horace parlan

「UP & DOWN」(BLUE NOTE RECOEDS 84082)
HORACE PARLAN

 本作はもちろんピアノのホレス・パーランが主役なのだが、個人的にはブッカー・アーヴィンが(けっこう)苦手なので、ワンホーンアルバムの本作のフロントがブッカー・アーヴィンだということでけっこう購入時に悩んだ記憶がある(といっても学生時代のことで、38年ほどまえである。ひえー……)。ところが、本作におけるブッカー・アーヴィンはめちゃくちゃ私のツボにハマる演奏を展開してくれて、ああ、購入してよかった……と思った。正直、ブッカー・アーヴィンのどこが苦手かというと、豪快……は豪快なのだが、豪快と紙一重の大味な感じの演奏もあり、そのあたりがどうもピンとこないのだ。しかし、本作では自身のリーダー作ではない、ということからか、それともたまたまなのか、めちゃくちゃ絶妙のソロを展開していて、もう聴き惚れる。音色もラーセンのメタルだと思うが、適度に濁った音で見事にフレーズをつづっていてすばらしい。じつは、なんやかんや言うてるわりにブッカー・アーヴィンのアルバムはたくさん持っているのだが、そのなかでも本作はなぜか、めちゃハマッたのです。シンプルすぎるリフ曲が多いのだが、さりげなくアレンジがほどこされていて、なかなか神経が行き届いている。1曲目も本当にシンプルなリフなのだが、かっこいい。青木和富氏のライナーで「テーマがぎこーとのユニゾンというのがイカしている」とあるが、ユニゾンではなくハモッているのは聞いたらわかる。アーヴィンは歌心あふれるソロで、アルバムの冒頭からしっかりリスナーの心をつかむ。グラント・グリーンのソロはまるで同じフレーズをしつこく繰り返したり、とホンカー的な部分もあるのだが、太い音で、硬質なピッキングで淡々と弾くので、逆に朴訥に聴こえる。すばらしい。主役パーランのソロはオリジナリティあふれる最高の演奏。このひと以外には弾けんなあ。2曲目はモードジャズといってもいいようなハードな曲調で、たぶんタイトルの「アップ・アンド・ダウン」というのはこのコード進行を表しているのだと思うが、先発のグラント・グリーンのソロは曲調にぴったりあっていてめちゃかっこいい。つづくアーヴィンのソロも同じようなアプローチ。作曲者であるパーランのソロは、このコード進行で遊んでいるというかたわむれているような感じで楽しい。エンディングもいいですねー。3曲目はベースのジョージ・タッカーの曲で、かわいらしい3拍子のブルース。それにしてもパーランのソロは独特だ。グリーンのポキポキしたノリのソロは、我々の心臓をわしづかみにするような魅力があるが、このひとが後年、ライトハウスのライヴとか聞くと、演奏スタイルはともかく、音色やノリが変化していることに驚く。この時期は、なんというか、「若いころの6代目松鶴」みたいな感じのゴツゴツしたノリで超かっこいいのだ(晩年のスタイルも好きだが)。アーヴィンのソロは短いが絶好調。アル・ヘイウッドの小技をきかせたドラムソロのあと、テーマに。このクインテットの魅力がぎゅっと凝縮されたすばらしい演奏。B面に行きましょう。1曲目はグラント・グリーンの曲で、このアルバムにぴったりのシンプルなリフブルース。冒頭からグリーンがフィーチュアされ、おなじみのフレーズの合間に、かなりエグいフレージングをいろいろ試している感じでかっこいいです。邦文ライナーで、A−1のソロを評して「延々と同じフレーズを繰り返すところがあるが、これは若さ」と書いているが、このB−1についても「A−1同様同じフレーズの繰り返しが目立つが破綻はしていない」とか「パーランのソロの方が数段中身が濃い」とか「アーヴィンのソロはグリーンよりもむしろモダン」とか……かなりグリーンを貶める書き方をしていて、「はあ?」と思うのだが……。正直、同じフレーズを繰り返すあたりで私は「おおーっ! かっこいい!」と思うのです。グリーンの魅力は、淡々と朴訥なバップフレーズを弾きこなす部分と、ホンカー的なあざといフレーズを全力でぶつけるような部分の融合にあるのではないでしょうか。パーランの、リズム面での遊びを交えたファンキーなソロは爆笑もののかっこよさ。ラストに出てくるアーヴィンのソロは、邦文ライナー氏が書いているような「むしろモダンだ」というものではなく、どちらかというとブルースペンタトニックのみのめちゃくちゃアーシーでシンプルなソロだと思う。そもそも「むしろモダンだ」というのは、モダンでないとダメということでしょうか。ベースの短いソロを経て、テーマ。2曲目はバブス・ゴンザレスが書いたというバラード。めちゃくちゃいい曲。邦文ライナーによると「アーヴィンの堂々たる歌いっぷりはジョン・コルトレーンをほうふつとさせる」そうだが、アーヴィンはテーマを吹いているだけである。ラストの3曲目はトミー・タレンタインの曲だそうだが、あー、もうなんで毎度毎度ライナーに文句を言わないとあかんのかわからんが、邦文ライナーによると「ちょっと複雑だが、やはりブルース・チューン」とのことだが、ブルース形式ではないのであります。どうもこのライナーは英文ライナーを鵜呑みにして、自分の耳で聴いていないのではないかとすら思いますが。俺の大好きなこのアルバムにこんなライナーがついているのは本当に悲しい。とにかく傑作なので、皆さんよろしく。