leo parker

「ROLLIN’ WITH LEO」(BLUE NOTE RECORDS BST−84095/LT−1076)
LEO PARKER

レオと言われると、レオ、レオ、パンジャの子……と言いたくなるジャングル大帝世代であります。ヤングバッパーたちの巣窟、と呼んでもよいと思われる伝説的なビリー・エクスタインバンド(「ザ・バンド」といえばエクスタインバンドを意味したという)に参加したレオ・パーカーは、当時、「ザ・キッド」というあだ名がつけられていたらしい(デクスター・ゴードンの回顧によると「ザ・バンド」は「暴風雨のような若いやつら(テンペステュアス・ユース」にあふれていた、という。たしかに、メンバーを見るとまさしくそんな感じ。このあたりのことはおなじみボブ・ポーターによる英文ライナーにめちゃくちゃ詳しく書いてあり、ビバップ黎明史のような濃い内容なので、ぜひ読んでください。「ザ・バンド」を去来する綺羅星のようなすごい名前に圧倒されること請け合い)。もともとはアルトを吹いていたパーカーだが、ミスターBから「おまえはバリトンを吹け」と楽器を渡され、それ以降、二度とアルトには戻らなかったらしい。本作は「LET ME TELL YOU ABOUT IT」と並ぶブルーノートでのリーダー作だが、なぜかこちらはリリースされず、録音後20年経ってからやっと発売された。よく「なぜ録音当時お蔵入りになったのかわからない。それぐらいすばらしい演奏である」みたいな書き方をするライナーノートや評論をよく目にするが、本作はまさにそれ。めちゃめちゃすばらしい内容で、どうして発売されなかったのかまったくわからん。50年代によく流行った、ビッグバンドを3管、4管で再現するようなサウンドで、パーカーは全面的にそういうジャンプっぽいバップを押し出している。メンバーも、大物こそいないが(失礼)、じつにいいミュージシャンばかりで、どのソロも聴きごたえがあるし、アンサンブルもかっちょいい。パーカーとベースのアル・ルーカスとピアノのジョニー・エイシアはイリノイ・ジャケーバンドでの同僚だったようだ。それにしても、聴けば聴くほど滋味あふれる名盤である。8曲のうちA−1(タイトルの「ライオンの吠え声」というのはアルフレッド・ライオンに捧げたものでしょう)のブルースのテーマ部分を聴いただけでそう思うが、そのあと登場するパーカーの張り切ったバリトンブロウを聴くとそれが確信に変わる。つづくデイヴ・バーンズのバッピッシュなソロも見事のひとことだが、そのあとのテナーのビル・スウィンデルというひとのソロは完全に私好み。正直、本作の参加メンバー中、一番好きである。この、ワーデル・グレイやジェイムズ・クレイを思わせるような、ノリがよく、歌心あふれるテナーを披露しているスウィンデルに興味が湧くが、正直、調べてもよくわからん。このひとはじつは基本的にはアルト・プレイヤーで、ワイノニー・ハリスのバンドに在籍していたらしく、吹き込み数も多い。ほかにはラッキー・ミリンダーのオーケストラやジョニー・オーティス・ショウでの吹き込みがあるから、ジャンプ〜R&B畑で活躍していたひとらしく、テナーを吹いているのはこのレオ・パーカーとの2セッションだけのようである。ここでのソロを聞くかぎりでは、「テナーの名手」という印象を受ける。エイシズのピアノもなかなかレトロな雰囲気もあっていいが、そのあとのバリトンとドラム(ウィルバート・ホーガンというひと)との4バースもすばらしい。名手はどこにでもおるもんや。2曲目はゆったりとしたコテコテのテンポのマイナーブルース……かと思いきや、8小節目からメジャーに変わるという凝った曲(12小節なので、変則マイナーブルースという感じ?)。ところがブレイクしながら登場する先発バーンズの「きっちり」した感じのトランペットソロを聴くと、全編マイナーブルースとして処理されているのだ。テーマだけかい! でもめちゃくちゃかっこいいソロです。そのあとに出てくるスウィンデルは、やっぱりこのひと好きやわー、と思わずスピーカーのまえで口にしてしまうような渋くて、しかも聴くものの耳を放さない美味しいソロで見事。チャーリー・パーカーのダイヤルセッションでのワーデル・グレイの立ち位置などを連想。つづくエイシアのピアノは鍵盤と戯れているかのような、スウィング時代の雰囲気が濃厚に立ちのぼる。短いベースソロのあと、やっと主役のパーカーが出てくるが、でかい音で朗々と吹きならされるバリトンは、フレーズがどうこうというまえにその音色のすばらしさに聴き惚れてしまう。3曲目はタイトルにもなっている「ローリン・ウィズ・レオ」だが、超シンプルなリフを3回繰り返すだけのブルースである。パーカー、バーンズ、スウィンデル、エイシア……とリレーされるソロだが、どれもマジでめちゃくちゃすばらしい。しかし、やっぱり私の耳はテナーに魅かれてしまう。出だしの音色が、もう最高である。レスター・ヤングっぽいというか、ややダルい感じではじまり、ぐいぐいノッてくる雰囲気は、もうたまらん! というやつであります。その好調さは4曲目も持続していて、この「フライング・ホーム」的なノリノリ曲の先発ソロでスウィンデルはちょっと力を抜いたノリでツボを心得た演奏をする。バーンズもこれぞバップという(ハードバップではない)ソロ。そして、パーカーはたくましい音で豪快でよどみのないブロウを展開する。エイシアのソロに続いてふたたびパーカーのソロのあと、テーマに戻る。B面に行って、1曲目は「ジャンピン・レオ」というタイトルどおりのジャンプするテンポのブルースで、先発のレオはひたすらビバップ的なフレーズを吹きまくる。それは二番手のバーンズやスウィンデル、エイシア、アル・ルーカスにも言えるが、なかでもテナーのスウィンデルはかなり熱血なブロウをかましていて、すばらしい。2曲目はスローブルースで、バリトンのワンホーンで切々とテーマとソロが奏でられる。この曲は本作中、唯一のレオ・パーカーのショウケースで、この過小評価のバリトンサックス奏者の実力がはっきりとわかる演奏である。つづくエイシアのピアノソロもまるでブルースピアノのように胸に迫る。エイシアの参加が本作の価値を高めているとわかる演奏である。ふたたびパーカーのバリトンが登場してワンコーラスソロをしたあと、テナーとトランペットとのリフの掛け合いがあり、エンディング。3曲目はコールマン・ホーキンス作曲の循環曲。先発はバリトンで、ゆったりとしたノリでバップ以前の世界に聴き手を誘う。バーンズはミュートをつけて、スウィンデルはサブトーンで同じくゆったり歌う。リーダーの意図を汲んでのソロだと思われる。エイシアのソロもスウィング的な要素を押し出したもの。そのあとアンサンブルがあって、テーマに戻る。ラストの4曲目はアップテンポの循環ナンバー。パーカーはバリバリ吹きまくる。そのあと、2管でのリフが入り、パーカーのソロを盛り立てる。正直、力技の演奏のようではあるが、まさしくバリトンのホンカーという感じの迫力のあるソロ。そのあとエイシアのピアノがあり、途中からバリトンがふたたび登場してゴリゴリとブロウする。ラストのバリトンのカデンツァも見事! いわゆるバラード曲が一曲もない点が、当時リリースされなかった原因かもしれない、という気もしないでもないが、とにかく本作が世に出てよかったです。傑作!