paal nilssen-love

「SCHLINGER」(SMALLTOWN SUPERSOUND STS077CD)
PAAL NILSSEN−LOVE HAKON KORNSTAD

 ニルセンラヴとハーコン・コーンスタのデュオというだけで食指をそそられますなあ。収録時間も短く、ミニアルバムといった感じだが、ふたりの濃密で過激な演奏を真摯に楽しむには、これぐらいの時間のほうが集中できる。ハーコン・コーンスタは、ノー・スパゲティ・エディションというグループのアルバムで聴いたことがあるのだが、そのときは、なーんか中途半端な、モード〜前衛っぽいテナーという印象だったが、このデュオでめちゃめちゃファンになった。すごく若いらしいが、太く、落ち着いたトーンは、テナーを完璧にコントロールしていることを示している。アイラー的なところもあり、アシーフ・ツァハーと、ちょっと音色はにているかも(つまり、あまり個性的ではないが、よく鳴っている)。ニルセンラブとサックスのデュオといえば、ヴァンダーマークとの「デュアル・プレジュア」や、ガスタフスンとの「アイ・ラヴ・イット・フェン・ユー・スノア」が名高いが、ヴァンダーマークもガスタフスンも、一度聴けば忘れられない個性的な音の持ち主であり、その点はまだコーンスタは若いというしかないが、演奏においては負けておりません。ニルセンラヴとコーンスタという若い二人の言いたいことがぎゅっと詰まった濃密な一枚。すごく気に入った。

「DUAL PLEASURE」((SMALLTOWN SUPERSOUND STS068CD)
PAAL NILSSEN−LOVE.KEN VANDERMARK

 これは、すごいっす。ポール・ニルセンラヴとヴァンダーマークのデュオときくだけで、すごいのはわかるけど、予想をうわまわるすごさ。はじめて聴いたときは、あまりにかっちょええので失禁寸前。一曲目は、ヴァンダーマークはバリトンを吹いているのだが、激しいニルセンラヴのドラミングに挑みかかるように吹いて吹いて吹きまくる。この1曲だけで腹いっぱい。ヴァンダーマークのもっとも過激な面がひきだされた演奏ではないだろうか。聞いていて、バリトンがぶっつぶれるんじゃないかと心配になるぐらい。二曲目のテナーによる演奏も、びゅーびゅー吹き倒していて、もっとやれ、もっといけと叫んでしまう。3、4曲目はクラリネットでチェンジオブペース。いやはや、ヴァンダーマークはクラリネットもうまいけど、フリー・フォールみたいにクラだけを前面に出した場合もいいが、こうやってサックスでの激烈な演奏の間に挟むと、また効果的。掉尾をかざる6曲目は、またまたバリトンの過剰なブロー。ニルセンラヴもいつになく叩きまくっており、こういう「噛み合った」デュオはいいなあ。生でぜひ聴いてみたい組み合わせです。

「STICKS & STONES」(SOFA505)
PAAL NILSSEN−LOVE

 ポール・ニルセンラヴのソロということで、ファンなら一度は聴いてみたいと思うのではないか。私もそうでした。しかし、期待が大きすぎたのか、いまいちピンとこない。けっきょく、好みということかなあ。こういうドラム、パーカッションのソロは、リスナーの心をひととき遊ばせてくれるような、自由で、すかすかのものにするか、リズムを押し出した徹底的な大迫力でいくか、どちらかだと思うが、私の好みとしては前者なのである。ところが、本盤は、そのどっちでもない、悪くいうと中途半端なものになっているように思う。もちろん、なかにはいい曲もあるんです。でも、それが続かない。収穫としては、いろいろなセッティングでさまざまなことをやっているニルセンラヴの本音、みたいなものがこのアルバムでちょっとは見えたということかな。やっぱり、インプロヴィゼイションのひとなのだなあ、と思ったわけです。

