「TSITSIKI」(EINE KLEINE NACHTMUSIK/EKN003)
TSITSIKI
録音もすごく悪くて、95年と96年のマンダラUでの演奏を収めてあるのだが、96年のほうは音量レベルが低くて、ボリュームをかなりあげないと聞きとれない。でも、演奏は非常によくて、これを世に出そうと思ったのも無理はない。というか、録音の悪さが逆に、このグループの一種ヘタウマ的な良さをクローズアップしているような気がする……というのはうがちすぎか。CDをみると、中尾勘二はサックスしか吹いていないように書いてあるが、トロンボーンもけっこう吹いている。こういう演奏をぼやーっと聴いていると、ああ、こういうのがフリージャズだなあ、今、俺は音楽が生まれる瞬間に立ち会っているのだなあ、という気になる。シーケンサーで作られ、パソコンでノイズやミスを除去され、パッケージングされて我々のもとに届けられている今の音楽とは対極にあるこういう演奏が、しみじみと心に染みわたる。即興に命をかける、みたいなタイプの演奏ではまったくない。しかし、まあだいたいこうなってこうなるだろうとはわかっているが、いやいやそうでもないよ、というような、ある意味この先どうなるかわからない演奏がじつに楽しいし心地よい。純粋なインプロヴィゼイションよりもじつは八方破れででたらめで無垢かもしれない。「ジジキ」の演奏を聴いていると、私が高校生のころ友だちと演奏していたわけのわからない、でたらめで楽しい「演奏」を思いだしてしまう。だれに聴かせるでもない、でも、楽しかった即興の数々……ああいった「若気の至り」の「幼稚さ」をきちんと保有しているのが彼らなのだろう。だれのリーダー作なのかよくわからないが、いちばん最初に名前の出ているベースの西村卓也の項にいれておく。