、アマチュア向けのしょーもないアルバムではない。たとえば「ミス・ファイン」はどこがどーっちゅうことのない、もりあがりどころのないだるい曲なのだが、これが実際に演奏してみると非常にむずかしい。こういう曲を軽ーく一曲めにもってくるあたりが渋い。「マイルストーンズ」では、フランク・ストロージャーのアルトとトム・スコット(!)のテナーがフィーチュアされ、最初はストロージャーのアルトがモーダルなソロを吹く。私はだいたいこういう感じのアルトがなぜか苦手なのだが、このソロはすばらしい。そのあとふたりのバトルというか同時吹きになって、かなり盛り上がり、それからトム・スコットのソロ。ドラムがエド・シグペンという、どう考えても「だいじょうぶか、あんた」的な人選だが、これがばっちりで、いやー、エド・シグペン、ビッグバンドもいけるんですね。「アイ・リメンバー・バード」では音的にも音程的にもやばさを感じさせるストロージャーだが、「マイルストーンズ」ではかなりがんばっている。そのあと、「ナイト・トレイン」、「ギター・ブルース」と二曲、メル・ブラウンのブルースギターがフィーチュアされるが、このひとは完全にブルース的だが、ときどきツーファイヴのところなどでコードチェンジに忠実なスイング〜ビバップ的なフレーズがひょっこり出てきて、なんだか違和感あり。「ダウン・バイ・ザ……」ではトランペットセクション全員のバトルがフィーチュアされ、フレーズで勝負するもの、ハイノートで俺が俺が的に行くもの、いろいろあって飽きさせない。ちなみに、「ナイト・トレイン」、「ダウン・バイ・ザ……」の二曲はジミー・スミス〜ウエス・モンゴメリーの「ダイナミック・デュオ」とアレンジはほぼ同じ。
「THE BLUES AND THE ABSTRACT TRUTH」(IMPULSE VIM−5561)
OLIVER NELSON SEXTET
もちろん傑作だし、その原動力はリーダーのオリバー・ネルソンの編曲手腕によるものだが、私の印象では、本作は、「エリック・ドルフィーのソロを際だたせることを目的としたアルバム」である。小編成で最大限の効果をあげているすばらしいアレンジも、フレディ・ハバード、ビル・エヴァンス、そしてリーダーネルソンのソロも、すべてドルフィーを輝かせるために存在する、といったら問題あるだろうか。あるだろうな。もちろんそんなことはないのですが、結果的に本作はドルフィーのためのアルバムとなってしまった。だって考えてもみてください。このアルバムにドルフィーが参加しておらず、「続ブルースの真実」のようにフィル・ウッズだったら……。それなりに優れたアルバムにはなっただろうが、こんな風にジャズ史に燦然と残る大傑作となっただろうか。タイトルの「ブルースの真実」というのも、エリック・ドルフィーという稀有の黒人ミュージシャンのなかにあるブルースをデフォルメした形でオーケストレイションしてみました、という意味ではないかと深読みしてしまう。言うまでもなく、「ブルースの真実」のブルースとは、オリバー・ネルソンのなかにある「ブルースの真実」であり、それを表現するためのツールのひとつとしてドルフィーがあったことはまちがいないのだろうが、どう聴いても、ドルフィーにとってのブルースをネルソンが拡大した、という風に聴けてしまうのが、ジャズの怖ろしいところだ。しかし、いずれにしてもすばらしい作品なので、とくにオーケストレイションに興味のあるひとは必聴だと思います。私は高校のときにはじめて聞いて、いまだに聴き続けているが、正直「続ブルースの真実」はいつ買って、最後に聴いたのがいつだったかまるで覚えていない。正編と続編でこんなに差がつくなんて……というのは、やっぱりドルフィーの参加・不参加が鍵なんじゃないでしょうか。 アルバム全体を通してびんびん感じる「気品」というか「テンション」も味わいたいです。
「SOUL BATTLE」(PRESTIGE RECORDS P−7223)
OLIVER NELSON KING CURTIS JIMMY FORREST