「DUAL PLEASURE 2」(SMALLTOWN SUPERSOUND STS085CD)
PAAL NILSSEN−LOVE/KEN VANDERMARK

 これはもう目の玉突出必至の驚愕の二枚組。ポール・ニルセンラヴとケン・ヴァンダーマークのデュオ「ダブル・プレジュア」の第二弾で、ボリュームアップしたうえ、内容も濃密になった。前作よりもすごいと断言できる必聴盤だ。1枚目はスタジオ録音、二枚目はどこかのライブだが、密度の濃さや過激さはどちらも同等。1枚目の一曲目、テナーとドラムの真っ向からのぶつかりあいを聴いているだけで、万歳三唱。すごいすごい。うわー、これ、生で聴きたいなあ。来日せんかなあ。二曲目以降も、名演ぞろい。こういうテナーとドラムのデュオというと、こちらの魂を解放してくれるというか、第3のメンバーとして、心を遊ばせてくれるようなものと、そういった聴き手が想像力を挟む余地のないぐらい、ふたりの奏者がからみあい、ぶつかりあい、圧倒してくれるものと二種があると思うが、このアルバムは後者。コルトレーンの「インターステラースペース」以来の古典的なテナー・ドラムデュオを引きずったものとしては、まさに到達点というか金字塔といえるのではないか。決して新しい表現ではないが、古い革袋に新しい酒を入れることに意味があると示してくれた。でかい音で何度も聴いて、肉体派アコースティック・フリージャズの「現在」を満喫しよう。そして、ふたりの奏者のやる気を身体に取り入れよう。

「I LOVE IT WHEN YOU SNORE」(SMALLTOWN SUPERSOUND STS063CD)
PAAL NILSSEN−LOVE/MATS GUSTAFSSON

 当代最高のドラマーのひとりであるポール・ニルセンラヴは何人かのテナーマンとデュオアルバムを作っているが、このグスタフソンとのデュオはもっともフリー・インプロヴィゼイションに近い。つまり、ヴァンダーマークとのデュオやハーコン・コーンスタとのデュオは、ドラムとテナーのデュオ、つまり、コルトレーンとラシッド・アリとかコルトレーンとエルヴィン、カヒール・エルザバーとデヴィッド・マレイ……といったようなものの延長にあると思うが、いちばん「即興」側にいるグスタフソンとのデュオは、楽器が何であるかを超えたものになっている。私が期待したのは、ニルセンラヴの煽りにつりだされたグスタフソンがいつもどおりの絶叫的フリークトーンを連発してブロウしまくり、阿鼻叫喚の地獄絵図的興奮また興奮の世界……みたいなものだったのだが、実際に聴いてみると、両者ともひじょうに抑えた、一見クールだが、その底に熱いものの煮えたぎっているような、じつにわくわくするような即興が展開していたので、驚くと同時に感動した。これはよかった。しかし、考えてみれば、グスタフソンはバリー・ガイとかと演るときはこんな感じだよなあ。何度も聴きかえしたが、やっぱりそのたびに私はグスタフソンに感情移入して聴いてしまう。ここにおさめられているのは、まさに音楽の挑戦であり、冒険だと思う。めっちゃレベル高いです。

「TOWNORCHESTRAHOUSE」(CLEAN FEED CF41CD)
PAAL NILSSEN−LOVE

この身震いするほどのかっこよさをなんと表現したらよいのか。ニルセンラヴのリーダー作のようだが、エヴァン・パーカーの凄まじいブロウには言葉もない。一曲目の吹きまくりなど感動ものですよ。ステン・サンデルのピアノとのからみもすばらしい。あー、極楽極楽、極楽昇天街(なんのこっちゃ)。最近のパーカーをちゃんとフォローしているわけではないのだが、このアルバムでのパーカーは絶好調といっていいのではないか。若い共演者というか理解者を得て、水をえた魚のように吹きまくっている。もちろんニルセンラヴ、ステン・サンデル、フラーテンも最高で、これは傑作ですよ。オーケストラという名前がついているのに4人かい!と聴くまえは思ったが、いやいやたしかにこれはオーケストラだ。4人のミュージシャンがそれぞれ自己を出しながら、相手の音を聴きつつ、全体をつむいでいく……つまりオーケストレイションなのだ。めちゃめちゃ推薦します。なお、タイトルに空白(スペース)が入っていないのはもとからです(「タウンホール・オーケストラの続編?)。

