「STRAIGHT AHEAD」(ATLANTIC RECORDING CORPORATION ATRANTIC 1366)
DAVID ”FATHEAD” NEWMAN
デヴィッド・ニューマンの数あるリーダー作のなかでも屈指の名盤の一枚。タイトルが「ストレイト・アヘッド」となっているとおり、ニューマンの持ち味であるソウル色やファンク色を薄めた4ビートジャズ中心の演奏で、メンバーもウイントン・ケリー、ポール・チェンバース、チャーリー・パーシップという、まさに「ジャズをやりまっせ!」という面子をそろえている。しかし、そうは言ってもニューマンの個性はじわじわと色濃くにじみ出ており、オーソドックスなジャズを演るミュージシャンたちに囲まれても、1曲目からバリバリ吹いてメンバーを引っ張っている。さすがの貫禄である。コブシの回し方やフレーズの歌い方、流暢な吹き方、ブルース的な音使いとモダンジャズ的な外し方などがニューマンの個性としてびしびし伝わってくる。こういうのも達者やなあ。このアルバム、なにげなく入ったジャズ喫茶で何枚目かにかかったら、めちゃくちゃ感動するんとちゃうか。A面1曲目はカリプソっぽいノリのリズムにバップ的なテーマを載せたなかなか難しそうな曲。アドリブに入ると4ビートになる。ニューマンのテナーソロは快調で、フレーズのバリエーションが豊かである。さまざまなスケールを駆使していて、このひとがしっかりした音楽的土台に基づいて演奏していることがよくわかる。ケリーのソロも隠れた名演というにふさわしい、美味しいフレーズ連発。チェンバースはおなじみのアルコソロ。そのあとニューマンとドラムの4バースになるが、ここでのニューマンの4小節がどれもすばらしいです。2曲目はスタンダードの「スカイラーク」で、アルトで演奏される。小粋で洒脱な雰囲気は、レイ・チャールズバンドでのソウルに満ちたブロウとはちがった感じだが、まさにバップアルトという歌い上げで、しかもブルースフィーリングもあふれた演奏である。ケリーのピアノソロもいいっすねー。3曲目の「ナイト・オブ・ニセン」という曲はフルートによる無伴奏ソロではじまる超かっこいいマイナーっぽいグルーヴの曲(じつはAの部分はブルーノートが多用されているだけのメジャーでサビがマイナー。バグスグルーヴみたいなもん?)。ケリーのソロは明るくて、楽しい雰囲気。チェンバースはピチカートによる。エンディングはニューマンの無伴奏ソロがしめくくる。B面に行って、1曲目は、ニューマンの雄たけびのような無伴奏ソロをイントロにはじまるマイナーブルース。ドスのきいた演奏で、ニューマンのもともと持っている個性があふれ出ている。ケリーも、バーテンダーがピックで氷を割るようなカツカツといった硬質な音使いですばらしい。B面2曲目はスタンダードの「サマータイム」だが、一筋縄ではいかない。ケリーのイントロに導かれるように登場するニューマンのフルートは、テーマを大幅に崩した感じで、もう「これはブルースです」と言ってもいいぐらいの中身である。いやー、本作の白眉といっていいのではないか。ニューマンのアルバムで、アルトや、ましてフルートの演奏を白眉だといって推すのはどうか、というためらいが過去にあったが、今はそんなことぜーんぜんありません。ケリーのソロも極上。ラストの3曲目はアルトによる「コンゴ・チャント」というエキゾチックなマイナー曲。バッピッシュに音数多く吹きまくるニューマンと、ごつごつしたノリとシンプルな音使いがめちゃくちゃかっこいいウィントン・ケリーの対比がすばらしい。エンディングも見事。6曲中、3曲がニューマンの作曲で、いずれもすぐれた楽曲だと思う。
