kazumi odagiri

「突撃神風特攻隊」(アケタズ・ディスク AD−2)
小田切一巳トリオ

 いやー、ようやく聴けました!!! 学生時代、梅田の東通りにあったLPコーナーという店の中古コーナーで一度だけ見たことがあり、喉から手が出るほど欲しかったのだが、たしか当時で6000円ぐらいの値段がついていた。学生の身で、絶対無理だった。いや、絶対というわけではないか。バイト代を溜めれば、あるいは買えたかもしれないが、中身を聞かずに6000円というのは冒険だし、そんな大胆なことをする根性はなかった。以来、二度と見かけることはなかったが、添野知生さんが先日入手されたということで、聴かせていただいたのである。アケタズディスクの二枚目ということで、マイナーレーベルの香りがぷんぷんする(今でも、アケタズディスクは良い意味でそれが残っている稀有なレーベルだが、このころはそれが強烈に匂ってくる)。ジャケットもめっちゃチープだが、それがよい。録音は愛想がないが(とくにサックス)、それがひじょーにリアルな感じに聞こえる。いわゆるライヴハウスでの隠し録りに通じるものがあるのかもしれない(もちろんもっといいレベルですが)。しかし、3人ともめちゃめちゃ「伝わってくる」のがすばらしい。1曲目(本作に参加していない鈴木良雄さんの曲で、モード風)はテーマはソプラノだが、ソロに入るとテナーになる。超アップテンポ。吹いて吹いて吹き倒す。リーブマンかグロスマンみたいだ。すげーいい音。ベースもドラムもいいが、私の耳はずっとサックスに釘付けだ。2曲目はテナーの無伴奏ソロによる「インヴィテイション」。膨大な練習量と音楽知識に裏付けされているが、それを突き抜けた圧倒的な存在感を感じさせる名演だと確信する。かっちょええ! 3曲目はフレディ・ハバードのおなじみの曲だが、最初ドラムとのデュオでためらうことなくひたすら熱いブロウを繰り広げる。テーマに入ってベースが加わってからは、よりアグレッシヴな演奏になり、ガンガン行きます。フラジオの濁り方、同じフレーズが何度も出てきてしまうあたり、パターンをずらしていくやり方など、どこをとってもわかるわかる、と強く合点してしまう、人間味溢れる快演だと思う。B面に行って1曲目はA−3と同じ曲の別テイク。こちらは、ドラムソロからはじまり、それに乗っかっていく形でテナーとのデュオになる。こっちのほうがより過激で暴れまくっている感じだが、テーマが出て、そのまま一旦終わってしまう。そして、なぜかソプラノに持ち替えて、もう一度演奏がはじまる。つまりテイク3なのか?そしてソロはテナー。いろいろ試しているようだ。かなりドスのきいた、えぐいブロウを展開し、聴いてても拳を握るが、ぐだぐだっとドラムソロになって、テーマはやはりソプラノ。こういうゆるさもいかにもアケタズディスクといった感じでよい。ラストはスタンダードの「サニー・ゲッツ・ブルー」。一転して、歌心と音色を聴かせまくる。うまいなあ。「ハッシャ・バイ」でも存分に発揮されていた、あの歌心である。このアルバムが吹き込まれた当時(1976)としては、小田切はおそらく、同じようなところ(コルトレーンを出発点として、リーブマンやグロスマンなどの新しい方法論を身につけ、ブレッカーやショーター、フリージャズなどからも吸収した表現)を目指しているテナーマンのなかでは、小田切が一番先頭にいる、というか、完成された形だったのではないか、と推察する。本当に本当に本当に惜しいひとをなくしたものだ。しかし、このアルバムが残されたのは僥倖である。CD化を切に望みます。