shiro onuma

「DANNY」(CHITEI RECORDS B2.3F)
SHIRO ONUMA TRIO FIRST

 正直、大傑作ではないかと思う。フェダイン解散後に大沼志朗が組んだトリオによるライヴ。大沼氏が親しかったサン・ラ・アーケストラのダニー・デイヴィス(85年の1月に亡くなった)に捧げられた演奏である。本作の録音が2001年だから、大沼氏へのダニー・デイヴィスへの想いの強さがわかる。冒頭、渡辺てつというひとのアルトソロから始まる。このひとはニューハードにいたそうで、ポピュラー歌手の歌伴やスタジオ仕事などもばりばりこなす、幅の白い音楽性の肩の用でアる。サックスの基礎がしっかりあるうえでこういう表現をしているめちゃくちゃ上手いし、4ビートのパートでのフレーズなどバリバリ吹きまくっているが、スクリームやフリークトーンもばっちりである。本作の録音時には25歳と思われるが、すでに表現すべきことがしっかりある感じだ(アルトだけでなくソプラノもめちゃ上手い)。ベースの永塚博之もオーソドックスなジャズの世界では有名なかただが、ここではより自由奔放な弾き方をしていて聴きごたえがある。ベースソロなどまるで夢を見ているような気分にさせられる。そして、リーダーの大沼志朗は剛腕かつ繊細で、このトリオを支えている。三人の音がからみあって高みに錐もみのように上昇していくさまは何度聴いても感動的だ。大沼氏は今も確信をもってフリージャズの道を進んでいるが(演奏もキャリアも、とにかくすごいひとだと思います)、ここに収められた音楽はけっして過去のものではなく、忘れらされてはならない最高のものであると思う。

「SHIRO ONUMA TRIO 2ND」(CHITEI RECORDS B26F)
SHIRO ONUMA TRIO

 いやー……一作目に続いて傑作としか言いようがないですよね。アルトの渡辺てつの無伴奏の咆哮からはじまる一曲目は、いかにも「フリージャズ」という感じの力強い演奏でこのサックス奏者を徹底的にフィーチュアしている。「フリージャズ」という言葉も使い方が難しくなっている昨今だが、この作品はそう呼んでしかるべき内容だと思う。1stアルバムも素晴らしかったが、この2ndもすばらしい。この三人の緊密で過激なコラボレーションは聴いていてうっとりするレベル。あーだこーだという必要もない。たとえばこの演奏が1960年代のものだったとしたら「新しい演奏」ということになり、1990年代のものだったら「過去の模倣」とか古臭いとか言われるかもしれないが、ニューオリンズジャズがスウィングジャズが、ビーバップが、モードジャズが今でも新鮮なアイデアと若いひとたちのやる気のもとに再創造されていることを考えれば、こういう音楽が「今」演奏されていることのすばらしさをおもう(今、といっても録音は20年もまえだが、同じような演奏は今夜もどこかで行なわれている)。このドロドロしたマグマのような熱気は、凡百の「ジャズ」をぶち壊してくれる。すぐにまたサックスの無伴奏ソロになり、またトリオでの爆走になるが、渡辺テツというひとはとにかく基礎がしっかりしていて、めちゃくちゃ上手くて、こういう爆音の嵐のなかでも軽く吹いたり、強く吹いたりという「いけ殺し」がすばらしいのだが、それはどれだけ軽く吹いても芯のある音なのでちゃんと伝わるという自信があるからだろう。本当に聞き惚れる。さまざまな場面がどんどん展開していくのでまるで組曲を聴いているようである。その展開の仕方があまりにドラマチックなうえ、テンポや雰囲気やモチーフも変わっていくので感動せざるをえない。しかしサックスが主役である感じは一貫している。20分もある演奏だが、あっという間である。2曲目はリーダーのドラムソロではじまる。そこにアルトが加わり、フリーなリズムでしばらく演奏が続いたあと、ベースとドラムのデュオになるが、ここはかなりジャズっぽい感じである。ここもすごく好き。ベースもすばらしい。3曲目は狂乱のノイズでこれは典型的なフリージャズだが、めちゃくちゃツボを押さえた、かっこいい演奏。三人の息がばっちり合っている。ドラムの推進力が半端ない。荒っぽく叩きまくっているようだが、じつは気配りがすごくて、ひたすら心地よい。途中からのサックスの咆哮ぶり(最後はリードを軋ませてキーキー言いまくってる)も凄まじい。4曲目はたぶんアンコールで、4ビートの短い演奏(テーマみたいな感じ?)。全編通じて、3人がそれぞれの実力を発揮しまくった見事なトリオだと思う。渡辺てつというひとの経歴を見ると、とてもじゃないがこんなえげつない正統派フリージャズをやるような感じではないのだが(山野で賞を取り、ニューハードのレギュラーで、共演者の顔ぶれも王道の大物たち)、こういうのもできてしまう、しかもめちゃくちゃクオリティが高い、というのはひたすら感心。「これしかできまへん!」というタイプと「なんでもできるけどこれも好き」というタイプがあって、どちらもミュージシャンとしてはすばらしいと思う。録音もいいのだ。傑作!