「GIANTS OF THE BLUES AND FUNK TENOR SAX」(PRESTIGE 3PCD2302−2)
アナログでは、「GIANTS OF THE BLUES TENOR SAX」という2枚組と「GIANTS OF THE FUNK TENOR SAX」という1枚組で出ていたアンソロジーをカップリングして、3枚組のCDにしたもの。プレスティッジのブローテナー系のおいしい演奏が結集している感じで、お宝である。とくにすぐれているのは、イリノイ・ジャケーがビッグバンドをバックに吹きまくる「ソウル・エクスプロージョン」、スタンリー・タレンタインがこれまたビッグバンドをバックに吹きまくる「ウォーキン」(ただし、サビつき)あたりか。でも、ほかの曲もどれもよくて、バディ・テイト、ジミー・フォレスト、コールマン・ホーキンス、アーネット・コブ、エディ・ロックジョウ・デイヴィス、ハル・シンガー、アル・シアーズ、イリノイ・ジャケー、キング・カーティス、ジーン・アモンズ、ソニー・スティット、ラスティ・ブライアント、ウィリス・ジャクスン、ヒューストン・パーソン、スタンリー・タレンタイン……と収録されているテナーマンの名を列記するだけでもよだれたらたら。ジャズ系ホンカーの好きなひとには、プレスティッジならこれ一枚(というか3枚)をおすすめしたい。詳細なライナーも◎。
「MT.FUJI JAZZ FESTIVAL 10TH ANNIVERSARY ALBUM」(東芝EMI TOCJ−5963)
こんなアルバムが出ていることは知らなかった。マウントフジジャズフェスティバルには2回か3回行ったと思う。何をおいても参加したい、と思わせるようなラインナップなので、自然と「どうしても行きたい」と思ってしまう。そんなジャズフェスがかつてはあったのですね。一時のライヴ・アンダーもそうだった。ああ、今そんなジャズフェスはどこにもない。そのマウントフジを代表するバンドが、このアダムス〜ピューレングループで、彼らの象徴ともいえる曲がここにおさめられている「ソング・フロム・ジ・オールド・カントリー」だ。しかし、この曲のおさめられているアルバムは、アルト奏者のチャールズ・ウィリアムズのレコードとか、デヴィッド・マレイのアルバムとかで、どちらもマウントフジでのあの曲調とはかなりちがう。しかも、アダムス〜ピューレン自身の演奏がおさめられているアルバムでは、アダムスにとって初演だったのか、なぜかテーマのイントロをずっと1オクターブ下で吹いていて、さまになってないし、ソロも爆発していない。だから、この曲の究極のバージョンはマウントフジでのライブなわけだが、それがこのコンピレーションに入っているのだ。しかも一曲目……ということはやはりこのグループのこの曲こそが、マウントフジを象徴するものだったのだ……と思って聴いてみると、なんと、このアルバム、マウントフジにゆかりの曲を個々のアルバムから集めただけのコンピレーションではないか! しばし呆然。だってジャケットにも裏ジャケットにもなーんにも書いていないんだもん。これは騙しである。それぞれの演奏はすばらしいが、単なる寄せ集めじゃなあ……。どうしてちゃんとフェスティバルのライヴを集めることができなかったのか。アホちゃう? なんの意味があるのかさっぱりわからないアルバムだ。
「BLUES 1927−1946」(BMG VICTOR BVCP−8733〜34)
中村とうよう・日暮泰文・鈴木啓志
ようするに「RCAブルースの古典」である。オリジナルのレコードは、あるひとに聴かせてもらったことはあるのだが、テープも持っていなかったので、CDになったのを機会に購入したのである。私はブルースマニアではないので、こういうコンピレーションというかオムニバスというかアンソロジーというか……そういったものは(ブルースに関しては)大歓迎なのである。この2枚組は、ほんとよく聴いてるなあ。流し聴きをすることもあるし、真剣に聴くこともある。私は、いわゆるモダンブルースは苦手で、こういった戦前ブルースのほうが好きだ。といって、知識があるわけでもなく、だらだら聴いているだけだ。このアルバムは、私のような聴き手にとって、戦前ブルースの宝石だけが収録されているわけで、ほんとありがたい。どのトラックもすばらしいが、このアルバムをしつこくしつこく聴いているだけで、ときどきモダンブルースのアルバムをなにげに聴いているとき、あれ? この曲知ってるで……と思うときがある。それはこのアルバムに収められている曲がブルースの原点ばかりだからだろう。ジャグバンドは、やや苦手なので、二枚目を聴くことが多いが、どれもこれも珠玉です。というか、私にはそんなことを判断する知識もなにもないが、戦前ブルースの空気が好きなんだろうと自分では思う。こういう音楽を「かっこいい」というべきです。
「GUMBO YA−YA」(P−VINE SPECIAL PLP−313/314)
NEW ORLEANS R&B HIT PARADE
ニューオリンズ系の音楽、という漠然としたくくりで、私がはじめて認識したのは、このアルバムを含むP−VINEの一連のシリーズで、なかでもこの二枚組LPは、ニューオリンズというガンボ的ごった煮音楽の多様性を教えてくれた。当時は、ニューオリンズの美味しいところ、有名どころ、ヒットチューンだけを収録したようなアンソロジーだと思っていたが、今にして思えば、まったくの無名人も入っているし、けっして粒ぞろいのアルバムではない。しかし、有名人による有名曲はもちろんのこと、無名人による演奏もが、濃い濃いニューオリンズ色にしっかりと煮染められているのがよいではないか。このアルバムをきっかけに、それぞれの収録アーティストのフルアルバムを探すようになったのだから、私にとって本作はじつに大きな役割を果たしてくれたとおもう。リー・ドーシー「ヤ・ヤ」、ジェシー・ヒル「ウー・プー・パー・ドゥー」、アーニー・K・ドゥ「マザ・イン・ロー」、ロバート・パーカー「ベア・フッティン」……とかそういう有名曲を、これで覚えたのです。
「SIMPLY NEW ORLEANS」(UNION SQUARE MUSIC SIMPLYCD233)
2 CDS OF ESSENTIAL SOUL,FUNK AND R&B FROM NEW ORLEANS
二枚組の廉価盤でいろいろな音楽をとりあげる「シンプリー」シリーズのニューオリンズ編。非常ににお買い得である。アラン・トゥーサン、ネヴィル・ブラザーズ、ディキシー・カップス、ミーターズ、リー・ドーシー、ロバート・パーカー、アーマ・トーマス、ドクター・ジョン、エディー・ボー、ファッツ・ドミノ、アーニー・K・ドゥ……と有名どころがずらり。曲も、大ヒット曲あり、そうでもない曲もありで楽しめる。二枚を聴きとおすと、頭のなかがガンボになります。正直いって、私の場合、フリージャズをひたすら聴いて、たまに疲れたときにニューオリンズ系のこういうやつとか沖縄とか民族音楽とか戦前ブルースとかを聴く……という程度のファンなので、こういうコンピレーションはとてもうれしいのです。
「FUNKY GUMBO」(P−VINE PCD−93000)
THE SOUND OF NEW ORLEANS
Pヴァインから出たニューオリンズ音楽のディスクガイドとの連動企画。ACE原盤が中心なので、なかなか有名どころがばっちり押さえられている。冒頭、ヒューイ・ピアノ・スミスの「ロッキン・フューモニア……」ではじまり、リー・ドーシーの「ド・レ・ミ」で爆発、ボビー・マーチャンの「チキン・ワー・ワー」(誰だかわからんが、アーシーなテナーソロがよい)に到り、ベニー・スペルマンの「ロール・オン」で愉しさ最高潮! というもっていきかたは見事。ほかにも、アール・キング「ゾーズ・ロンリー・ロンリー・ナイト」(なんべん聴いてもこのギターソロはグダグダ)やマック・レベナック(ドクター・ジョン)「ストーム・ワーニン」(インストだが、まだ10代!)、アルヴィン・レッド・タイラーのテナーインスト、ビッグ・ボーイ・マイルズの「ニューオリンズ」など佳曲目白押し。例によって、無名人もいるが、それらも含めて、どっぷりとニューオリンズの「空気」に浸れることまちがいなしのコンピレーション。ザ・ブルー・ドッツというコーラスグループの「サタデイ・ナイト・フィッシュ・フライ」は、ルイ・ジョーダンのものが原曲とは思えないほど徹底的にワイルドにシャウトしまくっていて、びっくりです。
「FOLK SONGS」(MEMBRAN MUSIC 231052)
ある編集者としゃべっていて、突然、アメリカン・フォークに興味がわき、ガイドブックを読んだりしたのだが、どれがいいのかわからず、とりあえず格安で総括的な(と思われる)本ボックスを買ってみた。10枚組で一枚につき1アーティストという構成で、収録アーティストは、PETE SEEGER、PETER,PAUL AND MARY、BURL IVES、THE ALMANAC SINGERS、HARRY BELAFONTE、PAUL ROBESON、WOODY GUTHRIE、THE WEAVERS、GLEN CAMPBELL、KINGSTON TRIOの10組。驚くべきことに、私は、ピート・シーガーもピーター・ポール・アンド・マリーもウディ・ガスリーもこのボックスではじめて聞いたのだった(唯一、聴いたことがあるのはハリー・ベラフォンテだが、このひとってフォークのひとだったのか)。と、まあ、かなりの期待をこめてわくわくしながら聴いたこのボックスだが、結局は「うーん……ええんやけどな……」ということで終わってしまった。私にはやはりフォークは無理みたいです。もちろん、どのミュージシャンも、ものすごくよくて、おー、ええやん、かっこええやん、おもろいやん、という瞬間は一杯あるのだが、だからといってこの音楽にのめりこむかというと即座にかぶりを振るであろう自分が見えるのである。いちばんグッときたのはウディ・ガスリーだが、これも先に自伝的なものを知っているための先入観かもしれないので、なんとも言えない。調べてみると、いわゆる「代表作」とか「ヒット曲」というのはあまり収録されていないようなので(レーベルの性質上しかたがない)、このボックスをもって、わしにはフォークは合わんと断言するのは早すぎるかもしれないが、とりあえず現段階の印象では、そういうことです。
「OKEH JAZZ」(EPIC RECORDS EG37315)
知ってるひとは当然知ってるが、知らないひとは知らないであろうオーケーというレーベルの膨大なカタログから、ジャズっぽいものを集めたオムニバス二枚組レコード。わが家の宝であります。このアルバムがあるから、いつまでもいつまでもレコードプレイヤーをしまえないのです。それぐらい好きで好きで大好きで死ぬほど好きで惚れ込んでいるアルバム。オムニバスにそこまで惚れこむか? といわれると、自分でも、うーん……と思うし、しかも、二枚組のうち、聴くのはほぼ95パーセント1枚目だけなのだが、とにかく好きなのだ。このアルバムのほかに「オーケー・ブルース」とかたしか4種類ぐらい出たと思うが、そんなものはどうでもいい。「オーケー・ジャズ」ですよ! というわけで、なぜこのオムニバスがそれほど気に入ってるのかを書きたい。オーケーというのは、マミー・スミスのブルースなどで有名になったレーベルで、いわゆる「レイス・レコード」を中心にしたレーベルで、黒人音楽史的にはきっと重要なのだろうなあと思うが、ここに収められている演奏はどれも芸術とかそういうものではなく、大衆娯楽路線まっしぐらのエンターテインメント作品ばかり。すがすがしいぐらい。まず、学生時代にこのアルバムを三宮の輸入盤屋で見つけて即座に購入したわけは、A面いっぱいをしめるアーネット・コブの録音。いわゆるスモールビッグバンドで、自身のテナーと、あとトランペット、トロンボーン、バリトンの4管編成。このころはビッグバンド風のアレンジによるコンボが多かった。おそらくそういうサウンドは欲しいのだが、金銭的に無理なので……ということだと思う。ビッグバンドのフィーチュアリングソロイストとして有名になったテナーマンたち、たとえばジャケー(アポロ・セッションその他)もバディ・テイト(セレブリティ・クラブ・オーケストラ)もみんなリトルビッグバンドで自身のテナーをフィーチュアしたバンドをやっている。客はどうせスタープレイヤーのソロだけが目当てだし、しかもゴージャスな踊れるバンドである必要性からの選択だと思う。コブもアポロセッションとか何度もこういう編成を試みているが、本作でのそれが一番成功していると思う。1曲目のおなじみ「スムース・セイリン」から名演ばかり。コブも若くていきいきしているし、バラードはバラードらしく、ジャンプナンバーでは熱いブロウを繰り広げ、しかも、バンドはタイトだし、アレンジはいいし、言うことありません。そのうえ、曲がええんです。「スムース・セイリン」は言うまでもなく、「ウォーキン・ホーム」「ジャンピン・ザ・ブルース」「イン・ザ・ムード・フォー・ラヴ」「ザ・シャイ・ワン」など耳に残る曲ばっか。そして、メンバーも良くて、たとえばトロンボーンにブーティー・ウッド、ディッキー・ウェルズ、トランペットにエド・ハリス、バリトンにジョニー・グリフィン(!)など、錚々たるメンバーである。これはコブ好きならずともぜひ聴いてほしいが、本作には8曲しか入っていない。あと2曲ぐらいだったっけ、入ってる完全盤は昔、なんとかいうレーベルで出ていた「ジャンピン・ザ・ブルース」というアルバムです。そしてB面に行くと、これがまた凄い。コブのバンドでバリサクを吹いていたグリフィンのリーダー録音4曲なのだが、なんとボーカルがバブス・ゴンザレスだ。昔グリフィンのビデオが出てて、ロニー・マシューズがピアノのやつね、あれで、つぎの曲はゴンジの作曲です、というと客が歓声を上げたので、「おっ、おまえはゴンジを知ってるのか。バブス・ゴンザレスのことだ」というようなやりとりがあったように記憶している。バブス・ゴンザレスが入ってるのは1曲目の「フォー・ダンサーズ・オンリー」(これもめっちゃええ)と2曲目の「フライング・ホーム」だけだが、この2曲目はジャケーのハンプトンオーケストラでの超有名なソロをボーカリーズしたもので、テナー吹きならだれでも知ってるソロだ。それにヒップな歌詞をつけて歌いまくるバブスとそれに呼応して吹きまくるグリフィン。かっこいいねー。ちなみにバブス・ゴンザレスはちょっと歌詞を変えて、ベニー・グリーンの「マイナー・リベレイション」(45セッションズ)でも歌ってます。このグリフィンの4曲もめちゃめちゃおもろいのだが、それに輪をかけておもろいのが、つづくレッド・ロドニーの4曲だ。レッド・ロドニーといえばチャーリー・パーカーの相方として有名なバップトランペットだが、ほかの相方(ディジー、マイルス、ハワード・マギーなど)が黒人だったのに対して彼だけが若い白人の兄ちゃんで、差別意識のひどい南部への楽旅などのときは芸名を「アルピノ・レッド」として、本当は黒人なんだということで通したとか、パーカーの悪影響で麻薬でぼろぼろになり、ブランクを経てから復帰したときは絶頂期を過ぎていて……というけっこうな悲惨な人生を歩んでいるミュージシャン、というイメージがあり、このアルバムにおける演奏もさぞかしシリアスで陰影にとんだものであろうと思って聴いてみると……ぎゃーっ、な、なんじゃこりゃーっ!超お気楽でご陽気で、陰影のかけらもない、しかもとてつもなくうまい演奏。脳天気なぶっ飛びボーカルが「アメリカ、アメリカ、シュバオーッ、シュバオーッ!」と叫び、踊り狂う(ような感じ)。トランペットソロは後年の真面目な作品をはるかに凌駕する輝きと迫力、若さに満ち、フレーズも完璧、ハイノートもバリバリで、ある意味、クリフォード・ブラウンのあの初録音の2曲を連想させるような凄いものだが、ボーカルのアホさ加減のせいでほとんど耳に入ってこない。じつは、よく知らないテナーのひとも入ってて、このひとのソロもめちゃめちゃうまいのだ。というわけで、B面のグリフィンとロドニーも凄かったですねー。このまま2枚目も同じようなハイテンションでいくのか、と思ったら、2枚目A面をしめるのは、アーマッド・ジャマル・トリオ。こういうのはほんまようわからん。選曲もスタンダードが多く、スリー・サウンズとかジャマルとか、私にはわからん世界である。最後のB面は、オルガン・トリオのワイルド・ビル・デイヴィスで、ジャマルよりましではあるが、サックスがいないので、あまりピンとこないのです。ベイシーバンドへのアレンジ提供でも名高い「エイプリル・イン・パリス」などもやっていて、なかなかええんですが、サックスがなあ……。ラストは美人歌手アン・マッコールで、これこそ一番興味ないところやろと思うかもしれないが、テナーがデクスター・ゴードンで、これがけっこう良かった。でも、2枚目はやっぱりほとんど聴いてないな。とにかく1枚目はめちゃくちゃおもしろいので、見かけたら是非。なお、ジャケットもそれぞれのプレイヤーの絵で、味わい深い。
「BIG TENORS」(MERCURY BT−5264)
BEN WEBSTER SEXTET/CORKY CORCORAN’S COLLEGIATES/ALBERT AMMONS AND HIS RHYTHM KINGS
ビッグ・テナーというタイトルをすっかり気に入って買ったレコードだが、ジャケットがいいんです。ベン・ウエブスターと思われる巨体の黒人がテナーを吹いている。まさしくビッグ・テナーだよな。A1〜4はベン・ウエブスターセクステットの演奏。1曲目はまずベンが太い音色で悠揚迫らぬゆったりしたソロをし、つづいてメイナード・ファーガソンがハイノートを駆使して吹きまくるが、そのあとベンがもう一度出てきて、今度は濁った音色でさっきとは別人のようなブロウ的なソロを展開する。最初のソロはベニー・カーターがテナーを吹いてるのではないかとさえ思ったほど。どのソロもすばらしい。2曲目はテナーフィーチュアのバラードで、いやはやさすがですね。貫禄と技術力の歌い上げ。アドリブなんかどうでもいい。圧倒的な「テナーのバラード」を聴いた気分になる。3曲目は単純極まりないリフ曲。最初はベンの軽い感じの音色による、技術力と歌心を誇示するような演奏。ラッパソロのあとに出てくるベニー・カーターの短いアルトソロもすばらしい。ほんと、死ぬまで変わらぬハイレベルの演奏をするひとだった。そのあと、ふたたびベンが登場し、今度はゴリゴリした音色でブロウする。そういう趣向なのか(つまり、最初にちゃんとしたテナーソロ、あとで音色を変えてブロウ)。4曲目は、冒頭ファーガソンがハイノートでエキゾチックなイントロを吹き、そのあとベンがサブトーンでささやくようにテーマを歌い上げて、最高の演奏。この曲、ベン・ウエブスターのオリジナルらしいが、作曲力もあるひとなのだ(コットン・テイルとかね)。続いてのA5〜6、B1〜2はコーキー・コーコランのグループ。例のライオネル・ハンプトンの「スター・ダスト」コンサートと同年なので、バリバリの時期のはずだが、同じくスターダストにも参加しているウィリー・スミスはかなりヨレぎみ。しかし、コーコランはええ音で、堂々たる演奏でなかなかの味わい。コーキー・コーコランという名前は、もしかしたらウッドハウスの「それゆけ、ジーヴス」の登場人物名からとったのかな? 全体に、ギターが活躍しており、コーコランは4曲目の「ララバイ・オブ・ザ・リーヴス」が一番本領発揮しているかも。B3〜6はブギウギピアノのアルバート・アモンズグループ(これだけシカゴ録音。あとの2組はロス録音)だが、ここに収録されたのはひとえに息子であるジーン・アモンズのおかげ。やはりこのなかでは一番バップ的な空気(とブロウテナー的な感覚)が強い。3人並べてみると、アモンズの吹き方が一番ストレートだ(若いしね)。(このグループの)2曲目はアルバート・アモンズお得意のブギなのだが、息子のテナーが大爆発しており、よくこのひとがスティットとバトルするまでになったなあと思うほどにタフでホンカーで、しかもバップでした。最高! 3曲目でもアモンズは感動的なほどに真っ直ぐな吹きっぷりで我々を熱くしてくれる。ラストの4曲目は「ヒロシマ」というタイトルで、アルバート・アモンズのオリジナル。1947年録音という時期的なことも考えると原爆のことをテーマにしたバラードか、と思ったら、ハッピーでにぎやかなダンサブルな演奏でした。
「5 BIRDS AND A MONK」(GALAXY/VICTOR ENTERTAINMENT vICJ−60134)
私が学生のころに出た二枚組日本制作の企画もの「バーズ・アンド・バラッズ」というアルバムがあり、1枚目はチャーリー・パーカーの曲(1曲だけモンクの曲あり)を5人のテナー奏者(とひとりのアルト)が演奏し、二枚目はバラードをやる、という趣向だった。二枚組で高かったのだが先輩が購入し、我々はそれをカセットテープに入れていただいた。そして、そのテープは今でも持っているのだ。というのは、以前CD化されたときは全10曲中、2曲がカットされた形だったから買わなかったからだ。そして、今聴いているこのCDはそのあと、バラード部分を全カットしてた形で再編集されたもので、こちらのほうがまあ、いいといえばいい。なぜならカットされた曲というのがジョー・ヘンダーソンの「リラクシン・アット・カマリロ」で、これをカットする意味がわからん。というわけで、なんで最初の形でCDにしないのかなあと思いつつも、どうしてもまた聴きたくなったので、今回の形のものを買ったというわけです。内容はもちろん何十回もテープで聴いたものなので、その良さはよーく分かっている。バックはスタンリー・カウエル、セシル・マクビー(とジョン・ハード)、ロイ・ヘインズという強力なトリオが務める。あとは、テナー奏者たちの出来次第だが、1曲目のグリフィンの「ビリーズ・バウンス」はテーマの吹き方がかっこよくてもう最高なのです(ソロは水準)。そして2曲目の「ラウンド・ミッドナイト」は本作の白眉といっていい凄まじいもので、バックは普通に演奏しているのだが、主役のジョン・クレマーはこのバラードをまるで超アップテンポの曲のごとく、ものすごい速さで吹いて吹いて吹きまくることによって、全体として新たなバラードを創出している。クレマーはいろいろアルバムがあるが「ネクサス」とこの「ラウンド・ミッドナイト」がいちばん好き。今聴き直してもこの演奏は凄まじいとしか言いようがない。ある意味、フリージャズのようにモンクの曲をばらばらに解体して再構築している。とてつもないエネルギーの奔流である。最後の延々と続くカデンツァも含めて、「音数の多さ」によって表現されるものもあるのだ、と思い知らされる。3曲目はジョー・ファレルの「コンファメイション」。ファレルというひとはいまひとつ好みではない、ということをファレルの項でさんざん書いたと思うが、この演奏は好きだった。テーマの吹き方がいいんですよねー。テナーの中音域、低音域を使ってパーカーナンバーのテーマを吹くと、新しい魅力が発見されるのだ。本作に収められた曲ではグリフィンの「ビリーズ・バウンス」、ジョー・ヘンダーソンの「リラクシン・アット・カマリロ」、そしてこの曲でのファレルの演奏にそれを思う。ほかにはたとえばワーデル・グレイの「ドナ・リー」とかジーン・アモンズの「スクラップル・フロム・ジ・アップル」とかいろいろだが、私がこの企画物のオムニバスアルバムをずっと好きなのは、「テナー奏者がパーカーの曲のテーマをどう吹いているか」を学んだためだと思う。ファレルの演奏は、ソロ部分も超快調ですばらしいのです。聴き惚れます。あと、テーマまえのリフは、おなじみのアレではなく、別のやつだが(文章では書けない)、これもすごくいいリフなのだ。私はいつも、サックスを練習するときこのファレルのリフをなぜか吹いてしまうのです。ビバップのコードの動きがよくわかるリフです)。4曲目は当時日本制作のアルバムが多かったアート・ペッパーで、曲は「ヤードバード組曲」。ペッパーは、この曲のテーマを大事そうに吹きあげる。この当時は「アート・ペッパーは復帰前と復帰後のどっちがよいか」というアホみたいな議論が盛んで、私のような学生にもその議論の最低なことはわかったほどだったが(個人的には、初期の凄まじいアドリブの奔流や歌心は大好きだが、復帰後の演奏はまるでレスター・ボウイのように「人間」がそのまま出ているように思えて大好きです。つまりどちらも好き。だいたい、ひとりの人間で、一続きの人生なのだから、ふたつに分けて、どっちがいいとか言うのは愚の骨頂)、ここでの演奏はたぶん「復帰前がいい」派のひとでも納得するであろう、逸脱や破綻のない、かっちりした演奏だ。その分、物足りないような気もするが、強面テナー奏者がずらりと並んだこのアルバムにおける一服の清涼剤という感じのすがすがしい演奏である。なお、このCDのライナーにおけるこの曲についての文章は、なんのことかさっぱりわからない。雰囲気だけで書いているのだと思うが、「(アート・ペッパーの)アルトプレイはまったくパーカー的でないものの、アドリブにすべてのエネルギーをぶつける姿勢は彼と同様だった」と、ここまではわかるが、そのつぎの「パーカーが書いた流麗なラインを持つこの曲は、したがってペッパーにとっても吹き易いものだったのだろう」という理屈がまるでわかりません。つぎのジョー・ヘンダーソンの「リラクシン・アット・カマリロ」はリラクシンどころかかなりのアップテンポでジョー・ヘンダーソン自身も気合いが入りまくっている。この、ただのブルースではあるのだが相当ややこしいリズムの切り方をしたテーマをこの速さで吹くだけでも失敗しそう。ソロも、押し流すような迫力のあるフレージングの連発で、ほかのプレイヤーが、企画意図を汲んでか、バップの範疇に収まるような演奏(もちろんジョン・クレマーは別。あのひとはクレイジーだ)なのに、ヘンダーソンはさすがにバップから逸脱した自分の歌を歌っていて見事。ラストはハロルド・ランドの「ブルームディド」。このころのランドはコルトレーン影響受けまくり時代で、私は生で見て以来、あまり好きではないのだが、この演奏でも、ややハードバップ的フレーズとやや新しめのフレーズを併存させて、しかも、それをだらだら垂れ流すように平坦に吹き続けるというこの当時の典型的なスタイルでの演奏。ラストなんだから、ちょっと配列的にどうかなーと思ったりした。
