mike nock

「EVERYBODY WANTS TO GO TO HEAVEN」(NEXOS JAZZ 86073−29
NEW YORK JAZZ COLLECTIVE

 リーダーはピアノのマイク・ノック。マイク・ノックといえば、私にとっては、ブレッカーをフロントにおいた「イン・アンド・アウト・アンド・アラウンド」(だったっけ?)という作品ぐらいしか知らないし、あとは、ああ、マーティ・エーリッヒとデュオをしてるひとね、程度の知識しかない。今回、どうして本作を買ったかというと、ひとつには中古だったこと、そして、彼以外のメンバーが、マーティ・エーリッヒ、レイ・アンダーソン、フェローン・アクラフ……となかなかすごいこと、この二点である。聴いてみると、マイク・ノックのコンポジションがめっちゃかっこよくて、それぞれのソロもさすがに熱く、「おお、めちゃめちゃええやん」と最初は満足していたのだが、二度目に聴くと、マーティのアルト&バスクラやレイ・アンダーソンのトロンボーンもそれなりにいいけど、自身のリーダー作ほど爆発しておらず予定調和の範疇というか、どこか「真面目にバップ」的だし(パロディ的ではない、という意味)、けっこう活躍しているジェイムズ・ゾラーというトランペットがめっちゃ普通で……いや、悪くはないのだが、あとの二人のフロントに比べるとあまりにちゃんとしていて、そのあたりが飽きてくる感じかも。ライヴだったら、もっとドカーンときていたかもしれないし、もしこれがジャズ喫茶とかでかかったら、多くのひとの共感を呼ぶ、非常に真摯でストレートアヘッドな、上質のアルバムだとは思うが、私はどうやら、マーティやレイ・アンダーソンのそれぞれのリーダー作のほうが好きなようだ。すんまへん。

「I DON’T KNOW THIS WORLD WITHOUT DON CHERRY」(NAXOS JAZZ 86003−2)
NEW YORK JAZZ COLLECTIVE

 なんと日本盤だった。すごい豪華メンバーだが、実質的にはピアノのマイク・ノックのリーダー作らしい(挟み込んであった紙にそう書いてあった)。マーティー・エーリッヒを中心に、バイキダ・キャロル、フランク・レイシーという3管で、ベースはマイケル・フォルマネク、ドラムはフェローン・アクラフとスティーヴ・ジョンズが交替で……という人選。アルバムタイトルにもなっている1曲目「我々はドン・チェリーのいないこの世界を知らない」(マーティー・エーリッヒの曲)というのは、本作の吹き込みがドン・チェリーが死んだ翌年の録音であることも関係ありそうだが、ほかの曲はとくにドン・チェリーとは関係ないような気もする。どの曲も3管ならではのアレジがしっかりほどこされていて、ソロも熱い。マイク・ノックなんて、あんまりそういうイメージはないのだが(私がよく聴いたのはブレッカーとやってる「イン・アウト・アンド・アラウンド」とかリーブマンとの諸作)、ここではかなり前衛的表現に踏み込んだソロもしていてかっこいい。とにかく曲もアレンジもがっちりとした「ジャズ」で、モードジャズ〜新主流派的(という言葉にはほぼ意味はないかもしれないが)な表現にちょっとフリーっぽいところまで……という感じだが、そういうこととは関係なく、とにかくやる気にあふれた熱い演奏で、聴いていて心地よい。エーリッヒはアルトにバスクラにフルートにと大活躍だが(8曲目のバスクラソロとか凄すぎるっす)、レイシーやキャロルもとてもガッツのある演奏でいい。オスティナートというか低音部のパターンがあるような70年代ジャズの香りのする曲が多いのも点数高い。ドラムもふたりともええ感じで、何回聴いても楽しい。でも、まあジャズはジャズであって、タイトルから連想されるような自由さとはちょっと違うかも。

