onnyk

「IN A TRICE……」(BISHOP RECORDS EXJP016)
ONNYK

 すばらしいの一言。ONNYKこと金野吉晃のリーダー作で、ベースに河崎純、ドラムに中谷達也が加わっているが、なんというか、聴いた印象では、リーダーによるサックスソロのアルバムのように聞こえる。それは、共演者が力量不足でリーダーしか聴こえない、とか、三人がからんでいない、とか、そういったことではもちろんなくて、あまりに三者が渾然一体となっているので、全体がひとつのサックスによるソロインプロヴィゼイションのように聞こえるのだ。アルトのこういったフリーフォームの演奏で、表面的にはおんなじように聞こえるのだが、どうしても入り込めないというか、おもしろくない演奏をするひともいるわけで、どこがどういう分岐点なのか自分でもわからないが、とにかくONNYKというひとはめっちゃええ。かっこええ。このひと、ぜひ一度生で聴きたいものだ。

「THE UNSAID」(BISHOP RECORDS EXJP010)
KINNO YOSHIAKI(A.K.A.ONNYK)

 めちゃめちゃすばらしいのです。愛聴盤なのであります。ONNYKことサックスの金野吉晃がいろいろな組み合わせで演奏したもので、曲ごとに編成が変わる(サックスソロも2曲収録されている)。じつは、私の持っているCDは一曲目にキズがあるのか、ちゃんとかからないのだが、それをものともせず、いつも聴きまくっている。1曲目は、サックスふたり、ギターふたり、ベース、コントラバス、ピアノ、ドラムによる集団即興だが、8人という大人数にもかかわらず、全員が相手の音を聴きあっていて、混沌とする瞬間は一瞬もなく、とにかくいい感じで進行し、しかも何度も爆発がある。これはなかなかできないことですよ。かっこいい! 2曲目はチェロとサックスのデュオだが、じつに自然で、湧き上がってくるような昂揚感もあり、何度聴いても飽きない。即興というのが、その場かぎりの「霧散する」ものでないことが実感されます。3曲目はサックスソロ。高音で狂っているように聞こえるが、すごく安定感があり、狂気を演出した、しっかりコントロールされた演奏だと思う。すばらしい。惚れる。4曲目はふたりのギターとのトリオ。ノイズっぽい雰囲気の、ざらざらした質感の即興で、緊張感が高まる。めっちゃええやん。3人とも、距離感の大切さがよくわかっていて、そのあたりの「活け殺し」が快感。5曲目はまたサックスソロで、3曲目よりもちゃんと(?)した吹き方の演奏。音が高音から低音までしっかり鳴っていて心地よい。最後の曲は、ピアノ、コントラバスとのトリオで、微細な音のやりとりからはじまり、危うい均衡を積み上げていくタイプの演奏。その均衡をいつ、いかに崩すか……みたいなテンションがずっとあって、実際崩れていくのだが、その過程がじつに美しい。そして、ふたたび、いちから積み木を積んでいくのだが、全体の流れがじつに自然で、引っかかるところがひとつもない。かといって、耳に残らず流れていってしまうようなものではまったくない。ええ感じです。このひとは基本的にサックスが「うまい」と思う。凛とした、透明感のある音が、とにかくすべての土台にある。ちなみに裏ジャケットではテナーを吹いている写真があるが、本作ではアルトとソプラノだけのようです。

「PRIVATE IDIOMS」(PUBLIC EYESORE 40 2001)
ONNYK

 なんと、サックスを吹いておらず、ギターだけの即興演奏。2曲だけで、どちらも30分近い長尺の演奏だが、これがいいんです。ギターの即興のひとっていっぱいいて、どれもすばらしいが、このひともほんと、すごい。ギター一本で延々弾き続けるだけだが、そのキラキラした音の重なりのなかに歌が聞こえてくる。聴いていて飽きることがないのは、心地よいテンションがずーっと持続しているからでもあろうが、なんというか、誤解を恐れずにいうと、ちゃんとエンターテインメントになっているからだと思う。自宅のキッチンでひとりで録音したようなギターソロのどこがエンターテインメントやねん、と思うかもしれないが、いや、これはものすごく楽しめますよ。このひとはサックスもめっちゃええけど、ギターもええなあ。つまりは、演奏家としての姿勢が私の好みなのだろう。ひじょーーーーーにかっこいいが、ある意味木訥でもあり、ギターのことはよくわからんが表現力も抜群なのでは? とにかく聴いていて楽しく、疲れない音楽です。そのかわり、ギャーっと顔が引きつったり、拳を握り締めたり、興奮のあまりそのへんをブッ叩いたりということはありません。そもそもそういうところを目指していない演奏なのである。