以下は作品内容とは少しずれる話だが、どうしても書いておかねばならない。このアルバムの日本盤が出たのは20年ほどまえだ。同時期に日本盤が出た同じくファットヘッドの、これもまた大傑作である「ファットヘッド」の日本語ライナーの執筆者が本作を評して「いかにも”よそ行き”だ。決められた小節数の中に、びっちりと黒いフレーズを敷きつめ、豪快な音色で歌い切る、それこそがニューマンの魅力なのに、「ストレイト〜」でニューマンはブローイングセッションに挑んだ。当然アドリブに構成が感じられず、ただ吹き流している感じだ」とめちゃくちゃけなしていて、発売時に読んだとき、私はかなり腹を立てた。というより傷ついたというべきか。そもそも、同時期に同じシリーズで日本盤が発売されたアルバムを、自分がライナーを書いた作品をほめたいから、もう一作をけなすというのはひどいよなあ……と思った。本作のライナーを書いている上條直之氏も困惑しているようで、ライナーノートという場では異例の「同時期に出た同じ奏者のアルバムのライナーの内容を必死にフォローする」ということにかなりの枚数が割かれている。レコード会社が「ファットヘッド」のライナーのその部分を許したのかよくわからん。もちろん、俺はそう思ったんだから、書きたいことを書いてなにが悪い、という意見もあるだろうが、評論ではなくライナーノートなのである。だいたい、本作が「ブローイングセッション」というのは乱暴な話で、テーマ部分からちゃんとカルテット用のアレンジがほどこされているし、「吹き流している」という嫌味な言葉が使われているが、このアルバムを何度も聴いて楽しんでいる私には、デヴィッド・ニューマンの「今回はジャズやるでーっ!」という気合いこそ感じられるが、吹き流しているなどという失礼きわまりない言葉はまるで当たらないと思うが……。どの曲も緊張感ありますけど……。ニューマンが、こういう風に小節数を決めずに自由に吹いたらあかんのか。自分のリーダー作やで? あとニューマンが「豪快な音色」というのも、私はまったく感じたことのない印象で、どちらかというとフレーズの巧みさ、ブルース魂、ソウル魂で勝負するひとだと思っていて、音色は逆に、抑制のきいたものだと感じるのだが……。あるものを持ち上げるために、ほかのものをけなす、というやり方の評論は嫌なのだ。このひとは、私が人生を賭けて愛するアーネット・コブの某作品を、別の作品をほめるためにけなしていて、それについては腹を立てるというレベルではなく、正直、トラウマになっているのです。
「FATHEAD」(ATLANTIC RECORDING CORPORATION ATRANTIC 1304)
DAVID ”FATHEAD” NEWMAN
マーカス・ベルグレイヴ、ハンク・クロフォード(バリトンサックスのみ。ベニー・クロフォード表記)に本人のサックスという3管編成にボスであるレイ・チャールズのピアノ、というセクステットである。A−1は、最近ではヒューストン・パーソンの「グッドネス」でも聴いた「ハード・タイムス」。ニューマンはアルトで、楽しいような哀しいような旋律を奏でる。そう、我々はハードタイムスを生きているのだ。2曲目はマイナー曲で、ニューマンはテナーでテナー→バリトン→トランペット→ピアノという順でソロがチェイスされる。そのあとアンサンブルがあって、テーマに戻らずに終演。3曲目はスタンダードで「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」。レイ・チャールズのピアノのイントロのあと、ニューマンが切々とアルトでテーマを吹く。ここでのニューマンのアルトは厳しい。4曲目は全員参加のバリバリのバードバップ的ブルース。テナーソロには3、4コーラス目にリフが入るというおなじみの構成で、テナー→トランぺット→バリトン→ピアノの順にソロがチェイスされ、かなりがっつりした感じのアンサンブルになるが、いやー、ハードバップやなあ……という感じ。B面に移って、1曲目はヘヴィ級のアンサンブルもばっちりな明るい曲。先発のテナーソロ、2番手のバリトンソロ、3番手のトランペットソロ、4番手のピアノソロ……どれも快調で楽しいが、それぞれのコーラスが短いのでちょっと物足りないかも。2曲目はタイトルナンバーで、ファットヘッドの名前を冠したミディアムテンポのマイナーブルースで、なぜかビターで哀愁の曲。なんでこれがファットヘッドなの? こういうひとなの? とか思ってしまうが、理由はよくわからん。テナー、トランペット、バリトン、ピアノの順にソロがリレーされるが、このアルバムは、ニューマンの意向だとは思うが、全員に均等にソロスペースを与えましょう的な感じの構成の曲が多い。