luca nostro

「ARE YOU OK?」(VIA VENETO JAZZ VVJ102)
LUCA NOSTRO QUINTET

 テナーのドニー・マッキャスリンが入ってるから購入したのであって、リーダーのルカ・ノストロという凄い名前のギタリストのことはよく知らないのだが、これだけの凄いメンバーを率い、しかも全曲自分のオリジナルで固めるというのはたいした才能だと思う。そして、その曲がいずれも一筋縄ではいかない変態的なものばかりで、滅茶苦茶かっこいい(マッキャスリンの曲が入ってるのかと思ったぐらいで、このふたりの相性は抜群だと思う)。ピアノがフェンダーローズのみというのもいいし、ドラムがTYSHAWN SOREYであるのも期待大だな、と思って聴いてみると、いやー、これは私の好みど真ん中です(ど真ん中、いっぱいあるのですが)。曲やアレンジはもちろん、テナーソロは案の定変態的だし、ドラムは聞いていて笑ってしまうぐらい一曲目から大爆発してるし、リーダーのギターソロもなかなかです。これは凄い! でも、やはり私の耳はどうしてもマッキャスリンにいってしまうのだが、2曲目の、煽りまくるドラムに対して涼しい顔で、あの柔らかいトーンで変態的なアイデアのフレージングを切れ目なく続けるマッキャスリンは本当に頭がおかしいと思う。だが、「練習したよ」的なフレーズも随所に顔を出すし、いろんな意味でふところがひろく、引き出しも多いテナー奏者であることはまちがいない。デヴィッド・ボウイとの関係や、ヒップホップがどうこうという側面からだけでなく、もっとこのひとの変態性をしっかり掘り下げる評論をだれか書いてほしいです。3曲目(これも変な曲)も、なんか真剣な張りつめた感じがなく、のんしゃらんとしていながらも、じつはえげつない曲なのだ。こういう、さらりとしたエグさというのがイギリスなのかなあ(ちがうと思う)。この曲でのマッキャスリンのソロのおかしさといったらないのだが、みんなそう思わんかなー。私は聴くたびに爆笑ですよ、ほんと。5曲目も変拍子と普通のリズムを組み合わせた複雑な構成の変態曲だが、めちゃかっこいい。この曲でのマッキャスリンとドラムのコラボも最高である。いやー、ますますマッキャスリンが好きになりますなー。ローズのソロも(バッキングも)どの曲でもいいけど、この曲でのソロはすばらしーっ。ドラムソロも鬼のようである。6曲目のバラードもそうとうおかしいよ。7曲目は、聞いた瞬間にわかる変な曲で、ギターはずっと「チャチャチャチャ……」というリズムを刻み、テナーがわけのわからない、どこではじまってどこで終わるのかわからないような変態的なテーマを延々吹いていたかと思うと、ギターの無伴奏ソロになり……という展開自体がもうおかしくて笑ってしまう。なにを考えてこういう曲を書いてるのだろう。この7曲目が、本作のコンポジション面の変態性としては一番かもしれない。8曲目はベースが大活躍する。マッキャスリンの柔らかい音色でのソロは、いろいろな意味でこのひとらしさの詰まった典型的なものだ。とにかくめちゃめちゃ上手いと思う。ラーセンのメタルなのだが、完全に使いこなしているというか、ラーセンらしくない音なのだが、いや、やはりラーセンならではか……といろいろ考えてしまうような「使いこなし方」なのだ。9曲目も変拍子の変わった曲である。ギターのリフに乗ってマッキャスリンがめちゃめちゃむずかしそうなテーマを吹く。ああ、聴いているだけで胃が痛くなりそう。でも、かっこいい。この曲でのローズのソロも凄いし、途中フリーっぽくなる箇所もある。というわけで、当分はこのアルバムを聴きまくることになるでしょう。傑作。