「MILWAUKEE VOLUME」(SMALLTOWN SUPERSOUND STS180CD)
PAAL NILSSEN−LOVE/KEN VANDERMARK

「CHICAGO VOLUME」(SMALLTOWN SUPERSOUND STS179CD)
PAAL NILSSEN−LOVE/KEN VANDERMARK

おなじみのニルセンラヴ〜ヴァンダーマークデュオだが、二枚にわけた意味があまりないというか、ミルウォーキーのほうが6月10日、シカゴのほうが翌11日の演奏である。二枚組でだせばよかったのになあ。とにかく双子のようなアルバムであって、バラバラにレヴューしてもあまり意味はない。全編即興なので、個々の演奏の善し悪しを書いても意味はないかもしれないが、この二日間はなんとも魔法がかかっていたような二日間で、この二枚に収められている全ての演奏がすばらしい。神がかりと言ってもいいかもしれない。おそらく、それだからこそ録音をCD化して世に出そうと思ったのだろうが、すでに馴れ合いになっていてもおかしくないこのふたりのコンビが、まったく手垢がつくことなく、つねに斬新で新鮮で創造的でパワフルで刺激的でユーモラスでシリアスで悪戯心に満ちていることには驚きを禁じえないっす。あっというまに聴いてしまう。それぐらいスピーディー。そして、スカスカなのに情報があふれまくり。これもすごい。ヴァンダーマークがバスクラを吹いているのも最近では珍しい。

「SIN GAS」(BOCIAN RECORDS BC−P333M666)
PAAL NILSSEN−LOVE & MATS GUSTAFSSON

 印象的な髑髏のジャケットだが、なかを開けると、目玉だけが拡大されている。2曲入っていて、合計31分ほど。短い? いやいやいやいや、こんなもんです。というかこの尺で十分です。これで70分以上入ってたら死ぬ。とにかくあいかわらずといえばあいかわらずなのだが、ニルセンラヴ大爆発で、マッツも全開吹きまくりで、圧倒される凄まじい演奏。といっても、パワーミュージック一本調子ではなく、小技もきかせるし、静寂な展開などもあって山あり谷ありで、一瞬たりとも飽きないようになっている。こんなことをいうと失礼かもしれないけど、このふたり、どんどん(聞かせ方が)うまくなっていく。すごい、のはわかってたけど。2曲目のニルセンラヴのシンバルワークは異常だ。マッツはバリトンとテナー。2曲目冒頭では久々に、叫びながらのブロウが聴けた。強烈なハーモニクスも心臓をわしづかみにする。こういうことも基本的なすばらしい音色、音量があってこその表現だが。