「IN OUT AND AROUND」(TIMELESS RECORDS ALCR−51)
MIKE NOCK QUARTET

 ピアノのマイク・ノックのカルテットで、テナーにマイケル・ブレッカー、ベースに(先日亡くなった)ジョージ・ムラーツ、ドラムにアル・フォスターという、今から考えるとえげつないほどに豪華なメンバーだが、本作録音時の78年という時点から考えると、メンバ―中一番の大物であったと思われるアル・フォスターもまだ35歳であり、リーダーはまだ38歳。音楽的にもそれ以外の意味においても、全員が未来を夢見る、やる気に満ちたミュージシャンであり、創造性がどうのと言わなくても、彼らがそういう「やったるで」「なにかおもろいことをぶちかましたるで」「音楽シーンに新しいことを起こしたるで」的な意欲のもとに気持ちとしてつながっていたのはよくわかる。1曲目はテナーとピアノとベースがユニゾンで複雑なテーマをバシッと合わせたあと4ビートになり、ムラーツのすばらしいランニングが前面に出ていて、ブレッカーの見事なソロとともにふたつのフロントラインのように(しかも速いテンポで)進行していくめちゃくちゃエキサイティングかつ情報量の詰まった演奏。しかも、ブレッカーのソロに対してノックはただのバッキングをしているのではなく、刺激的なやりとりが行われており、ブレッカーというひとは、同時にいくつものことをこなしながらソロを組み立て、しかも、盛り上げて、バシッと終わる……という創造性、音楽性、技術力……なにもかも持っているひとだと感心するしかない。そのあとのノックのソロの冒頭は無伴奏でこの構成もかっこいい。やがてベースとドラムが入ってきてからも、テーマの断片をちりばめたアブストラクトなフレーズをスピード感とともにちりばめるように弾く。この1曲目で完全にハートをつかまれる。2曲目は「暗い光」という意味深なタイトルで、たしかに不穏な雰囲気のなかを進行する幻想的なバラード。ブレッカーの、フラジオを交えたテーマの吹き方はすばらしい。アル・フォスターの繊細きわまりないドラムにも耳が行く。ブレッカーのソロは、ノイクのピアノの弾き方も十分意識しているようで、やり取りのなかでソロが形作られていく。ムラーツの美しい音色の完璧なソロも最高。ええ曲や。3曲目も、4人がそれぞれに技を発揮するアンサンブルにより、2曲目とも共通するような幻想的なテーマが奏でられる。つまり、こういう曲調がマイク・ノックの音楽性なのだろう。5拍子のオスティナートが延々と続くなか、本当に4人とも完璧に楽器を操り、繊細な表現に徹している。それらが組み合わさってこのサウンドになる。とくにフォスターの貢献は大。ノックのピアノソロは叙情的だが、ドラムのプッシュで躍動的に聴こえる。もっとバシバシにリズムや音を強調してもかっこいい曲だと思うが、全員、ぐっと抑えた演奏を最後までキープし、そのせいで緊張感がずっと持続している。これもええ曲やー。4曲目はこれは美しいテーマを持つバラード(ストレートなジャズバラード)で、ややルバート気味にテーマが奏でられる。ブレッカーの音色、アーティキュレイションなどによってこの曲のテーマの価値はかなり上がった。ピアノソロにからむベース、そして、そこからのベースソロもすばらしい。ブレッカーのほれぼれするようなソロのバックでのフォスターのドラムが最高。というか、4人とも絡み合うようにして、この壊れやすそうなガラス細工のような音楽を形作っているのだ。少しの気のゆるみも許されない緊張のなかで輝くガラス細工。5曲目も一筋縄ではいかないテーマを持った曲ではあるが、わかりやすいリズムと構造の曲ではある。かっこいいよなあ。曲もいいんだけどアレンジがすばらしいです。ピアノソロは繊細にはじまり、次第にハードに疾走をはじめる。ブレッカーのソロはいつものブレッカーらしいというか、ストレートアヘッドにブロウしている。ムラーツのソロも思索的なのにめちゃくちゃかっこよくて感動。最後の6曲目はタイトルナンバーで、一番ノリノリの、シンプルなテーマの曲。ノックもモダンジャズの王道まっしぐらなソロをぶちかましている(ノッてくると声が出るタイプのひとみたいですね)。ノックのソロの最後のフレーズを受け継いでソロをはじめるブレッカーは、これはもう「マイケル・ブレッカー」以外のなにものでもないソロで、ブレッカーの特色的な技が全部入っている感じ。おなじみのフレーズもばんばん惜しげもなく出てくる。ムラーツのソロも上手すぎるし美味すぎる! とにかくすごいテクニックと音楽性が合体した、ムラーツならではソロ。そのあと、またブレッカーのソロになり、テーマにばっちり戻る。ひょえーっ、かっこいい! というわけで傑作であります。青木和富氏のライナーにはブレッカーのことを「コマーシャルな音楽に専念している男が、意外なハードコアな演奏をきかせてくれる」と表現しているが、ふーん、なるほど。フュージョンのことを「コマーシャルな音楽」と思っていたのだなあ、とこれは隔世の感。