oluyemi thomas

「THE POWER OF LIGHT」(NOT TWO RECORDS MW787−2)
OLUYEMI THOMAS & HENRY GRIMES

 ヘンリー・グライムズの来日時の物販コーナーでなにげなーく買ったデュオアルバムだが、このオルイェミ・トーマス(と発音するのではないと思うが、どう読むのかわからん)という白髭のジジイのバスクラリネット奏者のジャケット写真(と名前)が、あまりにいかがわしい感じなので、まあ、どうせたいしたものではないだろうが、買ってみようと思ったのである。ずっと「積ん聴く」コーナーに積んであったのをこないだはじめて聴いた。ふーん、なるほどね、こんなものか、と思い、とりあえず全曲聴いた。ソプラノやミュゼットなども吹くが、バスクラが主奏楽器のようだなあ、ヘンリー・グライムズはさすがだなあ……などと思いながら寝て、つぎの夜、なにげにもう一度CDプレイヤーのスタートボタンを押すと……いきなりのサウンドにノックアウトされた。昨晩とはまるでちがった印象。なんでや、なんでこんなにかっこええんや……と自問自答したほど。今日の俺の耳がおかしいのか、いや、どう考えてもめちゃめちゃすごい。つまり、きのうの俺の耳が狂っていたのだ……たちまちそういう結論に達したほど、このアルバムは前夜と翌夜で印象が変わった。今は、二晩目の印象のほうが正しいと確信している。いやー、これは(失礼ながら)思わぬ拾いものというか、そんな雰囲気。ヘンリー・グライムズの太くて自由で黒いベース(ある意味、フリージャズベースの理想)をバックに、バスクラや各種リード楽器、パーカッションなどを操るこの、読みにくい名前のおっさんはいったい何者だ。ネットで調べてみたが、いまいちよくわからない。いやはや、凄いひとというのはいくらでもおるもんですなあ……と感激したり自分を恥じたり。とにかくなかなかの好デュオなので、ぜひ一度聴いてみてください。

「INVISIBLE WISDOM」(CHARLES LESTER MUSIC CLM−26−011)
POSITIVE KNOWLEDGE

 正直言って私はよく知らないが、おそらくその道のひとには有名なのであろうバスクラリネット奏者オルイェミ・トーマスと(これもおそらく)その嫁はんであるイジェオマ・トーマス(発音わからんって)によるユニット「ポジティヴ・ナレッジ」のライヴ。このふたりのことは知らんが、ほかのメンバーが凄い。テナーにキッド・ジョーダン、ドラムがマイケル・ウィンバーリー、ベースがハリソン・バンクヘッドだ。ヴィジョン・フェスティバルのライヴらしい。冒頭いきなり奥さんのわけのわからないヴォイスというか語りというか(ジャケットには「スポークン・ワード」と表記されている)が炸裂し、それに絡むようにオルイェミ・トーマスのバスクラが咆哮する。そして、キッド・ジョーダンのテナーが登場するが、やはり、ジョーダンはこういう演奏に離れしているというか、リラックスしたいいソロをする。全体にリズムは細かいフリーリズム。どの曲もだいたい似たような構造で、「しゃべり」が最初にあって、あとは混沌としたコレクティヴインプロヴィゼイション。これを、ジャケ写にあるような長い顎髭の、派手な民族衣装を着たジジイ(オルイェミ・トーマス)や白髪の好々爺(キッド・ジョーダン)らが必死に真剣にブロウしているのだと思うとなんだか微笑ましい。バンクヘッドのベースはいまいちよく聞こえないが、全体を支える役割をしているようで、あまり前面には出てこない。マイケル・ウィンバーリーのドラムはさすがの迫力。でも、とにかく熱気あふれるぐしゃぐしゃの演奏なので、個々に分けて鑑賞するという感じではない。オルイェミ・トーマスはCメロやミュゼットも吹いているらしいが、聞き分けるのはむずかしい。ところどころソロスペースもあるのだが、すぐにだれかがちょっかいを出して、混沌と化す。そういうところが面白いのである。6曲目でヴィジョンフェスのライヴ録音は終了で、7〜9曲目はオークランドのスタジオ録音のようだ。7曲目は、ほぼ、イジェオマ・トーマスのひとり語り(ときどき銅鑼が鳴る)。内容は、これだけ歌詞が載ってるのでわかるのだが、まあ「詩」です。私にはもひとつピンとこない詩なのだが、その良し悪しはわかりません……と書いておこうっと。8曲目はトーキングドラムのソロ。これがちゃんと「トーキング」になっているのかどうかは、アフリカンパーカッションの専門家にきかないとわかりません。9曲目はバスクラの無伴奏ソロ。これが一番味わいがあって良かった。というわけで、ジャケットにはそうは書いていないが、7〜9曲目の3曲は、夫婦だけの録音でありました。変なアルバムだなー。