larry ochs

「SONGS OF THE WILD CAVE」(ROGUE ART ROG−0084)
LARRY OCHS−GERALD CLEAVER

 テナーとドラムのデュオがめちゃくちゃ好きなうえに、それが洞窟で行なわれているとあっては聴かざるをえないではないか。これまでにも、なぜかサックス奏者は洞窟とか下水道とかいった残響の長い場所でのソロを好み、録音してきたが、ドラムとのデュオで洞窟……というのはけっこう珍しいのではないか。ラリー・オークスというひとは知的なイメージのあるローバ・サキソフォン・カルテットのなかでも肉体派部門を受け持っている感じがあり(あくまで個人的印象であります)、ジェラルド・クリーヴァーとの相性もばっちりであろう。これは楽しみすぎる。というわけで早速聴いてみると、やはり思ったとおりのすばらしい内容だった。「洞窟」という場所での演奏ということで、かなりの残響とかがあるのかなあと思っていたが、それは正直あまり関係ない感じだった。ヘッドホンで聴くとほとんどわからず、スピーカーで聞くとけっこうわかる……みたいな具合である。しかし、全編通して聴くと、演奏の端々に、洞窟で行われた演奏であるという要素が感じられ、とても楽しめた。そもそも、ふたりのミュージシャンをはじめ、録音スタッフがこの洞窟までわざわざ機材とか楽器を運び込み、こういう演奏をして、それを録音してCDにする……ということ自体がもう「洞窟」である必然性を感じさせる(そうか?)。CDの内ジャケットの写真を見ると、マジの洞窟で、そこに超シンプルなドラムセットと小物、そしてテナーのケースをあいだに置いて、ラリー・オークスが立っているというセッティングになっていて、非常に感慨深い。こんなアホなことをようやるなあ。最高じゃないですか。ライナーによると、ラリー・オークスとジェラルド・クリーヴァーのふたりはフランスの有名な壁画がある洞窟を訪れて、ここでデュオをしよう、ということになったが、さすがにめちゃくちゃ貴重な壁画がある洞窟では録音の許可がおりず、べつの洞窟を探して録音……ということになったらしい。そこまで洞窟にこだわるといのもなかなか面白いよね。洞窟という「場」のオーラ(?)がこのふたりの演奏にインスピレイションを与えていることは間違いない。オークスは力強いテナーも良いが、ソプラニーノの民族楽器的な素朴な響きもええ感じで、ジェラルド・クリーヴァーのパーッカッショニストとしてのセンスもすばらしい。なんとなく「富樫雅彦さんが洞窟でパーカッションソロをしたら……」とか想像してしまったが、よく考えるとそれを実践しているのが土取さんなのか……。まあ、洞窟というものはなぜかしら我々にいろいろな刺激を提供してくれるものなのである。「洞窟研究会」(だったっけ?)という高校のクラブを舞台にした小説を3冊も書いている私が言うのだから間違いありません。タイトルがドストレートなのも良い。対等なデュオだが、ジャケットの場所によってラリー・オークスが先に書かれていたり、ジェラルド・クリーヴァーが先に書かれていたりしてまちまちなので(たぶんわざと)、ジャケットの表の最上段にある表記のとおり、ラリー・オークスの項に入れた。傑作。