eiji otogawa

「存在〜NEW & OLD WONDER」(K’STRACKS KTST−7002)
EIJI OTOGAWA WITH TAKEO MORIYAMA

 本作は本当に、ていねいに、真剣に作られた傑作であって、出た当時に聴いて、リーダー(とサイドマン)のこの録音にかける意気込みみたいなものがひしひし伝わってきて、ちょっとしんどいぐらいだったのを思い出す。今聴いてみると、やはりそういう熱気というか精神性が強く感じられる演奏ではあるが、音楽としてもひじょうな高みにあり、ごく普通のジャズとしても楽しめる。リーダー音川は、森山バンドに抜擢された当初、「あれはブレッカー小僧だ」と言われていたようだが、たしかにブレッカーの影響は多大だと思うけど、こうして初リーダー作を聴いてみると、コルトレーンに似ているように思う。フレーズ云々というより、演奏に対する姿勢とか雰囲気とかが、である。「ジェントル・ノヴェンバー」の武田和命が、フレーズとかは全然似ていないのに、なぜかわからんけどコルトレーンのあの孤高の雰囲気を醸し出しているのと同様、音川の音からもコルトレーンが聞こえる。「ジャイアント・ステップス」など、コルトレーンとはまったくちがうアプローチをしているのになあ。とにかく、森山威男と真っ向からぶつかってデュオをして、ここまで熱い演奏を繰り広げるテナーは、そうそういないと思う。ソロにも、いろんなアイデアがぎっしり詰まっていて、ほんと、何度聴いてもいろんな発見があるアルバムだが、そんな聴き方をしなくても、最高に美しい演奏だと思う。ソプラノの音もすばらしい。ライナーでいろいろ本人が語っているが、はじめはそんなものは読まずに、まず聴いたほうがいいですよ。