「GENE NORMAN PRESENTS JUST JAZZ CONCERTS」(KING RECORDS K18P6259〜61)
野口久光さんによる参加ミュージシャンの似顔絵のジャケットで有名な、ジャスト・ジャズ・コンサートのLP三枚組。CD時代以降は、いろいろなところで聴ける音源だが、当時、こうして三枚組として集大成された意義は大きかった。5400円と学生の身には高かったが、ソニー・クリスとワーデル・グレイにはまっていた私にはマストアイテムで、思い切って購入。録音のせいで音はそれほどよくはないが(とくにドラム)、なにしろ貴重な内容だし、演奏もすばらしいものが多いし、なによりドキュメントなので、十分だと思う。A面1曲目はレスター・ヤングの名演で有名な「ジャスト・ユー・ジャスト・ミー」だが、「ジャスト・ジャズ・コンサート」という名前に引っかけてか、この曲が演奏される率が高いようだ。この3枚組でも、なんと3回も別々のメンバーによって演奏されている。けっこう荒っぽいテナーを吹いてるのはチャーリー・ヴェンチュラ。ヴィック・ディッケンソンのトロンボーンソロがやたら長い。ギターはアーヴィン・アシュビー(ええソロ)。ベニー・カーターの流麗で洒脱なソロ。トランペットはチャック・ピーターソンというひと。だれやねん。このひともかなり荒っぽいなあ。というような感じでスウィング〜中間派の大物が揃うなかで、ドド・マーマローサが若手バッパーとして参加しているが、ソロ自体はほかのメンバーに合わせたようなスウィングスタイルのものである。でも、すごくええソロです(一番いいかも)。2曲目は、「パーディド」。ディッケンソンが先発ソロ。つづくヴェンチュラのテナーソロは、ほとんどがリフを並べたような感じで、やっぱり荒いなあ。いかにもジャムセッションを盛り上げようという主旨のソロだが長いわ。ピアノソロもいかにもスウィング的で、マーマローサというひとの出自(?)というか素養がよくわかる。ギターソロとアルトソロのあとフェイドアウトっぽく終わる。B面になって、ハワード・マギーがリーダーのビバップセットに。1曲目は「グルーヴィン・ハイ」で、先発はワーデル・グレイ。たいがい先発ソロをつとめるのはこのひとなのだ。くつろいだなかにも、バップ的な音使いを流麗にキメまくるフレージングで、がっちりココロを捕らえる。そうなのです、私はワーデル・グレイが大好きなのです。このソロなど、全部コピーしたらさぞ勉強になるであろう(やらないけど)。しかも、簡単そうで吹いてみるとむずかしいのがグレイのソロなのである。つづくソニー・クリスもめちゃめちゃ好きな私だが、やはりグレイのほうが凄いかも。グレイとクリスは楽器はちがえど、ほぼ同じようなタイプのソロイストだと思う。パーカーから影響を受けているものの、パーカーのような奔放さ(はじめるべきところからはじめず、終わるべきところで終わらない、とか)はなく、きっちり譜面に起こせるようなソロをするが、その歌心は抜群であり、テクニックもすごいし、なにより音色がジャストフィットなのです。ちなみに大和明氏の解説に、「野性的で狂おしいまでの激情を感じさせる奔放で鋭い、直情的なクリスのプレイはジャムセッションでこそその真価が発揮される」と書かれているが、それはクリスの初期の演奏についてのみいえることであって、プレスティッジやザナドゥ、ミューズなどでの陰影のあるすばらしい演奏のことはどうなるのかと思う。そもそも「野性的で狂おしいまでの激情を感じさせる奔放で鋭い、直情的な」という長い修飾語は、ほとんど同じことを言い換えているにすぎないと思います。さて、ハワード・マギーも絶好調で、ハイノートを駆使してバップフレーズを吹きまくる。このままなにごともなかったら、さぞグレイトなトランペッターになっていただろうと思う。そういえば、グレイ、クリス、マギーのこのすごいフロントは、皆、このあと、不幸になっていったわけで、それを思うと心が痛む。でも、演奏はすごいのよマジで。2曲目「ビバップ」は、パーカーの「ラヴァーマン」セッションでも有名だが、そういえばあのときのラッパもマギーだったのだ。ここではグレイのソロが圧巻で、フレーズがつぎからつぎから押し寄せてくるような感じだ。バップのテナーのお手本のような美味しいフレーズがずらりと並ぶすばらしいソロ。しかも、グレイはリズムがいいのだ。軽く乗っているようで、めちゃくちゃかっこいい。マギーのソロも高値安定で、高音部のフレージングやリズムなど、当時としてはなかなか真似できないレベルだったろう。クリスも、しょっぱなから吹きまくり、高いテンションを維持したすごいソロをして、「張り合ってる」感じだ。そのあと4バースになるが、この部分よりも、それぞれのロングソロの部分で競っている雰囲気が感じられる。3曲目は「ホット・ハウス」で、これもグレイが先発。グレイのソロを聴くと、なるほどこの曲はテナーだとこう吹けばいいのか、ということがいろいろと教えられる。(ものすごーく良い意味で)お手本になる演奏なのだ。マギーとクリスのソロもいい。私はたぶん、アルトを吹いてたころ、ソニー・クリスの大ファンで、彼の演奏を聴きたくて、ワーデル・グレイのメモリアル・アルバムなどを学生時代に熟聴して、そのうちにグレイのテナーが好きになって、テナーに転向した……という部分もあるのです。そのあとピアノが短いソロをして、終わり。4曲目は、一転してエロール・ガーナーの「ラヴァー」。豪快な、かなりアクの強いピアノだと思うが、ダイナミクスがすごくて、つい聴き惚れてしまう。アシュビーのギターの四つ切りがなんともかっちょいい。2枚目のA面1曲目は、エロール・ガーナー一派とワーデル・グレイの組み合わせのワンホーンだが、グレイはベイシーやグッドマンオケにもいたことがあるぐらいだから、なんでもできるのだが、見事に融合……というわけにはいかず、どっちのサイドにしても、ちょっと違和感のある演奏かも。やはりこれはガーナー側が主導権を握っている曲でしょう。グレイはわざと音を外したフレージングをして、モダンさを強調しているようにも聞こえる。もっと歌えるひとなのだが、バッパーとしての意地か?(考えすぎか)。解説の大和明氏によると「グレイの代表的名演」だそうだが、うーん、そうなのか。2曲目は「ワン・オクロック・ジャンプ」で、これはスウィング派とバップ組混合メンバー。といっても、バップ組はグレイとマギーだけ。4つ切りのギターが利いているスウィングスタイルのリズムである。ここでもやはり先発はグレイで、セッション全体の質を上げることに貢献している。先発ソロがこのレベルだと、つぎのひともよほどがんばらないといけませんからね。超ロングソロだが、だれないのはすごい。マギーのソロも途中からハイノート中心になり、大向こうウケする演奏になるのは、リズムセクションに合わせたのか。ガーナーのピアノソロになると、がぜん全体がしっくりしはじめる。ディッケンソンのソロやベニー・カーターのソロも、すごく馴染んでおり、リズムセクションもいきいきしてくるように思う。B面に行くと、ナット・キング・コール、オスカー・ムーア、レッド・ノーボ、ジョニー・ミラー、ルイ・ベルソンというゴージャスなスウィングオールスターズ的リズムセクションに、チャールズ・シェイヴァース、ウィリー・スミスというこれまたスウィングど真ん中のホーンという組み合わせなのだが、そこに若き日のスタン・ゲッツが加わっている。ウィリー・スミスのソロというのは、スウィング3大アルトのなかでは、テクニカルで理知的なフレージングで組み立てられているように思われる。このときは調子もよかったのだろう(速いテンポだと、かなりダレるが)。シェイヴァースはユーモアあふれる、といえば聞こえはいいが、大向こうウケするソロで、良くも悪くもオールスタージャムセッションはこう吹けばいいんだよ的な感じのソロに終始している(もちろん盛り上がる)。そんななかで、ゲッツはさすがに音使いも新しいし、歌心もあるし、リズムへのノリもモダンだし、たいしたものである。レッド・ノーボのヴィブラホンもなかなかです。3枚目に行くと、A面はハワード・マギー、ワーデル・グレイ、ヴィド・ムッソという3管で、ソロイストのなかではグレイがダントツにすばらしい。フレーズの澱みのなさ、軽いがじつは激しくスウィングするノリ、あふれる歌心、ちょっとしたホンクに見せる黒人的な感覚など、どこをとっても最高である。しかも、ライヴなので随所に荒い吹き方が見受けられ、そこもまた魅力なのだからしようがない。マギーも、ガレスピー的な高音でのパッセージを破綻なく吹きまくっており、すごいとしか言いようがない。ヴィド・ムッソのテナーは音色が独特で、録音のせいもあるのかもしれないが、非常にエッジが立っていて金属的に聞こえる。ソロは完全にスウィングスタイルで、豪快といえば豪快、大味といえば大味。気合い優先の演奏で、クールにむずかしいフレーズを流暢に決めまくるグレイとは、水と油。どっちがいいかは好みの問題だが、とにかく私はグレイの、低音から高音までを駆使した、一聴簡単そうだが、じつは超むずかしい、歌心にあふれた演奏の大ファンなのであります。正直、ジャストジャズコンサートはグレイによって支えられていたコンサートという気もする。グレイの先発ソロに外れはない。B面は、ピート・ジョンソンのブギウギピアノ(バーニー・ケッセルらが伴奏している)か4曲、エロール・ガーナーのカルテットが1曲、ジミー・ウィザースプーンのブルースが4曲(自分のバンドを従えている)という、ちょっと変わったセット。ウィザースプーンバンドのアルト奏者(ドナルド・ヒル)は線は細いがなかなかええソロをする。
「DROP DOWN MAMA」(CHESS/BLUES INTERACTIONS PLP−807)
シカゴブルースのなかにある古くていなたいドロドロの部分がこのオムニバスにぎゅうぎゅうに詰まっている。聴いていると涎が落ちそうになるぐらい美味しい演奏ばかり。学生のころに買ったのだか、ほぼA面ばかり聴いていて、B面はあんまり聴いてない。今回久しぶりにB面を聴いてみたが、やっぱりいいですねー。でも、A面の「アナ・リー」とか「スイート・ブラック・エンジェル」とか「ドロップ・ダウン・ママ」とか……もう歌い出しのフレーズとかが声や楽器の音も含めて全部頭のなかで再現されるぐらいで、よく聞きこんでるなあと自分でも感心する。マディやウルフやサニーボーイ……といったひとたちのほかにこんなに個性的で豊饒な人材がごろごろいた、当時のシカゴは凄い。私はブルースファンではないので、ここからたとえばナイトホークの単独アルバムを買うとか(マックスウェルストリートのやつはちょっと欲しいかも)いう方向にはいかず、ひたすらこのアルバムを聴いているだけなんですが。とにかく、どこを切ってもたっぷりと染みだしてくる黒いブルースの「汁」の濃厚さに呆然とするようなアルバム。噎せ返るようなブルース臭っていうやつですね。
「SHOUTIN’ SWINGIN’ & MAKIN’ LOVE」(CHESS/BLUES INTERACTIONS PLP−829)
チェスには珍しい、ブルースシャウターもののオムニバス。私ごときがぐだぐだ言わなくても、吾妻光良さんのライナーがすべてを言い尽くしているので、買うひとは吾妻さんのライナーがついたP−VINEから出ている日本盤LPを必ず買うように……って無理じゃん。でも、それぐらい充実した、おもしろいライナーなのだ。まずは最初に登場するのが「アンノウン・シンガー」で、ジミー・ラッシングの「ジミーズ・ブルース」を歌っているのだが、これがアンノウンなわりにすごくいい。ジミー・ラッシングとは真逆の、丁寧に歌い上げるタイプだが、かなりの実力。テナーソロは誰だかわからないけどこれも相当うまい。このアンノウン氏は一曲だけで(Bラスにも別テイクで登場)、2番手はまさにそのジミー・ラッシングが登場。堂々たる歌いぶりで貫録を示す。テナーソロがめちゃめちゃよくて、キ○ガイ的な絶叫で頭の血管がぶちぎれるようなソロを展開しているが、これは誰あろうあのフランク・フロアショウ・カリーで、私がブロウの狂人と勝手に名付けている凄まじいホンカー。このひとのソロを聴くだけでも本作を買う価値ありです。そして、これまた大物ジミー・ウィザースプーン。ジャズっぽい選曲だが、これもしみじみしたブルースフィーリングを感じる。テナーソロはハロルド・アシュビーだそうです。B面に行くと、鋼鉄の喉ワイノニー・ハリスの登場である。1曲目の「カムバック」は本作で私が一番好きな演奏である。ジャズファンには「ベイシー・イン・ロンドン」のジョー・ウィリアムスの歌でおなじみだと思うが、それをR&B的な、いや、ほぼファンクといってもいいようなかっこいいアレンジで聴かせてくれる。バリトンの低音でのリフが最高にいいんです。この頃ワイノニーは、キング時代に比べるとかなり落ち目なのだそうだが、私は相当好きですね、この曲。ほかの曲もよくて、ワイノニーファンは絶対聞いたほうがいいと思う。つぎはアル・ヒブラーで、盲目のシンガーである。カークとの共演盤ではけっこうブルースシンガーっぽい感じだったが、ここではビリー・エクスタイン的というか、もっというとシナトラ的な歌いかたでスタンダードを歌う。最後にまたアンノウンさんが出てくるという構成だが、ジャンプファン、ホンカーファンにはかなり来るもんがあるんじゃないでしょうか。チェスってシカゴブルースだけじゃないんだねえということがよくわかる一枚です。
「JUMPIN’ JIVE」(HALLMARK 330182)
VARIOUS
40年代のジャズとR&Bの接点的なコンピレーション2枚組で、代表的なアーティストは(ジャケットの文章によると)ルイ・ジョーダン、キャブ・キャロウェイ、ファッツ・ウォーラー、タイニー・ブラッドショウ、ジョー・ターナーだという。全部で40曲入っているのだが、バンド名は書いてあっても、だれが参加しているのかはリーダーの名前しかわからない。ライナーもなにもない。いいかげんなコンピレーションかと思ったら、ちゃんとしたチャーリーのライセンス下で出ているのだ。音もいい。そして、なにより選曲がいい。ジャケットには「40曲のアップテンポのジャンプブルース、ジャズ、R&Bクラシックス」と書かれており、アップテンポでなければならないようだが、実際には(あたりまえだが)ミディアムテンポ以下のものも入っている。ジャイヴとか、ゆったりしたものも多いはず。ほかにもワイノニー、クリーンヘッド・ヴィンソン、ウディ・ハーマン、ライオネル・ハンプトン、ホット・リップス・ペイジ、アンディ・カーク、スタッフ・スミス、ジーン・クルーパ、ルイ・アームストロング、アースキン・ホーキンス、ラッキー・ミリンダー、フランキー・ニュートン、ナット・キング・コール、ウィリー・ザ・ライオン・スミス、ジミー・ラッシング、カウント・ベイシー、ルイ・プリマ、ベニー・グッドマン、アル・クーパー……などなど大立者から小立者まで、それぞれがヒット曲やら他人のカバーやらを惜しげもなくぶつけてくる感じ。本当に、この2枚でジャンプ〜ジャイヴ系をある程度俯瞰できそうな気がするほど(もちろんそんなことはない)。でも、とにかく収録曲は粒ぞろいなので、捨て曲が1曲もないのもたしかで、あれが入ってないとかこれを入れなきゃ話にならんとか、そういうのはとりあえず忘れて、ただただこの2枚組を楽しむ……というのが正しい聞き方のような気がする。こういうコンピレーションで聴くと、何度も何度も聴いてるはずの「あの曲」の、「え? こんな箇所あったっけ」という発見ができたりしてあなどれないですよね。
「LIVE AT CARNEGIE HALL」(ROULETTE/PARLOPHONE RECORDS WPCR−16606/7)
VARIOUS ARTISTS
英語の題名は上記のとおりだが、国内盤のタイトルは「カーネギー・ホールのバードランド・オールスターズ」でアーチスト名はカウント・ベイシー、サラ・ヴォーン、チャーリー・パーカー、ビリー・ホリディとなっている。「バードランド」オールスターズなのに「カーネギー・ホールの」というのも変だが、仕方がない。1954年の録音で、歴史的にはめちゃくちゃ貴重な記録だと思う。ベイシーの菅原氏のライナーでは「この、センターマイクを主にした最小のマイクセッティングのライヴ録音をぼくは大変いいと思っている。遠くで聴こえるトランペットセクションの音や、バンド全体のハーモニーが、ソロ・プレイに対してとても具合がよろしいと思うからだ」と書いてあるが、いやー、そんなことはないでしょう。ソロをとる奏者の音だけがやたらでかくて(ルーレットのベイシーでいえば、アット・バードランドにおけるバド・ジョンソンみたいにツブシになっている感じ)、サックスのソリやらブラスによるリズムやらはあまり聞こえず、ビッグバンドとしてのバランスはかなり悪いと思う。でも、まあええんです。このころのベイシーが聴けるんだから(でも、菅原氏のように「これがいい」と持ち上げる気にはならない)。まだバンドに入って間もないフランク・フォスターが大きくフィーチュアされており、そのけっこう粗削りだがガッツのあるソロは「おお、がんばっとるやんけ」と思う。のちにこのひとがメインソロイスト兼名アレンジャーとしてバンドの中核となり、数々の遍歴を経て、おのれのビッグバンドを持ち、最後にはベイシーバンドをリーダーとして仕切るようになるとはこのときだれが予想しただろうか……と書いて、もしかしたらベイシーはある程度の予想はしていたかもしれない、などと思ったりもする。しかし、ウエスがソロをとると、この時点では完全にウエスのほうが、楽器コントロール、アーティキュレイション、フレージングなども上回るからますます面白い。アルバムの構成は、基本的に(めちゃくちゃぜいたくな話だが)ベイシーバンドがハウスバンドのようになり、そこにいろいろな超豪華ゲストが加わるという形である。オープニングのあと、司会者がフランク・フォスターを紹介して1曲目がはじまる、というのだから、フォスターがいかに期待の新人なのかわかる。2曲目はおなじみ中のおなじみ「ブルース・バックステージ」で、ここでもフォスターが先発ソロ。力強いテナーの音色は気持ちいいっすねー。3曲目はフランク・ウエスのフルートとテナーを両方フィーチュアした「パーディド」で、安定感抜群のフルートソロとフォスターに比べると上手さの目立つソロが聴ける(このソロは両方ともコピーして勉強してもいいかも、というぐらいいいソロ)。テナーソロは途中からグロウルして盛り上げるが、フレーズの多彩さは見事の一言。ベイシーはここまでで一旦終了で、つぎはチャーリー・パーカーの登場。3曲演奏されるが、ここはベイシーバンドではなく、ジョン・ルイス、パーシー・ヒース、ケニー・クラークというビバップオールスターズを従えての演奏だ。パーカーはこの数か月後には亡くなるわけで、菅原氏も「ローソクの火が消えかかったチャーリー・パーカー」と表現しているように、時期的にはボロボロのはずだが、これがよく聴いてみると決して悪くないのだ。一曲目の「ソング・イズ・ユー」こそ、ミストーンや指のもつれが目立つが、だんだん調子が出てきて、2曲目の「マイ・ファニー・バレンタイン」の哀切、そして最後の「クール・ブルース」では、艶やかなトーンでしっかりとパーカーフレーズを吹きまくり、その溢れ出るようなイマジネーションは往年を思わせるすばらしさで、この日の聴衆はさぞかし満足しただろうと思う。このあとに出てくるダン・テリーというトランペット奏者〜バンドリーダーがベイシーをバックにロックンロールの走りみたいな演奏を行う。すごく有名なひとらしくて、オールディーズのアルバムなどに出てくるが、私には知識がなくてわからない。このひとは一曲だけで、そのあとはふたたびベイシーバンドをフィーチュアした演奏。「トゥー・フランクス」がすでに演奏されており、いわゆるテナーバトルというにはあまりに芸術的で楽しいテナーの交歓が行われる。ここからビリー・ホリディの登場となる。6曲、それも有名曲ばかりを歌うが、ライナーのスタンリー・ダンスはかなり手厳しいことを書いていて、「聴衆は、すっかり衰えたホリディの姿と歌声を善意で受け止め……」などとめちゃくちゃだが、聴いてみると、しゃがれた声は魅力的だし、リズムも音程もちゃんとしていて、昔とはちがった渋い表現になっている。しかも、それがこれだけの大人数のビッグバンドとちゃんと調和しているのだから文句はない。じつはこの2枚組で、私が一番好きなのはこのホリディのパートかもしれない。ホリディが、ベイシーバンドの溌剌とした伴奏で往年の気力と輝きを取り戻したように聞こえるあたりがグッとくるのです。スタンリー・ダンスはこういうの嫌いやなんな。ここから二枚目に入るが、正直言って、一枚目に比べると私の関心はぐっと下がる。1曲目はベイシーバンドだけの「シュア・シング」という曲で、これはめっちゃいい(リラックス加減といい、ダイナミクスといい、この日のベイシーバンドの白眉と言っていいかも。フォスターのソロも今日イチの出来)。しかし、そのあとレスター・ヤングが登場して2曲演奏するのだが、これがいまひとつなのだ。57年のニューポートでのベイシーとの共演ではなかなかいい感じのレスターだが、この日は体調が悪かったのか。一曲目の「ペニーズ・フロム・ヘヴン」ではリラックスの極みというか、ちょっと弛緩しすぎじゃないですかと言いたくなるようなソロをしており、ある意味クールな感じでいいのだが(最後のカデンツァも見事)、二曲目の「ウッドサイド」では(57年だとこのテンポでもちゃんと吹けてるのに、なんか乗り切れない感じで、リズムもよれているし、指も回っていないように聞こえる。なによりイマジネーション不足というか、レスター独特のひらめきがなく、かなり厳しい。このレスターを聴くのはつらい。半分はホンクみたいなフレーズに終始するのだが、そういうのはリズムがきちんとはまらないとなあ。というわけで、このあとは全部サラ・ボーンなので割愛(内容はすばらしいと思うが、あまり興味がないのだ)。というわけで、賑やかで豪華な二枚組ライヴだが、手放しで全編すごいすごいおもしろいと言えるようなものではなく、いろいろ考えさせられたり、悲しい気持ちになったりするという意味では、もしかしたらドキュメントとしての価値があるアルバムなのかもしれない。
「HUCKLEBUCK LYING ON HIS BACK」(ARISTA RECORDS 22RS−24(M))
ROOTS OF RHYTHM & BLUES VOL.4
