「SKIP THE BLUES」(MEBYS/地底RECORDS MC−10019)
LAUREN NEWTON & MASAHIKO SATO
冒頭、いきなり衝撃のはじまりかたで度肝を抜かれ、そのままローレン・ニュートンの歌(?)と佐藤允彦のピアノに胸倉をつかまれて引きずり倒され、そのあたりをずるずると引きずりまわされる……という状態が最後まで続く。ローレン・ニュートンがどんなひとかわかっていても本作は衝撃でした。まして、このひとを聞いたことがないというリスナーがいきなり聴いたらびっくりするんじゃないかなあ。25分ぐらいあるこのライヴ曲だが、ひたすら楽しくて面白くて、即興ヴォイスってこんなにおもしろくて笑えて感動的なものだったかなあ、と目からうろこになること請け合い。2曲目以降のスタジオ録音の5曲も一曲ごとにびっくりするような展開で、めちゃおもろい。とにかく超絶技巧であり、最高のエンターテインメントなのだ。それはローレン・ニュートンの凄さもあるが、佐藤允彦のピアノの素晴らしさがあってこそだ。ときにリードし、ときに伴奏し、それをすべて一瞬の判断による即興で行うこのピアノグレイトは、そのすさまじさを露骨に発揮している。ふたりの相性の良さがはっきりわかるのは、全体に漂うユーモアのセンスで、はっきりと「ギャグ」と言ってもいいぐらいに、客き爆笑をとっている。即興で、しかも、すべらないように「笑い」を表現するというのは、単にひとりがそういう風に思ってもできないことで、ふたりのセンスがばっちりあってるからだと思う。こういう風に書いていくと、お笑いインプロヴィゼイション? おちゃらけ? と思うひともいるかもしれないが、いやいや、これを聴いて感動しないひとはいないと思われるぐらいの芸術性があるデュオですよ。ただし、即興とかジャズとか一切聞いたことがないひとがこのデュオを聞いたとしても、まったく飽きずに聴きとおせて、人間の声ってすげーっと素直にわかってくれるだろうと確信できるぐらいわかりやすくもある。だれに聴かせたっていいぐらいに思うが、少なくともマンハッタン・トランスファーってかっこいいよね、と思ってるひとなら絶対大丈夫。おもしろがれること請け合い。ビバップ(6曲目に顕著)やモードジャズやフリーインプロヴィゼイションやノイズや現代音楽やオペラやポップスやロックや……いろんな音楽の要素を感じるが、なかには原始時代の咆哮までも感じる部分がある。何度聴いてもめちゃおもろい。よくぞこの音源をリリースしてくれたなあと地底レコードには感謝でいっぱい。おそらくかなりもとの音質は悪かったのだろうが、それをここまで聴くに堪える状態にした、というのは、演奏のすばらしさをなんとかCDとして広く伝えたいという情熱があればこそだろう。傑作。
「ART IS ...」(LEO RECORDS CDLR219)
LAUREN NEWTON/THOMAS HORSTMANN
今年はじめてライヴを観たローレン・ニュートン。なかなか気難しそうなひとだったが、演奏はおもしろかった。本作は20年以上まえのアルバムで、めちゃくちゃすばらしい。いきなりホーメイではじまり、千変万化するニュートンのヴォイスに対して、トーマス・ホルストマンのギター+シンセが双子のように寄り添う。完璧なデュオで、ため息しか出ない。ニュートンはおよそ人間が出せるほとんどの種類の「声」を操ることができると思われ、なかには天上の音楽のように美しいものや、シンセのようなもの、汚らしいもの、およそ動物的なもの、つぶやきのようなもの、力強いもの、メロディや歌詞のあるもの、ポエットリーディングのようなもの、芝居の1シーンのような演劇的なもの……も含まれる。それにまたエフェクトがかかるのだから多種多様極まりない。音程とか発声などのテクニックはもちろん完璧だが、それらを組み合わせて表現される「声の芸術」は管楽器奏者が嫉妬するであろう武器(?)の多さである。そしてホルストマンのギターやシンセは豊穣なボキャブラリーが、ああ、このひとは24時間音楽や楽器のことしか考えていないんだと思わせるような凄みがあり(本当はそんなことないと思うけど)、ただただめくるめくアイデアとそれを具現化するテクニックに翻弄される。このふたりのデュオなのだから凄いに決まってる……というのは早計であって、すごいひととすごいひとのデュオは意外に(いや、「だからこそ」と言うべきか)相容れないものだったり、無難に終わったりする場合もあるが、本作では、聴いていて涎が落ちるほどの最高の結果を生んでいる。エリントンの「ソリテュード」やそれに続くブルース(なのか? 切れ目なく演奏されているが、ライヴではない)などで超絶技巧を「超絶」と思わせない、テクニックが100パーセント表現に奉仕している至福の状態を味わえる。8曲目ではギターのノイズもあり、このふたりの表現の「幅」とその落差はリスナーを持ち上げたり落としたり……というジェットコースターに乗せているに等しい。素朴なもの、プリミティヴなもの、民族音楽的なもの、クラシカルなもの、ジャズ的なもの……から現代的なものまで……それがひとつの曲のなかに溶け込んでいるのだ。傑作。