gard nilssen

「IF YOU LISTEN CARSFULLY THE MUSIC IS YOURS」(ODIN RECORDS ODINCD9572)
GARD NILSSEN’S SUPERSONIC ORCHESTRA

 めちゃくちゃかっこいい。内容も超ハイクオリティ。アレンジもソロもリズムもなにからなにまで。しかもポップ! ひたすら楽しい。フリージャズなのに聴いているとわくわくしてノリノリになってくる。こういうのってほら、アレと一緒っすよ! ドラムのガード・ニルセンがリーダーの16人編成のビッグバンド。3ドラムス、3ベース、ピアノレス、7サックス、2トランペット、1トロンボーン……という編成である。メンバーを見ると、北欧の状況にうとい私でもメテ・ラスムッセンやテキサス・ヨハンソン、フラーテン……などなど知っている名前がちらほら。さっそく聴いてみると、これが大爆笑というか大傑作というか……凄い。まさにビッグバンドであって、カウント・ベイシーやデューク・エリントン……といった古いビッグバンドからいわゆるフリージャズ系のビッグバンド、そして、現代のビッグバンドまでを咀嚼しつつ、とにかく「みんなでガーン! とかましましょう! だって、ビッグバンドなんだもん」というコンセプトである。これは正しい。ビッグバンドをやるかぎりは、「大勢」である、ということをちゃんと使ってほしい、というのが聴くものの希望であるが、このバンドはそれにちゃんと応えている。たとえばミンガスが、ほとんどのビッグバンドはラウドバンドであって、自分のバンドは必要最小限の人数でそういう音が出せる、と言ったらしいが、私の考えでは、とにかくやたらと人数が多いことにも意味がある。「人間のパワー」が結集するからである。5人編成のバンドより150人編成のバンドのほうが、(暑苦しさはあるだろうが)人間力は高まる。皆でガーーーーーーッ! と吹けばそれだけ熱い音になるのだ。なにを単純な、と言うかもしれないが、これは一面の真実である。しかも、このコロナで三密をさけんかい、とか言われている時代の状況にも完全に逆行していてすごい。これがただの混沌にならず、スキッとした演奏、しかもパワーがきっちりとそうあるべき方向に向かって噴出しているのは、メンバー個々の音楽性の高さ、だけではなく、アレンジとコンダクションの妙だろうと思う。一応6曲、ということになっているが、途切れているのは2曲目のあとと4曲目のあとで、基本的にはずっーと演奏は続いている。