私が学生の頃に出たルーツ・オブ・リズム・アンド・ブルースというシリーズの第4弾で、たぶん中村とうよう監修だったと思う。邦題は「ブロー・テナー」。高校生のころはファラオ・サンダースを筆頭にドルフィーとか坂田明、梅津和時、アイラー……などを聴いていた私だが、大学に入ったときに先輩の下宿で「アーネット・コブ・イズ・バック」を聴いたのがきっかけでブロウテナーというかタフテナーというかそういう世界に開眼した。ちょうどそのときにタイミングよく発売されたのが本作と、「サックス・ブロワーズ・アンド・ホンカーズ」というレコードで、本作はサヴォイ原盤のアンソロジー、後者はデルマークの音源なのだが、どちらもこの手の音楽に無知だった私にとっては福音のようなアルバムだった。そして、結構早い段階で「ホンカーもファラオ・サンダースもアーネット・コブも全部根っこは同じ」という結論にたどりついてしまい、今に至るのだった。つまりどういうことかというと「テナーサックスという楽器がそうさせるのです」ということなのである。このレコード、中村とうようさんのライナーを私が捨ててしまったらしく(あるとき、レコードの収納が困難になり、ほとんどすべてのレコードの日本語ライナーを捨てたことがあった)、各曲の詳しいことはよくわからん。だが、本作のタイトルを見てもわかるとおり、ポール・ウィリアムスの「ハックルバック」という曲はとにかくめちゃくちゃ大ヒットしたらしい(50万枚売れたらしい)。しかも、ポール・ウィリアムス自身はテナー吹きではなくバリトン奏者で、テナーはべつのひと(ミラー・サムというひと)なのに、「ハックルバック」という曲はテナーのホンカー系というかインストブルースの代表曲として知れ渡っている。ところが聴いてみても、申し訳ないがたいした曲ではない。ときどきチャーリー・パーカーの「ナウズ・ザ・タイム」に影響されているとかよく似た曲という紹介があるが、「ナウズ・ザ・タイム」はトニックの音からはじまる音列なのに、「ハックルバック」は5度の音からはじまる。テーマのリズムは似ているが、それも4小節目までである。単なる4小節のリフを繰り返しているだけなのでまったくちがう曲と言っていい。しかも、ホンカーの歴史を語るときにはかならず出てくる曲にもかかわらず、ソロがフィーチュアされているのはポール・ウィリアムスのバリトン、そして、フィル・ギルビーというトランペットのひとで、テナーソロは出てこないうえ、どちらもなんというか呑気なゆったりしたソロなのである。なんでこの曲がそんなにヒットしたのか私にはいまだに理解できない。今、ハックルバックで検索すると「チャビー・チェッカーの曲」と出てきたが、これは悲しい。もともとはラッキー・ミリンダー(アーネット・コブやイリノイ・ジャケーが在籍したバンド)の曲だったらしいですが……。さて、1曲目はジャズランドとかにジャズっぽいアルバムを録音していて、あのマーヴィン・ゲイの「ファッツ・ゴーイン・オン」にも参加している超有名人であるワイルド・ビル・ムーアの「ウィア・ガナ・ロック、ウィア・ガナ・ロール」で、この曲は最初に「ロックンロール」という言葉を使った曲では? ということでも有名。ブギウギピアノのノリと、ミュージシャン全員の掛け声(?)で盛り上がるし、ムーアのテナーも豪快でホンカーの定番フレーズを上手く並べていてかっこいい。2曲目もムーアのバンドで、ユーモラスな曲(ブルースではない)。途中で出てくるバリトンはポール・ウィリアムズ。しかし、やはりムーアのテナーのブロウは貫禄があるうえ歌心もありリズムも良く、きちんとコード進行を縫っていく。3曲目はさっき書いたポール・ウィリアムスの「ハックルバック」で、4曲目もポール・ウィリアムスの「ランピン」という曲だが、テナーにビリー・ミッチェルが入っている。個人的には「ハックルバック」よりこっちの演奏のほうがずっとエキサイティングである(テナーソロかっこいい! ふたりいるのでビリー・ミッチェルかどうかはわからん)。5曲目から8曲目までは真打登場というか、ビッグ・ジェイ・マクニーリーである。濁った音色で豪快に吹きまくるが、完全にホンカーとしての語彙を自家薬籠中にしている感じである。ひたすらパワーで押しまくるので、ときにワンパターンに感じる箇所なきにしもあらずなのだが、それはたぶんこうして録音物で聴くからであって、生で聴いていたら逆に興奮の坩堝になっていたと思う。サヴォイってあんまり録音はよくないと思うのだが、それを差し引いてもビッグ・ジェイはええ音してますなー。カムバック以降の音はもっとええけど。超有名曲である「ディーコンズ・ホップ」は7曲目に入っているが、ブルースではなく循環の曲で、Aの部分は手拍子だけをバックにビッグ・ジェイが濁った音色(ほとんど割れたり、裏返ったりしているが気にしていない)でおとなしめにテーマのリフを吹くが、サビの8小節になるとホンクしまくる……というちょっと珍しいタイプの演奏。ほかの3曲でもマクニーリーは兄弟のボブ・マクニーリーのバリサクを相方に凶悪なソロをキメている。B面も有名どころばかりで、1〜4曲目までは先日(2020年)になんと100歳で亡くなった斯界の大長老ハル・シンガーの演奏。1曲目は彼の代名詞になった大ヒット曲で「コーンブレッド」。痛快にブロウしまくる。ホンキングのツボを心得た演奏で爽快である。音も私の好みです。ほかの3曲目も、どれも楽しくてかっこいい。ハルはややこしいことを考えず、ひたすらまっすぐホンクするが、それがもうめちゃかっこええのです。本当はエリントンなどにも在籍したひとなので、ジャズも得意だったはずだが、ここに収められている演奏はどれも鬼のようなブロウをぶちかますものばかり。ある意味、このアルバムのなかではビッグ・ジェイよりも凶悪かもしれないぐらいわき目もふらずに吹っ切れた演奏をしていてすばらしい。5、6曲目は少し世代が若くなり、キング・カーティスの登場である(リーダーはピアノのサム・プライス。このひともいいけど、ここに入ってる曲ではあまりフィーチュアされていない。テナーとギターが暴れる)。ミッキー・ベイカーのかなりモダンなギターも入っていて、ホンカーというより、R&Bという感じで垢抜けしている。ビッグ・ジェイの演奏と比べても「新しい」感じがする。しかし、キング・カーティスのブロウは堂々たるもので、圧倒的で、しかもめちゃくちゃ上手い。ラストの2曲は、サム・ザ・マン・テイラーの登場。録音は61年だからかなり新しい。後年はムードミュージックや演歌で知られることになったこのひとは、ブルースとかR&Bをやらせると、とにかく驚くほどのテクニシャンで、ひたすらなめらかに、最高の音色を聞かせながら吹きまくる。ここでも、ただのブルースではなく、ポップな曲調の演奏を見事に聴かせる。ラストの曲は女性コーラスやオルガンが入っていて、レイ・チャールズを連想するようなゴスペルっぽいR&Bにしあがっている。「ハーレム・ノクターン」などでヒットを飛ばす後年のサム・テイラーの姿を垣間見ることができる。とにかく当時としては衝撃的な一枚で、このあと私はここに入っているひとたちの単独アルバムを探すことになり、ブロウテナーの冥府魔道に踏み込むことになるのである(ミニコミ誌で「ブロウテナーの歴史」という連載もはじめた)。
「SAX BLOWERS & HONKERS」(P−VINE SPECIAL PLP−9037)
BLACK MUSIC IN THE 50’S VOLUME 4
上記サヴォイの「HUCKLEBUCK LYING ON HIS BACK」とほぼ同時に出たという記憶があるが、こちらはデルマーク(ソースはリンデンというレーベルとユナイテッド・ステイツというレーベル)のホンカー系アンソロジー。サヴォイの方よりも人選が小粒かもしれないが、サヴォイの方は(キング・カーティスとサム・テイラーを除くと)40年代中心、こちらは50年代中心だからやはり前者の時代はこういうのがめちゃくちゃ人気があったのが、この時期になるとホンク一筋の鬼、みたいな感じではウケなくなったのか、ブルーノートやプレスティッジのクサいオルガンジャズ+テナーみたいなものと大差ないものもある。1曲目はドク・ソーセージというふざけた芸名のドラマー兼ボーカルのひと(けっこうその道では有名人らしい)がリーダーで、曲調はルイ・ジョーダン的なジャンプミュージックっぽい感じでなかなかいい。フィーチュアされるテナーはアール・ジョンソンというひとで全然知らん。でも、なかなか味わい深い、いいソロをしている。2曲目、3曲目はブルーノートにリーダー作があるので、このなかではかなり有名人であろうフレッド・ジャクソン。ここではジャズではなくR&B的な演奏に徹している。「センチメンタル・ブルース」という3連の曲は、曲としてはブルースシンガーがいないブルースバンドのようで、シンガーの代わりをジャクソンのテナーが務めているような感じの演奏で激しいブロウはない。トランペットソロの方が印象に残る。「バック・フィーヴァー」という曲は、完全にビッグ・ジェイ・マクニーリーの「ディーコンズ・ホップ」と同じ曲であり、言ってしまえばパクリということであろうが、原曲よりもテンポが速くてノリがよく、フレッド・ジャクソンもぶりぶり吹いていて気持ちがいいブロウぶりである。サビのところのフレーズなど思わず笑ってしまうようなシンプルさである。なお、リーダー以外のメンバーは「不明」だそうです。4曲目から6曲目まではファッツ・ノエルというテナーのひとがリーダー。「ダック・スープ」という曲はカウント・ベイシーのようなノリのいい4ビートジャズで、あまりR&Bという感じではない。でも、かっこいいし、テナー奏者も手慣れた調子でブロウしている。つぎの「ウィッシュ・ユー・ワー・ヒア」というバラードはサブトーンの扱いもばっちりでムード抜群の演奏。これもR&Bというよりは普通のスウィングジャズ、しかも、かなりええやつ、という感じ。ボブ・ポーターのライナーによると、ほとんど無名で、このセッションのすぐあとに死んでしまった、とのことだが、こうして聴いていると、だれかめちゃくちゃ有名なテナー奏者の変名ではないか、と疑いたくなるほど上手いのだ。つぎの「ハイ・タイム」という曲は出だしこそちょっとR&Bっぽいリズムだが、すぐに普通のノリノリの4ビートジャズになる(ライオネル・ハンプトンとか聴いてる気になってくる)。でも、すごくかっこいいのです。こういうレベルのひとがゴロゴロいたんだろうなあ。A面ラストは、このひとはかなり有名で、フルアルバムも出ているポール・バスコム。ベイシーにも参加していた。「ピンク・キャデラック」という曲は、これもルイ・ジョーダンっぽい軽快なジャンプ。バスコムはホンカーというより、楽しげにコール・アンド・レスポンスをして盛り上げる。ピアノはデューク・ジョーダンだそうです(52年の録音だから、ジョーダンとしてはパーカーグループでダイアルセッションとかしたあとの時期ということになる)。B面の1曲目はあの、天下のジミー・フォレストの「ナイト・トレイン」で、一時はB面のこの曲ばっかり聴いていた。今はフォレストの、デルマークから出ているシングルを集めたアルバムにも入っていて簡単に聴ける。もう、死ぬほど、めちゃくちゃ好きなのです。ほかのだれが演奏しようと、この曲はフォレストには敵わないな。「ハート・オブ・フォレスト」に入ってるシャーリー・スコットとの演奏や映画「カンサスシティジャズの侍たち」に入ってるカウント・ベイシーバンドでの演奏も鬼気迫るというか、(いい意味で)鳥肌もんだが、このシングルバージョン、コンガ入りというのも、すばらしい。エコーが効きすぎてる? ええやん、いかにも当時ヒットしてたシングルという感じで。もちろんこの曲はフォレストの代表曲であるが、よく知られているようにエリントンの「ハッピー・ゴー・ラッキー・ローカル」と同じ曲である。エリントンにも在籍していたフォレストだから、たぶんリフを拝借してタイトルを変えたのではないかと思うが、エリントンのやつはテンポが速く、いかにも昼間の楽しい汽車という感じなのに比べて、フォレストのはめちゃくちゃテンポが遅く(とくにベイシーとやってるバージョン)、これ以上遅くできまへん、というぐらいの遅さで、いかにも夜汽車が暗闇のなかをずんずんと走っている雰囲気が出ている。この重量感はまったく圧倒的で、この「テンポをめちゃくちゃ遅くした」というのはフォレストの発明だと思う。あと、テナーの最低音をフィーチュアした点も。2曲目、3曲目はテディ・ブラノンというピアニストがリーダーで、テナーはレイ・エイブラムスというひと。メンバーみんなで歌う「エヴリバディ・ゲット・トゥギャザー」は楽しい演奏。Aの部分の手拍子といい、ちょっと「ディーコンズ・ホップ」っぽい曲調か。最初はだれだかわからないバリトンサックスのソロがあって、サビの部分からレイ・エイブラムスのテナーが登場。16小節のソロをする。そのあとなぜかAに行かずサビになってボーカルが入る。妙な構成の演奏である。「ミキシン・ウィズ・ディクソン」というのは南国風というか軽妙なラテンテイストの曲で、ギターがそれを強調するが、ちらっと入るテナーブロウやブギウギっぽいピアノも気楽な雰囲気。4、5曲目はコジー・イグルストンというテナーのひと。ボブ・ポーターによるライナーによると、本作に入ってるほかのテナー奏者が故人になったか現役をしりぞいたかしているなかでこのひとだけは今(といってもかなりまえだが)もシカゴのサウスサイドでブロウしているのだという。聴いた感じではさほど突出したものは感じないのだが、そういうことは運というかタイミングの問題ですね。どちらの曲もゆったりしたノリで、テナーが暴れまわるというより、ムーディーでノリのいいブルースを楽しむ、という雰囲気。イグルストンも軽い感じで吹いている。全体のエコーのかけかたもあざとくて良い。ラスト2曲はジミー・コーで、ルイ・ジョーダン的なジャイヴなセリフをフィーチュアした楽しいブギっぽい曲にコーの太くたくましいテナーがからむ。ジミー・コーはこのなかではそれなりに名のあるプレイヤーで、パーカーがいたころのジェイ・マクシャンバンドにいた人で(当時はバリトンを吹いていたらしい)、充実したメンバーによる有名なレコーディングにも参加している。コーはアルトも吹くし、R&Bだけでなく、いろいろなシンガーのバックバンドとしてある意味スタジオミュージシャン的な仕事もこなすひとだったようだ。息の長いミュージシャンで、2002年にはヨーロッパツアーなども行っている。というわけで、このアルバムは楽しい曲ばかりが詰まっており、ほんとに好きだった。今はデルマークの「ホンカーズ・アンド・バー・ウォーカーズ」というCDの第一集としてで簡単に入手できるはず(このレコードに8曲プラスした形でリリースされていてお得)。なので、このLPはすでに役目を終えているとは思うが、あの当時このアルバムが日本盤としてリリースされたことの意義ははかりしれないと思う。
「ROCKIN’ AND JUMPIN’」(ATLANTIC RECORDING CORPORATION P−6191A)
中村とうよう
めちゃくちゃ好きなアルバム。アトランティックというレーベルは初期のころ、じつはR&Bをがんがんプッシュしていたレーベルであったということがよくわかるコンピレーション。中村とうよう監修で、発売にあたってマスターをアトランティックから送ってもらえなかったので、手持ちのレコードから音を起こしたそうだが、そんなことは気にもならないめちゃくちゃ楽しい、最高のアルバム。後年(というほどではないかもしれないが)アトランティック本体から「アトランティック・ホンカーズ」という同工の2枚組も出たがその先鞭をつけたアルバム(内容は6曲ほど重なる)。本作も、ジャズとロックンロール、R&Bのあいだに位置する、当時多く聴かれていたはずのテナーのホンキングをフィーチュアしたインストダンス音楽を日本に紹介したという点で、上記2作のアンソロジーと並んでたいへん価値があったアルバムだと思う(レコード史的なくわしいことはよく知らんけどね)。上の2作と違うのは、上の2作がホンカーに焦点を当てた内容であるのに比べ、本作はもう少し広く、テナーがあまり出てこない曲も入ってる(でも、ほとんどの曲がテナーをフィーチュアしていて、当時はテナーサックスがのちのギターのような役割をしていたことがよくわかる)、ということぐらいか(そういうアルバムはつまり「アトランティック・ホンカーズ」ということになる)。このアルバムを学生のころはじめて聴いたときにあにが衝撃だったかというと、フランク・カリーというテナー吹きを知ったことだ。「サックスの狂人(マッド・マン・オブ・サクソフォーン)」といえば本作にも入っているウィリス・ジャクソンの(ゲイターテイルと並ぶ)あだ名だが、私はこのフランク・カリーこそをそう呼びたい。ホンカーには必要な素質がある。手慣れたホンキングは、ちょっとサックスを吹ける人間ならば正直簡単である。リズムに合わせてバッバッバッ……と吹けばよい。しかし、それでは面白くない。ジャズテナーがホンカー的な仕事をするのをバイショー的だというひともいるかもしれないが、ホンカーのなかにも、「こんなことは簡単なので仕事と心得てやってます」というひともいると思う。しかし、このフランク・カリーの演奏を聴くと、商売は別として、やむにやまれぬホンク衝動というか、そういう腹の底から突き上げてくるような「ぎょええええっ……とブロウしたい!」という熱情を感じるのである。それは、ホンカーに限らず、デクスター・ゴードン、ソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、ファラオ・サンダース、アーチー・シェップ……といったジャズ本流のテナー奏者、そして現代の多くのテナー吹きにも共通する「衝動」ではないかと思う。それはブラックミュージックがどうたらこうたらということとは別に、「テナーサックス」という楽器が本質的にそういう演奏を吹き手に要求する、という面があるのではないか……と思うのである。とか、屁理屈をこねるような文章になってしまったが、本作の内容について以下、ご紹介したい。A−1の「コールスロー」ではまだおとなしい、というかグロウルしながら手堅く吹いているフランク・カリーだが、A−5の「ゴー・アフター・アワーズ」ではピアノの煽りを受けてギョエエエッとブロウする。かっこいい! なお、ここには入ってないがカリーは同じアトランティックに「アフター・アワー・セッション」という曲もレコーディングしている(ピアノのヴァン・ピアノマン・ウォールスをフィーチュアしていてめちゃくちゃかっこいいです。カリーのソロも炸裂している)。あー、この2曲ではフランク・カリーのヤバい魅力がすべて伝わるとは思えんなあ。同じくアトランティックに吹き込んだ「ワクシー・マクシー・ブギ」とか「セントラル・アヴェニュー・ブレイクダウン」とか聴いてもらいたいなー。A−2はトミー・リッジリーというニューオリンズのシンガーで、かなり有名なひと(「トララ……」のひとです)だが、テナーは(やはりというか)リー・アレン。すばらしい。跳ねるリズムをはじめ全体にニューオリンズのノリで楽しい。A−3は若きジョニー・グリフィンを擁したトランペットのジョー・モリスのバンドで、この組み合わせはたしかサキソフォノグラフから単独アルバムも出ていた(ジョー・モリスとグリフィンはライオネル・ハンプトンバンドの同僚で、当時のテナーのスターがアーネット・コブだったのだ)。グリフィンはこういうのをやらせてもやたらとさまになっている。A−4もジョー・モリスのバンドだが、 ローリー・テイト女性というボーカル(めっちゃいい)をフィーチュアしていて、テナーは出てこない。A−6はボー・フェアリーというボーカルをフィーチュアした演奏だが、テナーがジミー・グリフィンというひと。ジョニー・グリフィンの誤記かと思ったが、スタイルが違うので別人でしょう。しかし、めちゃくちゃ上手く、もしかしたら有名奏者の変名かもしれない。かなりいい感じ。A−7はウォルター・スプリッグスというボーカルのひとのバンドで、テナーはキング・カーティス。カーティスもこの時点で20代前半だがすでにベテランの風格。A−8は「テネシー・ワルツ・ブルース」で、テネシー・ワルツをブルースっぽいフィーリングで演奏したもの。テナーがずっとフィーチュアされているがだれだかわからない。味わい深い演奏。B面に参りましょう。B−1はめちゃくちゃノリノリの、まさに「ロッキン・アンド・ジャンピン」な曲調の曲で、チャック・カルホーンことジェシー・ストーンのバンドだが、テナーがなんとハル・シンガーとサム・テイラーのふたりで、この曲でフィーチュアされているずっとグロウルしっぱなしのエキサイティングなテナーはハル・シンガーの方らしい。もっとやれ! というところで終わる。惜しい! ギターはなんとミッキー・ベイカーの可能性大だそうだが、たしかにそう聞こえる。B−2はギターのテキサス・ジョニー・ワトソンのバンドで「ザ・ブルース・ロック」というタイトルだが、ロックというか、かなりコッテリした曲調。テナーはだれだかわからないがややおとなしい(録音のせい?)。B−3はアーネット・コブ大先生登場だが、さすがにほかとは一線を画す「ジャズ」的な演奏。しかも、奥底にはテキサス魂が煮えたぎっている感じですばらしい。B−4は再びジョー・モリス〜ジョニー・グリフィンで、めちゃくちゃ有名な「ワウ!」。一度聴いたら忘れられないであろうこのテーマの歌はマシュー・ジー(ジャズ・トロンボーンで有名なひと)らしい。ほかのメンバーもグリフィンをはじめ、エルモ・ホープ、パーシー・ヒース、フィリー・ジョー・ジョーンズ……とモダンジャズ勢で固められている。グリフィンのソロも、A−3とは違ってかなりジャズ寄りのもの。B−5はハル・ペイジというひとで、ストレートなロッキンブルース。ギターとブギっぽいピアノが効いている。テナーが1コーラスだけフィーチュアされるが、だれだかわからないらしい。しかし、かなり上手い。おなじみタイニー・グライムズのB−6はタイトルが「ミッドナイト・スペシャル」であることでもわかるが、「ナイト・トレイン」的なゆったりしたトレインピース。テナーはこれも有名なレッド・プライソック。めちゃ上手い。スローブルースのB−7はA−4の裏面だったらしいが、同じくローリー・テイトの迫力満点のボーカルをフィーチュアしているが、こっちはテナーソロがある。ジョー・モリスバンドなのでグリフィンなのか? ワンコーラスだけなのでよくわからん。ラストは「サックスの狂人」にしてアリゲーター男ウィリス・ジャクソンが締めくくる。ジャクソンはテーマが終わったらいきなりホンクをはじめ、あとはずっとホンク、ホンク、ホンク……。ラストの「ぎゃおおう!」という叫びのようなフレーズもかっこよくて、オルガンも入っていて大迫力の演奏。いやー、コテコテの16曲。ほんとによくできたコンピレーションだと思う。全然関係ないけど、ホンカーとかR&B系のテナー奏者はラーセンを使っているひとが多いと思うが、このアルバムに入ってるテナーはグリフィン、コブ、レッド・プライソック、ウィリス・ジャクソン……とリンクメタル使用者が多くて、同じリンク吹きとして私はうれしい(ほんとに関係ないことですんません)。
「ATLANTIC HONKERS」(ATLANTIC RECORDING CORPORATION P−5221〜2)
A RHYTHM & BLUES SAXOPHONE ANTHOROGY
初期アトランティックのカタログのなかからホンカーのものを選んだコンピレーション二枚組。上記「ロッキン・アンド・ジャンピン」とは5、6曲重なっている。フィーチュアされるテナー奏者はジョニー・グリフィン、レッド・プライソック、フランク・カリー、ウィリス・ジャクソン、ハル・シンガー、サム・テイラー、アーネット・コブ、キング・カーティスと錚々たる顔ぶれ。どうです、凄そうでしょう? でも、本当に凄いんですねー、これが。
