yasukatsu ohshima

「今どぅ別れ」(DISC AKABANA SKA−3001)
大島保克&オルケスタ・ボレ

 オフノートの沖縄音楽というと、梅津和時がプロデュースした大工哲弘の3枚(「ウチナージンタ」と「ジンターナショナル」と「ゆんたとぅじらば」)がめちゃめちゃすばらしく、生涯聴き続けたいと思うほど好きなのだが、本作はその梅津さんの役目を芳垣さんが果たしている。私もなんだかんだいって長年音楽を聴いているので、家にはいつのまにかたまった沖縄音楽のCDがそれこそ何十枚もあるが、ただただボーッと聴いているだけなので、なんの知識もない。これはもうびっくりするぐらいこれっぽっちも知識がないのである。だから、大島保克というひとのこともまるで知らないのだが、1曲目のブラスバンド(インストゥルメンタル)で(この当時としてはかなり調子のいい)大原裕のトロンボーンソロが炸裂するのを聴いてもうすでに涙ぐんでしまい、そのあとは冷静に聴くことができない。2曲目でその大島保克の弾き語り……という構成もうまく、3曲目でようやく大島+オルケスタ・ボレの演奏ということになる。これは、もちろん純粋な沖縄音楽ではないが、こういう編曲を行うことによって、我々門外漢もすーっとこの音楽の世界に入ることができるし、とにかく編曲と演奏がすばらしすぎるので、もう聞き惚れるのみである。言い換えれば、ここまで新しい変奏を行っても十分に耐えうる沖縄音楽の深さ、強さを示しているともいえる。大島の歌と三絃に寄り添うように吹かれるチューバ……最高じゃないでしょうか。4曲目、5曲目あたりはほぼ弾き語りに近いが、たとえば4曲目の最後のほうにそっと入ってくるささやくようなソプラノのロングトーンとベースの音のタイミングの見事さ、5曲目の途中でじゃらららん……と入ってくるベースのかっこよさは筆舌に尽くしがたい。5曲目のラストのほうで、低くうごめくようなアルコベースのパートがあるのだが、これもめちゃかっこええんだよねー。そして、最後は三絃の音だけが残る。6曲目はまたブラスバンドのみで勇壮な演奏。大原さんの編曲はシンプルだが、ツボをこころえている。ほとんどリヴ・ラフだ。7曲目、8曲目は大島+オルケスタ・ボレの演奏で、7曲目は大原さんの編曲だが、シンプルで歌を邪魔せず、最大の効果を上げている。沖縄音楽本来のノリに代わってチンドン的なブンチャッチャ、ブンチャッチャ……というノリが生まれ、見事な融合を見せている。歌が終ったあと、ふたたび演奏がはじまり、大原さんのトロンボーンがリードするニューオリンズ的な集団即興がなんとも言えない味わいだ。8曲目は、ニューオリンズR&B的な臭いもするハネるリズムがものすごく印象的な編曲で、これこそこのアルバムにおける大島+オルケスタ・ボレのコラボレーションの成果と言えるような演奏。芳垣さんも、ドラム、ジャンベ、コンガ、ダラブッカ、シェケレといったラテンパーカッションを駆使しての異種格闘技。途中でへヴィな8ビートになり、大原のトロンボーンが吠える。そのあとまたカチャーシーというよりチンドンなノリになり、楽しくハッピーに演奏が続き、ラストは突然スペーシーなサウンドに(サン・ラか!)。めちゃくちゃ面白い。9曲目は、大島と芳垣のデュオで、芳垣さんはものすごーくシンプルに叩いている。こういうのをやらせても天下一品。ラストの10曲目はアルバムタイトルにもなっている「今こそ別れ」で、全員による演奏だが、大島保克は三絃のみで歌は歌っていない。三絃のとつとつとした演奏から突然、全員によるファンファーレ的な演奏になる。ああ、祝祭日! というわけで、もう大傑作でしょう、どう考えても。まあ、私の場合、個人的な感慨というか、海辺の岩のまえで赤いジャケットを着た大原さんが真ん中でトロンボーンを持ってこちらを見ている写真だけでちょっと冷静な評価はできない感じではありますが……。