「MAKE SOME NOISE.LOUD YUR SONG.」
MONORAL ZOMBIE
ドラムとベースのデュオ、という言い方はたぶん合っていないのだろうな。1曲目のど頭からめちゃくちゃかっこいい。そしてそれはアルバムの最後の最後まで続くのだ。ドラムンベースとかまるで知らんけど、人間ドラムンベースというべき曲も入っていて、、普通なら手にすることはないと思われるが、不破ワークスのライヴに行ったときのドラマーがこの大西英雄さんで、不破さんが「このアルバムはめちゃくちゃいいから」と推薦してくれたので購入してみたのだ。ジャケットもベースの棚田竜太さんが描いているのだが、これがまあめちゃかっこいいのだ。ドラムンベース的なものばかりでなく、間をいかした超かっこいいグルーヴの曲もいっぱいあり、聞き飽きることはない。ベースとドラムしかいないのに、ベースのフレーズがいちいちかっこよくキャッチーで、しかも展開が速いから、まるで5,6人編成のバンドを聞いているみたいにフツーに聴ける。ぶわーっ!というバンドならではの派手な盛り上がりもあって、どないなってんねんと驚愕する。ヴォイスが重要な役割を果たしていることはもちろんだが、やはり、ベースが死ぬほどかっこいいブチブチでキレッキレのフレーズを弾きまくり、ドラムがどっしりしたリズムを提供しまくり、その両者がビシーッと合っているからこそなのだろうな。たとえばベースが超絶技巧のチョッパーで弾きまくるような見せ場であっても、そこに一工夫ふた工夫が加えられており、音楽的な厚みが感じられる。とにかくつぎ込まれているアイデアの量が半端じゃない感じ。よく知らない音楽についていろいろ書いてしまってすんまへん。めちゃ気に入ったです。なお6曲目は仙波清彦師匠にインスパイアされた曲とのこと。対等のデュオだと思うが、便宜上大西英雄さんの項に入れた。
「ヒデヲの間」(地底レコード B91F)
大西英雄
みんな聞けーっ! このアルバムはぜったい聞いてくれーっ! だまされたと思って聞いてくれー! 責任は持たんが聞いてくれー! この世のアホを愛するあなたたちにどうしても聞いてほしい最高のアルバムなのです。
あの超かっこいいモノラルゾンビのひとである。不破さんのコンボとか渋さ知らズでも観たことがある。しかし……こんなひとだったとは! 仙波清彦師匠の弟子だったとは知らなかったが、飄々とした音楽観に共通点があるのかもしれない。その仙波師匠の帯のキャッチが「ドラム叩き歌いの決定版! ハードなドラムからの脱力歌が力一杯くだらない! 言っておくが、ハマるぜ。」で、まさにこれ以上なにを言うことのない、完璧に内容を現した文章で、そうです、私もハマりました。ドラムを叩きながら歌う、というシンプルなコンセプトなのだが(1曲だけドラムの多重録音がある)、ドラムのリズムがけっこう渋くてハードボイルドな感じなのに、歌がなー……。地底レコードの吉田さんは「朴訥な歌」と書いておられるが、「朴訥」というか……その……「アホ」であります(大阪弁でいうところのアホは最上級の誉め言葉であります)。もう、驚愕のアホさ加減で、すばらしすぎる。最近仕事面でも人間関係でも金銭面でもいろいろしんどいことがありすぎて、ギャーーーーッと叫び出したい日々なのだが、本作を聴くと、すーっと気持ちが軽くなる。癒し、というのとはちがって、なごみ、という感じか(どう違うのか自分でもよくわからんが)。2曲目の「チーズパンがころがってー、フライパンにつかまってー」と延々繰り返される歌詞を聴いていると、たいがいのことはどうでもよくなります。歌詞の意味がわからん? 私にもわかりません。4曲目の「はと」という曲は「ぽーぽわっぱぽー」というはとの鳴き声的な歌詞(?)がゆったりと(しつこく)繰り返される曲。