1枚目のA1〜3はジョー・モリスのバンドで、若きジョニー・グリフィンをフィーチュアしたもの。A−1はミディアムスローのブルースでグリフィンもタフに歌い上げるが、その音色はまさに後年のグリフィンと同一の硬質なもので、フレージングも端々にのちのグリフィンらしさが感じられる。A−2はいろいろなコンピレーションでお目にかかる「WOW!」で、ジョー・モリスの代表曲(作曲は先発ソロをするトロンボーンのマシュー・ジー)。グリフィンはロックジョウとの「タフ・テナー」チームの演奏でもこの曲を取り上げている。よほど気に入っていたのだろう。A−3もシンプルなリフのノリのいい曲。グリフィンもリフ主体のソロから後半かなりぶちぎれたエキサイティングなホンキングをしていて凄い。4〜7はタイニー・グライムズのバンドでレッド・プライソックをフィーチュアしたものだが、A−4の「C・C・ライダー」で歌っている深みのあるボーカルはなんとレッド・プライソックだそうだ。4弦ギターとピアノがからみあいながら盛り上げる。スローブルースだが、なぜか途中で「わおっ!」という掛け声が入る。プライソックのテナーが一番ラストで一瞬だけ聞こえるのもご愛敬。A−5はノリノリの曲で、ピアノのジミー・サンダースがめちゃくちゃ上手いソロをし、受け継いだグライムズもいい感じ。しかし、そのあとにプライソックがグロウルしながらブロウして盛り上げ、グライムズとプライソックの4バースになるあたりがハイライト。こういう曲の定番的な作りだがかっこいい。A−6はまたまたスローブルースでプライソックが低い声で歌う。このヘタウマ加減もちょうどいい感じ。しかし、歌のあとに登場する自身のテナーは一瞬だけだがやはりすばらしい。テナーソロでそのまま終わってしまうという構成。A−7は「フライン・ハイ」という曲でようするに「フライング・ホーム」。テーマリフのあとピアノがええ感じのソロをするがなぜか録音が小さい。そのあとのギターソロはそんなことないのに。ギターソロはさすがの一言です。そのあとプライソックとグライムズの4バースになりじわじわ盛り上がったところでプライソックのテナーソロになるが、これがめちゃくちゃエキサイティングなホンキングでジャケー的なフレーズを使ったすばらしいソロ。最後はギターとテナーのリフになりエンディング。ボブ・ポーターのライナーで「イリノイ・ジャケットといえばライオネル・ハンプトンの『フライン・ハイ』のソロで知られている……」とあるのは「フライング・ホーム」の間違い。ちなみにこのライナーは翻訳もいまいちで、この「フライン・ハイ」について「プライソックはここでソロのオープニングをアーネット・コブに委ね、そのあと自ら怒涛のクライマックスへと昇りつめていく」とあるので、えっ、コブも参加してたのか、と思ったがそうではなく、原文を見ると、「ソロのオープニングでアーネット・コブのソロを引用し、そのあと凄まじいくらいマックスを形作る」ということで、「自身の」とかもまったく書かれていない。あと、プライソックのソロの出だしがコブのクォーテーションだというのもよくわからない。
B面に移るとフランク・フロアショウ・カリーの登場である。当時流行ったテナー、トランペット、トロンボーン+3リズムの編成でリトルビッグバンド風のサウンドを狙っているやつで、テナー奏者はこぞってこの編成で吹き込みをしている(要するに大人数を雇う費用がなくなっていた時期なのだろう)。B−1はノリのいいロッキン・アンド・ジャンピンな曲でカリーの代表曲ともいえる「カリー・フラワー」。手慣れた感じの演奏でかっこいい。ピアノはなんとランディ・ウェストン。B−2はノリのいいスローブルースでピアノのハリー・ヴァン・ウォールズのソロも炸裂しているが、そのあとのカリーのブロウはスローブルースなのに血が煮えたぎる感じで凄い。B−3もノリノリのシンプルなブルースで、カリーのソロはホンキングもしているが全体に軽く、この手の演奏のお手本のような感じ。しかし、ソロのあと「ウォーッ!」とだれか(カリーか?)が叫んだあとのピアノソロがまたかっこいいんです。いかにも、このSPをかけてみんなが踊っていた……という雰囲気が伝わる。しかし、この3曲だけではフランク・カリーの凄まじさはなかなか伝わらないかもしれない。この3曲を聴いて興味を持ったひとはほかの曲も探して、ぜひ聞いてほしいです。B−4〜7はウィリス・ゲイターテイル・ジャクソンの登場。いきなりオルガン入りバンドをバックにグロウルしながらホンクしまくる。これぞ熱血ホンカー! といえるような爆発的な演奏。B−5はなんと「ハーレム・ノクターン」だが、サブトーンを使ってあざとい吹き方をする。あんたはサム・テイラーか! いやー、かっこいいです。ほとんどテーマをストレートに吹いているだけなのだが、かっこいいものはかっこいい。なぜかサビを何度も繰り返すが、あまり変には感じない。バックも決まっていて、ゴージャスだ……と思っていたらエンディングと最後のカデンツァで激しいブロウをキメる。ひゅーひゅーっ! B−6は「ロック! ロック! ロック!」という、タイトルを見ただけでかっこよさそうな曲だが、中身はオルガンが唸るシンプルでノリノリのジャンプナンバー。ウィリス・ジャクソンも最初からグロウルして飛ばしまくり、あとはひたすらブロウ、ブロウ、ブロウ……。ホンカーはこれですよ。B−7は、「ワイン・オー・ワイン」という変なタイトルの曲でボーカルが入る。これもノリノリのブルースで、男性ボーカルがリードを取り、女性数人がコーラスをする(「フォー・ゲイターズ」という名前のグループということになってます)。そのあとに出てくるジャクソンのブロウもばっちりで、楽しい仕上がり。
さて、二枚目に参りましょう。C−1〜3はチャック・カルホーンことジェシー・ストーンで、アレンジャー、ソングライター、ピアニストで、1920年代から活躍しており、この録音の時点ですでにかなりのベテランだったはず。中村とうよう氏によると、1927年にオーケーに録音された4曲はジャズ史上はじめて「譜面に書かれた編曲」を使った録音だそうだ。つまり、それまではヘッドアレンジだったということですね。「シェイク・ラトル・アンド・ロール」の作曲者でもある。メンバーもすごくて、ハル・シンガーとサム・テイラーがテナーの席に並んでおり、ギターはミッキー・ベイカー。C−1「ヘイ・タイガー!」はテンポのいいノリノリの曲だが、ドラムがブラッシュを使っているあたりがジェシー・ストーンの面目躍如なところだろう。じつに軽くていいノリなのだ。曲としても、ただのブルースや循環の曲ではなくて、じつに心に残る印象的な曲で、作曲者としてのすばらしさもわかる。全面的にハル・シンガーのブロウテナーをフィーチュアしており、これがめちゃくちゃいいソロで、適度にワイルドでエキサイティングなのだが、ビッグ・ジェイなどのようにときにめちゃくちゃになってしまうような暴走振りではなく、フレージングも上手く聞かせ、じつに音楽的ですばらしい演奏だと思う。C−2はシンプルなシャッフルのブルースだが、めちゃくちゃ上手いギターソロがフィーチュアされたあと、ゴリゴリのテナーソロが登場する。ボブ・ポーターのライナーによると、サム・テイラーであろうとのことだが、うーん、C−1と同じように聞こえるなあ。ハル・シンガーかもしれません。でも、ワンコーラスだけだが、とにかくめちゃくちゃ上手い。ツボを心得ていて、しかもなめらかで、音もいい。最高です。C−3は4ビートのブルースだが、さすがジェシー・ストーンで、リズムをひとひねりしたテーマは記憶に残る。ギターがフィーチュアされたあとテナーが……という構成はC−2と同じ。やはり、テナーはめちゃくちゃ上手い。ボブ・ポーターが言う通り、サム・テイラーなのかなあ……。ハル・シンガーかも……。わからんのかい! ていうか、テナーが2本入っているというところの確証が持てない。C−1とC−3はテナーがソロをしていて、もう一本はバリトンサックスである。サム・テイラーがセッションマンとしてもしバリトンを担当していたとしたら(十分ありうる)、テナーソロは全部ハル・シンガーではないかなあ(ハル・シンガーがバリトンを吹くとは思えないので)。C−2はテナー一本しか聞こえない(バリトンサックスの音はない)。もしかしたらサム・テイラーがテナーにチェンジしてのワン・ホーンのセッションになったのかもしれないけど……まあ、わからん。そんなことはどうでもよくて、このノリノリの音楽をたのしみましょうよ、と言われてしまえばそれまでだが、どうも気になる。個人的な見解は、テナーは全部ハル・シンガーというものだが、もっと耳のいいひとの指摘を待ちたい。C−4〜7はアーネット・コブ御大登場で、やはりまるで雰囲気がちがう。ノリはいいけれど基本的には全部ジャズである。C−4はフライングホームマナーの曲で、手慣れたブロウであるが、やはりめちゃくちゃかっこいい。やはりコブはこの「ノリ」が独特で、パッと聞くだけでコブだとわかるこの感じはほかにはない。フレージングも、いわゆるホンカーとは一線を画す。完全にコブの世界である。おなじみのフレーズも続出で、コブ好きにはたまらん快演。なお、ギターが入っているがメンバー表には書かれていない(なぜかこの曲にしか入っていないのです)。トランペットはエド・ルイスでトロンボーンはアル・グレイだそうで、やはりジャズ畑の人選である。C−5もリフ主体の超シンプルな循環の曲。サビで飛び出してくるコブのテナーがいきなりもうかっこいいっす。ソロもゆったりしたノリながらぐいぐいと盛り上げる。途中でキーが変わるアレンジで、コブは二度登場することになる。いやー、上手いです。C−6はやや早めのブルースで、コブは例のサブトーン混じりの音で軽々と吹き飛ばしていくが、この引っ張るノリといい、独特の音色といい、オリジナリティあふれるフレージングといい、だれにも真似のできない境地である。ホンクとかしなくても、ブルースフィーリングあふれる凄みのある演奏(コブはホンクをやらせても凄まじいのですが)。C−7は「フライング・ホーム・マンボ」で、ポコポコいうやかましいパーカッションを入れてマンボ仕立てにしている……というがソロがはじまるとマンボもくそもないのは御承知の通り。コブは、例によってイリノイ・ジャケーのコピーソロではじめ、ホンクになる直前で自身のアドリブに入っていく。これは後年もずっとそうやっていたやり方で、ジャケーをパクッているというより、あのソロは当時すでに「フライング・ホームのテーマの一部」となっていたという認識なのだろう。ブレイクを挟んでめちゃくちゃ激しさを増すコブの鬼のようなブロウには驚きます。凄い! もっとやってくれーっ、と叫んだところであっさりエンディング。
D面は全部キング・カーティス。やはりすばらしいですね。D−1は異常なほどのグロウルした音ではじまるスローブルースで、ミッキー・ベイカーのギターにピアノはハーマン・フォスター。オルガンも入ってるつす。ミッキー・ベイカーのギターはめちゃくちゃ鋭い音色で、時代が変わったなあ、と思う。もはやテナーブロウよりギターが求められる時代になっているのだ。それをほかならぬテナー奏者のキング・カーティスの録音で体現するとは……。カーティスのソロもめちゃくちゃ凄まじく、やはりこのひとはホンカーの血を引き継いでるわ……と思った。しかし、このコンピレーションに入っているグリフィンやレッド・プライソック、ウィリス・ジャクソンらの吹き込みからすでに10年が経っているのだから、サウンドの変化は当たり前である。2曲目はアル・シアーズの往年の(?)ヒット曲(ジョニー・ホッジス楽団との演奏が有名)「キャッスル・ロック」だが、この古い曲をテーマのあと、カーティスはパーカッションとのデュオを延々続けたあと(ここがハイライト)リズムが全部入ってからはバシッとソロを決める。3曲目はこれもジャンプファンにはおなじみのジョニー・リギンスの往年のヒットナンバー「ハニー・ドリッパー」で、シャッフルに近い4ビートでノリノリのリズムを聞かせる。カーティスのブロウは堂に入ったものだが、それよりもノリのいいリズムで、踊ってください……という感じの演奏。かっこいい。4曲目は「ロング・トール・サリー」のインストバージョン。ブギーなリズムがいいですね。カーティスも快調に吹きまくっている。めちゃくちゃ上手いですねー。ブレイクのギターもかっこいい(だれかはわからない)。こういのをやらせるとキング・カーティスはほんとにすばらしい。C−5はキング・カーティスの代名詞ともいえる「メンフィス・ソウル・シチュー」で、多くのコンピレーションでも聴けるおなじみの曲であり、あの最高の「フィルモア」のライヴでも取り上げられている曲だが、ライブの冒頭のようなノリでメンバー紹介をしていくノリといい、リズムの新しさ(ギターのカッティングとかエレベのラインとか16ビートのドラムといい……)完全に新しい時代が来てるなあ……と思わせる演奏。ファンキーというよりファンクな感じである。まあ、それも当たり前で、このアルバムに入ってるいちばん古い録音に比べると20年の開きがあるのだ。しかし、よく聴くとカーティスのソロ自体はさほど変わっていない。それまでのプレイヤーたちのいいところを集めて、新しいリズムに乗せている、という感じで、メロウなフュージョン……というよりはまだまだガツンといくブロウの魂があるような力強い演奏でたのもしい。フラジオでの絶叫なども、たとえばイリノイ・ジャケーなどを連想する。いやー、これはかっこいいわ。こういう演奏がジュニア・ウォーカーとかに影響しているのだろうと思う。C−6は跳ねる感じのドスのきいた8ビートで、ロックな雰囲気のブルース。ここでカーティスはエレクトリックサックスをプレイしている、とポーターのライナーには書いてあるが、聴いてもよくわからん。バリトーンのことか? ラストのC−7はツェッペリンの曲で、ワンコードでずっと行く8ビートの曲。こういうのを取り上げるあたりがキング・カーティスだよなー。ビッグバンドアレンジになっているが、いかにもこの時代のアレンジという印象です。
というわけで、この2枚組、ホンカーの顔見せに終わらず、テナーサックス→ギターへ移る音楽的な流れとか、リズムやサウンドの変遷など、いろいろなことがわかる秀逸なアンソロジーだと思います。個々のプレイヤーに興味を持ったひとはぜひそのひとのフルアルバムを探してみてほしいです。
「THOSE FLYIN’ JUMPIN’ & GRUNTIN’ SAXOPHONES」(QUEEN−DISK Q058)
イタリアのレーベルから出たブロウサックスのアンソロジーだが、SP起こしの海賊盤だと思われるので、簡単に紹介。A−1〜2はイリノイ・ジャケーのアラディン録音。1曲目はフライング・ホーム・マナーの曲。渾身の熱いブロウで後半はホンクやスクリームも見せつけるがやはりジャズマンとしての音楽性に裏打ちされているのを感じる。2曲目はミディアムテンポのこってりした曲で、ジャケーは軽くホンクも交えながら濁った音色で落ち着いた演奏。A−3、4はアーネット・コブのアポロセッション。A−3はフライング・ホームマナーの曲で「いまだに飛んでまっせ」というタイトル。コブはめちゃくちゃ快調に吹きまくる。後半はフラジオで絶叫。A−4はスウィングテナーとしての本領発揮。見事なソロ構成。A−5〜8はエディ・クリーンヘッド・ヴィンソンの登場。5と6はキングへの吹き込み。7と8はマーキュリー。一番有名なのは8の「キドニー・シチュー」。3曲とも声の裏返りも盛大で個性爆発。A−6の濁り声でのスキャットもかっこいい。メンバーにはバディ・テイトもいるが、クリーンヘッドのアルトソロもとてもいい感じ。クリーンヘッドはアルト奏者というよりはボーカリストで、それでちょうどうまくバランスが取れている。B面1、2はジョー・トーマス。このひとはジミー・ランスフォードとかにいた筋金入りのジャズテナー奏者だが、この時期はキングにこの手の録音をしていた。しゃがれ声のボーカルも本人なのか? ルイ・ジョーダンっぽさもあるジャイヴ的な歌でなかなかいい。2曲目はバップスキャットをまじえた演奏だが、しっかりした太い音で吹きまくるさまは凡百のホンカーを薙ぎ倒すような凄みを感じさせるブロウである。B−3〜7はルイ・ジョーダンのデッカ録音で、3、4は1947年となっているが49年の間違い? 5、6はビング・クロスビーとの共演作。こうしてちょろっと聴いてもルイ・ジョーダンはやっぱりすばらしい。B−4は大好きな曲。B−5「コール・スロー」はフランク・カリーの当たり曲。ルイ・ジョーダンのバージョンもすばらしい。
「BLOW YOUR HORN」(SOUP RECORDS T201)
BLACK POP(1)
これも選曲・音源提供が中村とうようのブロウテナーアンソロジー。A−1はレッド・プライソックで偽ライヴ仕立て。先発はバリトンサックスのクラレンス・ライトだが、そのあとプライソックはいきなりホンクからスタートしてブリブリ吹きまくる。全編これホンクという感じではあるが、随所にしっかりフレーズを聞かせながらのホンクなので聞き飽きない。やはりスターはちがう。スクリームしたところで観客(?)がキャーッと叫んでフェイドアウト。A−2はジミー・フォレストの「ナイト・トレイン」と同時に録音された演奏。さすがにジャズ的な上手さの光る演奏だがこってりしたコクもあります、という感じ。なぜか最後は曲の途中で切られてしまう。A−3、4はハル・シンガー登場。ホンクというほど重くないが軽くリズミカルに吹き続ける感じはめっちゃかっこいい。ずっとおんなじことをやってるだけやん、というひともいるかもしれないけど、これでみんな踊りまくれるのです。A−4は一転して超スローなバラード。ヴィブラホンも入って、ビブラートきかせまくり、エコーかけまくり、サブトーン出しまくりのテナーがムーディー。これでいいのだ! A−5はリトル・ジャズ・ファーガソンことチャールズ・ファーガソンが主役(アトランティックのアーネット・コブのセッションでバリトン吹いてたひと)。太くてしっかりした個性的な音色もいいし、フレーズも堂々たるものですばらしい。狂乱のピアノのバッキングもいいですね(だれだかわからんけど)。A−6、A−7はアール・ボスティック御大登場。テナーのホンカーたちを相手にまわしてアルトでタメを張れるのはボスティックぐらいか。大量の吹き込みがあるひとだが、ヴィブラホンを入れたバンドでいい感じの演奏。ずっとグロウルしていて、その音色がじつに気持ちいいのだ。しかも、フレーズといいリズムといい、めちゃくちゃテクニシャンで音楽的なので、聴いているとひたすら楽しい。A−7の「汽笛でジャンプ」という曲は「A列車で行こう」を模した曲……というより完全にA列車そのもので、当時はこのぐらいは許されていたのだろう。「ナイト・トレイン」もそういうノリなのだと思う。それにしてもボスティックは超絶的に上手い。さっきも書いたが馬鹿テクと音楽性が一体化していて、しかも音色が凄いので盛り上がることはなはだしい。感服いたしました。B面に行きましょう。B−1、2はバディ・テイトのおなじみセレブリティ・オーケストラの演奏でバディ・テイトは快調に飛ばす。こうしてほかのサックス奏者と並べて聴いても、個性的なフレーズですぐにテイトとわかる。やはりテナージャイアントである。B−3はアーネット・コブ登場。生涯の愛奏曲のひとつだった「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」をめちゃくちゃエロく、サブトーン使いまくりで吹く。コブも、どう聴いても「コブ」という個性が完全に確立しているグレートなテナーマンだ。俺はグレート、グレートテナーマン……と歌いたくなるほど。B−4、5はレッド・プライソック再登場で、2曲ともこの手の音楽としては典型的な演奏で、プライソックはまさにホンキングのボキャブラリーを自家薬籠中のものにしている感がある。B−5(「ハンドクラッピン」というタイトルでその名のとおり手拍子が絶妙)での凄まじい熱気のホンクもシンプルだが場当たり的にそうしているわけではなく、じつに巧妙な構成力で盛り上げていく。グロウルしたときの音色やノリのタメかたなど、すべてがあいまってこの個性的な音楽を作り上げているのだ。B−6はフレッド・シモンズというひとでバディ・テイト、アーネット・コブ、レッド・プライソックなどのジャズミュージシャンと比べると、ホンク一筋という感じで、音の濁らせ方もかなりきついし、ノリもバタバタしているし、スクリームも荒々しいが、そこがめちゃくちゃかっこいいのである。このひと好きやわあ。偽ライヴ仕立てにしたのもわかる。こういうひとを聴くのがブロウテナー愛好家の楽しみだろう。ラストのB−7はビッグ・ジェイ・マクニーリー大先生が締めくくる。これは偽ライヴではなく本当のライヴで、曲は「ディーコンズ・ホップ」。いやー、さすがにすごいっすね。だが、これぐらいのブロウはビッグ・ジェイにとってはいつものことなのだろう。もっとすごいこともやれるぜ、というような余裕が感じられる吹きっぷりである。ビッグ・ジェイもコブやテイトとちがって、俺の居場所はジャズじゃない、ここだ、という強い自信も感じる。とてもいいコンピレーションだと思います。
「TOUGH JAZZ FROM DETROIT」(P−VINE SPECIAL PLP−9042)
BLACK MUSIC IN THE 50’S VOLUME 10
とにかくタイトルがすばらしいではありませんか! 「タフ・ジャズ」という言葉がすごそうだし、デトロイトとはっきり地名をうたっているのもいい。しかし、どれほど凄まじいホンキングが行われるのか、と思って聞いてみるとそれほどでもないのだが、よくよく繰り返し聴いてみると、たしかに「タフ」で「ラフ」な演奏が詰まっていて、楽しいのである。上記「サックス・ブロワーズ・アンド・ホンカーズ」と同じシリーズで出た、デトロイト界隈のブルースっぽいジャズを集めたコンピ。A−1はワイルド・ビル・ムーアで、ジャズランドにリーダー作もある有名どころだが、上記「ハックルバック・ラインズ・オン・ヒズ・バック(ブロー・テナー)」の1曲目に入ってる「ウィ・ゴナ・ロック・ウィ・ゴナ・ロール」のひと。ホンカーというには゛もっとじっくり聞かせる感じ。2曲目は2曲目は「夜明けのブルース」というタイトルだが、夜明けにしては元気がよくて、たぶん夜明けにこんなことしてたらうるさい。ものすごく定番の展開だが、なるほど、これをホンクとかブロウテナーとかではなく「タフ・ジャズ」と表現したのはわかるような気がする。いわゆるクサいジャズで、洗練とかとは無縁なのである。演ってるほうもそれは心得ている感じ。3曲目にいたるとその感じはますます増してきて、ぐずぐず、ねっとりした雰囲気で、スコーン! とホンクしたりする方向にはいかないのである。こういう点が昔はピンと来なかったのだが、今はよくわかります。ピアノはウォルター・ビショップだが、さほど活躍するわけではありません。4曲目以降はフロイド・テイラーというピアニストのバンドで、とてもわかりやすいジャンプ系。テナーはのちのブルーノートの吹きこみでも有名なフレッド・ジャクソン。重たくねっとりしたノリで、それを楽しむという方向で。音色も丸くて、エッジの立っていない音なので、ちょっと「いなたい」というか田舎臭い素朴な感じ。でも、面白い。日本語ライナーを読むと「ワーデル・グレイを想い出させる」とあるが、そんなことはないなあ……。だれだかわからないがバリトンが効いていて、このあと「バリトン・ブギー」で活躍することになる。せっかくの「バリトン・ブギー」なのに、バリトンサックス奏者がだれだかわからないというのは惜しいが、聴いてみると、まさに「バリトン」の「ブギー」なのである(じつは、なんとポール・ウィリアムスだそうでびっくり!)。ピアノもがんばっている。バリトン奏者はフロイド・テイラー同様丸っこい音色である。トランぺッターががんばって盛り上げる。B面に行きましょう。T・J・ファウラーという、正直まったく知らないピアニストがリーダーだが、デトロイトのローカルミュージシャンながらかなりのキャリアを誇っている大物だそうです。1曲目、最初、テーマのあと、観客(を模した)の掛け声がウワーッと入ってきて盛り上げるのだが、すぐにぐだぐだになるあたりもいい。正直、こうなるとほとんどスウィングジャズそのものなのではありますが。2曲目は「ナイト・トレイン」的なトレインピースで、夜汽車に乗っていたらだんだん夜が明けてきて……みたいな雰囲気か。ウォルター・コックスのテナーが登場するあたりではかなり盛り上がっていて、すごくいい感じになる。3〜6曲は超有名人であるジミー・ハミルトンのローカル吹き込み。「タフジャズ」などというのは申し訳ないようなしっかりした演奏。ねっとりした濃厚なスウィングテナーで、たしかに「タフ」である。4曲目のオルガンの入ったバラードがすばらしすぎる。隅々まで気の行き届いた最高の演奏であります。5曲目は、洒脱な小唄的な感じで、ソロイストが4小節単位で次々と変わるが、そこがまた面白い。全員秀逸です。6曲目のブルースも、曲調がちょっとひねっていて、めちゃくちゃすばらしい。たしかにエリントンでもあるし、タフ・ジャズでもある。かっこよすぎる。7曲目もテナーの音色もすばらしいし、フィーチュアされているギターも(エミット・スレイというひと)すばらしい。オーラスのサックス・カリは、なにしろ名前が「サックス・カリ」ですからねー、さぞかしサックスをバリバリ吹いているのだろうと思って調べてみるとかなり有名どころだということがわかったが、「ボーカル、ギター、ピアノ、オルガン、サクソホーンズ」……って、「サックス・カリ」にしてはサックスの比重が低すぎる。しかし、ここに収められている演奏は、太い音色でバリバリ吹いている。残念ながらというかなんというかアルトのソロが直後にフィーチュアされ、4バースになったりするので焦点がぼけるが、めちゃくちゃ上手いひとだと思う。ミュージシャンというよりプロデューサー的な活躍をしたひとなのかも(このテナーはサックス・カリではなくレスター・シャックスフォアというひとかもしれない。サックス・カリはギターを弾いている? サックス・カリなのに? あー、もうようわからん!)。というわけで、タイトルにひかれて購入した本作、名前に偽りなし、でした!
