hannival marvin peterson

「THE TRIBE」(KINDRED SPIRITS KSFS4CD)
HANNIBAL MARVIN PETERSON

 ハンニバルとしては、日本やヨーロッパでアルバムをばんばん出していたころの演奏なので悪いわけはないが、本人としては、肝心の本国アメリカでの過小評価に苦しんでいたのかもしれない。アメリカでは自主制作盤ぐらいしか出ていなかったのだ。本作も、彼が自腹で、アメリカのレコード会社に売り込むために作った自主盤で、結局その話もぽしゃってしまい、日の目を見なかったため、ジャケットのないテストプレスが10数枚作れただけという超貴重盤だが、正直、ワンホーンでテナーが入ってないので、「まあ、ええか」と思っていた。しかし、世評があまりに高いのでなんだか聞きたくなり、買ってしまったわけだが、いやー、買って良かったです。一曲目の冒頭、ドラム(ビリー・ハート)とのデュオ、そしてその後のテーマ部分からしてすでにエネルギーが燃える火の玉のようにほとばしるこの暑さ、熱さ、厚さ! いやー、こりゃすごいわ。これまでに聴いたハンニバルのアルバムのなかでもトップクラスの、灼熱のマグマの塊のような熱気だ。テーマを吹き、ソロを吹きまくり、アンサンブルもやる、という、とにかく「全部俺がやります」という主義のおっさんであり、そのしゃかりきさが逆に熱さを際立たせているのだ。1曲目はとにかくひたすら吹いて吹いて吹きまくる演奏。モードジャズの鑑。ソロの出だしなど、ようやるなあおっさん、と声をかけたいぐらい直情的。細かいことは気にすんな、ワカチコワカチコ。それがいいのだ。テーマ部分と最後のあたりにホーンセクションが入ってるが、ライナーによるとフルートが二人入ってるらしい。でも、フルートには聞こえんなあ。トロンボーンっぽい。そのことに日本語ライナーは触れてない。また、日本語ライナーには「コルトレーンとエルヴィンの対峙を思わせるデュオインプロヴィゼイションを経て」とあるが、そういう印象はない。ビリー・ハートが叩くきっちりしたリズムのうえでハンニバルがブロウしてる感じ。2曲目はゆったりしたテンポのいわゆるスピリチュアルジャズっちゅうやつです。ボーカルがソウルフルに歌い上げるが、ハンニバルはその荘厳さをぶち壊すような、悪ガキのような率直かつ大胆かつ下世話なブロウにつぐブロウでぶっちぎる。それにからみつくピアノやチェロもかっこいい。これもフルートによるアンサンブルが入っている。3曲目はもうジャズというかソウル(といってもソウルを知らんからね、わし)。ボーカルがシャウトし、バックコーラスががんがん入る。ハンニバルはどうなったんや、と思っていると、間奏部分でなんか変なソロをするという展開。もうこのソロは正直いってむちゃくちゃで、もう気合いだ気合いだ気合いだ気合いだっという代物ですが、愛すべき大袈裟さ、鬼面人を驚かすハッタリ精神はファラオ・サンダースなどにも通じます。でも、なぜこの曲ではホーンセクションを入れなかったのか。この曲こそ入れたら良かったのになあ。最後は時間の関係か突然ブツッと終わります。4曲目はディードル・マレイのチェロとパーカッションで始まり、アフリカ的な展開になる。タイトルもいかにもこの時代のブラックジャズという感じだが、そんなことはどうでもいいのだ。哀愁漂うチェロが冒頭から4分ほどフィーチュアされる。これはサンライズオーケストラの常道的展開ではあるが、私は昔、どうしてテナーを入れんのだ、チェロなんか入れるぐらいやったらテナーを入れろ、と怒っていた(怒ってもしかたないが)。皆は口々に、マレイのチェロがええんや、と言うのにも耳を貸さなかったが、ようやく、そののち「なるほど」と思えるようになって今に至る。私も成長したもんですな。ボーカルが入ってきて、バラードになる。「世界の古代人に捧げる」という副題があり、歌詞の内容もそういうものだ。間奏にハンニバルが出てきて、やや荒っぽいが、朗々としたソロを展開する。ああ、モードジャズ。スピリチュアルジャズ。フルートを使ったアレンジがいい味を出している。この4曲目に関しては、正直、ハンニバルは添え物的。5曲目はアルバムタイトルチューンでもあり、14分30秒と、本作中もっとも長尺な演奏。チェロのリズムカルなイントロはヨーロッパ的にも聞こえるが、ドラムとエレベが入ってくると印象一変してハードなソウルジャズ風に。カラフルな打楽器に誘われるように、ハンニバルがまたまた「鬼面人を驚かす」的な出だしのソロをぶちかます。リズムセクションだけの決めがあって、女性コーラス陣が加わり、一気にファンキーで楽しい雰囲気のなか、男性ボーカルがラップっぽいシャウトをかます(歌詞の内容は虐殺事件を扱った重いもの)。このあたりは3曲目同様、ジャズというか、もうソウルの領域になっているような演奏で、とにかくめちゃめちゃかっこいいのです(この曲もホーンセクション入れたらよかったのになー)。ピアノが出てきて、少しモードジャズっぽくなるが、それが逆に違和感があるほど。ここはお定まりの盛り上げがあり、おいおい、ハンニバルはどうなったんや、さっきちょろっとわけのわからんソロをしただけかい、と思っていると、もう、突然ガラッとドアを開けたみたいに出てきて、いきなり回りの様子も見ずにブリブリに吹きまくる。またか! こいつはほんまに……。あとは、もう好き勝手に吹き倒すだけよ! という感じです。やりたいように吹いて吹いて吹きまくったあと、本来はコーラスと男声ボーカルのパートに戻るべきなのに、そのまま終わってしまうところも、ハンニバルらしい。最後は、なぜか唐突にパーカッションだけで終了。彼のソロは荒いし雑いが、とにかくパワフルで、一直線で、やり過ぎで、しかもぶれない。そう、このぶれなかったころのハンニバルがめっちゃ好きなのだ。やっぱりファラオと性格似とるなあ。同時期のチャールズ・トリバーやウディ・ショウに比べると、楽器コントロールとかいろんな意味で「悪ガキ」な感じのハンニバルだが、ほんま好きやで! このアルバムは、大音量で大笑いしながら聴くべし。

