jean-jacques pedretti

「NEKO」(OTOMICHI−RECORDS OTM−001)
JEAN−JACQUES PEDRETTI/HIROSHI FUNATO

 傑作だと思います。チューリッヒと神戸のグッゲンハイム邸でのライヴ。スイスのトロンボーン奏者ジーンージャックス・ペドレッティと船戸さんのデュオ。ふちがみふなととの共演も多いようだが、本作はふたりだけ。いやー、すばらしい。完全な即興デュオと思いきや、それぞれのコンポジションが前面に出た作品。いつもは飄々としている感のある船戸さんがいつになく全編アグレッシヴに弾きまくっていて、熱い。かっこいい! 1曲目はふたりの挨拶なので演奏ではないのだが、全体の雰囲気をセッティングしているので、この部分を切らなかったのはよかったと思う。2曲目(演奏としては1曲目。なので以下の〇曲目は、CDの曲リストからは1曲ずつずれている)はペドレッティの曲で、いきなりけっこうな難しい譜面の曲。ユニゾンでのテーマのあと、トロンボーンとベース、どちらが主というわけでもなく、からみあうように主張していき、快感である。トロンボーンのプランジャーはいわゆるヘヴィな濁った叫びではなく、軽く飄々とした音色でじつに楽しい。船戸のベースの方が熱いぐらい。ベースがストレートに弾きまくっているあいだもペドレッティは手を休めず小技を繰り出しまくる。2曲目は船戸のアルコにペドレッティの激しいヴォイス(トロンボーンを吹きながら)ではじまり、トロンボーンの落ち着いたロングトーンの反復によってべつの場面が作り出される。淡々としたアルコのリズムが次第に狂っていき、ペデレッティが金属をぶつけ合って(なんだかわからないが灰皿みたいなもの? プランジャー?)パーカッシヴな音を出し、プランジャーとアルコのデュオから、唐突に終わる。これは即興。3曲目もペデレッティの曲でゆったりとしたロングトーンによるメロディックな曲。ペデレッティのあまりジャズを感じさせない歌い方のソロや船戸の明るいベースラインがいい。4曲目もペデレッティの曲でタイトルは「おはよう」。かなりガリガリしたべースのイントロからマイナーワンコードのパターンに乗ってトロンボーンがかなりストレートなジャズトロンボーン的なソロをするが、そのかすれたような、なんともいえない音色が絶妙。この曲は「ジャズ」やな。しかも、ハードボイルド。5曲目もペデレッティの曲で、リフの繰り返しにスキャットが入る短い演奏。6曲目は即興で、船戸さんはたぶんベースを弾きながら弦をスティックで叩いている感じ。これも唐突に終わる。7曲目は船戸さんの曲で、短いリフ曲ながら一度聴いたら忘れられない印象の強い曲。リズミカルなテーマのあとはフリーになる。リフと即興が交互に登場するような感じの構成。8曲目も船戸さんの曲で美しいアルコソロからはじまりそれが熱く高まっていくようなソロ曲。9曲目も船戸さんの曲で牧歌的なテーマのすばらしいコンポジション。どんな編成でもこの曲は映えるだろう。10曲目も船戸さんの曲でタイトルは「ラスト・サムライ」。激熱の太いアルコがすばらしい。ペデレッティのトロンボーンもシンプルなロングトーンやリフで応えていて、かっこいい。11曲目はペデレッティの曲で、非常にシンプルだがすばらしい、印象に残る曲。このヴォイス(ホーミーのようにハモる)はだれ? 12曲目は船戸さんの曲で、ジャズっぽい4ビート。途中でフリーっぽくなるが、そこも即興というよりフリージャズといった感じで、本作中で一番そっち方面に寄った演奏かも。船戸さんの音の太い、武骨なソロがかっこいいです。13曲目はペデレッティの曲でワンコードのマイナー曲。ゆったりとしたグルーヴ。ペデレッティのソロもかなりジャズ寄り。途中でミュートを外すのでまるでべつのひとがソロを吹きはじめたかのような印象。ダブルタンギングなども効果的に使いながら豊かなボキャブラリーを出していく。リフを延々吹いているうえで船戸がフリーな感じでソロをするあたりのめちゃくちゃかっこいい雰囲気は本作の白眉といっていい。エンディングも秀逸。ラストの14曲目は即興のようだがこの演奏を締めくくるにふさわしい、気合いの入った小品。このデュオは、ふたりとも楽器に習熟しており、即興演奏家として激しい表現になる部分も多いのだが、そういうときでもどこかのんしゃらんとして、聴き手がニヤリとできる箇所を残しているところが、あー、即興というのは人と人だなあ、と思うところである。トロンボーンとベースの即興デュオはあまたあると思うが、このデュオは個性において突出している。ペドレッティが描くヘタウマな感じのイラストもすばらしい。なお、対等のデュオだと思うが先に名前の出ているペドレッティの項に入れた。