jun numata

「KNUTTEL HOUSE」(SPLOOSH RECORDS SPLOOSH20)
JUN NUMATA/MARTIN ESCALANTE/YUJI ISHIHARA

 あのマーティン・エスカランテが来日したとき、なってるハウスでダウトミュージックの沼田社長のノイズと石原雄治のドラムと共演したときのライヴ。マーティン・エスカランテといえば、アルトサックスの本体に縦に金属パイプのようなものを差し、そこにマウスピースをつけた変態楽器をものすごい音圧とグロウルで凄まじいフリークトーンを吹きまくることに命をかけているすごいひとだが、ここで聴かれる演奏は最初から最後までひたすら爆音のフリークトーンと爆音のノイズと爆音のドラムが全力で吹き鳴らされ、弾き倒され、叩き倒される。そんな演奏が面白いのか、ときかれると、面白い! と答えるしかない。めちゃくちゃ気持ちいいのだ。どういう演奏かというと「キーッ、キキキキキ、キキキキキ、キュルキュルキュル、キャアアア、ガガガガガ、ギギギギギ、ドカドカドカドカ、ガンガンガン、キュルルルル、キュルルル、ギョエッー、ズガガガガ……」というような感じである。エスカランテはサックスの音を加工していないらしく、吹き方だけででこのエフェクターをかけまくったノイズの嵐みたいな音を出しているのだ。すごいよなあ。それになんの意味があるのか、と言われると、やはりこのアルバムを聴いてわかるとおり、沼田順のエレクトロニクスのノイズに対して、エスカレンテの音は「管楽器」「リード楽器」のアコースティックノイズなのだ。そのぶつかり合いになんともいえない面白さがある。人間が息を吹き込んで出している音としてはもっともえげつないものかもしれない……と思わせるだけの迫力がある。ハウリングもエフェクターも使わない人力ボルビトマグースみたいなものかもしれない。ドラムもすさまじい。ひたすら全身全霊でスティックを振り、足を踏んでいる。だんだん、大丈夫かこの3人……という気持ちになってくるが、だれも手を休めようとしない。しかもどんどん音量が高まっていき、演奏自体も盛り上がっていく。人間か、こいつら! と呆れ返ったところで、ドラムが小休止して、エスカランテのソロのようになる。いやー、このひとはどこでどうなってこんなことになったんだろうな。そういう興味が湧いている。そこにギターがかぶさるが、インタープレイとかそういうものがあるのかどうかも定かではない。そして、サックスが消え、過激なギターソロになったあとドラムが雄たけびとともに入ってきて、最後はまたしてもエスカランテが狂った狼が吠えまくるようなソロを吹きまくる。ここから2曲目になるが、実際には途切れず演奏は続いている。ドラムがとんでもないテクニックとパワーであおりまくりはじめるが、エスカランテはあいかわらずひたすらギャオオオオオオッと咆哮している。これしかおまへん! と言いながら、本当にこれしかしないやつというのは凄い。たいがいこれしかできないのだ、と言いつつ、いろいろやるものだが、いやー、この割り切り感。世界にはすごいひとがいるもんだ。そして共演のふたりも見事な演奏で、それに応えている。2曲目のあと、一旦終わって3曲目になるが、これは全力で最初から突っ走るというよりも、最初はいわゆるインプロの応酬というかインタープレイがあるものの3分過ぎからはまたしても大音量のぶつかり合いになる。沼田さんのエレクトロニクスの音が面白すぎる。ここからはもう、3人が絡まり合いながら坂を転がり落ちていく感じで、ノンストップの疾走になる。3人の集中力がまったく途切れないのと、エスカランテの唇がよく持ってるのが驚異である(普通はとうにバテバテになって、コントロールもできず、音量も落ちているはず。化けもんや……)。

 この演奏を大音量でじーっと聴いていると、10分経とうと20分経とうとまるで飽きていない自分に気づく。こういうのは生で聴くほうがいい、と思っていたが、いやいや、いい演奏はCDでもよい。その理由は……この一見めちゃくちゃに聞こえる演奏もじつはたいへんな技術力と音楽性で成立しているから、かとも一瞬思ったが、いや、やっぱり私はめちゃくちゃが好きなんです。もちろんエスカラントのブロウにはその瞬間瞬間に応じたさまざまなテクニックが使われ、自分の楽器からどんな音を今出したいかをはっきりわかったうえで吹いているのはまちがいないが、そのうえで、そういう予定調和を越えた妙な音が出てきて、それに反応したり、それを制御したり、拡大したり……ということをしているのだろう。3人がずっとただ単に全力で演奏しているのでないことは、この45分の音楽のなかにさまざまな起伏というかドラマがあり、異常に盛り上がったり、つぎの局面に行ったり、という、普通の音楽と同じような駆け引きや寄り添い合いや裏切りやちょっかいやギャグなどが感じ取れることでもわかるが、なんにせよとてつもないエネルギーの放出であることはまちがいない。これがなってるハウスで生まれたというのが誇らしいような傑作。