maceo parker

「ROOTS REVISITED」(MINOR MUSIC MM 801015)
MACEO PARKER

 メイシオがジャズをやった、という感じで話題になったアルバムだが、中身はジャズというよりR&Bで、ファンクな曲もやっている。しかし、考えてみれば、メイシオは「ルーツを再訪する」と言っているだけで、ジャズをやります、とはひとことも言っていないのだ。そして、ここに収録されている曲はけっこうバラバラだが、正直なところ、これらのひとつひとつがメイシオのルーツなのだろう。レイ・チャールズあり、カーティス・メイフィールドあり、ファンクあり、スウィングジャズあり、大スタンダードあり……というこのバラバラな感じを楽しめばいいのだ。しかし、最初に聴いたときは、なんとJBホーンズの仲間であるフレッド・ウェズリー、ピー・ウィー・エリスがホーンセクションを務めているし、オルガンはドン・ピューレンだし、ベースはブーティー・コリンズだし、ドラムはビル・スチュアートだし、さぞかし阿鼻叫喚の熱血ブロウの数々が繰り広げられているだろうと期待したが、じつはそういうタイプの音楽ではなかった。メイシオはひたすら端正に歌いまくることに集中しているようで、はっきり言って「のほほん」とした牧歌的な雰囲気が終始漂っている。JBホーンズたちはほぼソロはなく、全編メイシオが主役なので、つまり全編のほほんなのだ。一曲目はヴィンセント・ヘンリーがゲストで入っており、メイシオによる軽快なテーマのあと、音色を濁らせた先発ソロはヘンリーだろう。メイシオはそのあときれいな音色で引き継ぐ(もしかしてサビの途中でメイシオにチェンジしてる?)。メイシオはジャズ的な、というかバップ的なフレーズを吹かないなあ。ヘンリーのソロも短いし、演奏全体もけっこう早くフェイドアウトする。2曲目はドン・ピューレンのオルガンが利いた「歌のないR&B」という感じの演奏で、ハンク・クロフォードなんかだともっと切々と歌い上げると思うが、メイシオはあっさり淡々と吹く。最後の最後にケケケケケケケ……という奇怪なフレーズを吹くところがいちばん盛り上がるかも。ラストのリフから三管が同時にソロをするあたりはめちゃくちゃかっこいいです。3曲目はミンガスの「ベター・ゲット・ヒット・イン・ヨ・ソウル」である。早い三拍子に乗ってメイシオはややバップ的なフレーズもまじえつつ、ガンガン吹きまくる。熱血ブロウという点では本作中一番ではないか。アレンジもかっこいい。最後に手拍子をバックに吹くところも洒落ている。4曲目はメイシオの曲でゆったりとしたノリのカントリー的な雰囲気さえあるのどかな曲である。ウェズリーのけっこう長いソロもあるが曲の雰囲気を壊すことはない。そのあとメイシオが熱いブロウをするが、これも譜面に書いてあるかのような端正さを感じる。ザディコとかルイジアナっぽいのどかさもあるような気がする。5曲目もメイシオ作のブルースでソロ回し。昔のジャズロックとかオルガンジャズ的な感じのノリで、メイシオはほんとにシンプルな音使いしかしていないのだが、これがかっこいいのです。フレッド・ウェズリーのソロも適度に力強く、適度にスムーズで、ベニー・グリーンなんかを想起させるイナタさがある。ピー・ウィ・エリスはもっとホンカーっぽいエグいブロウをしてくれて、すばらしい。かなり荒っぽいがこのアルバムではいちばん好きなソロ。ピューレンのオルガンもツボをしっかり押さえた堂に入ったもので、聴きごたえ十分である。そして、3管のチェイスになるが、このあたりもしっかり盛り上げていきなり終了。なるほどー。6曲目はメイシオのアルトをフィーチュアした「オーバー・ザ・レインボー」。泣き節でもないし、熱血ブロウでもなく、どちらかというと淡々としたバラード。7曲目はジェイ・マクシャンのビッグバンドでおなじみの「ジャンピン・ザ・ブルース」。これがいちばんスウィングジャズのリトルビッグバンド的だが、ノリはあまりスウィングっぽくなく、もっとシャープというかイマドキだ。ピー・ウィ・エリスのソロはかなり変態的でおもしろい。最後のテーマのところでオルガンがめちゃくちゃ弾いてるのがかっこいい。ラストはJBというかファンカデリックというかそういう演奏である。これだけファンクなので、メイシオもいつもどおりのブロウを展開するが、やはりこういう曲のときがいちばん音色もフレージングもノリも迫力があるし、いきいきしている。でも、この曲だけアルバムとしては浮いていることも事実で、どうして最後の最後にこれを入れたのだろう。まあ、たぶん「どうしても入れたくなった」ということでしょうね。わかります。たまに聴くと楽しいアルバム。