「SOUND ADVICE」(P−VINE RECORDS PCD−93909)
PAT PATRICK AND THE BARITON SAXOPHONE RETNUE
存在は知っていたが、聴いたことどころか見たこともなかったアルバムの再発で、8名のバリトンサックス奏者がサン・ラー・アーケストラのパット・パトリックのもとに集結し、リズムセクションとともに演奏するという夢のようなというか悪夢のような企画で、おそらく8人のバリトンがところせましと大暴れしてくれるにちがいない、とてつもない大迫力の演奏が展開するのではないか……とすごく楽しみにしていたのだが、聴いてみると、予想外に、めちゃくちゃ普通のビバップ〜ハードバップだった。いやー、驚いた。なんちゅうか肩透かしを食ったような気分。しかし、気を取り直して何度か聴き直してみると、いや、これはなかなかではないでしょうか。でも、相当どさくさな作りのアルバムであることはたしかで、まあ、もとがサターンだから仕方ないが、録音日も録音場所も書いてないし(このグループが二カ所のコンサートをした場所は書いてあるんだけど、そこで録音したとは書いてないし……)、いくつかの演奏はライヴ録音なのだが全部そうなのかどうかはわからないし、たぶんマイク一本で録っているのだろう。音質はかなり悪いが、これもまあ「サターンだからね」で片付けるしかない。なにしろ内容の貴重さはすごいのだから。ライナーや裏ジャケの記載も混乱していて、メンバー個々の紹介欄には、ハミエット・ブルーイットの名前があるのだが、ジャケ裏のメンバーには彼の名前はなく、かわりにルネ・マクリーンの名前がある。これはおそらく、実際にライヴで演奏したひとたちと、このグループのレギュラーメンバーに若干のずれがあり、ライナーノートの執筆者がそこまで考えてなかったのではないかと思う。今回の再発はP−VINEによる日本盤なわけだが、そのことについてはまったく触れられていないので不思議だ。まあ、バリトン8人もおるんやから、ひとりぐらい違っててもええやんか的なノリなのかもしれないが、ブルーイットが入ってると入っていないとでは大違いではないか。で、肝心の演奏だが、正直、バリトンが8人いるとは良い意味でも悪い意味でも思えないような、ちゃんとした演奏で、どの曲もしっかりしたアレンジがほどこされているし(フルートが複数聴こえる)、バリトンばっかりじゃあ低音しかなくて、結局はノベルティな演奏なんでしょうと考えているひとがいたら、まったくそんなことはなく、フツーに聴ける。いや、フツーに聴け過ぎる。なんの予備知識もなく聴いたら(録音が悪いことも手伝って)、サックスアンサンブルだなあ、それにしてもソロをバリトンばっかりがとるなあ、と思うぐらいにフツーに聴ける。それだけアレンジがいいといことかもしれないが、こっちは「バリトン8人が大暴れ」のようなものを期待していただけに、ちょっと物足らない。しかし、そういう頭を二度目に聴くときはちゃんと切り替えたので、そうするとほんとに素直に楽しめた。ソロイストがだれかとかは一切わからないし、バリトンにはまるで知識がないので、聴き分けることはできないが、どのソロイストもめちゃくちゃ上手い(4曲目の、二人目のソロイストはハミエット・ブルーイットじゃないの? と勝手に思ったりした)。音色もプレイもすばらしいひとたちばかりだ。ああ、これがちゃんとした録音で残されていたらなあ……。でも、これでも十分凄さは伝わってくるし、なによりも、こういう形ですら録音がなく、幻のグループとして終わっていたら……ということを考えると、これで十分です(私としては、ですが)。これだけスタイルのちがう、しかも素晴らしいバリトン奏者が一堂にかいした、ということも凄いよね。さぞかし壮観だっただろう。選曲もバラエティに富んでいるし、ええ曲ばっかで聴きやすい。ピアノがやけに上手いと思ったら、ヒルトン・ルイスなのだった。コンガを入れたのも大正解。最初と最後にちょろっと入ってる「ステイブルメイツ」はバンドテーマなのか? あと、バリトン8人が売り物のはずなのに、なぜかジャケットはバリトン1名とテナー1名。(主に録音のせいもあって)だれにでもおすすめとは言わないが、バリトン吹き、バリトン好きは一度は聴いてみたほうがいいのではと思います。ああ、何度も言うけど、録音さえよかったら、めちゃくちゃ名盤になったかもしれないのになあ。サターンめ……。