「EXTENDED DUOS」(AUDIOGRAPHIC RECORDS AGR003/PNL RECORDS PNL026)
PAAL NILSSEN−LOVE & KEN VANDERMARK

 随分まえからやってて、来日も何度もしているこの即興デュオだが、今回のアルバムは満を辞した感じのボックスで、CD6枚とDVD1枚という豪華さ。そして、日本でのライヴに関してはゲストが何人も加わっており、しかも、デュオがベースになっていない、ヴァンダーマークと本田珠也とのデュオも収録されている。これは聴かずにはおれない。というわけで、1枚目から順番に聴いた。今のところ、(DVDを除いて)通して2回聴いたが、やはりすごい充実ぶりである。一日に一枚ぐらい聴くのがせいぜいで、とても二枚以上は無理。それぐらいとんでもない爆弾のような演奏が詰まっている。個々の演奏には触れないが、ざっくりと紹介すると、
1枚目(ロシア)……40分一本勝負。ヴァンダーマークのテナーはますます音色といい、音の大きさといい、そのエッジといい、すべてに磨きがかかり、たいへんな切迫感がある。サックスは腹で吹くとよくいうが、ヴァンダーマークはあの分厚い胸板で吹いているのではないかと思うほどで、その「音」がしっかりこのディスクには生々しく収められている。ニルセンラヴも冒頭から全開で、いきなりクライマックスが来るような凄まじい演奏。リフで狂っていくヴァンダーマークとそれを狂気のごとく煽りまくるニルセンラヴという、このふたりのモンスターの最良の演奏である。ユーモアも随所に感じられ、いやー、この7枚組はすごいことになりそうだな、という感じが押し寄せてくる、ツカミとしては完璧な一枚目。
2枚目(ロシア)……1枚目と同じ日の演奏だが、こちらは3曲。基本的には一枚目と同じテイストの演奏だが、ニルセンラヴの凄まじいドラムソロが入っていたりして、聴きごたえ十分。ヴァンダーマークがリフを吹いていても、その後ろでドラムが信じられないようなアクロバティックな演奏を展開していたりして、もう全編興奮のるつぼ。ゆったりとした曲も、最後までゆったりのまま押し通せるというのは、即興ではあるがその曲の世界観みたいなものをつかんでいるからだろう。このふたりにしみじみさせられるなんて、なんだかだまされた気分だったりして。こういうデュオは、どんどん場面が変化していかないとダレたり飽きてきたりするものだが、このふたりに関しては、しばらくひとつのことに集中して、そこを掘り下げていく……という感じである。しかし、停滞感はなく、強烈なグルーヴがあるのでビートが一定でも大丈夫なのである。ひたすら同じ音を連発するヴァンダーマークは、なにかの霊に取り憑かれたのではないかと思わせるような狂気がある。このデュオの到達点ともいうべき凄まじい演奏だ。3曲目は4分ほどの短く凝縮された演奏。
3枚目(日本)……ここからはゲストコーナー。デュオに佐藤允彦が入った3曲と、デュオにジム・オルークが入った3曲が収められている。総じて、デュオだけのほうが焦点が絞りやすいからか、私の気に入った演奏が多いようで、ゲストが入るとたしかに楽しいし、目先が変わって飽きないのだが、やはりデュオだけのほうが密度が濃いと思う。しかし、そのなかで佐藤との3曲は、もはや「そういうバンド」というか「トリオ」として機能していて、とんでもなくすばらしい演奏である。いやー、佐藤允彦はすごいっすねー。私の思い込みかもしれないが、ヴァンダーマークもニルセンラヴもたじたじとなる瞬間があるように聞こえる。それほどアグレッシヴで、クオリティの高い演奏である。ちょっと山下トリオを思わせるような展開もある。佐藤の才気ほとばしるようなピアノが入ると、デュオもいつものペースを崩して、どんどん場面転換を行うような新しい側面が見られて楽しい。ジム・オルークが入ると、ノイズっぽい成分が増え、また、シンプルなリズムと非常に具体的なインタープレイ(露骨な盛り上げとか)が導入されて、また様相が変わる。ザ・シングを連想したりもする。シングルトーンでのからみは、これも絶妙で、いわゆるフリーインプロヴィゼイション的な空気もある。クラリネットでの演奏もいい味が出てる。
4枚目(日本)……1曲目はデュオに、佐藤允彦とジム・オルークが加わった4人。絶妙の距離感で25分の即興。普通に反応しているだけだと思うけど、それがものすごいドライヴ感をともなった怒濤のうねりへとみるみる変貌していく。魔術を見る思い。とくに、ときどき大胆に斬りこんできて、ときにはちょっとした隙間に割って入り、その隙間を100倍ぐらいに押し広げて暴れ回り、ときには残りの3人を引っ張りまわす佐藤のピアノの恐ろしさに身の毛がよだつ。ヴァンダーマークが佐藤のピアノに「吹かされている」ように思える部分もあり(まあ、実際にはそんなことはないのだろうが、そう聞こえる)。全力を出し切る4人の猛者、という印象の圧倒的な演奏。このボックスセットの頂点といいたくなるようなトラックだ。2曲目はそれにさらに坂田明が加わって5人に。坂田さんはいつもの感じで悠々と吹き切っているが、ヴァンダーマークとニルセンラヴはそれに触発されてさまざまなアプローチを行っている……みたいな印象。3曲目、4曲目はデュオに戻るが、やはりこれが本領だろう。とくに4曲目はアップテンポでニルセンラヴの驚異的なドラミングが嵐を呼ぶ。そして、リフ、リフ、リフ……ワンコードのリフ!