「HANNIVAL IN BERLIN」(MPS RECORDS ULS6010−P)
HANNIVAL MARVIN PETERSON

 1曲目は、トリルではじまる無伴奏ソロのオープニングから、とにかくハンニバルが吹いて吹いて吹いて吹いて吹いて吹いて吹き倒す。これを、ワンパターンだとか大味だとか一本調子だとかいうやつは馬鹿である。ものごとにはこれ以上やっては周囲から頭がおかしいと思われると限度というものがあるし、物理的な制約もある(唇がバテるとか)はずなのだが、そういったことを超えてしまっているのがこのころのハンニバルの演奏なのだ。私は正直言って、サンライズオーケストラのものは、ジャズ喫茶で聴いたり、トランペットの友達の家で聴いたりしているだけで持ってない。なぜならテナーが入ってないから。学生のころ、トランペットのワンホーンなんか、まず買うということはなかったなあ。本作は、ジョージ・アダムスが入っているから買ったのだ。しかし、どう考えても、ジョージ・アダムスは不必要なのである。この1曲目のように、ただひたすらハンニバルが吹いて吹いて吹いて吹いて吹き倒す曲のほうが「首尾一貫」というか「徹頭徹尾」というか、とにかくやり遂げた感があってかっこいいのである。サンライズオーケストラのものはたいがい名盤だと思うが、それらもハンニバルがラッパのワンホーンでがんばるからすばらしいのだ。トランペットのコルトレーンとか、○○のコルトレーンみたいなあだ名が当時はいろんなひとにつけられたと思うが、ことトランペットに関しては、ワンホーンでここまでの圧倒的な表現、それも、「これしかおまへん」的にひたむきに吹きまくるやり方で、聴き手をねじ伏せ(ほんと、ねじ伏せるような感じだよね)、黙らせ、納得させるというのはすごいことである。2曲目の「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」でも、頭がおかしいとしか思えないハイノートでソロを終えているが、音楽的かどうかはわからんが、花火大会の最後に5尺玉を挙げたら、全部それに持って行かれたみたいな感じなのだ。ハンニバルえらい! ハンニバルすごい! ピアノソロのあとにジョージ・アダムスが登場し、あたりまえだがものすごくいいソロを繰り広げるが、ジョージ・アダムスがいくらフリーキーにブロウしても、黒燕尾服の支配人が舞台袖にいて、申し訳ありませんが、本日はハンニバル先生のショーなので、サックスのかたはご遠慮願っております的な空気になってしまう。3曲目は「ベッシーズ・ブルース」(コルトレーンのE♭のブルースで、エルヴィンも自己のバンドでとりあげている、私も好きなテーマです)だが、テーマをハンニバルが無伴奏ソロで、ひとりで吹いてしまうので、そのあと先発ソロを譲られた感じのアダムスも、さぞやりにくかろうと思う。テーマをワンホーンで吹くなら、そのままソロをすればいいのに、ハンニバルのいけず! しかし、ここでアダムスは本領を発揮した、ラフでガッツのあるブルース表現を吹きまくり、存在を誇示する。ピアノソロ(かっこいい)を挟んで、ハンニバルのソロになるが、なるほど、ジョージ・アダムスとハンニバルのソロって雰囲気だけじゃなくて、方法論も似てるなあ。途中からドラムとラッパのデュオになり、ここは強引にコトを進めていくが、それが正解。最後はハイノートを連打し、一瞬無伴奏ソロになったあと、テーマに入る。B面に入って、1曲目はゴスペルでおなじみの「スウィング・ロウ・スウィート・チャリオット」。ディーダ・マレイのチェロがフィーチュアされ、ジョージ・アダムスはお休み。ハンニバルのトランペットがこういう曲だとなんとも痛快であります。天を駆けるというか、朗々と響き渡る天使のラッパ。吹いているハンニバルのどや顔が見えるような気がするほどの、輝かしく張りのあるハイノートが炸裂する。最後はこれもコルトレーンナンバーと言っていいでしょう、おなじみの「マイ・フェイヴァリット・シングス」だが、この曲も、テーマをハンニバルがワンホーンで吹いてしまうので、アダムスの役割はソロしかない。テーマのあと、すぐにアダムスが登場するが、ハンニバルって「2管アレンジ」みたいなことは考えないのか? しかし、アダムスのソロはめちゃかっこよくて、ソプラノではなく、テナーでこの曲をやる場合の方法論としてたいへん面白い(って、まあ、無茶苦茶やってるわけですが)。最後にハンニバルが出てきて、またしても吹いて吹いて吹いて吹いて吹いて吹き倒す。豪腕っちゅうやつですなー。とにかくパワーで押し切る感じの演奏で、こういう風にハマると、とても心地よい。ドラムをはじめリズムセクションも好演。ベースがぶんぶん唸り、ドラムとピアノががっつんがっつんパターンで煽るのは、ほんと凄まじい。最後の最後もハンニバルがひとりで締めてしまい、アダムスの出番はない。かわいそうったらない。でも……傑作!