だからなんやっちゅうねん! と皆さん叫びたくなりませんでしたか。私は叫びました。「だからなんやんちゅうねん!」ボーカルが多重録音されるあたりも、なんかはとの大群がベランダに集結してくる絵が思い浮かび、ちょっと怖い。5曲目の「うし」という曲は「もう」というフレーズがヘヴィなリズムのうえで延々繰り返される曲で、この「延々繰り返される」と言う言葉はこのあともたぶん何度も書くことになる。6曲目の「せみ」という曲は5拍子のシンプルで力強いリズムのうえで「みーんみーん」という歌詞(?)が延々繰り返される。これもまた叫んでしまう。「だからなんやっちゅうねん!」でもドラムはかっちょいい。ドラムはかっちょいいのに……セミは余計やろ! と書いて気づいたのだが、これは私の小説に対する批評でも多く使われるフレーズではないか。「あれさえなければ」……とよく言われますからね。7曲目の「きつね」という曲は本人解説によると「狐に化かされた男が太鼓を暴れ叩く」とあるが、そう言われてみるとそんな光景が浮かんでくる。8曲目は本人解説によると「インドア派に捧げるバラード」とあるが5拍子のシンプルで力強いリズム(さっきも書いたなあ)に乗せて「カ・タ・ツ・ム・リ」と連呼する曲。後半、どんどんドラムがハードになっていくが、それと「カ・タ・ツ・ム・リ」というボーカルのギャップがえげつない。なんだかわからないが壮絶ですさまじくてアホな音楽が展開されている。「ぞうさんのおさんぽ」というフレーズを繰り返す合間に「遅刻はいけない。言い訳しちゃだめだめ」という本音をするりと挟み込んでくる9曲目もなんとなく言い訳がましくて好きだ。最後のどーん、でーん、どーん、でーんという音が象が去っていく感じがしていいですね。10曲目は変拍子のうえにカズー(?)かなにかを乗せた曲で、本人解説では「黄色のラブソング」とあるが、どういうことでしょう。11曲目の「やさい」という曲の歌詞の、世界を破壊するぐらいの凄まじいアホさ加減は、もう聴いていただくしかない。これってなんの意味があるのか。またしても叫ばなくてはいけない。だからなんやっちゅうねん! もやしがどないしたっちゅねん! アホかーっ! 12曲目は激しいドラムに乗せて「こっ、こっ、こっ、こっ、こっ、こけーっ!」と絶叫する曲で、いやもうまたしても「だからなんやっちゅうねん!」と我々聞き手も絶叫するしかない。でも快感。なにが「クックドゥードゥルドゥー」やねん! 一番ラストの「こけーっ…………」が物悲しい。13曲目はグルーヴが主体の演奏で、モノラルゾンビの音楽ともつながる……ような気がする。14曲目の「富士山」だけが電気グルーヴのカバー曲で、めちゃくちゃかっこいい。こういう演奏ばかりでアルバムを構成したら、きっと歴史に残るような作品になったと思うのだが、おそらく大西さんにはそういった気持ちはなかったにちがいない。今やりたいことをやりきったまでだろうと思う。でも、私にとっては完全に「俺史に残る」アルバムとなったけど。そしてラストの「スペインの村」は、本作の白眉。画家である父親に連れて行ってもらったスペインの村での情景を描いたものだそうで、「羊飼いが追うベルが山脈でこだまして天然のディレイを作り出していた」という本人解説のとおり……まさにそのとおりの演奏になっている。本作で一番の長尺の演奏だが、聞きごたえがあって見事としか言いようがない。まさにドラムで描く絵画ではないか。ここで触れなかった曲も全部すばらしい。田村夏樹さんのボーカルアルバム「コ・コ・コ・ケ」とも通じるようなアホで超絶かっこいい世界観。ジャケットの絵も内容とぴったりあっている。この作品が売れたら日本という国も捨てたものではないと思えるのだが……。ただひたすら推薦します。よくぞリリースしてくれました。傑作!