3曲目は「ミーン・トゥ・ミー」でニューマンはアルトでなめらかなソロをぶちかます。上手い。トランペットソロに続く倍テンのバリトンソロがめちゃくちゃかっこいい。レイ・チャールズのピアノはバリトンの熱気を冷ますような落ち着いた感じ。ラストの4曲目はガレスピーでおなじみの、チャノ・ポゾ作のラテンっぽい曲「ティン・ティン・ディオ」。ニューマンのアルトがすばらしいし、ほかのメンバーのソロもいいんだけど、やっぱりソロ尺が短いなあ。みんな、短い尺のなかでがんばって言いたいことを言ってる感じはあるが、もう少し長かったらなあとは思う。上記「ストレイト・アヘッド」のところでも書いたが、ニューマンはここでライナーノートの執筆者が書いているような「豪快な音色」のひとではない。豪快かどうかは、各人の受け取り方とはいえ、どちらかというと抑制された音色のプレイヤーだと思う。それに「決められた小節の中に、びっちりと黒いフレーズを敷き詰め」るのがニューマンの魅力だ、というのは、勝手に決めるなよと思う。このアルバムはすばらしいが、いつも日本語ライナーを読んでげんなりする。
「HOUSE OF DAVID」(COLLECTABLES COL−CD−6339)
DAVID NEWMAN
アトランティックのコレクタブルからの再発。ボスのレイ・チャールズがプロデュースとピアノで参加し、3管のヘヴィ級のアンサンブルが聴ける「ファットヘッド」や、ワンホーンでハードバッパーたちとひとひねりしたジャズそを聴かせる「ストレート・アヘッド」などを経てのアトランティック4枚目(だよね?)。ワンホーンカルテットだが、メンバー的には激渋で、知名度のあるメンバーはテッド・ダンバーぐらいか(コレクタブル盤にはトッド・ダンバーと誤記)。ドラムのミルト・ターナーはレイ・チャールズ・バンドの人脈でニューマンやハンク・クロフォードの作品をはじめ多数のアルバムに参加しているひとらしい(よく知らない)。今、ネットで調べてみると、コンテンポラリーのハウスバンドのドラマー的な一面もあったみたいです。え? あの有名作のドラムも? ていう感じ。でも、オルガンのカッシー・ガードナーというひとはほんまにわからん。ナッシュビルのひとで、チャールズ・プライドというカントリー系のミュージシャンのオルガンカバー集を出した、というぐらいしかわかりません。本作の内容だが、そういう渋いメンバー構成ではあるが、充実した演奏である。1曲目はマカロニウエスタンみたいなスパニッシュ風のイントロ(テッド・ダンバーのギターが効果的)が冒頭についているが、これはグロリア・リンのオルジナルバージョンのバースを踏襲したものらしい。そのあとすぐにバラードになる。アルバムの1曲目をバラードで、というのもなかなか大胆だが、見事に成功している。ファットヘッドの完璧な歌い上げとそれを盛り立てるゴージャスなオルガンと切々とした単音ギターのバッキングはかっこいいの一言。曲の一音目から最後のカデンツァまですばらしいとしか言いようがない。2曲目はアレサ・フランクリンの曲でのちにレイレッツでもヒットした曲だということだが、ノリノリのイントロのあと「ゲット・ハッピー」(っぽい)のメロディが奏でられてからテーマになる。途中、ちょっとだけ同じような箇所があるけど、ラストはまた「ゲット・ハッピー」的なメロが出てくる。どう聴いてもアレサの曲とはほとんど共通点がないなあ。しかも1分45秒しかないので、なんとも言いようがない。ファットヘッドのソロは快調。3曲目はマイナーの循環みたいな激しいノリの曲。超かっこいい。英文ライナーに「ファットヘッドの最高のブルース」みたいなことが書いてあるがどういうこと? 演奏はすばらしい。ひたすら吹きまくるファットヘッド。テッド・ダンバーのソロもめちゃくちゃいい(このひと、いっぺんだけベイシーOBバンドで生で観たことあるな)。4曲目はジャズロック的なブルースで、ファットヘッドのフルートが炸裂する。正直、フルートよりはサックス、それもテナーが聴きたいと思っている私だが、この曲のフルートは最高です。