「THUNDERBOLT」(FLYRIGHT FLY CD 29)
R’nB SAX INSTRUMENTALS
「THUNDERBOLT!」(KRAZY KAT KK778)
HONKIN’R&B SAX INSTRUMENTALS 1952−1956
レコードとCDはタイトルも「!」がついているかどうかだけでほぼ同じだし、ジャケットもアル・キングの写真(べつの写真)ではあるが、内容的には別物といってもいいアルバム。レコードは14曲収録でCDは20曲なのだが、CDがレコードにプラスしている……というだけではない。レコードに入っていてCDには入っていない曲もある。基本的にはアル・キングとウォーレン・ラッキーというホンカーの曲を中心にしたアンソロジーなのだが、CDの方は、レコードにはまったく入っていないフランク・カリーの曲が5曲入っている(バディ・テイトの3曲もレコードには入っていない)。個人的にはこのCDはフランク・カリーの狂騒的なテナーブロウを聴くためのものと考えているので、できればCDを入手してほしいところだが、それだとハリウッド・ヘンリーの「スウィート・ジョージア・ブラウン」、アル・キングの「メランコリック・ホーン」と「ビッグ・ウインド」は聞けないので、やはり両方入手しないと……ということになる。どーでもいいようなことだがどーでもいいわけではないのだ。とにかくCDを中心にしてレビューしてみたいと思う。CD1曲目から4曲目はウォーレン・ラッキーというテナーのひとのグループで、ここではLUCKYという表記になっているがネットではLUCKEY表記が多いようだ。ルイ・アームストロングのバンドに短期間在籍した、とか、ガレスピーの初期ビッグバンドに在籍し、有名なマイクロフトセッションにも参加している(「グルーヴィン・ハイ」と「シングス・トゥ・カム」)に入っているらしい)。1曲目に入っている「パラダイス・ロック」という曲はラッキーの最大のヒット曲らしいが、とにかく強烈で、野太い音でゴリゴリブロウするさまはすさまじい。後半のフラジオでのチュチュチュチュチュチュ……というフリークトーンもえげつない。2曲目はこのオムニバスのタイトルにもなっている「サンダーボルト」で、1曲目に負けない白熱の大ブロウが展開されて思わず拳を突き上げてしまう。コードが変わっていくにもかかわらず、断固として同じ音をホンクし続けるこの阿鼻叫喚の演奏はどんなひとの心をも揺らすはず! 3曲目はミディアムテンポの曲だが、はじまってすぐにフラジオというかフリークトーンでキーキー吹きまくる姿は「おいおい大丈夫か」と言いたくなるほどの凄さ。そのあと普通のホンクになるが、いやー、かっこええ! ウィキペディアで経歴を見たら、なかなかすごいひとだったようで、こういう猛者がゴロゴロしているアメリカのホンカー系テナーサックス業界の層の厚さを感じる。4曲目もガッツのあるブロウでめちゃくちゃすばらしい。いやー、ウォーレン・ラッキーはすばらしいです! 2005年まで存命だったらしく、リヴィングリジェンドといえるひとだったのではないだろうか。5〜7曲目と13〜16曲目、そしてラストの20曲目に分散されて8曲収録されているのがアル・キングで、本名はアルバート・キング(!)だそうである。もともとこの録音はジョー・デイヴィスというひとがアル・キングを録音するために立ち上げたものらしく、クレージーカットのLPの裏ジャケの英文解説にはそのあたりがかなり詳しく書いてある。アル・キングは超有名ブルーズマンのブラウニー・マギーのバックを務めたりしている。共演のバリトンサックス奏者のソロモン・ムーアはおそらく後年ガレスピーのビッグバンドで演奏しているピー・ウィー・ムーアと同一人物だろう、とライナーは推測している。本作収録曲でもジョニー・サンダーズ(!)やエディ・マクファディン、ハリー・ヴァン・ウォールズ(フランク・カリーのバンドでも演奏しているし、ヒッグ・ジョー・ターナーのアトランティックのヒット曲でも弾いている有名人)など大物が参加していて、アル・キングはあなどれん。5曲目は超アップテンポの循環曲で、破綻するほどの速さである。「フライン・ウィズ・ザ・キング」というタイトル通り、「フライング・ホーム」マナーの曲だが、とにかく迫力はある。6曲目は打って変わってミディアムテンポのブルーズで、聖者の行進を思わせるリフの曲。キングのテナーソロも中音域のぶっとい音を中心にして歌い上げていてすばらしい。7曲目はゆったりしたテンポのブルーズで、このしっかりした太くたくましい音色で演奏される輝かしいフレーズはこのひとの実力をはっきり示している。もっと有名になるひとだったと思うが……。8〜11曲目はフランク・カリーの登場で、この5曲がレコードよりもCDの価値を高めているといっても過言ではない。ほかのアンソロジーでも聴ける曲も多いが、こうして5曲まとまって聴けるのはとてもいいことだ。8曲目は低音でのホンキングからグロウルしながらの上昇のかっこよさ! ウィリス・ジャクソンにも通じる「俺はとにかくコレで行くぜ」的なまっすぐな演奏が心地よい。最後はひたすらホンクして、リスナーの期待に応えまくる。まさしくホンカーの王道である。9曲目はバリトンが利きまくりのブルーズで、超かっこいいっす。カリーのテナーも、まったく意味のないホンキングを最初からぶちかましていて、最高です。10曲目はアップテンポのブルーズだが、これもカリーの魅力全開で、タイトルが「ゴー・フロアショウ!」なんだからしかたないですが。行け行けカリー! とにかくわしゃフランク・カリーが好きなんだ! 途中の、フラジオともいえない高周波のフリークトーンはキングギドラの光線のようにすさまじいし、そのあとのブロウも理屈抜きにかっこいい。11曲目も楽しいテーマの曲。カリーのソロはコードを縫うような、しっかりとした歌心を感じさせるソロ。上手いんだよねー。12曲目はフランク・カリーのブロウ魂を見せつけるかのような、典型的なホンキングがきける。なんべんも言うけど死ぬほどかっこいいんです。フランク・カリー万歳! 俺は好きやでーっ! 13曲目からはまたアル・キングの録音だが、異常なほどのエコーがかかっていて笑ってしまうが、そのブロウぶりは圧倒的である。とにかく上手いので、そこに耳が行ってしまう。14曲目のブルーズは、基本的には同じことをひたすら繰り返す演奏なのだが、このグルーヴ感というか、バウンスする魅力はかなりすごいです。オルガンのジェイムズ・シグラーとドラムのスランシスコ・デ・シルヴァというひとも盛り上げに一役買っていて、すばらしい演奏。15曲目でもシルヴァのドラムが爆発している。16曲目は「とにかく全編ホンクしますから」という曲。しかもバリバリ上手い。もう、見事としか言いようがない完璧なホンカーぶりで、感涙するしかない。あー、すばらしい! 17〜19曲目はバディ・テイトで、フランク・カリーと同じくCDにしか入っていない。編成的にはセレブリティクラブオーケストラ的であるが、どうなのかと思って調べてみると、今は「セレブリティ・クラブ・オーケストラ第一州」というアルバムで全曲入手でおっる音源。。バリトンのベン・リチャードソンというひとが目立っている(このひとはバディ・テイトのアルバムではよく見かける実力者)。テイトのテナーは本当にすばらしく、こういったホンカーアンソロジーにジャズのひとが入ったときの「借りてきた猫」感や「大物過ぎる感」がなく、ちゃんと溶け込んでいる。ラスト20曲目はウォーレン・ラッキーのメンバーの掛け声も勇ましいロッキンブルースで、しめくくりにふさわしい。さて、レコードの方に触れておくと、CDに入っていないのは、B−5の(知ってるひとは知ってるけっこうな大物)ハリウッド・ヘンリーの「スウィート・ジョージア・ブラウン」で、このひとはバリトン奏者である。この曲はバリトンのワンホーンなので、そのあたりがCD化にあたって省かれた理由かもしれない。時折グロウルしてのブロウをまじえたさすがに上手い演奏だが、いかにもジャズ的である。あとは、A−6のアル・キングの「メランコリック・ホーン」という曲と、B−3の「ビッグ・ウインド」という曲。前者は、シャッフルのようなズンドコのような変なリズムに牧歌的なカントリー風なテーマが乗る面白い曲。ソロになると4ビートになる。後者はアップテンポの曲だが、ハリー・ヴァン・ウォールズのピアノがフィーチュアされ、キングのテナーも一本調子ではなく快調。短いベースソロもある。大物ではない、しかし、小物でもない、「有象無象」というにはあまりにすばらしいホンカーたちを聴くならばこのアンソロジー! ということになります。最初はレコードジャケットのアル・キングの鼻の穴をおっぴろげたおっさんがテナーを吹いている写真があまりに心を打ったので買ったのだが、CDは写真が変更されており、同じくアル・キングだが服も黒いスーツから真っ白になり、テナーもくわえずに持ったままにこにこしている……というのがいまいち物足らなかったりする。まあ、そんなことはどうでもいいが、とにかく内容最高のコンピレーションなので、CDでの入手をおすすめします。
「GO GIRL!」(BLACK TOP RECORDS BT−1059)
THE TRI−SAX−UAL SOUL CHAMPS:SIL AUSTIN,MARK”KAZ”KAZANOFF,GRADY”FATS”JACKSON
ブラックトップはブルースマンだけでなく、グラディ・ゲインズやグレッグ・ピッコロ、本作にも入っているハル・シンガーなどのアルバムをリリースしていて、ホンカー系好きにとっても見逃せないレーベルだが、本作は3人のブロワーを主役にしたがっつりの企画。シル・オースティンは大スターなので説明不要だと思うが、最初はホンカーとしてR&B系のブロウで有名になり、マーキュリーを中心に多くの作品を吹き込み、後年はムードテナーとして「ダニー・ボーイ」「ハーレム・ノクターン」などで(日本でも)絶大な人気を得たひと。つまり、サム・テイラーと同じような経歴なのだが、味わいは全然ちがう。とにかく斯界の大物である。グラディ・ファッツ・ジャクソンは、テナー中心だが、アルトも吹き、ボーカルもめちゃ上手い。経歴的には、アトランタのロイヤル・ピーコックというクラブのハウスバンドをしていたひとで、つまりはゲイトマウスなどで超有名なあのピーコックレーベルとも深いかかわりがあったらしい。バックを務めたブルーズマンのリストには目を剥くような錚々たるメンバーが並ぶ。マーク・カザノフはブラックトップのレコーディングはもちろん、アントンズという有名クラブでさまざまなブルースヒーローたちのバックのホーンセクションを務めている実力者である。サックスもテナーを中心にアルト、バリトンも吹く。本作はバックバンドもオルガンとピアノ両方入っていて充実しており、ゲストにはスヌークス・イーグリンやクラリンス・ホルマンも入っているという豪華盤。3人のサックス奏者がのけぞり気味に一本のマイクを分け合っているジャケット写真はわけもなく興奮するのであります。A−1は3人勢ぞろいのアップテンポのブギーで、先発はカザノフ。かなりグロウルした音色で荒っぽく吹く。続いてファッツのフリーキーなブロウ。そして御大シル・オースティンがなんと冒頭からギョエーッというフリークトーンをぶちかましてからのホンク。かっちょええーっ! そして3人による4バース。最高齢のシル・オースティンが一番なめらかなフィンガリング(といってもこの録音時点では60だが)。2曲目はカザノフをフーチュアしたブルーズだが、さまざまな小技がどれも見事でめちゃくちゃ上手い。ブラックトップといえば……のスヌークス・イーグリンのギターも爆発している。3曲目はファッツ・ジャクソンのサックスとボーカルをフィーチュアしたブルーズだが、この軽い演奏がなんともすばらしい。曲調はジャンプ系だが、ノリノリである。(たぶん)イントロはアルトでソロをして、なぜかそのあとのソロはテナーで取っている。どちらもすごく上手い。4曲目はスローブルースで、ファッツ・ジャクソンの朗々としたボーカルにオルガンがねちねちとからみつく。クラレンス・ホルマンのギターもシンプルだがかっこいいし、このシンプルなボーカル、ギターにゴージャスなホーンアンサンブルが入る、というのもまたかっこいいんだよねー。間奏のジャクソンのテナーもすばらしい。5曲目はシル・オースティンのブルースで、なんというか手慣れたもんで「吹き飛ばす」感じがする。ものすごく上手くてかっこよくて筆舌に尽くしがたい。こういう演奏を数限りなくやってきたのだろうな、と思う。ホルマンのギターソロも最高です。そのあとに出てくるオースティンのフリーキーなフレーズではじまるホンクなブロウにホンカー魂を見る。これを目のまえで聞かされたら、あとのふたりはじっとしていられないことでしょう。「ガッツだぜ……!」という感じです。A面ラストはカザノフのアルトをフィーチュアしたバラード。このアルバムのなかではとてもモダンな演奏かも。ギターが短い小節数をびしびし駆け巡るようなソロをしたあと、アルトも短いなかで言いたいことを言いつくすような……つまり昔のスウィングジャズのようなソロをする。こういうのもいいですよね。メイシオ・パーカーを連想したりして……。B面に行きまして、1曲目はマイナーの露骨に「エキゾチック」な曲。先発ソロはシル・オースティンで、ダブルタンギングなどをまじえた、ものすごく個性的で雰囲気をわかったソロ。リフのあとのテナーはカザノフだそうだが、ええ感じのところでフェイドアウト。2曲目はそのカザノフをフィーチュアした8ビートのR&Bっぽい曲。エッジのきいたテナーがこのアルバムのなかではかなりモダンな雰囲気を醸し出している。ところどころ4ビートになる。ロン・レヴィのオルガンを挟んでテナーがギョエーッと吹いてくれるのでうれしい。でも、これも惜しいところでフェイドアウトだよなー……。3曲目はシル・オースティンをフィーチュアしたスローブルーズで、ドスのきいた深みのある演奏。冒頭「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」引用しながら、緩急自在に吹きまくるシル・オースティンはすばらしい。そのあとスヌークス・イーグリンのトレモロっぽいギターが炸裂する。濃厚なテナーサックスのブルーズ。すばらしい。4曲目はキャロル・フランというひとの豪快でソウルフルなボーカルをフィーチュアした演奏で、この方はクラレンス・ホルマンの配偶者だそうである。シル・オースティンのグロウルしながらのブロウはすばらしい。5曲目はふたたびファッツ・ジャクソンのボーカルとサックスをフィーチュアしたミディアムソローのオールドスタイルのブルーズだが、ジャケット写真などではこのひとがさほど太っていないことが気になったりして……。ソロでは、ライヴでもおなじみのテナーとアルト2本吹きを披露する。カークみたいな感じだが、ああいう圧倒的な雰囲気ではなく、ひとつの「芸」という感じである。ラストはふたたび3人勢ぞろいで、アップテンポのブルーズ。3人とも「俺が俺が」という狂騒的な感じで、落ち着いた雰囲気がまったくないのがすばらしいです。とくにシル・オースティンがめちゃくちゃ元気なのがいい。というわけで、ホンキンサックスが好きなひとは聞き逃すなかれ、という内容のアルバム。だれがリーダーというわけでもないので、この項に入れたが、コンピレーションではありません。
「FIRST DIVIDE」(CBS COLUMBIA RECORDS FC36982)
MONTREUX SUMMIT
有名な「モントルー・サミット」の第一集と第二集から4曲チョイスしたベスト盤。私はとにかくデクスター・ゴードンの「レッド・トップ」を持っておきたかったからこのアルバムでいいのだが、モントルー・サミットは全編すばらしいので聴いたことがないひとはぜひ全曲聴いてほしいと思う。まあ、ここで4曲だけレビューしてもなんなので、簡単に紹介するにとどめたいと思います。A−1はスライド・ハンプトンのすばらしいアレンジが光る「フライド・バナナ」で、ゴードンの力強く、芯のある音での最高のブロウが聴ける。ほんまにすごい。絶好調である。いくらでもフレーズが湧き出てくる感じで、しかも自由奔放さも感じる。コルトレーンのような方法ではなく、バップテナーとしてこれだけの長尺のソロをぐいぐい聴かせ、そのうえ吹けば吹くほど盛り上がる、というのはゴードンのインプロヴァイザーとしてのとてつもない力を見せつけられた思いである。スライド・ハンプトンのソロも絶品。正確無比で、力強く、チャレンジングである。アレンジに定評のあるこのひとのインプロヴァイザーとしての魅力は、たとえば「ライフ・ミュージック」とかに顕著だが、ここでもその一端を垣間見ることができる。かなり豪快な部分もあって、ほれぼれする。ジョージ・デュークのエレピのバッキングが相当過激でかっこいい。そして、ウディ・ショウは冒頭からいきなりロイ・ブルックスとの8バース〜4バース。そこからひとりでのソロに雪崩れ込む。いやー、かっこええ。A−2はスタン・ゲッツをフィーチュアしたショーターの「インファント・アイズ」で、アレンジはピアノも担当しているボブ・ジェイムズ。1曲目とは打って変わったリリシズムあふれる繊細なゲッツの無伴奏ソロではじまり、サブトーンを駆使した、緩急のニュアンスをつけまくったすばらしい(すさまじいと言ってもよい)ワン・アンド・オンリーのテナーソロが延々続く。このテナーのアーティキュレイションの見事さは筆舌に尽くしがたい。いつ聴いても「キーッ」となるぐらい身体がよじれる。ボブ・ジェイムズの抑制の利いたソロのあと、ふたたびゲッツが透明感のある高音からはじまるソロを吹きはじめると、聴衆が、待ってました、という感じの拍手を送る。こういう演奏こそ「クール」というべきではないか。この部分のソロもマジで最高で、自分を律しながら、すみずみにまで気を配り、しかも作為的に感じられない……というすごい演奏である。B面に移ると、ウディ・ショウの超々々おなじみ「ザ・ムーントレイン」はショウ、デクスター・ゴードン、スライド・ハンプトンという豪華3管だが、先発ソロのゴードンが案外、といっては失礼だが、すごいソロをしていて、しかも、ああ、ゴードンってどんな曲でもテナーの響きを優先するんだなあ、とわかる演奏ですばらしい。つづくショウのソロがすごいのはもちろんだが、スライド・ハンプトンのソロも最高である。ロジカルなのにパッションがあふれている。めちゃくちゃかっこいい。そして、特筆すべきはピアノがジョージ・デュークで、そのソロがすごい、ということである。なんと豪華なことか。そして、ラストのお待ちかね「レッド・トップ」はチャーリー・パーカーのブルース(アレンジによってサビっぽい部分が付け加わっている)だが、これもすばらしいスライド・ハンプトンのめちゃくちゃモダンなアレンジに圧倒される。ゲッツのバリバリのソロ(正直、めちゃくちゃかっこいいのだが)のあとで出てくるゴードンのソロのレイドバックしまくったノリの凄まじさに時空間が崩壊するような思いである。ゲッツとの4バースあたりから露呈する異常なまでの重いノリは凄すぎて言葉がない。ヒューバート・ローズのフルート、ウディ・ショウのトランペットも気合いの入りまくったものだ。そのあとのメイナード・ファーガソンとの高音バトルも、こういうジャズフェスティバルにはふさわしいものかもしれない。しかも、音楽的にもトランぺットのテクニカルな意味でもかなり高度なバトルである。ウディ・ショウが、ちゃんとこういう場面でハイノートを得意とするファーガソンと対等に渡り合っているのがファンとしてはうれしいのである。簡単に触れるつもりがけっこう細かい紹介になってしまったが、それだけ名演ぞろいということで、このアルバムを聴いて興味を持ったひとはぜひ「モントルー・サミット」の第一集と第二集を聴いてみてください。
「OH,WE−SHOULD−BE−BOP」(ARISTA RECORDS 22RS−23)
SAVOY ROOTS OF RHYTHM & BLUES VOL.3
サヴォイ原盤のアンソロジーで、日本では中村とうようの監修で「バップ・ヴォーカル」というタイトルで出たもの。「ブロー・テナー」と同じシリーズ。日本でバップボーカルをポピュラーにしたのはエディ・ジェファーソンであって、リッチー・コールの「ハリウッド・マッドネス」をはじめとする諸作への参加で、ジャズファンが「へー、こんな面白いのがあるのか」と蒙を開かれたのだと思う。バップボーカルやヴォーカリーズは個人的にはめちゃくちゃ好きで、マンハッタン・トランスファーの「ヴォーカリーズ」で一般的な偏見はすべて払拭された……と思っていたのだが、どうやらそうでもなく、今もヴォーカリーズやバップスキャット的なものに対する偏見がジャズボーカルファンの一分にはあるようだ。悲しいことであります。まあ、それはそれとして、ヴォーカリーズといえば、バブス・ゴンザレス、ジョー・キャロル、エディ・ジェファーソンだが、本作はこの3人が全員入っているというだけでもショーケース的な価値がある(あとはキング・プレジャーか?)。共通して言えることは、皆、グレイトなジャズミュージシャンのヴォーカリーズに真摯に取り組んでいるということで、本当にすごいことだと思う。たぶん当時、バップスキャットなどキャブ・キャロウェイ的なノベルティな芸事(それはそれでエンターテインメントとしてすばらしいが)だと思われていたと思われるが、実際はここで聴かれるように、スウィング〜バップミュージシャンのアドリブソロを採譜し、それに歌詞をつけて再現する、という、ソロを吹いた本人でもむずかしいことをコツコツやっているわけで、こうしてまとめて聴くと感動的である。このアルバムがすごいのは、歌詞を全部聴きとって載せている点で、面白さは格段に上がる。A面1〜4はバブス・ゴンザレスで、この3人のなかでは一番声がファンキーだと思う(ガラガラ声というか)。声を聞いているだけで心地よい。ロリンズやグリフィンと親しかったひとで、ベニー・グリーンとのブルーノート録音も有名だが、ここではそのキャリアの初期の演奏が聴ける。1曲目を聴けばわかるが、バップスキャットのシンガーは独特の声の出し方というかコトバの発音をしているので、それが耳に残ってしかたないのである。1曲目の「オーニソロジー」など、けっこう複雑なコード進行なのにそれを難なくこなしてスキャットしまくるゴンザレスには感動するしかない。じつはこの曲を聴き過ぎて、「ヒヤパパヒヤパパ、フパバッパ……」という箇所が頭のなかをぐるぐる回るという現象がときどき起きるのです。バックバンドも8人編成で、ハンク・ジョーンズ、カーリー・ラッセル、オシー・ジョンソン、テナーにバディ・テイト……という豪華なメンバー。フィーチュアされるバリトンはモーリス・サイモンというひと。テイトのテナーソロもある。2曲目は完全にノベルティな曲で、メンバー全員のコーラスとテイトのテナーブロウの掛け合いが楽しい。3曲目はなんとレニー・ハンブロがリーダーの演奏たそうだが、真っ向勝負のガチンコのバップスキャットが聴ける。それに対してハンブロも正面からバップなソロをぶつけていて、聴いていて手に汗握る、というか、ハードバップではなくビバップというムーブメントが生々しく演奏されていた時代を感じる。4曲目も同様で、本来は歌詞があるスタンダードをあえてスキャットでテーマを歌い、レニー・ハンブロが熱くバップアルトをぶつける。バップアルトとバップスキャットが一体になっている演奏に、時代を感じる。すばらしい。5〜8曲目はエディ・ジェファーソンで、声が独特なので聴けばすぐにわかる。「ボディ・アンド・ソウル」はジェイムズ・ムーディーのソロに基づいたヴォーカリーズで、エディが後年までレパートリーとしていた曲。「バードランド・ストーリー」は、そのジェイムズ・ムーディーが歌詞にも出てくる、バードランドにパーカー、ガレスピー……らと共演した経験などを踏まえた曲。もしかしたらジャズ史の資料としても貴重かもしれない。「アイ・ガット・ザ・ブルーズ」という曲は、なぜかブルースではなく「レスター・リープス・イン」である。「ハニーサックル・ローズ」はだれかのアドリブに歌詞をつけたものではなく、アドリブである、とライナーにはあるが、だとしたらめちゃくちゃすごいことだと思う。それぐらい鮮やかで、自然なスキャットなのだ。フィーチュアされるテナーソロはなかなかの手練れだが、ドラムがセシル・ブルックスって……と思って調べてみると、どうやらあのセシル・ブルックス三世のお父さんらしい。どひゃーっ。B面に行きまして、ジョー・キャロルの登場。1曲目は「レディ・ビー・グッド」を洒脱に、ジャイヴ感あふれる雰囲気でスキャットをまじえて歌い上げる。しかし、スウィングしまくっている。一か所、声を思いきり張るところがあって、かなりの迫力である。バックはディジー・ガレスピーとパーシー・ヒース、ミルト・ジャクソン(ピアノ)、アート・ブレイキー……と思い切りバップである。2曲目も洒落た曲で、こういうのも得意としていたのだとわかる。じつに軽快で、楽しい。ガレスピーの張り切ったソロも聴ける。3曲目はルイ・ジョーダンの「スクール・デイズ」をややゆっくりのテンポで、手拍子を交えたけっこうヘヴィなビートで聴かせる。ガレスピーはこの曲が好きなようで、57年のニューポートのビッグバンドでもみずから歌っている。キャロルは、全曲を歌うわけではなく、つまみ食いのように一部を歌っている。バリトンはビル・グラハム。ガレスピーのソロは火が吹くような熱さ。4曲目はバンドメンバーのコーラス(?)も楽しいノヴェルティな曲。5曲目はアンブレラ・マン」という曲。ガレスピーがサッチモと共演した映像でもやっているので有名かも。バップスキャット的な意味のない言葉をまじえた歌詞で楽しい。6曲目はジョー・キャロルがサッチモの物まねで歌う。ガレスピーのソロも高音中心でサッチモ的なフレーズを吹きまくる。7曲目はジョー・キャロルを代表する曲で「ウー・シュビドゥビ」というタイトル。やはりこういう曲がキャロルには似合う。ガレスピーのソロもグラハムのソロもいい雰囲気。ラストの8曲目は、フレディ・ストロングというひとのヴォーカルで、太い声でシャウトする、バップボーカルというより ブルースシャウターである。先発ソロはなんとコルトレーンで、はじめてのソロ録音だというが本当かね。すごくちゃんとしている。そのあとのガレスピーの凄まじいソロがすべてをかっさらってはいくけど……。というわけで、このコンピレーションを聴いて、あとは自分の気に入ったヴォーカリストのアルバムを聴けばよい、という仕組みであります。
