oscar peterson

「OSCAR’S」(VERVE/MGM RECORDS DIVISION V6−8775)
OSCAR PETERSON PLAYS THE ACADEMY AWARDS

 これはオスカー・ピーターソンが録音したアルバムのなかから、アカデミー賞を受賞した映画に関係する曲ばかりを集めた編集もので、受賞者に授与されるトロフィーをオスカ―と呼ぶことにひっかけた一種の駄洒落ネタではあるが、結果的にめちゃくちゃレベルの高い演奏ばかりで、選曲や配列も最高の一枚になった。正直いって日頃オスカー・ピーターソンなど聴くことはほぼないのだが(とくにトリオとかは)、こうしてたまーに聴いてみると、ハーブ・エリスのギターやエド・シグペンのドラムが圧倒的にすごくて、ほとほと感心する。ピーターソンは、嫁はんがファンなので、一度ブルーノートに聴きにいったが、司会者がピーターソンは煙草嫌いなので絶対に煙草を吸うな、もし誰かが吸ったらその時点でコンサートがキャンセルになるので、と厳命していたことや、演奏中何度も妙な掛け声をかける客にピーターソンがキレて、途中で弾くのをやめたり、「こいつは頭がおかしい」という仕草をしたりして、結局、その客はスタッフによって退席させられたことなどを思い出した。あんなぴりぴりしたライヴもなかなかないと思います。本作を聴くと、ピーターソンの特徴であるまるで事前に譜面に書いてあるかのような見事なアドリブラインや粒だったピアノの音、軽々としているようでじつはハードなリズムのノリ……などがよくわかって楽しい。はじめてピーターソンを聴くひとにもおすすめ。

「BLUES ETUDE」(POLYGRAM RECORDS/LIMELIGHT 818 844−2)
OSCAR PETERSON

 今から40年もまえの学生時代、ジャズをやってた知り合いはこのアルバムを聴いていた。彼らはピアノかギターかベースかドラムで、スタンダードをやっていた。管楽器をやっていた我々は別の組織(?)に属しており、ビッグバンドジャズをやっていた。というわけで、名高かった本作もかなり後年になって聴いた覚えがある。しかし、今だ(2024年)になってもオスカー・ピーターソンを「テクニックを見せびらかすだけのミュージシャン」と決めつけるレビューがネットに散見されるのはどういうことか。私は上記に書いたようにピーターソンのいい聴き手でもなかったが、ライヴにも何度か接したし、馬鹿テクで聴衆をあおるような演奏だけでなく、管楽器などがフロントのときはきっちり支え、音数少なく、しかも歌心にあふれるプレイで貢献しまくるようなすばらしいアルバムも多数聴いてきた。このアルバムを聴くとやはりゴージャスで、アート・テイタムから得たものをピアノという楽器を通してまるでオーケストラのように伝えているのだなあと思う。「ピアノを弾きまくる」という言葉はこのひとの演奏に合っているようでじつは合っていないのかもしれない。少なくともこのピアノトリオ演奏においてはピアノが主役なはずなのにさほど押しつけがましくもなく、かといってもちろん稚拙でもなく、ここぞというときはガーンとテクニックを披露して喝采を浴びる……そういうエンターテインメントとしてのジャズの肝を心得ている。しかも、(はっきりした言葉で書くと)芸術的でもあり、スウィングジャズからモダンジャズに至るピアノの美味しい音楽性がこの演奏に詰め込まれている。テクニックのあるジャズミュージシャンについて、どういうわけかそれが鼻につくといって毛嫌いするひとがいるようですが(マイケル・ブレッカーとか……)意味がわからん。クラシックのプレイヤーに対してそんなことは言わんでしょう(たぶん)。でも、馬鹿テクのミュージシャンもそうでないミュージシャンも、結局聴くべきはその結果であって、そういうところでは平等というか対等に摂取するのがジャズのいいところなのである。たとえ子どもが遊びで弾いたような演奏でも「よけりゃいい」のである。本アルバムの内容からかなり遠い話しに飛んでしまったが、このアルバムは主役のピーターソンだけでなく、サム・ジョーンズやレイ・ブラウン、ルイ・ヘイズといったメンバーのサポートによってひたすらスウィングしまくる爆発的な演奏になっており、めちゃくちゃ楽しいアルバム。でも、私は正直、めったに聴くとは思えないので、ピーターソンファンの嫁はんにプレゼントしました。