テナー吹き3人が顔を合わせたブローイングセッションだが、なかなか興味深いメンバーである。全員テナーしか吹いていないようにクレジットではなっているが、ネルソンはアルトも併用している。こるき3人なら簡単に聴き分けられるだろうと思うだろうが、私のアホ耳ではなかなかむずかしい。ネルソンはね、もう完璧にわかるんです。ところがキング・カーティスとジミー・フォレストが案外わからん。私はフォレストのめちゃくちゃファンのつもりでいたし、フォレストのフレーズもけっこう知っているはずなのだし、音色も聴き間違えるとは思えないのだが、それでもちょっと混乱している。まず、立ち位置だが、いちばん左がネルソンである。そして真ん中よりやや左がフォレストで、右の端がカーティスだと思われる。しかし、録音の途中で入れ替わったりしている可能性も皆無ではないので、よく聴かねばならない。わかりにくくなっている理由のひとつは、この時期、フォレストはラーセンではなくリンクのメタルを吹いていて、ぶっとい音ではあるが、ややサブトーンぎみで、あのベイシーでの硬質なラーセンの音色とはちょっとちがっている。そして、カーティスのプレイがいつものファンキーな感じではなく、本作ではかなりジャズの王道的な演奏なのである。A−1のブルースの先発はアルトなのでオリヴァー・ネルソンである。音を濁らせたりしない細く美しい音色で、重量級のふたりのテナーの音との差別化を図っているのかもしれない。バッピッシュだがめちゃくちゃ歌いまくっていてすばらしい。二番手の太い音のテナーはフォレストで3番手がカーティスと思う。2曲目もブルースといえばブルースだがかなり変則的な構造になっていて、「ブルースの真実」を連想させられる。ここでもネルソンはアルトを吹いているが、英文ライナーにもそんなことは書いていない。じつはこの曲のソロ順がいちばん迷った。最初、先発ソロはフォレストだと思った。音色的にはキング・カーティスっぽいのだが、フレーズがあの、半音で4音吹くのを半音で下にずらしていくやつ……ってなんのことかわからないだろうが、わかるひとにはわかるやつをけっこう連発しているので、これは絶対まちがいない、フォレストだと思ったのだ。とにかくさすがの貫禄のブロウなのである。しかし、立ち位置的にはカーティスの場所(いちばん右)なのである。正直、迷いに迷って何度も聴き返し、ほかのカーティスのアルバムもいろいろ聴き返してみて、なんと、「キング・ソウル!」のB−2でカーティスがこのフレーズを吹いていることを発見したのだーっ、わー、ぎゃー(そんなに舞い上がらなくてもいい)。というわけで、これはやはりカーティスでした。すんません。二番手はネルソンのアルト。なかなか歌いまくりでバップ寄りの、これもすばらしくいいソロ。3番手はフレージングも音色もフォレストっぽいし、フレーズの最後にちょっとだけビブラートをかけるのもフォレストっぽいので、間違いないでしょう。めちゃくちゃすばらしいソロで圧倒される。うーん、この曲は3人とも凄まじいなあ。なんかガンガンリズミカルに弾くジーン・ケイシーのピアノもいい味出してます。A−3は短い演奏で、アップテンポのマイナー曲。先発はオリヴァー・ネルソンでここではテナーを吹いているが、ややコルトレーン的というかフラジオを駆使したモダンな表現である。2番手はフォレストだと思うが、これもめちゃくちゃ上手い。3番手はカーティスのはずだが、これもすばらしい。B−1はこういうときの定番「パーディド」で、先発はたぶんカーティスで歌いまくるうえに音の魅力を目いっぱいいかしたすばらしいソロ。つづいてフォレストも音数多く吹きまくる。そして、ネルソンのテナーソロはふたりとはやや趣を異にしたモダンというか前衛的な領域にまで踏み込んだものでこれもまた対比という意味では成功しているし、かっちょいいけど、バックがちょっと「どうしたらいいの?」という感じになってるような気もして面白い。最後に3人のテナーバトルになるが、ここはなかなか聞きごたえがあります。こういう「ソロの聞き分け」みたいなことを必死でやってる、というのは音楽的にはほとんど意味はないよなあ、とは思うが、気になって仕方がない。英文ライナーノートはほぼ役に立たなかった。もしかすると、フォレストとカーティスに関しては大間違い(まったく逆)を犯しているかもしれないので、皆さん、この文章は鼻くそだと思ってください。でも、内容はめちゃくちゃいいと思う。B−2はネルソンはまたアルトに戻る。ちょっと癖のある曲で、ネルソンはなかなかええ感じの、ほかのふたりとは異質なソロをする。このひとのおかげで、アルバムタイトルのような「ソウル・バトル」ではなく、けっこう音楽的にも面白いものになった。2番手がたぶんフォレストで、なかなか曲に苦戦している感じもある。3番手の(たぶん)カーティスも同様で、このあたりが本作の聞きどころでもある。なお、マウスピースはネルソンとフォレストがリンクメタルで、カーティスがラーセンのメタルだと思います。なお、三人対等のアルバムだと思うが先に名前の出ているネルソンの項に入れた。