takashi nigaki

「N/Y」(APOLLO SOUNDS APLS1505)
TAKASHI NIGAKI & RYUICHI YOSHIDA

「N/Y BONUS DISK」(APOLLO SOUNDS)
TAKASHI NIGAKI & RYUICHI YOSHIDA

 ピアノとのデュオプロジェクトが多い吉田隆一だが、本作もまた、ちがったタイプの相方とのコラボレーション。いろいろな意味で話題になったアルバムだが、聴いてみると、興味本位で手に取ったようなリスナー、ジャズにも即興にも現代音楽にも関心のないような人々をも納得させてしまうようなたいへんな説得力に満ちた傑作である。しかも、その説得力は、聴き手をねじ伏せるような強引なものではなく、細やかで包容力のある音楽による、どんな聴き手にも等しく効果のあるものなのだ。曲もバラエティにとみ、ピアノとバリトンサックスだけの演奏とは思えないオーケストレイションを感じるし、飽きることはない。コンポジションも、ふたりの個性がよくでていて、ときに微笑ましく、ときに楽しく、ときに深く、ときに先鋭的である(とくに「皆勤の徒」は、耳につく曲で、ときどきふと口ずさんでしまう)。即興曲もあるし、どしゃめしゃのフリーの曲もあり、「ザ・バード」という笛(マウピ?)だけの演奏もある。「怪獣のバラード」や「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」など選曲の妙も感じる。ジャズっぽい曲としては「エンブレイサブル・ユー」や「ソフィスティケイテッド・レディ」があるが、どちらもジャズというより古いバラードのような扱いに思える。たとえばフリージャズっぽい曲では、新垣のピアノは、いわゆるフリージャズピアニストたちのような楽しみかたはできないが、そういうときでも、瞬間瞬間に時分の音を真摯に出そうという新垣のライヴミュージシャンとしての側面が感じられて、ドキュメントとしても聞きごたえがある。そして、吉田隆一のバリトンサックスは、これまでのアルバムと比べても、(録音のせいもあるだろうが)音色がみずみずしく、つややかで、深みがあって、迫力もある。しかも、フレージングのひとつひとつが細かいところまで気を配られたもので(これはライヴで聴くときいつも思うことなのだ。雑に吹いている瞬間がないひとなのだ)、アーティキュレイション、音色などすべてにわたっていきとどいており、吉田のサックス奏者としての現時点で到達している高みを感じる。というわけで、何度聴いてもすばらしいと思える傑作だと思う。本作は、吉田隆一にとっても、新垣隆にとっても代表作の一枚といえる出来映えではないだろうか。なお、ボーナスディスクのほうはバスクラ中心の演奏で、おそらくアルバムとしての統一感を優先した結果だろうが、このバスクラとピアノのデュオもじつにすばらしいので、もしアルバムを気に入ったかたでボーナスディスクを未聴のかたがいたら、ぜひとも聴いてほしいです。