「FROM SPIRITUAL TO SWING」(VANGUARD RECORDING SOCIETY LAX−3076/7)
CARNEGIE HALL CONCERTS 1938/39
言わずとしれた歴史的大名盤。歴史的という言葉を安易に使うのはどうかと思うが、本作はさすがに使ってもOKでしょう。よくもまあ録音されていたよなあ、と各方面に感謝したくなるような奇跡のライヴ。ベニー・グッドマンのバンドとカウント・ベイシーのオーケストラ、それにブギウギピアノたちが核になっているのだが、とにかくまあ垂涎のメンバーである。ベニー・グッドマンは、チャーリー・クリスチャン、ライオネル・ハンプトン、ピアノがフレッチャー・ヘンダーソン……というものすごい顔ぶれだが、演奏内容もめちゃくちゃ良くて、とくにハンプトンの猛烈なソロやクリスチャンのモダンに歌いまくるギターソロがすばらしい。カウント・ベイシーも、フレディ・グリーン、ウォルター・ペイジ、ジョー・ジョーンズというオール・アメリカン・リズムセクションに、レスター・ヤング、ハーシャル・エヴァンス、アール・ウォーレン、ジャック・ワシントン……というオールド・ベイシーで最も凄かったときのサックスセクションであり、トランペットはバック・クレイトン、ハリー・スイーツ・エディソン、エド・ルイス、シャド・コリンズで、そこにゲストとしてホット・リップス・ペイジ(すばらしく熱いソロで驚く)が加わるという豪華版。トロンボーンもディッキー・ウェルズ、ダン・マイナー、ベニー・モートンという、オールド・ベイシー好きならおなじみの顔ぶれ。あー、豪華すぎるライヴ。ほんまに録音されていたことが驚きである。というか、当時はこのメンバーがあたりまえのレギュラーメンバーだったわけやからなあ。ヘレン・ヒュームズもいつもの軽い感じで、じつは深いブルースを歌っている。レスター・ヤングのクラリネットもヘレンとまったく同じ印象で、軽いのに深く、感動させられる。アイダ・コックスというシンガーはヒュームズとは逆で、典型的なブルースシンガーだが、このひともヘヴィな歌声でいい感じである。ベイシーバンドピックアップメンバーでの「モーギッジ・ストンプ」という曲は「ジャンピン・アット・ザ・ウッドサイド」のあのおなじみのイントロが使われている循環曲。ベイシーに関して残念なのは、ハーシャル・エヴァンスのソロがないことだが、まあ欲張ってはいけませんね。とにかくレスターは全編最高のソロを聴かせてくれている(今思いついたことは今試す、的な演奏なので、リズムへのノリや音色がリラックスしまくっているのに、ソロはエキサイティングなのである)。ベイシーバンドのピックアップメンバー(カンサスシティ6)は、このときだけの特別編成で、なんとチャーリー・クリスチャンが加わっている。つまりフレディ・グリーンの4つ切りをバックにクリスチャンがソロをしてたりするわけで、これを「歴史的」と言ってもバチは当たるまい。しかも、演奏内容も最高なのだ。カウント・ベイシーが派手なストライドを披露するコテコテの演奏も入っているが、そのストライドの名手というか創始者というか……のジェイムズ・P・ジョンソンの演奏が多数入っていることも本作の魅力のひとつである。本作は、ミードルクス・ルイス、ピート・ジョンソン、アルバート・アモンズのいわゆるブギウギトリオを大きくフィーチュアしていることでも知られているが、ブギウギピアノはストライドピアノとはもちろん違う。しかし、ブギウギピアニストとして有名になったひともじつはすとらいども得意だったりする。ここで聴かれるジェイムス・Pの演奏は本当に最高で、迫力というか気迫も凄くて、ノリもすばらしい。私はなにを血迷ったか学生のときに、「ファーザー・オブ・ストライドピアノ」というジェームズ・PのLPを購入して以来大ファンなのである。そして、最高のニューオリンズジャズも入っている。「ニューオリンズ・フィートウォーマーズ」名義だが、要するにシドニー・べシェ〜トミー・ラドニエバンドである。ここでのベシェのソプラノは本当にすばらしく、ピアノがジェームズ・Pでベースがウォルター・ペイジ、ドラムがジョー・ジョーンズ、トロンボーンがダン・マイナーという、ベイシーバンドからの借りもの的なメンバーなのに、めちゃくちゃかっこいい。ベシェは「我々が演ったのはデキシーランドジャズではなく、純粋なニューオリンズジャズなのだ」と語ったらしいが、なるほどと納得する演奏。おなじみのゴールデンゲイトカルテットはアカペラコーラスで徹底的にエンターテインメントなのだが、見事としか言いようがない。同じく4人組コーラスグループであるミッシェルズ・クリスチャン・シンガーズはゴスペルカルテットで日頃はそれぞれべつの仕事に就いている。ゴスペルのことはほとんど知らないが、めちゃくちゃええ感じではないか。本作のブルース的な興味は、サニー・テリーとビッグ・ビル・ブルーンジーの参加にあるのだが、サニー・テリーはウォッシュボードを相方にして甲高い声で歌い、ハープを吹く。ジャズ的なメンバーに囲まれながらおのれのいつものブルースを押し通していてすばらしい。ブルーンジーも声が若いよなあ。まだ30代なのだ。こののちヨーロッパなどでも有名になるのだが、そのまえの貴重な記録。アモンズのピアノ伴奏もまったく違和感はない。ブギウギトリオに関しては、ここにカウカウ・ダベンポードとジミー・ヤンシー、パイントップ・スミスを加えればブギウギ界まスーパースターが揃う……というぐらいの豪華メンバーである。めちゃくちゃかっこいい。まさにアナーキーなまでにピアノを叩きまくっていて最高である。ピート・ジョンソン〜ビッグ・ジョー・ターナーの「ロール・エム・ピート」コンビの曲も1曲入っているが、ターナーの声が若々しいので驚く。「イエスイエス」とか「オーライトゼン」「バイバイ」……というフレーズはアトランティックの録音でも使っているわけで、こんなころから使っていたとはなあ……。本当にすばらしいです。本作はハイライトのひとつはC面に入っているベイシーバンドをベースにした面子にさまざまな顔ぶれが参加したジャムセッション「レディ・ビー・グッド」だろうが、ピアニストだけでも、ベイシー、ジェイムズ・P、ミードルクス・ルイス、アルバート・アモンズ、フレッチャー・ヘンダーソンと5人が参加していて、それぞれを聴き比べるだけでも楽しい。そして、レスター・ヤングのソロのすばらしいことよ! ジョー・ジョーンズのドラムが弾けていて、全員を鼓舞しているのがわかる。とにかく最上のエンターテインメントとして、また芸術として、そして、ジャズ史を体現したような貴重な内容も含めて、私は大好きなのであります。傑作。
なお、本作はアンソロジーとかオムニバスとかコンピレーションではなくカーネギーホールにおける1夜(2夜?)の記録だが、ほかに入れようがないのでここに入れました。
「BEBOP PROFESSORS」(CAPITAL RECORDS/東芝EMI ECJ−50073)
粟村政昭氏選曲によるビバップ初期音源のアンソロジーで、学生時代、A−7のバブス・ゴンザレス目当てで中古で買ったのだが、やはりバズフ・ゴンザレスが突出して私の心をつかんだ。でも、ほかの曲もすばらしいものが多い。もちろん、そんなに珍しい音源が入ってるわけではないのだが、選曲のセンスがよくて、バップ初期のがちゃがちゃした雰囲気を上手く伝えている。A面はタッド・ダメロンのビッグバンドが6曲入っているが、とにかく今の目からすると異常と言えるぐらいメンバーが豪華で、それも「無駄に豪華」という感じなのだ(つまり、ソロをしていないメンバーが多い)。サヒブ・シハブとセシル・ペインが並んでいる、というようなサックスセクションはすごすぎる。デクスター・ゴードンもいる。トランペットはファッツ・ナヴァロが2曲、マイルスが4曲で、トロンボーンはカイ・ウィンディングが2曲、JJが4曲。リズムはダメロンにカーリー・ラッセル、ケニー・クラークにパーカッション……というとんでもないバップオールスターズである。1曲目はおなじみの「シッズ・デライト」でファッツ・ナヴァロ、カイ・ウィンディング、デクスター・ゴードン……とめちゃくちゃ短いがソロがチェイスされ、効果的なアンサンブルが入る。2曲目は、なんじゃこれ、という感じの女性ボーカル(レエ・パールというファルセットでクラシック的に歌うひと)をフィーチュアした曲で、ビバップというイメージからはかなり遠くて面白いが、そのあとナヴァロの溌剌としたソロからはグッとバップになる。サヒブ・シハブのアルトも音もすばらしいし、フレーズもめちゃ小気味よい。3曲目は「ジョンズ・デライト」というタイトルどおり、ジョン・コリンズのギターを大々的にフィーチュアした曲で、テーマ部分もアンサンブルは抑え気味。歌いまくるギターソロのあとに出てくるJJのソロはおとなしめだが、そのあとのアルトがリードするアンサンブルとゴツゴツしたピアノソロは聴きものである。4曲目、5曲目はケイ・ペイトンという女性ボーカルをフィーチュアした「ファッツ・ニュー」と「天国の扉は広く開いてる」という曲で、こういう方面は一番疎いのでこのひとは有名らしいけど全然知らん。ボーカルのことはさっぱりわからんけど、アレンジはすばらしいと思います。6曲目はアルトとバリトンがギターが効果的なアレンジでかっこいい。7曲目はさっきも書いたけどこのアルバムのなかではもっとも好きな曲。とにかく「バップ・ヴォーカル」というのをこれほど前面に押し出した演奏も49年の時点ではなかなかなかったのではないか。ものすごく濃い演奏である。何十回聴いたかわからない……というか、このアルバムでは正直この曲ばっかり聴いてたような気がする。粟村氏の解説では「ユニークなシンガー」「ゴンザレス自身の唱法はともかくとして」「珍品」などとあまり賞賛していないような文言が続いていて私としては「あー……」と思っているが、とにかくだれがなんと言おうとこの曲の演奏は「好きっ!」なのだ。ボーカルのあと登場するのはJJだと思うが、そのあと(これが初吹き込みの)ロリンズの堂々としたソロ、たぶんベニー・グリーンのソロ、そしてJJとグリーンの短いバトルがあってテーマ……。タイトルも「キャピトライジング」とレーベルにヨイショしていて、いいですね。もう、このA−7を紹介したら個人的にはそれでいい、と思っているのだが、そうもいかないので。A−8もテーマのあとふたりのトロンボーン、ロリンズの硬質なソロ、もう一度トロンボーンソロ……という構成。B面(あんまり聞いたことがない)に移って、1,2曲目はまたまたバブス・ゴンザレスのバンド。B−1は「セントルイスブルース」で、歌詞もけっこうおもろい感じであるが、例のマイナーな部分は一瞬だけで、ほとんどの部分はブルース進行でのソロ回しが占めている。ロリンズのゴツい感じのソロがなかなかいい感じ。しかし、ゴンザレスがすべてをさらっていくのはやはりスターということか。2曲目なんだかよくわからないタイトルだが、スキャットによるマイナーのアップテンポ曲。こういう曲でもゴンザレスはきっちり筋を通すような歌い方をするので心地よい。情熱をぶちまけるように登場するアルトはアート・ペッパーで、短いソロだがすばらしい。JJとハービー・ステュアートのソロもいい感じだが、そのあとゴンザレスの迫力あるボーカルが「全部持っていく」感じでかっちょいい。B3から6まではなんとチャーリー・バーネットのビッグバンドによる演奏で、私が抱いていたチャーリー・バーネットの印象とはかなりちがう、グワーッ! と来て、ゴーッ! と行く感じである。メイナード・ファーガソンやラフル・エリクソン、クロード・ウィリアムソン……といった名前が目につくが、とにかくこのバンドを聴いて感じるのは、ディジー・ガレスピーがほぼ同じころ(少しまえ?)に率いていた「シングス・トゥ・カム」あたりのビバップビッグバンドのような……とにかく「バップ」なのだ。たぶん全員白人で構成されているこのバンドが、このような過激なバップサウンドを49年に、しかも、それがあのチャーリー・バーネット楽団が……というのはショッキングでもありました。先入観はあかんねー。すばらしいと思います。ラストはジャストジャズコンサートからのライヴの2曲で、ふーん、キャピタルが録音していたのか。リーダーはルイ・ベルソンだが、正直、メンバーを見ると笑ってしまうようなごちゃごちゃな編成である。こういうことが許される「ジャズ」というのはなかなか面白くないですか? クラーク・テリー、ワーデル・グレイ、ウィリー・スミス……あたりはまだ許せても、ユアン・ティゾールがバルブ・トロンボーン、ジョン・グラスがホルン、ハリー・カーネイがバリサク、ビリー・ストレイホーンがピアノ、ウェンデル・マーシャルがベース……って、おい、めちゃくちゃやないか! めちゃくちゃ、というのは、めちゃくちゃすごいというのではなく、バラバラやないか、という意味である。まあ、JATPもそんなとこあるからなあ。名のあるミュージシャンを呼んでくりゃあええねん、というのは大間違いなのであるが、そういうおおざっぱな発想が思いもよらぬ展開を生んだりするからジャズというのはなかなかあなどれんのだ。というわけで、このレコードはバブス・ゴンザレスのA−7を聴くだけのために持っているような気がするが、そういうのもいいでしょう。
「TEXAS RHYTHM & BLUES」(ACE RECORDS CH29)
何十年間かまえに中古で買ったテキサス・ジャンプ・ブルースのオムニバスで、それ以来愛聴している(テキサスジャンプとヒューストンジャンプのちがいがまったくわからんのだが……)。A面はまるごとカル・グリーンが中心となった演奏で、A1〜2はコニー・マック・ブッカー(全然知らん)というピアニスト〜シンガーのバック(ホーン入りで、いかにもテキサスジャンプという感じ)。カルのギターが泣きまくるめちゃくちゃかっこいい演奏。3曲目は「フーピン・アンド・ハラーリン」という曲でプリーチャー・スティーヴンスというシンガーのバックだが、このひとはライナーノートにも「謎のひと」と書いてある。しかし、かなりの実力者で聴きごたえがある(とブルースをあまり知らない私が言っても説得力がないかもしれないが)。4曲目はまたコニー・マック・ブッカーのバンドで、カル・グリーンはテキサスっぽい(つまり、Tボーン、ゲイトマウス、ロイ・ゲインズ……的な感じ)のいなたいギターを聴かせてくれてかっちょいい。A−5〜6はちょっとシャウター系のクイン・キンブルというひと(すんません。このひとも全然知らん)のバックでギターを弾き倒している(この曲もたぶんバリサクとテナーが入っている)。2曲目はテナーサックスソロも炸裂している(だれでしょう?)。B面はキング・カーティスで、そうだそうだ、キング・カーティスが入ってるからこのアルバムを買ったのだ。B−1〜4はキング・カーティスバンドをバックにしたメルヴィン・ダニエルズというピアニスト〜シンガーの演奏。申し訳ないがこのひとも全然知らん。キング・カーティスバンドのバッキングは申し分ない(たぶんテナーとバリトンの2管)が、メルヴィン・ダニエルズのボーカルもなかなかええ感じである。1曲目のカーティスのテナーソロもかっこいい。2曲目のやや甘い感じのスローブルースでのカーティスのソロはサブトーンメインでベン・ウエブスターみたいです! 3曲目のジャンプなブギでのボーカルは明るく溌剌としていてばっちりはまっていて才能あると思うが、カーティスのテナーの間奏に耳が行く。4曲目はボーカルがコーラスになっていてなかなかノベルティな楽しい感じ。テナーソロもかっこいい。5〜6はクラレンス・ボントン・ガーロウで、やっと名前を知ってるひとが出てきた……。ニューオリンズ(とはあんまり関係ないみたいだが)っぽい低音をきかせるボーカル、カリコリと炸裂するピアノもすばらしい。5曲目も過激に攻めてくる感じはあるのだが、ルイ・ジョーダンっぽいジャンプな楽しさもあり、テナー(だれだかわからん。キング・カーティスなのか?)もかなりゴリゴリ吹いていてすばらしい。6曲目はガーロウのピアノとボーカルがたっぷり聴ける。いずれにしてもこのアルバムは、テキサス〜ヒューストンジャンプブルースの最良のアンソロジーのひとつであることはまちがいない。私は大好きで、ずっと聴いてます。
「NEWPORT IN NEW YORK ’72 THE JAM SESSIONS,VOL 3〜4」(ATLANTIC RECORDING CORPORATION P5077〜8A)
ニューポートジャズフェスティバルをニューポートからニューヨークで開催するようになった72年のライヴ。いろいろと問題があり、金もからんでいたのだろうと思うが、とにかくジョージ・ウェインはそのときのコンサートの模様を大量のレコードに分散して発売した。これはたぶん5枚出たうちの3と4をカップリングしたもの(の日本盤)。私にとっての最大の価値は第4集におけるローランド・カークの参加によるが、この演奏は学生時代に先輩に聴かされて「ええーっ、無茶苦茶やん」と思ったものである。「ミンガス・アット・カーネギー・ホール」よりずっとひどいと思う。まあ、それはあとで述べるとして、3には1972年にニューポートジャズフェスの一環として行われた「ミッドナイトジャムセッション」(本当に夜中から朝までやってて、超満員だったらしい)のうち、ラジオ・シティ・ミュージック・ホールでの7月6日開催の分の一部が収められている。メンバーはトランペットがジョー・ニューマン、ナット・アダレイ(コルネット)、テナーがイリノイ・ジャケーとバッド・ジョンソン、バリトンがジェリー・マリガン、トロンボーンがタイリー・グレン(スウィング系ビッグバンドを歴任し、サッチモのバンドにもいたひと)、ピアノがジャッキー・バイアード、ベースがチャビー・ジャクソン、ドラムがエルヴィン・ジョーンズ……とこの種のセッションにありがちなめちゃくちゃなごった煮的なメンバー構成で、こういう大向こう受けを狙ったJATP的な雑なセッティングからなにか音楽的な成果が上がるというのは稀だが、ときには新旧のぶつかり合いから新しいなにかが生まれる可能性もなきにしもあらず……だと思う。スウィング系のミュージシャンが多いが、ピアノがバイアードでドラムがエルヴィンというのはなかなか面白い。A面1曲目のパーディドにおけるイリノイ・ジャケーの先発ブロウ(JATPでのフリップ・フィリップスとの当たり曲)はやっぱりエキサイトするし、(たぶん)ジョー・ニューマンのソロのあとに出てくるバッド・ジョンソンのテナーは(フリークトーンをぶちかましたりもするが)けっこうモダンだ。そのあとのタイニー・グレンのトロンボーンソロはめちゃくちゃ端正で歌いまくり、かっこいい! マリガンはいつものマリガンで落ち着いていながらじわじわとフレーズの魅力で盛り上げていく。続くナット・アダレイ(たぶん)はあいかわらずかすれた音でけっこう大づかみで吹きまくるが、そのときのエルヴィンのバッキングがなかなかものすごい。ジャッキー・バイアードはまさに我が道を行くソロでさすが。ベースソロはウォ―キングでバイアードとのからみが楽しい。そして、エルヴィンのドラムソロだが……はははは、エルヴィンはジャケーとやろうがバッド・ジョンソンとやろうがエルヴィンでした。ここをゲラゲラ笑うためにこの演奏の価値はある。B面に行って1曲目は「ミスティ」でジャケーをフィーチュアした短い演奏だが、これがもう完璧といっていい出来映えで、ほれぼれする。ジャケーはすごいし上手い。油井正一はこういうのをちゃんと聞いてたのかなあ。こういう場では「曲」などというものはあまり意味はなくて、「循環」「逆循」「ブルース」「スタンダード」……ぐらいの記号的な意味合いしかないと思うが、そういうなかできっちりと「曲」を味合わせてくれたジャケーはすばらしい。2曲目は「ナウズ・ザ・タイム」で先発のタイリー・グレンのトロンボーンが見事すぎる。続くバッド・ジョンソンのソロもめちゃくちゃ上手くてモダンな演奏。ナット・アダレイのソロの最後にだれかが(本人か?)「うえっ!」と叫ぶのがよくわからん。マリガンのソロの2コーラス目でなぜか突然ブレイクが入るのだが、ここでのマリガンの対応のすばらしさには感涙。めちゃくちゃかっこいいですわー。ジョー・ニューマンも、バッド・ジョンソンと同じく、こうして聴くとかなりモダニストだと思う。ハイノートでのブロウも崩れないし、息の長いフレーズもすばらしい。達人ですね。エルヴィンのバッキングにも注目。そして、バイアードはほんと「奇才」という感じの洒脱でヘンテコなソロをかます。イリノイ・ジャケーはグロウルしながらシンプルなリフを積み重ねて盛り上げていく。そのあとマリガン中心のアンサンブル(?)になり、エルヴィンのドラムソロに雪崩れ込むが、これはまさしくエルヴィンとしか言いようのない世界なのだが、不思議とそれまでの演奏と違和感はない。2枚目に参りましょう。こちらは同じくラジオ・シティでのミッドナイトジャムで日時は1枚目と同じ6日の演奏。A−1「ブルーン・ブギー」は、メンバーはかなり増えて、トランペットがクラーク・テリーとハワード・マギー。どちらもこういうジャムセッションの常連である。サックスはソニー・スティットとデクスター・ゴードン。そしてなんとゲイリー・バートンのヴァイブ、ジョージ・デューク(!)のピアノ、ジミー・スミスのオルガン、アル・マッキボンのベース、アート・ブレイキーのドラムである。今から考えるとゲイリー・バートンというのはかなり驚くが、当時としては新進のハードバップもやるビブラホン奏者、みたいに思われていたのかなあ。先発は(たぶん)クラーク・テリーでどっしりした安定感のあるソロ、つづくデクスター・ゴードンはなんとテリーが3コーラスなのに10コーラスも吹き続ける。こいつはなにを考えとるんや! と皆が思ったのが伝わったのか、最後はコーラスの途中で辞めてしまう。でも、ゴードンらしいソロです。つづくハワード・マギーのソロは見事なまでにバッピッシュで破綻もなく、かっこいい。そして、スティットのソロは日本語ライナーのメンバー紹介欄によるとアルトとなっているがテナーです(悠雅彦さんのライナー部分にはちゃんとテナーとなっている)。そんなことどっちでもええやろ、という人もいるかもしれないが、これは大事なことなのだ。そのスティットのソロはゴードンを上回る12コーラスを吹きまくるがあまりに見事なのでそんなに長く吹いたように思えない。いやー、最初から最後までビバップ王道の音楽性と技術力、そしてエンターテインメントぶりを完璧な形で発揮したすばらしい演奏だと思います。そして……! 注目のゲイリー・バートンのソロだが、硬質な音でリラックスして弾いている感じで、うーん、けっこう普通かも(いい感じ)。ジョージ・デュークのピアノはめちゃくちゃ上手いう、ノリが良すぎて、かえってあんまりひっかかりがないかも。でも、すばらしい。しかし、そのあとに「グワーッ」という感じで出てくるジミー・スミスの怒涛のオルガンに押し流されてしまった感はあるなあ。やはりジミー・スミスは上手いとかを通り越した異常な個性のひとでありました。そこからゴードンとスティットとブレイキーの豪華な4バースになり、どちらも美味しいフレーズを連発していて、この部分だけでもコピーしたらさぞかし……と思ったり思わなかったり。ブレイキーのドラムソロも秀逸。マッキボンのベースソロを経てテーマ。B面に行くと、これがこの2枚組最大の山場である「インプレッションズ」である。演奏日時はこれまでよりも早く7月3日。悠雅彦さんのライナーによると、原盤では「ソー・ファット」となっているが、明らかにこれは「インプレッションズ」であり、なぜこんな記載になったのかわからない、とあるが、まあ、おんなじ曲といえばおんなじ曲ですから。メンバーはまたまた変わり、トランペットがハリー・エディソン、テナーがなんと5人いてジェイムズ・ムーディー、デクスター・ゴードン、フリップ・フィリップス、ズート・シムズ、ローランド・カーク。トロンボーンがカイ・ウィンディング。ギターがチャック・ウェイン、ピアノがハービー・ハンコック、ベースがラリー・ライドレー、ドラムがトニー・ウィリアムスという信じられないような豪華、かつミスマッチなメンバーである。ここで事件は起こった。ハリー・エディソンやフリップ・フィリップスなんぞに「インプレッションズ」をやらせるほうもどうかと思うが、まあ、マイナー曲でサビが半音上がる、みたいな処理で吹いていて、そこに音楽的成果はないかもしれないが、聴衆になにかを届けようという意志は感じられるので全然かまわないのだ。デクスター・ゴードンやカイ・ウィンディングス、ジェイムズ・ムーディー(なぜかキイキイいう)になると、さすがに「俺、こういうのは苦手だけど、ちゃんとわかってやってるもんね」感がある。たしかにどのソロも盛り上がらないのだが、適当に自分のパートが終わるのを待つ、というよりは、真摯に楽曲と向き合おうという雰囲気は伝わる。とくにカイ・ウィンディングスのソロはすばらしい(ハンコックのバッキングもかっこいい)。このあたりがジャムセッションの醍醐味といえば醍醐味である。ムーディーのソロのあとに出てくるズート・シムズのソロ(なんとなく考え考え吹いているような感じのソロ)が2コーラスほどいったあたりでカークが急に割り込んでくる。いきなり循環呼吸でガリガリ吹くので観客は思わず拍手をし、その直後には2本吹きでの循環呼吸。グロウル、スクリームの嵐にまたしてもドワーッと拍手がくる。これにはそれまでの「なんでこんな曲を俺たちが……」という感じでおずおずと吹いていた奏者たちは正直かすんでしまう。カークはひたすら確信に満ちて吹いているのだ。そこからフリーなぐちゃぐちゃな演奏になり、ハンコックがばっちりそれに合わせる。最後はまた2本吹きになってホイッスルを鳴らし、バシッと決めてソロを終える。カークはどう聴いても自分がやっていることをちゃんとわかっている。ほかのだれよりもこのモードの曲をわかっているし(ハンコックは別として)、エンターテインメントとしてもちゃんと成立させている。このセッションでカークを「ルール違反」みたいに言うのは「違う」と思う。カークは、このだらけたセッションに緊張感を持ち込み、聴く価値のあるものにした……と私は思います。そのあとのハンコックの凄まじいソロはただただ瞠目。さすがのすばらしさである。ラリー・リドレイのベースソロのあとテーマ。こうして聴くと、それぞれの音楽性というか人間性が出るなあ、と思う。こういう、ごった煮的というかジャズミュージシャンならなんでも一緒でしょ、この曲やってよ的な雑で荒いざっくりした人選、セッティングはやっぱりよくないなあ、と思う。でも、ここでのカークのソロは本当に素晴らしいのであります。
