「PALHASO」(SAKURA RECORDS JMCK−3002)
続木力&谷川賢作
アコーディオンとハーモニカのデュオということで、「癒し系」(嫌な言葉だが)的な演奏を思うひともいるだろう。それはけっしてまちがいではないが、このふたりのデュエットは、ちゃらちゃらしたオルゴールみたいな演奏にくらべて、骨太で、リズムが強烈で、うねりがあって、豪快かつ繊細で、スピード感があり、インプロヴィゼイションとインタープレイの応酬が続くという、似ても似つかぬものである。しかし、全体から受ける印象は、一種の「なごみ」である。たとえば、ハーモニカの即興部分など、ジャズのような「捨てフレーズ」というか、おいしいメロディーとおいしいメロディーのあいだのつなぎの箇所がない。ジャズでは、そういった「心に残らないけれど、考えながら即興するにはどうしても必要であるところの「おいしくない」部分が、ジャズっぽさとかドライブ感を生み出すのに貢献しているわけだが、このハープのひとの即興はそういう「捨てフレーズ」がなく、全部が全部「歌」になっているのだ。どっちがよいとか悪いとかいった問題ではなく、そんなところが「なごみ」を感じさせる大きな要因ではないかと思う。選曲も実に絶妙で、なにしろ一曲めが松田聖子の「スウィート・メモリーズ」だが、甘さに流れないすばらしい演奏。「山寺の和尚さん」、「少年時代」といったポップスも聞きどころ。シンセをかぶせたり、ストリングスやホーンセクションを入れたり、コーラスをくわえたり……なにかにつけて、ちょっとでも隙間があれば埋め、壁の厚塗りをしようという傾向のある昨今の流行音楽よりも、こういうスカスカの音のほうが、聴き手の想像力をかきたてて、楽しい。もちろん、相当の技量がなければできないことではあるが、このふたりなら全く問題ない。
「NUAGE」(SAKURA RECORDS JMCK−3004)
PALHASO
このアルバムから「パリャーソ」名義になる。ふたりに、ゲストとして小山彰太、吉野弘志らをくわえた編成。通常のライブに足を運べばわかるように、ハープとピアノのふたりだけで、彼らはほとんど完璧に近いリズム、ハーモニー、メロディを360度にむけて発信できるが、おそらくバンドとしての安定とか、聞きやすさを考慮してのことだろう。あいかわらず、選曲もバッチリで、「夕焼小焼〜七つの子〜赤とんぼ〜ちいさい秋みつけた」のメドレーとか「クリスタル・サイレンス」、「島歌」、「サテン・ドール」など、一見ごった煮的なのに、不思議な統一感があるのは、このふたりがバンドとして一本芯の通った個性を持っているからだろう。
「GRIOT」(SAKURA RECORDS JMCK−3005)
PALHASO
パリョーサの第3弾。私がライナーノートを書いているからいうんじゃないが、1,2枚目とならぶ傑作だと思う。12曲入っていて、どの曲にもひとりずつゲストを迎えている。つまり、どの曲も続木、谷川、ゲスト……というトリオで演奏されているわけで、リスナーは、いつものような続木〜谷川の緊密なコラボレイションだけでなく、そこにくわわるゲストそれぞれの個性や、それによって続木〜谷川ラインがどう変化するかを味わうということができる。実際、くわわるゲストは、「なるほど」と思えるようなぴったりはまるものから、「ええっ」と驚くような(たとえばタップダンサー)ものまで多彩で、しかも聴いてみるとそれがデュオに見事に溶け込んでトライアングルとしての個性をつくりあげていることに驚く。さがゆきがゲストにはいって、カボチャがテーマのブルースあたりがこの連作短編集(?)のクライマックスだろうが、ほかの曲もどれひとつ見劣りしない。1,2集でみせた「選曲の妙」はここでも発揮されていて、へー、あの曲がねえ……という素材をパリョーサ流に調理してみせる腕前はたしか。発売記念ライブにも足を運んだが、セサミストリートのテーマを、おもいっきりファンキーにやりまくっていたのに感動した。これからも、どんどん新作を発表してほしい。