「PRIVATE IDIOMS」(PUBLIC EYESORE 40 2001)
ONNYK

 「ARS LONGA DENS BREVIS」(ALLELOPATHY ALL−2) FRED FRITH/YOSHISABURO TOYOZUMI/ONNYK/JOHN ZORN  これって、後世に残るような名演じゃないの……と思った。清水俊彦のライナーが、(たぶんそれが印刷された帯の材質のせいもあって、かすれてしまって)めちゃくちゃ読みにくい(そもそもこんな小さい字は私のローガンには無理なのです)が、まあ、ライナーよりも中身なので、うきうき気分で聴いてみた。85年と87年の4つのライヴ録音が収められている。1曲目はフレッド・フリス〜ONNYK〜豊住のトリオ。ONNYKこと金野吉晃氏は、サックスインプロヴァイザーとしてだけではなく、オーガナイザー、レーベルオーナー、音楽評論の論客……などさまざまな顔を持っているが、私にとってはサックスプレイヤーとしての顔がいちばんしっくりくる。サックスでのインプロヴィゼイション……ということを考えると、その楽器に対する習熟がいろいろな意味で問われると思うが、ONNYK氏はまずはすばらしい「サックス奏者」であり、いつもその発する音に感銘を受けている。楽器が鳴らせずにへろへろ吹いて、「即興です」と言っているひとや、ただただギャーッとノイズをぶちまけるひととは根本的にちがうのだ。フレッド・フリスと豊住のからみも規模がでかく、おおらかで、原始のリズムを感じる。そこにサックスが加わって、めちゃくちゃ面白い世界が構築されている。基本となるビートはあまり変化しないのだが、躍動感にあふれ、フリス〜豊住〜ONNYK(ギターもあり)のカラフルなノイズがひたすら心地よい。おもちゃ箱をひっくり返したようながちゃがちゃしたサウンド。36分もある演奏だが、半分ぐらいったところでやっとリズムが変化し、ゆっくりした4ビートになる。このあたりも絶妙な味わいですよね。そのあとビート感がなくなってフリーな即興になり、ONNYKのソプラノのブロウ、フリスのギターを中心とした真っ向勝負の演奏はめちゃくちゃ好みです。そのあと、ドラムソロになるのだが、そこにからむふたりのノイズが最高です。そこからまたリズミカルな展開になるのだが、フレッド・フリスというのはこういう感じを好んでいるのかも。フリス〜豊住〜ONNYK(ギター)のノリノリの演奏。ラストは3人が一丸となって爆発する。いや、もう、嘘だと思うかもしれないが、36分があっという間である。いやーっ、かっこええ!
 1曲目がめちゃくちゃよかったので、ものすごい期待とともに2曲目を聴く。ジョン・ゾーン、豊住、ONNYKの三人。これはいきなりフリーなインプロヴィゼイションだが、うひゃー、かっこいい! これはもう完全に私好みの演奏で、最初から最後まで興奮しっぱなし! ONNYKはサックスだけでなくキーボードも巧みに使い、ゾーンはサックスの変則奏法を駆使しまくり、豊住は要所要所にビシビシとカラフルなリズムをぶち込む。こういうのが好きなんだよねー……と言いながら何度も聴く。どんどん場面が変わっていくタイプの即興なので、めちゃくちゃ疾走感があり、ひたすら楽しい。3人ともただただ「わかってる」ひとたちなので、探り合いとか一切することなく、最初から最後まで全力で駆け抜ける。なんべんも言うようですが、こういうのが好きなんですよねー。アコースティックなノイズの部分もかっこいいんだよねー。うーん、この演奏は最高です。ドラムソロのあと、間の多い即興が途中で切れる(たぶんそのあとも続いているのでは?)。
 3曲目はフレッド・フリスのソロ。歯切れのいい即興。4曲目はジョン・ゾーンのソロ。このぐじゃぐじゃっとしたノイズ、なにをどうやってるのかわからないけど、とにかくすばらしいですね。どちらも完璧。あー、ジョン・ゾーンのこのソロは本当に私の好みです。いろいろ学んだ。このあと、豊住さんとONNYKさん、それぞれのソロがあったら構成としては完璧だったかも。感動もし、いろいろ考えもしたりした豊穣な演奏でした。傑作! だれがリーダーというわけでもないオムニバス作品だと思うが、仕掛け人であるONNYK氏の項に入れておきます。なお、タイトルはヒポクラテスの「芸術は長く人生は短い」だそうです。