5曲目はボブ・ディランの「ジャスト・ライク・ア・ウーマン」で、英文ライナーによるとファットヘッドは1回か2回聴いただけで録音した、と書いてあるが、そういうことはあんまり言わんほうが……と思ったりして。演奏は最高で、ファットヘッドのソロはまさにヴォーカルのような歌い上げで、しかも過度の感情の押し付けがなく、心に染みる。なんというか、変な比喩だが、「みんなの歌」を見ているような感じというか……。6曲目はニューマン作のタイトルチューンで、8ビートなのだが、なんとなく4ビートの方がはまりそうな気が……あ、いやいや素人なのでわからないのですが。ファットヘッドのブロウは、ホンカー的な手法を使わず、ソウルフルにブロウしまくっていて、聴いていると胸が熱くなる。7曲目もニューマンの曲で、変形マイナーブルースという感じか。ファットヘッドのソロは本当にすばらしい。バンドをぐいぐい引っ張っている。そして問題(?)なのは末尾を飾るおなじみシダー・ウォルトンの「ホーリー・ランド」なのだが、本作の録音は67年で、それ以前にシダー自身の吹き込みが見当たらないのだが、どこかに吹き込んでいるのだろうか。いや、吹き込んでいるはずだ。というのも、本作にはシダー・ウォルトンは参加していないので、ニューマンはどこかでこの曲を聴いて、録音しようと思ったはずなのだ。でも、いろいろ探したのだが、ヒューストン・パーソンの「ブルー・オデッセイ」への吹き込みが68年なのでもしかしたらこれがいちばん早いのかも……。うーん、いやいやそんなことはなかろう。だいたいシダー・ウォルトン自身のこの曲の吹き込みはもっとあとになるのである。不思議な話です。たぶん探せば出て来るのだろうが私の調べたかぎりではなにもでてこない。例のイントロもちゃんとあるので、たぶんどこかに吹き込んでいるのだろうとは思うが……(ほかでは聞けないリフもつけくわわっている)。で、この演奏だが、はっきり言って名演だと思う。テーマの部分、ベードラがバシバシと効いていてかっちょええ。ボブ・バーグ、クリフォード・ジョーダン、ヒューストン・パーソン、峰厚介……といろいろなテナー奏者のバージョンを聞いてきたが、本作の演奏もそれらに伍するすばらしいものだと思う。本当にしみじみと深いアルバム。傑作!
「CAPTAIN BUCKLES」(ATRANTIC RECORDING CORPORATION/COTILLION AMCY−1282)
DAVID NEWMAN
浮き輪のなかに入ったニューマンの顔が印象的なジャケットの本作は、デヴィッド・ニューマンの大傑作である。コティリオンというのはアトランティックの傍系レーベルでR&Bやソウルとかを出していたレーベル(ルー・ドナルドソンも吹き込んでいる)で、本作もソウルっぽい音である。70年の吹き込みで、フュージョンとかのブームが来るまえで、メロウでソウルフルな音づくりだが、これがキーボードのいない4人のミュージシャンでの演奏とは正直思えないぐらい濃密である。ニューマンはソウルシンガーのようにサックスでひたすら歌いまくるが、彼のひとつまえの世代がブルースシンガーのように歌っていたのと比べると明らかに隔世の感がある。共演者では、エリック・ゲイルのギターが冴えわたっていて、カッティングやソロだけでなく、ピアノやオルガンのいない穴を埋めるかのごときサイドマンぶりで全体の音作りに貢献している。7曲入っていて全部で33分と、1曲1曲は短いのだが、物足らなさはまったくない。なんといっても1曲目の表題曲がすばらしく、ニューマンは全編、唾が飛ぶのが見えるようなグロウルをしながら、熱いブロウを延々とぶちかます。シンプルな音使いだが心に染みるフレージングを重ね、溶岩が噴き出るかのごとくじわじわ盛り上げていく。直情的なプレイだが、決してホンクはしないのである。この1曲目はニューマンだけがソロをする。その構成もいい。2曲目はフルートをファンキーに使ったマイナーの循環のジャズロックみたいな曲だが、先発のブルー・ミッチェルも派手なブロウではなく、心得た感じのグッと渋い演奏。つづくニューマンのフルートも双子のような印象の吹きっぷりで、めちゃくちゃかっこいい。ぶちぶちいうエレベとエリック・ゲイルのバッキングもすばらしい。