yoshinori okuno

「赤い月」(BANSHOKAN RECORD BANSHO−001)
奥野義典カルテット

 北海道を中心に活躍するサックス奏者奥野義典の3枚目のリーダー作。奥野というひとはこないだ「アガルタ通信」というバンドでのライヴ演奏をCD−Rで聴いたのがはじめてだったのだが、このアルバムもすごくよかった。スタジオ作ということで、「アガルタ通信」ほどのフリーキーな爆発はないが、すばらしい作曲と丁寧なソロが楽しめる。メンバーもすばらしくて、先日リーダー作を出したピアノの石田幹雄や今度高瀬アキ〜SILKE EBERHARD(このひとが女性だというのを先日はじめて知ってびっくりした)の国内ツアーに参加するベースの瀬尾高志(アガルタ通信のベーシストでもある)など強力なリズムセクションである。なんといってもリーダーの奥野は音がいいので、聴いていてほれぼれするし、その音色のよさをうまく聴かせるアドリブなので心地よい。ライヴではもっと暴れてくれるのは「アガルタ通信」で確認済みだが、こういったきっちりした作りのアルバムも良い。でも、ときおりギャオーッと叫ぶときにゾクッとする。こういうひとがいるんだなあ。アケタの店のでのライブ盤も、ぜひ聴いてみたい。先日ピットインに行ったとき、その翌日がこのグループ(たぶんメンバーも同じ)の出演で、もう一日東京滞在を延ばそうかとかなり悩んだが、あれは聴いておくべきだった。残念。

「LIVE IN AKETA」(ACT CORPORATION TK SESSION TSCA−2)
奥野義典スペシャル

 東京で毎夜行われている数々の熱いライヴのうちのヒトコマをざくりと切り取ったような作品。じつはそういうアルバムはほかにもたくさん出ているが、いずれも大きなセールスをあげることもないけれど、一部のファンによってしっかり聴き継がれている……どれもこれも愛着のわくアルバムばかりである。そんな作品を応援せずになにを応援するのか。さて、こないだ「アガルタ通信2008」というグループにゲストで加わったライヴアルバム(私家盤)を聴き、すっかり演奏に感心した奥野義典だが、そのあと「赤い月」という最新アルバムを聴いてその作曲も含めてファンになった。だから、このアケタで収録したライヴアルバムは聴くのをめちゃめちゃ楽しみにしていたのである。聴いてみると、アルトの音が今とはちがっているように思えた(このアルバムではアルトオンリーでブロウしている)。つまり、こないだ聴いた二枚のほうがはるかにぶっとい、芯のある、ほれぼれするようないい音にきこえる。本作でも決して悪い音ではないが、やや細い。この10年のあいだにこのひとが音色の点でもどんどん進歩を遂げたということなのだと思う(もちろん録音のせいかもしれない。でも、「アガルタ通信2008」はおそらくそれほどちゃんとした録音ではないと思うが、それでももの凄い音してるからなあ、このひと)。曲はどれもよく、「赤い月」でも開花している作曲能力がこでも発揮されている。「アイ・ガット・リズム」や即興系の曲も入っているが、どの曲でも楽しげにブロウしていて、聴いていて心地よい。客の声というか煽る叫びがうるさいが、そういうのも含めていかにもアケタでのライヴっぽくてよい。メンバーはピアノレス、ギター入りカルテットだが、なぜか全員、名前を知っているひとたちで、それはつまり札幌界隈のレポートにはかならずといっていいほど名前がでてくるひとたち、ようするに札幌のジャズシーンを支えている現役バリバリのミュージシャンたち、ということなのだろう。これからも嘘偽りなく愛聴させていただきます、はい。