「NEWPORT IN NEW YORK ’72 THE JIMMY SMITH JAM,VOL5」(BUDDA RECORDS/COBBLESTONE 0598 CST9027)
ニューポートではなくニューヨークで行われた72年のニューポートジャズフェスでの、ジミー・スミスを中心にしたミッドナイトジャムセッション。日時は7月7日で、場所はヤンキー・スタディアムである。メンバーは渋いが内容はすばらしい。スミスのオルガンのリフに導かれるようにノリノリではじまり、2コーラス目から4ビートになるA面の曲は「ブルーン・ブギー」だが、先発のクラーク・テリーのソロがあまりに流麗で、あー、すごい、というしかない。つづくズート・シムズも美味しいフレーズ連発。ケニー・バレルも負けじとひたすら完璧なまでのリズムとピッキングでバップフレーズを重々しく(このひとはそういう感じですよね)弾きまくる。ジョー・ニューマンのいかにもセッションを盛り上げようというソロ、イリノイ・ジャケーの「わしは聴衆のためにおんなじことをこれまで何千回も吹いてきたけど、まだ飽きてないもんね」という感じのずしんと手応えのある手慣れたソロもいいですね。リフのあとなんとB・B・キング登場だが、このひとはボーカルを封印してジャズミュージシャンに混じって弾いてもなんの違和感も感じない。やや遠慮気味か。そしてジミー・スミスは遠慮なくぶちかます。いやー、これはすごいわ。ここまでのメンバーが全部このジミー・スミスの引き立て役になっていたのか、と思うぐらい豪快で計算されつくした演奏。そして、ロイ・ヘインズのドラムソロのあとリフがあってテーマにはなぜか戻らない。ジャムセッションとしてはかなりいい内容だと思うがどうか。B面に移りまして、バラードメドレーになる。1曲目はオルガンに先導されて登場するズート・シムスが柔らかな音で華麗に奏でていく「ファッツ・ニュー」で、この歌い上げは見事としか言いようがない。高音の伸び、ビブラート、なにからなにまで名人芸。続いてクラーク・テリーのフリューゲルで「シンス・アイ・フェル・フォー・ユー」という曲。これも完璧な出来栄え。3人目はイリノイ・ジャケー登場でジャケーの十八番のひとつである「ザ・マ・アイ・ラヴ」で、バラードではなく速いテンポで演奏されるが、途中からロイ・ヘインズとのデュオになりワンコーラスまるまるふたりだけでやり切る。こういうのを聞いているとジャケーの凄みを感じる。四人目はジョー・ニューマンがファンキーなリズムに乗って吹く「オード・トゥ・ビリー・ジョー」で、この曲、いろんなひとがやってるが、ジョー・ニューマンまでが手掛けるということはよほどヒットしたのだろう。それと、ベイシーに長らく在籍し、サッチモの物真似などもする、スウィングスタイルのひとと思われているニューマンのモダンでファンキーな側面を味わえる。ここでもロイ・ヘインズとのデュオでワンコーラス吹いて、最後はルバートみたいになって終わるが、そこもめちゃかっこいいです。ラストはケニー・バレルとB・B・キングの両ギターをフィーチュアした「プリーズ・センド・ミー・サムワン・トゥ・ラヴ」でこのR&Bの名曲を、バトルという感じはまったくなく、ふたりで繊細に盛り上げていく。チョーキングを多用しているのがBBでシングルノートで弾きまくっているのがバレルだが、まったく違和感はないばかりか、ふたりのギターが溶け合い、そこにジミー・スミスの分厚いコードがからみ、極上の演奏になっている。熱いホットケーキのうえに乗って溶けかけているアイスクリーム……みたいなとろとろの、美味しい演奏である。後半はホーンセクション(考えてみると超豪華)もかぶってきて最高。エンディングのブレイクはBBが担当。B面はジミー・スミスはバッキングに徹していて、それはそれですばらしい。ラフなオールスタージャムセッションかと思ったら、じつにハイクオリティの演奏ばかり続くので驚く(私も超久しぶりに聞き返して、けっこうびっくりしました)。もちろん、なにか新しいものが生まれる、とか、スタイルのちがうものたちのぶつかり合い、とか、ぴりぴりと張り詰めた先鋭的なセッション……みたいなものはここには皆無なのだが、そのかわりにエンターテインメント性あふれ、しかも音楽的に高度な最高の演奏が詰まっていて、こういうのもたまに聴くといいんじゃないかと思いました。傑作。
「NEW PORT JAZZ FESTIVAL JAPAN」(ELEC RECORDS KV−201)
72年の演奏で、メンバーも上記のジミー・スミスのジャムセッションとほぼ一緒なので、同じシリーズの1枚かと思ったらそうではなく、10月に日本で行われた「ニュー・ポート・ジャズ・フェス・ジャパン」の折のスタジオ録音。なんだかよくわからない。コンサートをライヴ録音したらよかったのでは? なんでこれを買ったのか、今となってはまったく思い出せないが、たぶんジャケーが入っているからだろう。というか、本作はジャケーが主役のセッションなのである。ライナーノートには「このジャムセッションの中で一番楽しみな老雄です」と書かれているが、本作録音時にジャケーはまだ50歳なのですが……。なにしろジャケーがミルト・ラーキン楽団に入ったのは15のとき、そこからナット・キング・コールグループを経てライオネル・ハンプトン楽団に引き抜かれ、あの歴史を変えた「フライング・ホーム」のソロを録音したのはたった19歳。50歳といっても35年の超ベテランではあるのだが……(イリノイ・ジャケーというやつがいたが消えてしまったよ、と言った油井正一の発言はいまだに腹立つ。いつ消えたんや。大スターや)。1曲目はアップテンポのマイナー系循環「バースデイ・フォー・ジャケー」(本作の録音日は10月6日で、ジャケーの誕生日は30日なのだが……)。こんなタイトルなのにジャケー本人の作曲というのも面白い。引き締まった音でテーマを先導するジャケーはかっこいいし、そのあとのソロもいい。この曲、まえにも聞いたことあるので、そのときはほかのタイトルだったような気がするが思い出せない。マリガンのソロのあと、ケニー・バレルがシングルトーンでバシバシ決めまくり、ジョー・ニューマンのミュートトランペットも相変わらず流暢に歌いまくる。ジェイムズ・ムーディーはテナー。ベースのランニングソロのあとアート・ファーマーのフリューゲル。ちょっとリズムに乗れず、不発に終わった感じ。ヘインズのドラムソロのあと、テーマ。ははあ、こんなラフな感じの演奏が続くのか、というのが1曲目でわかる。2曲目はジャケーのテナーをフィーチュアしたバラードで「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーン・ビームス」だが……いやー、ジャケーはたしかにサブトーンの使い手ではあるが、ここまで露骨にベタベタのサブトーンを強調しまくった演奏はなかなかないのではないか。エロすぎる! サム・テイラーよりもシル・オースティンよりもベン・ウエブスターよりもエロい。これは凄いなあ。この演奏は、テナー吹きはみんな聴くべきだと思う。なんかパロディのようにも聞こえるほどである。ケニー・バレルのコードソロが清々しく聞こえます。3曲目は「ブルース・フォー・ケニー」で、ケニー・バレルをフィーチュアした(……と言えるのか?)スローブルース。ケニー・バレルのこういうタイプの曲からいつも放散されるシンプルで、スカスカで、ブルージーで、重々しくずっしりとしたスウィング感のある演奏。(たぶん)ジョー・ニューマンとマリガンの2管の掛け合いのような感じで前半は進行する。トランペットソロのあと、バレルがペキペキと一音一音を愛おしむようにブルースを奏でていく。そして、ジャケーが登場。サブトーンやベンドを駆使しながらも、基本的には野太い音でグロウルしながら吹きまくるが、この先はジャケーの独壇場で、圧倒的なブロウを見せつける。「フォー・バレル」やったんとちがうんかい! この曲は、ほかのひとは知らんが、私つまりジャケーファンとしては本作の白眉的な演奏であります。B面に行きまして、1曲目はこれもジャケーのヒット曲である「ロビンズ・ネスト」。ここではかなりスローテンポで演奏される。もともとチャールズ・トンプソンの曲で、ジャケーは作曲者本人とも吹き込んでいるが、ここまでスローな演奏はジャケーの数多い吹き込みのなかでも珍しいのではないか。そのせいか、いつもよりもしっとりとした、しかもブルージーな演奏になっていて、超かっこいい。自在でメリハリの利いたフレージングにジャケーの上手さが光る。続いてバレルのソロ。ジャケーの誕生日を意識してか、ハッピーバースデイの淡々とした引用も。(たぶん)ジョー・ニューマンのソロはすばらしいの一言。一か所の破綻もなくつむいでいくフレーズのコントロールは見事。そして、ムーディーはフルートソロ。最後にジャケーが先導するテーマもすばらしいですね。ラストのB−2は「ハッピーバースデー」とかいう言葉が聞こえたあと、ジミー・スミスがめちゃくちゃ雰囲気を出したスローブルースのイントロを弾き、ケニー・バレルに受け継ぐ。「ブルース・フォー・ルイジアナ」というジャケーの曲だそうだが、テーマはとくにないのか? アート・ファーマーとおぼしきすばらしいソロ、ジェイムズ・ムーディーのヘンテコだが聴きごたえのあるテナーソロ、ファーマーのフリューゲルの繊細なソロ、ジミー・スミスの横綱がぶちかますような一気呵成なアグレッシヴなソロ(これはすげーです)、そして、いつのまにかミディアムテンポのブルースになっていて、オルガンとのデュオでジャケーが切々とブルースを歌い上げる。しっとりと吹いていたかと思うと、だんだんエキサイトしていき、ついにはギョエーッと吹きまくる。ラストのかなり長いブレイクはジミー・スミスのショウケースで、だれもが瞠目するのではないでしょうか。
「HONKERS & BAR WALKERS VOL.TWO」(DELMARK RECORDS DD−452)
デルマークによるアポロレーベルに残されたホンカー系のシリーズの2枚目。1作目はジミー・フォレストの「ナイト・トレイン」を冒頭に据えて、日本盤も出た。この2枚目は、バリトンサックスを持ったサングラスに髭面のおっさんがバーカウンターを歩くエグい絵のジャケットでかなりインパクトがあるが、中身もなかなかである。1曲目はなぜか一曲だけウィリス・ジャクソンのおなじみの「ピー・ウィー(コール・オブ・ザ・ゲイターズ)」が入っているが、何度聴いてもテナーから漏れる息使いまでが感じられる、人間臭い名演だと思う。2〜4曲目はモーリス・レインで太い音色でコントロールされたブロウは心地よい。メンバーはアンノウンだが、バリトンとトランペットが入った3管だと思う。ハンプトンとかアール・ハインズのオケなどに在籍し、自己名義の吹き込みも多い、ホンカーとしてはけっこうな有名人であります(ファッツ・ナヴァロとも演奏していたバッパーでもあり、ソロアルバムもある)。「ギッチー・ギッチー・グーマ」というめちゃくちゃいい加減な曲はボーカルが入っているが本人なのか?6〜9曲目はこれも有名どころであるパナマ・フランシスがリーダーの演奏で、テナーはホンカー好きにはおなじみのカウント・ヘイスティングス。5管編成でけっこうゴージャス(アルトにヒルトン・ジェファーソン)。テナーも流暢で見事だが、トランペットソロ(シャド・コリンズか?)やバリトンソロ(ジョージ・ジェイムズというひと)もめちゃくちゃ上手いし、ヒルトン・ジェファーソンの目いっぱいエコーをかけた夢見るようなアルトをフィーチュアしたバラード(すばらしいです)などを聴くかぎりでは、ホンカーというより上質のスウィングジャズを堪能した気分になる。ラストの「12:00 JUMP」というベイシーもどきの曲のソロもホンカーというよりテキサステナー的でかっこいい。10〜11のビル・ハーヴェイというひとはよく知らないが、すごく有名なバンドリーダー兼サックス奏者だそうです。10曲目は男性ボーカリスト(めちゃ下手?)とバンドメンバーたちのコーラス(?)をフィーチュアした曲だが、ハーヴェイのテナーより、トランペットのひとの上手さが際立つ。11曲目も全員で歌を歌うジャンプっぽい曲で、ここでフィーチュアされているのは10曲目とはちがってたぶん女性ボーカルでボニータというひと。あっさりしているが上手い。12〜15曲目と17〜20曲目(なぜかあいだに1曲だけボビー・スミスの演奏が挟まっている。なんでや? 8曲も続くと飽きるかも、という配慮かもしれないが)のチャーリー・ファーガソンは「リトル・ジャズ」というニックネームで知られているひとで(ロイ・エルドリッジと同じですね)、たぶん同じくホンカーの水爆ファーガソンとは関係がない、このひともそこそこ有名なかただが、とにかくものすごく上手い。ホンカー的な演奏もいいけど、「ハード・タイムス」でのコーラスをバックにした味わい深いしみじみとディープな演奏がとにかく最高であり、ファットヘッド・ニューマンやタレンタインに通じる演奏だと思う。かっちょええわー。あいだに1曲だけ入っているボビー・スミスの演奏はアースキン・ホーキンスバンドをバックにしているらしいが、ソロにからみつくようなバリトンサックス(このひともめちゃ上手い)を相棒に、リーダーの野太いアルトがフィーチュアされる。17〜20でまたファーガソンに戻るが(こちらのセッションはバリトンとの2管だが、バリトンのひとがややくぐもった音色)、やはりファーガソンの上手さが際立っている。リズムに乗って爆発的なソロを繰り広げ、しかもフレージング的には歌心とホンカー的な面の調和が取れていて、「いやー、すごいなあ」という言葉しか出てこない。21〜22曲目はミッキー・ベイカーを擁したキング・カーティスバンドで、ベイカーのぐいぐい来るギターをバックにブロウしまくるカーティスはのちのR&B〜ソウル的な感じよりはまだホンカーな雰囲気が色濃く、めちゃくちゃかっこいい。聴いていて鼻血が出そうなほどの熱血ブロウで、興奮しまくる。というわけで、本当に上質のホンカーコンピレーションで、ジャケーやコブだけではない、アポロレーベルのホンカーたちの層の厚さを感じる。傑作。
「HONKERS & BAR WALKERS VOL.THREE FEATURING EDDIE CHAMBLEE」(DELMARK RECORDS DE−542)
ユナイテッドとリーガル原盤の音源を集めたホンカー系コンピレーション。ヒョウ柄のスーツに紫色のズボンをはいたテナー奏者がバーのカウンターに乗ってブロウしており、最前列でサングラスで煙草を吸ってるお姐さんがいる、かなりエグいジャケットがこのアルバムの内容を的確に表している。収録曲は「タフ・ジャズ・フロム・デトロイト」とかなり重なるが(ワイルド・ビル・ムーアの3曲、フロイド・テイラーの3曲中2曲、T.J.ファウラーの2曲、サックス・カリの1曲が共通。同レコードにはエディ・チャンブリーは未収録で、逆に本作未収録のジミー・ハミルトンがたくさん入っている。なお、ルーズベルト・サイクスとサックス・マラードの1曲は同じシリーズの「ザ・ジョイント・イズ・ジャンピン」に入っている)、とにかく充実しまくっている。エディ・チャンブリーの10曲は3つのセッションから構成されている(2でもそうだったが、曲数が多いと、途中でわけられる)。さて、1〜5は本作の主役であるエディ・チャンブリーの演奏だが、1曲目はジョン・ヤングのロールするピアノと太い音色のチャンブリーのテナーのからみがたまらん。オーソドックスというか正攻法の演奏だが、小技も含めてお見事。2曲目(と4曲目)のこてこてのブルースはものすごくエコーのかかった演奏で、なんとフロイド・マクダニエルが参加している「フォー・ブレイゼズ」がバックを務めている(この2曲にかぎらず、エディ・チャンブリーはほかのセッションにおいてもギターを重要視した音作りを考えているようで、どの曲でもギターが活躍する。これも有名なサー・ウォルター・スコットが6曲に参加している)。3曲目はバラードでジョン・ヤングのピアノがテナーの伴奏といいソロといいすばらしい。4曲目は「キャラバン」でポール・リンズリー・ジェリー・ホルト(全然知らん)というドラマーのブラッシュに乗っての演奏。エリントンナンバーであることが先入観になっているのか、ホンカーというよりベン・ウエブスターのようなチャンブリーのソロは味わい深い。5曲目はテナーの低音とレオ・ブレヴィンス(ジーン・アモンズやクリーンヘッド・ヴィンソン、ラッセル・ジャケーらとの共演もあるひとらしい)の効果音的なギター、ロールするジョン・ヤングのピアノが活躍するジャンプナンバーだが、チャンブリーはボーカルもとっていて、これがまためちゃくちゃ上手いのです。6〜7はT.J.フォウラーはデトロイトの大物ピアニストで、ここではウォルター・コックスのテナーがフィーチュアされている(「「タフ・ジャズ・フロム・デトロイト」参照)。8曲目はメジャーなブルースマン、ルーズベルト・サイクスのバンドで、サックス・マラードというひとがフィーチュアされている。サイクスのボーカルもすばらしいが、サックス・マラードというひとのアルトがめちゃくちゃすごい。調べてみると、シカゴのボス的存在でエリントンにも短期間在籍したというが、共演者はブルース系のひとが多かったようだ。いやー、腰の座った、見事な音色でのブロウを聴かせてくれて爽快である。9曲目はこれもメジャーなブルースマン、メンフィス・スリムのグループでギターはスリムバンドでずっとやっていたマット・マーフィー。ジム・コンリーというテナーがフィーチュアされている(シカゴのひとらしい)。10曲目はブルースファンにはおなじみ(エルモア・ジェイムズとのアルバムとかハウリン・ウルフの名盤にも参加していて超有名。のちにはフリートウッド・マックとも共演。フルアルバム「ウインディ・シティ・ブギー」もデルマークから出ている)のJ.T.ブラウンで、このひとは上の前歯の間があいている写真がよく知られている(「ウインディ・シティ・ブギー」のジャケット)。マウスピースはたぶんブリルハートのラバーで、柔らかい音色のひとだが、この曲ではフラジオでぴーぴーいわせたりして、攻めている。ベースはなんとビッグ・クロフォード。11〜15曲目はまたエディ・チャンブリーで、12曲目の「セント・ジェイムズ・インファーマリー」はめちゃくちゃ上手いボーカルがフィーチュアされていて、チャンブリーが歌っている、と書いてあるのだが、ボーカルにかぶってテナーが聞こえるので、これはチャンブリーではないということになる。アレンジ的にはキャブ・キャロウェイのバージョンを踏襲(ぱくり?)している。13曲目の「エア・メイル・スペシャル」ではテナーではなくクラリネットがフィーチュアされていて、これが「アンノウン」になっているのだが、テナーの音も同時に聞こえているので、このあたりのことはよくわからん。ただ、クラリネットはすごく上手い。14曲目はジョン・ヤングのピアノがロールしまくるスローブルースでチャンブリーのテナーもすばらしい。15曲目はジャンプというかノベルティというか「ランラ、ランラ、ランラ、ランラ、ランラ……」というボーカルではじまる楽しすぎるブギーナンバー。このボーカルはたぶんチャンブリー。テナーとボーカルをたくみに切り替えている。おもろいなあ。16〜18曲目はワイルド・ビル・ムーアでこれも「タフ・ジャズ・フロム・デトロイト」参照。何度聴いてもめちゃくちゃ上手い。かなりジャズっぽくて、低音部の使い手というかテクニシャンでもある。なぜか代表曲(?)の「ウィ・ゴナ・ロック・ウィ・ゴナ・ロール」は収録されていない。フロイド・テイラーはピアニストだが、この4管のバンドではほとんどビッグバンドといっていいサウンドが展開している(ものすごくシンプルなリフをひたすら押し出す感じだがかっこいい)。テナーはふたりいるが、ソロはたぶんフレッド・ジャクソンでしょうね)。バリトンはなんとポール・ウィリアムスだ。これも「タフ・ジャズ・フロム・デトロイト」参照。ラストのサックス・カリは「スウィンギン・サックス・カリ」という芸名らしい(これも「タフ・ジャズ・フロム・デトロイト」参照)。しかし、よくわからないのだが、このひとはギターを弾いているのか? サックス・カリなのに? かなり著名ミュージシャンとの共演歴があり、自己の大編成バンドを率いていたこともあったようだが、なにしろ、楽器がギター、ピアノ、サックス……とあってよくわからん。ここでのテナーソロはレスター・シャックスフォアというひとなのでしょうか。すばらしい音色のめちゃ上手いテナーだが、そのあとアルトの2コーラスのソロ(いまいち)もあり、それからテナーとアルトのバトルになって、テナーのブレイクがあって……え? サックス・カリはどうなったの? ということになるが、このアルトがもしかしてサックス・カリなのか? 謎は謎を呼ぶ。まあ、そういうことは無視して音楽を楽しみましょう。というわけで、この3作目もとんでもない重量級の最高のホンカー系コンピレーションでした。安心して楽しめます。傑作。
「GROOVE STATION」(WESTSIDE WESA 823)
KING FEDERAL DE LUXE SAXBLASTERS VOL.1
タイトルどおり、キング、フェデラル、デラックスというレーベルに録音されたホンカー系の演奏を集めたコンピレーションで、メンバーとか一切書いてないし、曲もリーダーごとにまとめてなくてバラバラなので、聴きにくいったらありゃしないが、まあそんなことは考えずにボヤーッと流し聴きしている分にはあまり気にならないのだろう。24曲入ってるが、結局、リーダーはアル・シアーズ、プレストン・ラヴ、ワイルド・ビル・ムーア、ファッツ・ノエル、ジェシー・パウエルの5人だけである。まとめてくれればいいのに。このなかではプレストン・ラヴ唯一のアルトで、あとはテナーである。アル・シアーズは基本的にはホンカーというよりスウィングジャズの範疇のゴージャスな演奏が多いように思う。めちゃくちゃすごいアルトとトロンボーンとトランペットが入ってるのでだれかと思ったら、アルトはチャーリー・ホームズで、トロンボーンはローレンス・ブラウン、トランペットはエメット・ベリーだった。そら上手いわ。このひとたちのソロを聴いてるだけでも美味しい。とくにローレンス・ブラウンのソロは圧倒的と言っていい。リズム的にも初期ロックン・ロール的な演奏ではなく、もろ「スウィング」しかも超上質、という感じで楽しい。10曲目に入ってるトレインピースもお見事。プレストン・ラヴは一般的にはジョニー・オーティス・ショウや「オハマ・バーベキュー」のひとなのだろうが、カウント・ベイシーでリードアルトをつとめた凄いひとでもあります。ここでもテナーの猛者がずらりと並ぶなか、アルトで軽々とファンキーに自在に吹きまくっていてすばらしい。ビブラホンが入っているが、ジョニー・オーティスだったりするのかな? 8曲目のバラードなど筆舌に尽くしがたい美しさ(音色もフレージングも)であります。サヴォイの「ウィ・ゴナ・ロック、ウィ・ゴナ・ロール」という曲のせいでロックンロールという言葉の創始者と言われたりもするワイルド・ビル・ムーアはのちのリヴァーサイドでのジャズ的な録音が嘘のように、手拍子あり、コーラスあり、掛け声あり、ロールするピアノあり……という(ロックンロールというよりは)楽しいジャンプミュージックを聞かせてくれて、最高です(バリトンサックスが入っててソロもあるんだけどだれでしょう?)。ファッツ・ノエルもこういうホンカー系のアンソロジーには必ずといっていいほど顔を出すが、「アップルジャック」という曲の冒頭の割れまくった音をぶちかますあたりなど、めちゃくちゃコーフンします(22曲目のオリジナルテイクもすごいっす)。超かっこいいし、めちゃ上手い。とにかくひたすら盛り上がる。18曲目の「ロケット・フライト」というシンプルな曲での覚悟を決めたようなブロウもすごい。ジェシー・パウエルのブロウは硬質な音で、手慣れたホンキングを披露するが、音の魅力がかなり大きい。ノリも軽やかでかっこいい。ボーカルをフィーチュアした曲もあるがノエルではない。というわけで、すばらしいコンピレーションであります。データがなあ……とは思うが、ふわっ、と聞くには最高では?