3曲目はビートルズナンバーのバラードで、ニューマンはアルトでひたすら歌手の役に徹して歌い上げる。ただそれだけの演奏なのだが、かっちょいい。4曲目はブルー・ミッチェルの曲で、カリプソっぽいがサビが4ビートで急にジャズっぽくなる。オルガンの音が聴こえるが、これはエリック・ゲイルのギターなのか? ギターが2本聞こえる箇所が多いのだが、これはオーバーダビングなのか? ミッチェルのトランペットも、ホレス・シルヴァー・クインテットか? というくらい絶好調のジャズ的なソロ。そして、それに続くニューマンのフルートは本当にすばらしく、テナー同様に音を濁らせ、ファンキーの塊となっている。5曲目はまたまた1曲目のようなジャズロックっぽい曲調で、ソロになると4ビートになるが、ブルー・ミッチェルも快調。ニューマンのテナーも荒々しい音色での歌い上げがすばらしい。血管ブチ切れるブロウ……という意味では本作中一番かもしれない。録音のせいか、ベースとギターのバッキングがリアルに前面に聞こえてきて、めちゃくちゃかっこいい。1曲目と並ぶ本作の白眉といっていい演奏かもです。6曲目は、本当に突然という感じで、スタンダードナンバーのバラードで「アイ・ディドント・ノウ・ファット・タイム・イット・ワズ」。アルトでの歌い上げ。ジャズではあるが、ここでのニューマンはソウルシンガーのようにひたすらシャウトする。ラストのカデンツァも、テクニックを見せつけるというより、思いのたけをぶちまけるような感じです。ラストの7曲目はファンクリズムのブルース。エリック・ゲイルがバッキングしながらもソロもしているので、ここはオーバーダビングということでしょうね。ニューマンのテナーもゴリゴリで、かつてのホンカー的な血管ぶちぎれブロウを展開しており、いやほんまにすごいです。けっこうコントロールできるかどうかぎりぎりのところで吹いている感じが伝わってくるが、ホンクというのはそういうものなのだ。テーマをエレベがユニゾンで弾いているのもいいなー。傑作!
「BIGGER & BETTER」(ATRANTIC RECORDING CORP.R2 71453)
DAVID NEWMAN
「THE MANY FACETS OF DAVID NEWMAN」(ATRANTIC RECORDING CORP.R2 71453)
DAVID NEWMAN
「BIGGER & BETTER」と「THE MANY FACETS OF DAVID NEWMAN」のカップリングCD。まず「BIGGER & BETTER」のほうはいきなりビートルズの「イエスタデイ」ではじまる。大編成のオケをバックに、当時のヒット曲をニューマンがソウルフルに歌い上げる、という趣向であります。ニューマンはとにかく「音色」というか「音質」というか、そういうものの魅力が強くて、本来はテナーのひとなのだろうと思うが、1曲目、2曲目と続くアルトの芯のある音でのブロウを聴くと、アルトも完全に自家薬籠中のものにしていると思う(どっちもジョン・レノンの曲)。ハンク・クロフォードやメイシオもかくや、という迫力のあるすばらしい歌い上げである。まるでシンガーのようであります。3曲目(ニューマンの曲)はフルートだが、めちゃくちゃかっこいい演奏。ローランド・カークを連想するような切迫感とソウルが凄まじい。圧倒的な演奏で、本作の白眉だと思う。4曲目はサム・クックの曲で、ニューマンはテナーでクックのボーカルのように、オケをバックにひたすらノリノリに歌い上げる。いやー、かっこええわ。5曲目もサム・クックでまたアルトで歌う。「器楽」で「歌う」というのはこういうことなのかと思うような演奏。なんてすばらしいのだろう。本作でのニューマンは、アルトに比重がかかっているようだ。ラストの6曲目はフルートでひたすら甘いバラードを。(たぶん)エリック・ゲイルの単音ソロが染みるが、ニューマンのフルートも幽玄の境地にまで達している感じ。じつは、バックのオケはセルダン・パウエル、ハリウッド・ヘンリー、ジェローム・リチャードソン、ジョー・ニューマン、ジミー・オウエンズ、アーニー・ロイヤル、ジュリアス・ワトキンス、ベニー・パウエル、ビリー・バトラー、エリック・ゲイル、ジョー・ザビヌル(!)