 1曲目はベートーベンの「運命」のように大げさにはじまり、そこから全員によるひたすらの全力疾走→シャッフルみたいにグルーヴ感のある11拍子……という意表をつく展開、そしてフリー〜バッピッシュなアルトソロ(柔らかい音だがめちゃかっきーぜ。だれ?)、それをあおるリフ……まさしくフリー系ビッグバンドの王道ではないか。全力のリフのあと、熱気あふれるトランペットソロになり、バリトンサックス(大活躍!)を中心としたアンサンブルがそれを盛り立てまくる。そして、リズムセクションの勢いはそのままにまた別の吹き伸ばしのようなリフになり、一旦ビートがなくなってフリーインプロヴィゼイションのようなパートになる。適当にやってるのか、と思ってたら、ちゃんと譜面があるらしい。バラードっぽい展開になり、ここがCDとしては2曲目のはじまり、ということらしい(聴いているとつながっている)。そのあと、またハチロクのバウンスするリズムがぶち込まれ、なんか映画音楽のような曲調の演奏(ざっくりした表現だが)がはじまり、コルトレーンライクなゴリゴリのテナーソロになる(めちゃくちゃかっこいい!)。ブレイクになってテナーが自由に吹きまくる(さっきと同じひとかどうかはわからない)。ここも聴きどころ。ラテンのようなリズムになってテナーがひたすら咆哮し、アンサンブルもそれに応えて爆発する。このあたりの凄まじい感じはもはや筆舌に尽くしがたい。テーマに戻ったあと、テナー〜ソプラノ〜ベースによるかわいいトリオ演奏になり、そこにバロック的な分厚く美しいアンサンブルが乗ってきてエンディング。3曲目(曲名になっている「テッペン・ダンス」のテッペンとは日本語なのか?)はウッドベースによる4分以上になる超絶技巧の激しく重厚なソロ(ものすごくかっこいいー)からはじまり、3拍子のテナーソロになる。テナーはマカロニウエスタンのようにハードボイルドで、テーマを吹くときも超辛口である。この重量級のソロとそれをサポートするアンサンブルはこのアルバムのコンセプトをよく表していると思う。どちらが主というわけでもなく、全体としてのこの過剰で過激でしかも統制のとれた音楽なのである。そこからドラムソロになるのだが、ここからが4曲目のはじまりらしい。美しいテーマのあとウッドベースのソロになる。そこにクラリネットがからむ。スラップタンギングを織り交ぜた斬新なソロでめちゃくちゃ聞かせる。リフのあとクラリネットが2本になり(一本はバスクラ?)、どんどん深みのある展開になっていく。このあたり、上手いアレンジだと思うのだ。ここでも一体曲が途切れて、5曲目ということになる。ベース2台のフリーなデュオで開幕(ひとりはピチカート、ひとりはアルコ)。激しいデュオで聴きごたえ十分。そのあとインテンポになり、めちゃかっこいいベースラインに乗ってファンキーな分厚いテーマが押し寄せる。テナーソロは時折フリーキーな表現を交えながら吹きまくる。途中で2本くわえて吹いているのか……という感じになるが映像がないので実体はわからない(最初のテナーソロとはべつのひとかも……)。5曲目が終わったあと、最後の6曲目がはじまる。おそらく複数のドラムによる即興からだんだん盛り上がっていき、それが頂点に達した3分40秒ぐらいから急にリズムが変わってテーマがはじまる。このアレンジも非常にストレートで力強い。トランペットソロはモーダルなフレーズ出まくりでかっこいい。一旦リズムがとまって一転トロンボーンの無伴奏ソロになる。このメリハリのつけかたもいいですね。リズムが入ってからもトロンボーンは延々と力強く吹きまくり、いろいろな引き出しを開けて飽きさせない。そのあとテーマになってバシッと決めてエンディング。いやー、すばらしい。豪快にみえてじつは細かく丁寧なアンサンブルにほれぼれする。凄まじいまでに躍動しまくるリズムセクションとかっちりしたテーマ、そこにフリーなソロが乗り、リフで盛り上げる……というシンプルな図式はたとえばジャズ・コンポーザーズ・オーケストラやアッティカ・ブルーズ・ビッグ・バンド、ファイア・オーケストラなどを思い出すが、やはりいちばん共通項を感じるのは渋さ知らズである。もしかしたら本当に影響を受けているのではないか、と思えるほどだが……。

 買ってから何べん聴いたか……というのはいろいろ疲れたりストレスを受けたりしたときにこのアルバムは特効薬になるのです。ニルセンラヴとハーコン・コーンスタのデュオというだけで食指をそそられますなあ。収録時間も短く、ミニアルバムといった感じだが、ふたりの濃密で過激な演奏を真摯に楽しむには、これぐらいの時間のほうが集中できる。ハーコン・コーンスタは、ノー・スパゲティ・エディションというグループのアルバムで聴いたことがあるのだが、そのときは、なーんか中途半端な、モード〜前衛っぽいテナーという印象だったが、このデュオでめちゃめちゃファンになった。すごく若いらしいが、太く、落ち着いたトーンは、テナーを完璧にコントロールしていることを示している。アイラー的なところもあり、アシーフ・ツァハーと、ちょっと音色はにているかも(つまり、あまり個性的ではないが、よく鳴っている)。ニルセンラブとサックスのデュオといえば、ヴァンダーマークとの「デュアル・プレジュア」や、ガスタフスンとの「アイ・ラヴ・イット・フェン・ユー・スノア」が名高いが、ヴァンダーマークもガスタフスンも、一度聴けば忘れられない個性的な音の持ち主であり、その点はまだコーンスタは若いというしかないが、演奏においては負けておりません。ニルセンラヴとコーンスタという若い二人の言いたいことがぎゅっと詰まった濃密な一枚。すごく気に入った。