「吾妻光良のどうだ! 全部ジャンプ!」(BLUES INTERACTIONS PCD−2807)
吾妻光良
私はジャンプが好きだと自分では思っているが(少年ジャンプのことではない)、本当のところどうなのかね。ルイ・ジョーダンはとにかくめちゃくちゃ好きなのだが、ほかのジャンプ系のひとすべてが好きというわけではない。ルイ・ジョーダンは、あのユーモア感覚、かなりノリノリのリズム、ビッグバンド的なサウンド、面白くて諷刺のきいた歌詞……などがあいまって、あの楽しさを作り上げていると思うが、ほかのジャンプのひとはけっしてルイ・ジョーダンの音楽とは似ていないわけで、たとえば学生のころに「これもジャンプだからきっとルイ・ジョーダンみたいなやつにちがいない」と思って聴いたロイ・ミルトンやジョー・リギンズなどはとにかく「かったるい」のだ。なんというか、ルイ・ジョーダンに比べてもっちゃり、ゆったりしている。そこがいいのだ、という意見もあるだろうが、そのあたりがジャンプファンと私のあいだの線引きになっているような気もする。たとえばデイヴ・バーソロミューのソロなんかも、雑誌に「ルイ・ジョーダン的」と書いてあったので何枚かレコードを買ったが、やはり似て非なるものだった(これは私が悪いので、ニューオリンズという視点が欠けていた。今はめっちゃ好き)。今は昔に比べてかなり許容範囲が広がっているのだが、本作はどうだろうか(って本当はかなりまえに買ってさんざん聴き倒しているのだが、レビューを今書くということでこういう書き方になっておるのです)。結論としてはものすごく楽しかった、と言っておきましょう。やっぱりこういうのは私の性に合ってるようであります。
吾妻光良氏の「どうだ! 全部ジャンプ!」という歌声に導かれて幕を開ける。最初の2曲はチャールズ・ゴンザレスというひとで、1曲目は「ハイ・ヨー・シルヴァー」(こういう歌、ジョー・ターナーも歌ってましたね)で、ロッシーニのおなじみ「ウィリアム・テル序曲」で幕を開ける景気のいい曲。チャールズ・ゴンザレスはフルアルバムもあるけっこうな有名人で、つややかで朗々とした声で歌う(もともとホット・リップス・ペイジのバンドにいたひとで、のちにボビー・プリンスと改名して活躍したそうです)。1曲目にはバリサクソロがある。2曲目はスウィートな曲調(「イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン」っぽい?)だが、めちゃくちゃ上手いテナーソロがある(そのバックでトランペット(?)がぴーぴー吹きまくっていて盛り上がる)。ある資料によるとバックはドク・バクビーのオーケストラだそうだ。3曲目はあのニューオリンズの有名人ポール・ゲイトンで、ビッグバンド風のサウンド(4管ぐらい?)だが、アレンジもよく、ボーカルもかっこいいのだが、とにかく「イエー、イエー、イエー、イエー、イエー」と叫びまくる趣向。なかなか味わい深いテナーソロがフィーチュアされ(レイ・エイブラムス(有名なホンカー)だそうである)、バリトンも効いている(クレジットにはアルトとあるが、エディ・ベアフィールドだそうです。持ち替え?)。4曲目はこれまた有名人でパーシー・メイフィールド。このころは個性的な声と歌い方だが、まだ地味なブルースシンガーという感じで、のちのブレイクの予感はあまり感じられない。テナーソロがフィーチュアされる(マックスウェル・デイヴィス2回ソロがある)。5曲目はジャンプの大立者ジミー・リギンズで、ギャグっぽいアレンジもあり、ルート66みたいに都市の名前を連ねていく趣向。ハロルド・ランドとチャールズ・リトル・ジャズ・ファーガスン(けっこう有名人です)がテナーを吹いてるらしい。6曲目はJ・B・サマーズというひとで、ジミー・ラッシングのような雰囲気でスローブルースを歌う。いかにもシャウターという感じでフルアルバムも出ているらしい。7曲目はジミー・プレストンで、太いだみ声で、いい感じ。豪快にホンクしまくるテナーソロはなんとベニー・ゴルソンだそうです。ギターがかっこいいと思ったらビル・ジェニングス。ほかにダニー・ターナーもあるとを吹いているらしい。バリトンもかなり効いている。8曲目もジミー・プレストンだが、メンバーは違う。シンプルでひたすらジャンプしまくるノリノリの曲で、管楽器全員でホンクするようなパートがあり、そのなかからテナーが抜けてでて、なおもブロウしまくるというあたりはめちゃくちゃ野蛮つーか力業でかっこいい(まあ、こういうのがアホらしくて聴いてらんねえ、というひともいるかもしれないが)。ジミー・プレストンの本領発揮の豪快ジャンプナンバー。9曲目はビル・ジェニングスがリーダーのインストで、テナーのワンホーンのクインテットだと思う。こじんまりとしているが、ジェニングスがなかなか張り切ったプレイです。
そのあと、吾妻氏によるここまでの各曲に対する解説というかうんちくというかDJコーナーになる。このころのジャンプは正直単純で単調で、ガーン! と爆発するかどうかはそのときのノリによる、という感じなので、複数でガヤガヤとツッコミを入れながら聴くといいのだが、こういうDJがついているとひとりで聴いていてもそのへんがカバーされてとても楽しく聴ける。
10曲目は「ピンク・シャンパーン」でおなじみの大物ロイ・ミルトンでその名も「ミルトンズ・ブギー」。歌詞もかなりいい加減だが、ブレイクのときの歌詞は爆笑。ひたすら単純でアホらしくて楽しい演奏。こういうのがジャンプなんですよね。太い、濁った音のテナーがゆったりとソロをし、トランペットに受け継ぐ。11曲目はカミール・ハワード(と読むのか?)という全然知らないひと。女性ピアニストでシンガーだが、じつはロイ・ミルトンの奥さんだということである。ロイ・ミルトンの最初のヒットである「R・Mブルース」のときからずっとピアニストとして参加しており、そののち自分名義でも録音するようになったが、その際のドラマーはミルトンが務めていたらしい。いやー、歌も上手くて、洒脱で、めちゃくちゃいい感じである。調べてみるとフルアルバムも何枚も出しているかなりのビッグネームのようで、いろんな大物とも共演しており、知らなかったのが恥ずかしいぐらいである。この収録曲も、ミルトンがドラムを叩いている。12曲目はさっき登場したジミー・リギンズの兄であり、ロイ・ミルトンと並ぶジャンプミュージックの大物であるジョー・リギンズ。ジョー・リギンズといえば「ハニー・ドリッパー」だが、ここに収録されているのも「ドリッパーズ・ブギ」というタイトルだ。このころのジャンプの特徴(?)として、ロイ・ミルトンにしてもこのひとにしてもポール・ウィリアムズにしても、とにかくあまりハードに攻めず、軽快で楽しい感じで、どちらかというとゆったりしている。ルイ・ジョーダンのあのガンガン来る感じを念頭に置いていると肩透かしを食らう。でも、そういう呑気なジャンプの魅力に取りつかれると離れられなくなる。しかし、そういうなかでは、この曲(インスト)なんかはけっこうガンガンいってる方である。いやー、楽しいですね。テナーソロはたぶんフィイド・ペイン・タンハンというひとで、アルトはウィリー・ジャクソンというひと。どっちもめちゃくちゃ上手い。とくにアルトは軽快で心地よい。つぎの曲は同じくジョー・リギンズだが、メンバーや録音日は異なる。テナーソロはマックスウェル・デイヴィスかな。シャッフルの軽快なジャンプナンバーで、ブルースでも循環でもない。前曲と同じくウィリー・ジャクソンのアルトがいい味を出している。バリトンもこのひとらしいが、それにしては持ち帰る時間がほぼ1秒なんは驚く。14曲目は御大ジミー・ラッシング登場。めちゃくちゃ重くゴージャスなバックバンドを従えて重厚に歌う。それもそのはずで、バックのメンバーはエメット・ベリー、ヴィック・ディッケンソン、ルディ・パウエル、バディ・テイト、ビル・ドゲット、ウォルター・ペイジ、ジョー・ジョーンズ……というスウィング巨匠オールスターズみたいな豪華極まりない。いやー、かっこいいです。テイトのテナーソロも聞ける。15曲目は、ジャンプ界隈ではたぶん名前が通ってるであろうフランク・モトリー。トランペットを二本同時に吹くという技で有名。ボーカルはモトリーではなく、ロイド・ファットマン・スミスというひと。曲名も「ファットマン」。キング・ハーバート・ウィテカーというひとのテナーソロが聞かれる。このファットマンというひと、かなり雑な歌い方で、テナーソロのときにいろいろ掛け声をかけるのだが、それもかなり雑で笑える。歌詞も最高にアホらしくてすばらしい。16曲目はこれも大物タイニー・グライムズの「ホー・ホー・ホー」という速いブギで、ノリノリの演奏。全員一丸となってただひたすらジャンプする。歌詞はほとんど意味はない。「ヘイ・エヴリバディ」と6回も繰り返すあたりは気が狂ってるのかと思う。最後のほうは絶叫したりしてよけいにめちゃくちゃになっていく。レッド・プライソックのすばらしいテナーがフィーチュアされる。ピアノはチャールズ・トンプソン。ラストの17曲目もグライムズでインストナンバー。そのあとまた吾妻さんのしゃべりがつく。いやー、楽しいですね。ギターを弾きながら解説してくれるのでよくわかる。
「吾妻光良のこれだ! だいぶジャイヴ!」(BLUES INTERACTIONS PCD−2808)
吾妻光良
上記の「ジャンプ編」に続く「ジャイヴ編」。といっても音源がゴーサムなので、だいたいよく似た人選になり、ジャンプっぽい曲は上記アルバムに、ジャイヴっぽい曲はこっちに……と振り分けている感じ。というか、そもそもジャンプとジャイヴはどう違うのか、という根本的な問題も浮上するわけだが、それについては私も含めて、皆さん、漠然となんとなくわかってるのではないでしょうか。単純に言うと、ルイ・ジョーダンがジャンプでキャブ・キャロウェイがジャイヴだ。ふたりの音楽性を比べたら、「なんとなく」わかるような気がするでしょ。吾妻さんなんかはきっちりと定義して分別しておられるのかもしれないが、まあ、私のような巷のファンはそんなざっくりした感じで聴けばいいと思う。私の場合、ユーモアセンスがカラッとしているのがジャンプで、ネチッこいのがジャイヴかなあと思う。
1曲目はトランペットの2本吹きで有名なフランク・モトリー。ボーカルは上記にも入ってたロイド・ファットマン・スミス(だと思う)。犬の鳴きまねをボーカルがするだけでなく、ホーンセクションも楽器でそれをやってしまうところがすごい。1曲目のつかみとしては最高の選曲。2曲目は、フルアルバムも出ているカウント・レッド・ヘイスティングス。ホンカーなのだが、この曲は赤ん坊のバブバブという泣き声(?)を歌詞にしてしまったすごい発想の演奏で、そこにヘイスティングスのやたらと上手い、太い音のテナーソロが挟まれるというよくわからない演奏。ギャグはギャグなのだろうが、やはりこういうのがジャイヴですね。3曲目はエディ・コールというひとのバンドだが、なんとナット・キング・コールのお兄さんである。ボーカルが「ア・バ・ラビップ・ア・バ・ラビーバップ」……というスキャット(?)を繰り返す言葉遊びの曲だが、最後に「ソルト・ピーナッツ」のメロが出てくるあたりはやはりビバップと関係があるのだろう。アンノウンになっているテナーのひとはすごく上手い。4曲目はジミー・プレストンで、「チャプスイ・ルイ」というタイトルの曲。チャプスイというのは日本でも食べられる店があるが、もともとは広東料理で、アメリカではポピュラーな中華料理である。野菜と肉を炒めてとろみをつけ、スープで煮たようなもの。歌詞を読むと、「五目チキン、チャプスイ、ルイ」とずっと連呼しているので、いろいろな野菜類とチキンを炒めたチャプスイなのだろう。だからなんやねん! まあ、なんの意味もない歌であります。でも、おもろい。聴いてるとやみつきになる。アール・パターソンというひとらしいテナーソロも秀逸。5曲目はスリー・ペッパーズというトリオで、ピアノ、ギター、ベースの三人。ボーカルはピアノのロイ・ブランカーというひとが取っているが、こういうバンドって一時はすごく流行って、たくさんあったのではないかと推察する。洒脱に小唄を歌う達者なバンドという感じ。歌詞が本当に無意味なのもジャイヴっぽくていいですね。6曲目はまたジミー・プレストン。冒頭は洒脱に軽々とアルトでスウィートなメロをつむぐが、そのあとに出てくるボーカルはおそらくふたりなのでプレストン以外の誰かも参加しているのだろう。そして、つぎに出てくるテナーソロは音を濁らせてかなりブロウする。途中でふたりのボーカルが会話みたいな掛け合いになるのもジャイヴ的。7曲目はあのダニー・ターナーのリーダーバンドで、メンバーはまったくわからないらしい。冒頭のアルトのイントロはダニーだろうが、ボーカルはだれだろう。ダニーの可能性もあるのかも。アルトソロもかなりたっぷりある。8曲目またエディ・コール。ジャイヴというか、軽い小唄という感じでとても洒落ている。テナーとギターとピアノが短いコーラスを分け合う。9曲目はフランク・モトリー。トランペットの音圧が低くてよく聞こえない。バリトンが効いたジャンプ的なノリノリの演奏に、突然わけのわからないスキャットが飛び出してくる。例の「ファットマン」である。このスキャットは、なんといっていいか……うーん……めちゃくちゃ変です。そのあとテナーとバリトンがソロをする。10曲目はまたスリー・ペッパーズ。コーラス、ハーモニー、掛け合いなどをやりつつ、各楽器もちゃんと弾いていてかなり大忙しだろうと思うが、こういうバンドが流行ったのだ。いやー、上手いです。ジャイヴです。
このあと吾妻さんの解説というかDJが入る。
11曲目はポール・ゲイトゥンとの名コンビで売ったニューオリンズのアニー・ローリー。チャートインした曲もけっこうある大物である。ニューオリンズ録音で、ピアノと作曲がそのポール・ゲイトゥン、ドラムがサム・ウッドヤード、サックスがエディ・ベアフィールドである。12曲目はまたパーシー・メイフィールドだが、ジョイ・ハミルトンという女性シンガーと掛け合いで歌っていて、一番は男性、二番は女性……と胴を取る役目が入れかわっていく趣向。間奏のテナーはたぶんマックスウェル・デイヴィス。なかなかかわいらしい曲で気に入りました。13曲目はジョー・リギンスだが、これも12曲目と同じように男性と女性が掛け合いで歌う。女性シンガーはキャンディ・リヴァースというひとで男性はもちろんジョー・リギンス。シャッフル的なバンプを吹くバリトンをバックにテナーがソロをする(バンプ・メイヤーズというひと)。これもいかにもジャイヴという感じの演奏。14曲目も同じくジョー・リギンスだがメンバーがちがう。かなり長いインストゥルメンタルの部分があるので、全編インストかと思っているとだいぶしてから歌が出てくる。ジャイヴというより小唄っぽいビッグバンドサウンドの佳曲。悠揚迫らぬテナーソロがフィーチュアされるが、テナーがふたり入っているのでどっちかわからん。15曲目も洒落た小唄で、ゆったりしたゴージャスなビッグバンド風サウンドに乗ってパーシー・メイフィールドがぐだぐだした歌い方で歌うのがなかなかよい。16曲目はロイ・ミルトンで、「アイ・ウォント・ア・リトル・ガール」という題名だが、あのブルースとは別曲。これも小洒落た曲で、さすがにミルトンは上手い。メンバーは全員推定だが、ボーカルにからみつくようなピアノが印象的だがおそらく奥さんのカミール・ハワードだろう、とのことである。野太いテナーとトランペットがちょろっとフィーチュアされる。17曲目もアニー・ローリーで、これもゲイトゥンとのコンビによるニューオリンズ録音だがメンバーは異なる。バディ・テイトが入っており、ソロもしている。ピアノのオブリガードもかっこいい。この曲はけっこうヒットしたらしく、カバーもされているようだ。ラストの18曲目はテルマ・クーパーという女性。バックはまったくわからないそうであるがサックスやピアノのバッキングが効いている。クーパーは朗々と歌うとかシャウトするとかではなく、どっちかというと可愛らしい感じ。
最後も吾妻さんの解説が入るが、やっぱりこのDJあってのこのアルバムという気がする。
「RED HOT BOOGIE」(P−VINE RECORDS PCD−2276)
FRANK MOTLEY,T.N.T・TRIBBLE & GREAT GATES
ゴーサム音源のジャンプ系を集めたもの。23曲中、トランペットのフランク・モトリーがリーダーのセッションが10曲、ドラムのTNTトリブルがリーダーのものが11曲、グレート・ゲイツというシンガーが2曲という構成である。モトリーのうち、3曲は吾妻光良さんの「どうだ!全部ジャンプ!!」「これだ!だいぶジャイヴ!!」に収録されているのだが、やはりその3曲が白眉という気がする。サックスはキング・ウィテカーというひとなのだが(メンバー表やライナーではテナーと書いてあるが、3曲目のソロはアルトのように聞こえる)、どの曲のソロも安定していて、なかなかいいテナー吹きではないかと思う。モトリーはトランペットの二本同時吹きで有名なひとだが、カークのようなわけにはいかない。5曲目の「デュアル・トランペット・ブルース」という曲でも、ハモったりできず、ユニゾンで二本聞こえるだけなので、ほとんど意味がない(とくにレコードとかでは)。同曲でフィーチュアされるテナーのほうがずっとすばらしいソロをしていて悲しい。では、ギミック的な二本吹きではなく、一本で勝負したときのトランペット奏者としての実力はどうかというと、うーん、「普通」では? やはりこのグループの魅力はファットマン・スミスというシンガーの破天荒なボーカルが支えていたのだなあと思う。なので、インストの曲はちょっと飽きる。6曲目はギターのジミー・ハリスというひとが歌っているが、なかなか朗々としていていい感じである。9曲目の「ムーヴィン・マン」という曲のボーカルはドラムのTNTトリブル。朗々とした歌い方でなかなかよい。全体にかなり雑な感じの演奏でちょっと複雑なアンサンブルの部分などけっこう強引だが、3曲目の「バウ・ワウ・ワウ」などはその雑さが迫力とノリを生んだ稀有な例ではないだろうか。
さて、そのフランク・モトリーバンドでドラムを叩き、ボーカルも披露していたTNTトリブル(T.N.Tというのは高性能爆弾のことである)がリーダーの演奏。ライナーで吾妻光良氏が「TNTに対しては個人的には”ジャンプの林家こぶ平”といったイメージがある。そりゃ何だ?と言うかもしれないが、要するに”見た目面白そうだが実は余り面白くない”というところに尽きる。」とめちゃくちゃ失礼なことを書いていて、爆笑した。うちにあるのはP−VINEのやつだが、このライナーでテナーとかバリトンとクレジットされているのはあまり信用しないほうがいいような気がする(明らかにアルトソロがいくつかある)。まえにも書いたことがあるが、世間のひとは(サックス奏者以外は)それがアルトだろうがテナーだろうがバリトンだろうがべつにどうでもいいのだ。音域がちがうだけで一緒なんでしょ、という感じなのだ。そりゃそうでしょうね。私も、金管の音が聞こえてて、それがトランペットだろうがコルネットだろうがフリューゲルだろうがバストランペットだろうがビューグルだろうがべつにどうでもいいもんなー。どの曲も、ちょっと面白いが、ちょっとタルい……という感じで、大迫力でドヒャーッという演奏はない。逆に、コーラスや合いの手や手拍子が入っているような演奏もどことなくのんびりしていて、そこが魅力となっている。ボーカルはリーダーのTNTが取ったり、アルバムタイトル曲の「レッド・ホット・ブギー」ではサックスのウィリー・ヒッカーソンが取ったり(吾妻氏のライナーによると、ソロ中に脱ぎ始めて最後にはシャツとパンツだけになるというロクでもない人物、となっているが、ウィリス・ジャクソンもテレビでそんなことしてたなあ……。しかし、このヒッカーソンもそうとう上手いホンカーです)している。(18曲目のボーカルはウィスキー・シェフィールドというひとらしい。そんな芸名って……。ちなみにこの曲でテナーを吹いているハロルド・ブレアというテナーのひとはめっちゃ上手い)。19曲目で歌っているアンノウンシンガーもなかなかの個性と表現力なので、、そのあたりはかなり楽しめるし、私個人としてはフィーチュアされているテナーを聴くだけでも楽しいのだ(ラストのインストナンバー「ホット・ヒート」という曲で吹いているアルバート・プリシェットというひともめちゃ上手い。ウィリー・ヒッカーソンはこの曲ではバリトンを吹いていることになっているが、ほんまかなあ。このへんはあまり信用できない。アルトっぽい音も聞こえるし……)。ラストの2曲はグレイト・ゲイツというひとだが、自分でグレイトとかいうやつはもっと信用できんなあ(エド・グレイト・ゲイツというひとで、フルアルバムも出ているひとだそうです)。グロウルしまくりの下品なテナーはマーヴィン・フィリップスというひとらしいが全然知らん。ギターも迫力のあるバッキングで、なかなかホットな演奏で気に入りました。ラストもグレイト・ゲイツで、テナーはあいかわらず表現過多のプレイで楽しませてくれる。
「GOTTA MOVE ON」(TRUE TONE RECORDS TR−2688)
A BLUES ANTHOROGY;TOKYO VOL.1
1989年頃に出たと思われる東京ブルースのアンソロジー。このころ(就職して数年)はたぶんけっこうブルースにはまっていたのだろうと思う。派手なブルースブームは終わっていたが、80年代はロバート・クレイが出て来たこともあって、地道にブルースショウなどが開催されたりして、なかなか充実した時代だったのではないかと思う。そういうなかでそれこそ地道にブルースをやってる「ブルース馬鹿」たちを集めたコンピレーションを作ろうという動きがあるのは自然なことである。そういうなかでも、吾妻光良、小出斉、岡地明……というキ―になる名前が目に付くが、石川二三夫、小安田憲司、中川清、早崎詩生、ブギ・ボーイ・イクト、町田謙介……といった門外漢の私でも知っている名前が並んでいるのをみると、このコンピの先見の明というか人選の良さがわかる。内容はとにかく熱気あふれる、ブルースにこだわった演奏ばかりで、30歳前後の若いパワーが結集している感じだが、といってクールに押さえているところは押さえており、非常にクオリティが高いと思う(えらそうにすいません)。有名曲もまじえつつ、全員が短い尺のあいだに自分の個性をぶちまけようとがんばっている姿はかっこいいです。こういう演奏に対して、ここが足りない、ここが弱い、とかいうのはほんとに意味がなくて、逆に、ここがいい、ここがすごい……と足し算していくべきで、昔「シカゴ・ブルーズ」やったっけ(?)そういうコンピレーションがあったが、とにかくチャンスがあったらこうして記録しておくべきなのだ。それが後世にどれほどの価値をもたらすかわからない(もたらさないかもわからない)。めちゃ久しぶりに聴いたが、堂々たる演奏ばかりが収録されていた。このアルバムの演奏を経て、今の日本のブルースがあるわけなので、貴重な録音だと思います。
「NO CITY LIKE NEW ORLEANS」(BLUES & SOUL RECORDS NO.149 SPECIAL SAMPLER CD BSR−149)
EARL KING SNOOKS EAGLIN TOMMY RIDGLEY HENRY BUTLER
「ブルース・アンド・ソウル・マガジン」の付録CD。ニュー・オリンズ系R&Bのコンピレーション。1曲目はアール・キングの表題作で、ニュー・オリンズみたいにすげー町はほかにないぜ的な歌詞だが、こういう曲を聴いてると「そうそう!」と行ったこともないのに思ったりする。最後のほうはトロンボーンがブロウがいかにもジャズ〜ブルース〜R&B〜ロック〜ブラスバンド……などの境目のないニューオリンズ的である。2曲目はスヌークス・イーグリンのめちゃくちゃおなじみの曲で「アイウェニマリコ!」と聞こえるが、「アイ・ウェント・トゥ・ザ・マルディ・グラ」と歌っているのだ。何度聴いてもいい曲。ギターソロも炸裂しており、丸みを帯びたテナーソロの成熟度は……と書いてきて、とにかくこの手のオムニバスを一曲一曲感想を書いてもいられないので、簡単に書きたいが、ニューオリンズだとつい力が入ってしまう。3曲目はトミー・リッジリーのブルースで、張りのあるボーカルとファンキーなホーンセクションが調和している。5曲目はアール・キングとルームフル・オブ・ザ・ブルース(ホンカー的なテナーをはじめとするホーンセクションをフィーチュアしたいなたくファンキーなバンドだが、テナーはけっこうな有名どころが歴代参加している)との共演による超有名曲で、かっこいいがゆるい。これはまさにアール・キングの個性ど真ん中。6曲目はヘンリー・バトラーのこってりしたピアノ〜ボーカル。7曲目はまさしく「なんでもできる」感じのスヌークス・イーグリンの軽いファンキーな演奏だが、全体にファンキーさがあふれ出すような快演で、なにもかもがピタッとはまっている。8曲目もトミー・リッジリーだが、ミディアムのビートのスネアのノリはまさしくニューオリンズの跳ねる感じで、いつまでも聴いてられる。9曲目のアール・キングもホーンセクションによるメロが途中かなりフィーチュアされるが、このあたりも本当に快感。ゆるいでもなく、緊張感があるでもなく、ただただくつろいでいる感じ。10曲目はスヌークス・イーグリンのバラードだが、仕掛けがあって、かっこいい。本当になんでもできるなあ。ややへしゃげているが丸くて張りのあるボーカルとギター、オルガン、バラードなのに撥ねるドラム……などすべてが一体となっている。歓喜。11曲目のバトラーによるハープとピアノをフィーチュアしたスタンダードブルース「CCライダー」のオールドスタイルのブルース。三人だけによる演奏で、ハープはマーク・カザノフ。ピアノが時々とんでもないことを弾いていて凄いです。ラストはまたアール・キングでファンキーなのにタイトではない、どこかゆるい演奏のかっこよさに取り憑かれる。さすがアール・キング。
「JAZZ GALA CONCERT」(WEA MUSIK GMBH P10261A)
JAZZ GALA CONCERT
1976年に西ドイツで行われたジャズ・ガーラという大規模イベントのために結成されたオールスタービッグバンドのライブ。1曲目の「ブルース・イン・マイ・シューズ」を聞けばわかるが、いわゆるJATP的なオールスタージャムセッションがときに単調でぐだぐだなソロ回しに陥るのにくらべて、超有名メンバーもビッグバンドの一員としてしっかりしたアレンジのもとに譜面を吹いており、そのクオリティはビッグバンドジャズとして恒常的なバンドに比しても十分聴けるし、ゲストソロイストとして加わっているメンバーも単にソロを吹くだけでなく、アンサンブルにも溶け込んでおり、すばらしい。どうせ顔見世だろうと思っているひともいるかもしれないが、一度聴いてみたらいいと思う。なぜこんなアルバムを持っているかというと、たぶん学生時代に一曲目の「ブルース・イン・マイ・シューズ」を演奏したことがあるからだと思う。その一曲目だが、豪華なメンバーが司会者に名前を言われてブルースを4小節ずつ弾いて登場する演出は、単純すぎてアホみたいな気もするが、やはり盛り上がるし、シンプルなリフブルースを洒落たアイデアをちりばめてオープニングにふさわしいかっこいい曲に仕立てている。グリフィンがフィーチュアされてテナーソロをぶちかますが、グリフィンはゲストではなくこのビッグバンドの一員なのである(そういうひと、ほかにも大勢いる)。2曲目はゲスト扱いのマリガンの作曲・編曲の曲でそのマリガンがテーマを歌い上げて存分に存在感を示す。ええ曲や。マリガンも貫禄十分でかっこいい。3曲目はそのマリガンがアート・ファーマーとのコンビネーションで掛け合いのようなテーマを吹き、そこにアンサンブルが加わる、という趣向も見事。マリガン独特のかっこいい哀愁のマイナー曲で、こういう曲を書かせると上手いですねー。ペデルセンのベースもフィーチュアされる。4曲目はトゥーツ・シールマンスのハーモニカをフィーチュアしたバラードで、クインシー・ジョーンズ編曲のアンサンブルがハーモニカを包み込んですばらしい。5曲目はヴァン・モリソンのソウルっぽい曲をグラディ・テイトがボーカリストとして歌い上げるが、ここでのテイトはドラマーの隠し芸どころか超一流のソウルフルなボーカルとして堂々たる歌唱。後半はスキャットも披露してめちゃくちゃ盛り上がる(この曲などはアレックス・リールが叩いているのだろう)。ウィルトン・ゲイナールというテナーのひとがソロをするが、なかなか豪快。B面に移りまして、1曲目はチック・コリアの曲をスタン・ゲッツがテーマを吹き、フィーチュアドソロイストとしてひたすら吹きまくる。サンバだが、ゲッツはこういう曲でもまったく問題なくこなせるからすごい(ただし、ゲッツとしては普通のレベルのソロかも)。2曲目はかなりモダンな曲調・アレンジの曲で、フェルディナンド・ボヴェルというアルトのひとやアック・ファン・ローイェンというフリューゲルのひとなどヨーロッパ勢がフィーチュアされているが、とくにローイェンのフリューゲルソロは出色の出来映えでは? ベースはペデルセンなのかな。エレベでやるべき感じのラインをウッドベースで見事に弾きこなしている。3曲目は……出たーっ! マンゲルスドルフ! いきなりグローブ・ユニティか! という感じの混沌としたアンサンブルからマンゲルスドルフが無伴奏のトロンボーンソロを繰り広げる。「浮き沈みの運命」という邦題になっているが、「ジ・アップ・アンド・ダウン・マン」というのがもとの曲名で、これはおそらくマンゲルスドルフの演奏内容をも表しているのだろう。マルチフォニックスを駆使した演奏だが、リズムがしっかりしているので普通のジャズファンも聴きやすいと思う。こういうフリーっぽい演奏も含め、バラエティ豊かな構成のプログラムで、絶対聴いていて飽きないだろう。それにしてもマンゲルスドルフはこれだけの豪華ビッグバンドのライブで、ひとりで無伴奏のプログラムを入れるというのはすごいと思うが、堂々たる演奏。この演奏、めちゃ好きで、マンゲルスドルフのソロアルバムとかを入手するまえはしょっちゅうこの曲ばかり聞いていた。4曲目はアット・アダレイの「ジャイヴ・サンバ」で、アダレイ本人がフィーチュアされる。アット・アダレイはこういう風に繊細というより豪快でイケイケな感じのソロをするひとだが、それがこの演奏ではばっちりハマッていて、途中のギミック的な音も含めていかにもという表現になっている。一旦曲が終わったあと、ワンコードのベースラインに乗って静かに続きが浮上する。ペデルセンの歌いまくるベースにあおられるようにスライド・ハンプトンの凄まじいブロウが爆発する。そこからアンサンブルになり、「ワーク・ソング」がはじまるという趣向。どうせフェスティバルのにぎやかしで結成したバンドで、大味なんでしょ? と思っているひとはぜひ聴いてみてほしい、ビッグバンドジャズとしてもソロイストを聴く作品としても美味しいアルバムであります。
「HARMONICA BLUES」(YAZOO RECORDS YAZOO1053)
GREAT AMERICAN PERFORMANCES OF THE 1920S AND ’30S
まだクロスポジションが発明(?)されるまえのブルースハープ名人および無名人によるコンピレーション。めちゃくちゃいい。私のような門外漢でも名前を知っているジャズ・ギラムやジェイバード・コールマンも入ってるがほかはだいたい知らないひと。しかし、ギターにビッグ・ビル・ブルーンジーがいたり、ロバート・リー・マッコイなるひとがハーモニカで入っていたりする(これってナイトホークのことでしょうか?)。ファーストポジションばかりのせいか、すごく明るい響きで、いかにも「ハープ」というより「ハーモニカ」という感じがする。曲もブルースではないプリブルース的なものやバラードとか小唄とかも多くて(というか、そっちのほうが多いかもしれない)、「楽しいハーモニカインスト」という雰囲気で、とにぐぇめちゃくちゃいい。ジェイバード・コールマン(ここに入ってるのはピアノの伴奏付きなので「ザ・パイオニア・オブ・ブルース・ハーモニカ」に入ってるのと同じだろう)がすばらしいのは知っていたが、ほかも全部いい。一曲目はいきなりものすごいトレインピースではじまるが、これで心臓をつかまれる。ジョージ・ブレッド・ウィリアムス(ライナーでも言及されている)の演奏を思い浮かべるなあ(似ているというわけではないが、同じようなパワーを感じる)。録音もデジタルマスタリングされているとはいえめちゃくちゃよくて迫力満点。全体にブルースというよりブルース以前のソングスター的な役割をここではハーモニカが担っているような感じか。そして、もっとローカルで無名に近い連中を集めたような素人っぽさがあるのかと思っていたら、ものすごく「プロ」っぽい演奏ばかりで堪能(伴奏者もすばらしい腕のひとばかり)。20年代末でこれだもんね。音楽は深くて広い。これは愛聴するしかありません! ラストのデ・フォード・ベイリーによる渾身のソロハーモニカの圧倒的なパフォーマンスにいたるまで、とにかく圧巻の14曲。ロバート・クラムのジャケットもバッチリで、いや、ほんと、こんな雰囲気だったのかもなあと思わせてくれる。「黒人は金がなかったので安くて手に入る子どものおもちゃであるハーモニカを使って音楽を云々……」という話が無意味に感じるぐらい、この時点でハーモニカという楽器は研究されつくし、活用されつくしていた。傑作。