、チャック・レイニー、リチャード・デイヴィス、ロン・カーター、バーナード・パーディー……その他大勢、という綺羅星のごときミュージシャンがバックアップしているのだが、ソロとかはない。そういう面子を従えてニューマンがひとりでソロをするということはニューマンのすごさを感じるのだ。2枚目の「THE MANY FACETS OF DAVID NEWMAN」も同趣向で、オーケストラをバックにニューマンがいろいろ持ち替えて吹きまくるという趣向だが、1曲目はエキゾチックな曲調でフルートがフィーチュアされ、ベースもオスティナートを弾き、ボーカル(オマー・クレイというひと)やコーラス(?)なども入ったかなりスピリチャアルジャズっぽい演奏。めちゃくちゃかっこいいです。2曲目はカーティス・メイフィールドの曲で、オケをバックにテナーで歌う感じ。典型的なR&Bっぽい演奏だが、ほれぼれするような感じでニューマンが飛ばしまくる。バックのオケは必要ないような気もするほどである。3曲目はウィリアム・フィッシャーの曲で、これもスピリチュアルジャズ的な重厚な曲。ニュ―マンのエキゾチックなソプラノはすばらしい。アレンジもいいですねー。そのあとテナーに持ち替えてファンキーなブロウをしまくるが、この演奏は本作のクライマックスといえるかも。ニューマンは超快調で、オケを吹き飛ばすぐらいの勢いでひたすら吹きまくっていてすごい。エンディングもなんだかよくわからないけどかっこいい。4曲目はファンキーなブルース。スタッフのメンバー+バーナード・パーディーというメンバーにファットヘッド・ニューマンがかなりストレートに吹きまくる。たまらんなあ。5曲目もニューマンの曲で、アルトがゴージャスなオケをバックに悲痛な叫びをえんえんとつづる。この雰囲気はたまりませんね。エンディングもめちゃくちゃ大げさで笑ってしまう。6曲目はカルヴィン・アーノルド(全然知らん。有名なのか?)というひとの曲で、テナーで真っ向勝負のファンクナンバー。7曲目はスティーヴィー・ワンダーの曲で突然雰囲気が変わって、ビリー・バトラーのアコースティックギターをバックにアルトでええ感じで吹きまくる。最高です。2枚目の白眉といえるかも。ほれぼれします。ラストはスタンダードで「ザッツ・オール」。映画音楽のような冒頭のアレンジがあって、ニューマンはアルトでしめやかに吹く。テーマを全体に崩しまくっているので、ザッツ・オールだか何だかよくわからないが、それはそれとしてめちゃくちゃかっこいいのでOK。名演だと思う。というわけで、R&B〜ソウル期のデヴィッド・ファットヘッド・ニューマンの演奏を聴くにはお手頃なアルバムだと思います。ぜひぜひ。
「FIRE!」(ATRANTIC RECORDING CORPORATION 7 81965−2)
DAVID NEWMAN LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD
ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴだが、スペシャルすぎる超豪華メンバーでの演奏で、しかもそのメンバー全員がニューマンの音楽に奉仕している、という最高のアルバム。オルガンとギターでギトギトに……というのを期待していると、逆にスティーヴ・ネルソンのヴァイブなどが入っていてさわやかで、あれ? となるかもしれないが、選曲も演奏も十分にドスの利いたファンキーなもので、しかもジャズ的なアドリブの応酬の楽しさもたっぷり味わえる。少しまえからジャズ志向の作品が多くなっていて、このアルバムよりあとのファットヘッドはどちらかというとそっち側に傾斜していくが、本作あたりはR&B的なものとジャズ的なものの両方がうまくバランスしているような気がする。選曲も最高です。1曲目はロリンズでおなじみの「オールド・デヴィル・ムーン」。ニューマンのワンホーンで、朴訥といってもいいぐらいのきっちりしたジャズ的なソロ。ネルソンのバップなソロ。カーク・ライトシーの端正なソロ。どれもしっかり聴かせる感じで、アルバムのオープニングにふさわしい。2曲目は「シェンヤ」(と発音するのか?)