5枚目(日本)……ニルセンラヴが抜けて、1曲目はヴァンダーマークと本田珠也とのデュオ。まったくノンストップで両者が攻めまくる感じの演奏。とくに本田珠也は挑みかかるような攻撃的なドラムでヴァンダーマークと対峙する。もちろん納得ずくでの「交歓」にはちがいないのだろうが、一瞬でも気を抜くとやられてしまうような、凄まじいぶつかり合いに聞こえる。これは凄まじいです。2曲目もヴァンダーマーク〜本田デュオだが、こちらはゆっくりした即興ではじまり、どんどん転がっていき、大きな雪だるまになる。こちらもすばらしい。3、4、5曲目はヴァンダーマークが抜けて、坂田明と琴の八木が加わるが、坂田さんはいつもの坂田さんで、はるかな空中をすっ飛んでいくような演奏でめちゃかっこいい。でも、エレクトリック琴については私は決して良い聴き手とはいえないのです。すいません。でも、坂田さんのブロウは圧巻で、とくに5曲目の最後のあたりは鬼気迫る狂気の演奏だ。
6枚目(イギリス)……これだけDVDである。デュオが2曲と、ミック・ベックというテナー奏者が1曲加わっている。カメラワークも凝っていて、編集にも金がかかった、ちゃんとした作品としてのDVDなので、この一枚がボックスのなかにあるとないとでは大きな違いだろう。なにしろこのチームを見たことのないひとも、この映像を観れば、なるほどこんな雰囲気で、こんな臨場感で演奏が行われているのだな、と一発で理解されるはずだ。そして、ドラムとテナーという、おそろしく愛想のない絵づらにもかかわらず、とても面白いのは、やはりこのデュオの白熱の演奏の真剣さが画面から伝わってくるからだろう。音質的にはCDに一歩を譲るかもしれないが、併せてこれを見ることでいろいろな疑問が一瞬で解消する。ニルセンラヴがどうやってああいう音を出しているのかがわかるし、そういうテクニカルなことでなくても、たとえばヴァンダーマークがどんな表情であの音を吹いているのか、などもわかるわけだ(あたりまえのことを書いているなあ)。私は、このデュオを生で何度も体験したので、このDVDを観るとそれが追体験できる……という良さもある。そして、ミック・ベックというイギリスのテナー奏者だが、白髪で、禿げているので、けっこうな年齢なのではないかと思って経歴を調べたらそうでもないらしい(失礼しました)。基本はバスーン奏者らしく、テナーはロートンのメタルだが、アンブシャーが独特で、マウスピースが口のなかで出たり入ったりする。そういうのがわかるのも映像ならではである。
7枚目(アメリカ)……ラストは、またデュオに戻って、38分一本勝負。やはりこのふたりだけ、いうのが一番しっくりくる。日本での、ゲストを入れての順列組合せは、あくまでこのデュオがあって、それにプラスアルファだから成立する話である。ここでのデュオは、これまでの全演奏に比べても、「まだ、こんなやり方があるのか」と言いたくなるような新鮮で、頭のぶっとんだ演奏をしてくれていて最高である。いやー、この7枚目がいちばんええんとちがうかね。そう思いたくなるほどの凄い演奏である。
というわけで7枚組を2回通して聴いたわけだが、本当に充実しまくっていて、嘘みたいに飽きずに聴ける。たいしたもんである。この出会いが、シカゴとノルウェーという、昔なら生涯出会うこともなかったはずの邂逅によってもたらされた、というのは、考えてみるとすごいことではないか。21世紀ならではの国際的なデュオチームである。今後ますます期待度が高まる。傑作。

「THE LIONS HAVE EATEN ONE OF THE GUARDS」(AUDIO GRAPHIC RECORDS AGR−006)
PAAL NILSSEN−LOVE/KEN VANDERMARK

 このデュオに関しては、生も何度も見たし、ボックスもこないだ聴いたので、こういう単発ものに関しては、ああ、また出たのか、という以上のコメントはしづらいなあ、と思っていたのだが、聴いてみるとやはりめちゃくちゃ凄くて、しかも、初期のころから比べれるとどんどん贅肉が落ちていって、研ぎ澄まされ、かつ濃密になり、しかもユーモア感覚とゆとりも出てきて……といいことづくめになってきているように思う(あくまで私の印象です)。こういうクラスのひとたちになると、手垢がつくとかマンネリとかいうことはありえないのかもしれない。もちろん、音楽的にマンネリ化しようがしまいが、そこに圧倒的ないきいきとした表現力や躍動感があれば、なんら問題ないとは思うが、このふたりはそれに加えて、即興的な部分も新鮮だからなあ。もし、このデュオに関してどれか一枚といわれたら、個人的には本作を推薦したいと思っております。