というマイナーブルースで当時のレパートリー。ニューマンのソロに続き、スタンリー・タレンタインのファンキーなソロがかっちょいい。ちょっと聴くだけでタレンタインとすぐわかる超個性的なソロ。さすがです。3曲目はそこにハンク・クロフォードが加わった最強の3管によるブルースで、リズムはいい感じにがちゃがちゃした16ビートっぽい感じ。ハンク・クロフォードが先発だが、ジャズっぽいソロに徹していて渋い。続くタレンタインのほうがファンキーで、さすがの盛り上げだ。最後に出てくるニューマンもクロフォード同様にジャズ的で渋い。ネルソンのソロになるともっとジャズっぽい。しかし、全体のサウンドはビートといい、R&Bなのだが。4曲目は4ビートで、ニューマンがテナーバトルをするときに必ずといっていいぐらいチョイスする「ワイド・オープン・スペース」。先発はニューマンで、グロウルしたりすることもなく、本当に端正な、ビバップ心を歌い上げるようなソロ。続くタレンタインのソロのほうが個性を全開にした感じ。そのあとワンコーラスずつのバトルになり、4バースになるが、ここは本当に聴きもので、おたがいに技巧を駆使しながら、個性丸出しのぶつかり合いになる。どちらも一歩も引かない感じ。めちゃくちゃ美味しいフレーズが頻出しまくる。5曲目はレイ・チャールズ時代を懐かしんで(?)の選曲で、「ロンリー・アヴェニュー」。このアレンジは、ボーカルがいないのにそのバッキングだけをやっているようで、なんとなくヘンテコだが、ハンク・クロフォードのソロは相変わらずのブルージーな歌い上げが堪能できる(もっと録音がオンになっていてもよかったかも)。続くニューマンのソロもクロフォードと音楽的には兄弟のような、地続きのような感じで、ひたすらブルージー。どちらもブルースシンガーが歌っているような味わいです。6曲目はホレス・シルヴァーの「フィルシー・マクナスティ」で、フルートでブルースをぶちかます。フルートという、どちらかというと美しい音色で音量もない楽器がこんな風にド迫力の演奏に向いているのだ、というのを我々はフランク・ウエスやジェレミー・スタイグやローランド・カークやドルフィーで十分知っているはずなのだが、こうして聴くとやはり感動する。ネルソンのヴィブラホンソロが演奏をぐっとジャズに引き戻すが、その効果は絶大である。7曲目は本作中いちばん長尺な「ブルース・フォー・ボール」で、マッコイ・タイナーのモーダルなマイナーブルース。テナーのワンホーンで、本作中いちばんハードな演奏かもしれない。いつものファンキーワールドからモーダルな70年代ジャズワールドにタイムスリップしたような雰囲気で、ニューマンのテナーは徹頭徹尾、硬派な感じでブロウするが、このひとはもともとこういう資質を持っているような気がする。フレーズがどうのこうのというより、ファンキーな気質とともにコルトレーン的な生真面目さがあり、それがこの曲では存分にぶちまけられている。ネルソンのヴァイブも硬派なソロ。マーヴィン・スミッティ・スミスが煽りまくり、それに応えて凄まじい演奏を展開する。自分のリーダーバンドのような演奏で、かっちょいいーっ! カーク・ライトシーのピアノソロもゴリゴリで、え? これって、ファットヘッド・ニューマンのアルバムだよね、と一瞬思ったりした。マーヴィン・スミスのドラムソロを経て、テーマ。ラストはおなじみのレパートリーである「ハードタイムス」で、ハンク・クロフォードがアルトで加わる。ファンキーなアルトソロに続くニューマンのテナーソロの歌い上げはマジですばらしいすぎる! 終わったあと拍手がくるのもわかる! デヴィッド・ニューマン渾身のライヴといえるでしょう。タレンタイン、クロフォードと豪華なゲスト陣だが、カーク・ライトシー、デヴィッド・ウィリアムス、マーヴィン・スミッティ・スミスという鉄壁のリズムセクションが彼らを支えているのはいうまでもない。30年まえ(?)にはじめて聞いたときは、スティーヴ・ネルソンの参加や、ジャズ的なリズムセクションによって、ニューマンのR&B的な味わいが薄れているような気がしたものだが、今聴くと、R&B的なものとジャズ的なもののぶつかり合いこそが本作の良さだと思う。傑作。