dan phillips

「INSIDIOUS ANTHEM」(TROST RECORDS TR177)
CHICAGO EDGE ENSEMBLE

 ギターのダン・フィリップス率いるシカゴのバンドの2枚目で、1枚目は未聴(内容を知りたいひとはJOEさんのブログを)。とにかくとんでもない猛者ばかりを集めたスーパーバンドで、ドラムはハミッド・ドレイク、フロントはマーズ・ウィリアムスとジェブ・ビショップ(ベースはよく知らないひとだが、たぶん有名)。凄まじい演奏が詰まっていて、これはマジ宝物。全曲ダン・フィリップのオリジナルだが、変な曲ばっかりだ。しかし、この手のシカゴフリージャズ好きのひとにはたまらん音が詰まっている。正直、アンサンブルをしているマーズのテナーのざらざらした音やジェブ・ビショップのトロンボーンの音を聞いてるだけで至福だったりするのだが、それがこんな変な曲で、しかも、ソロがいずれも爆発しているとあってはこれはもうたまらんなあという感じ。一曲目からすっ飛んだ曲調で、ギターソロも変態である。そして、コンポジションの枠組みとソロとの距離感がじつにええ感じである。一曲目はギターをたっぷりフィーチュアした部分のあとに、突然速い4ビートになり、テナーとトロンボーンが同時にソロを吹き始めるという激アツの構成。それにしても変な曲。2曲目は低音のゆるやかなドローン的な音が延々と鳴り響くなか、少しずつ変化が現れ、4分ぐらいしたあたりでようやくテーマ的なものが現れる。不穏な感じの曲で、なかなかかっこいい。そのあとギターがリフを弾きはじめ、しっかりしたテーマが登場(さっきのやつはテーマの変奏だったということだな)。ビショップの安定感抜群のソロ。ちゃんとバックにリフがつくあたりがこの音楽がハードバップの延長にあることを物語っている……ような気もする。そして、マーズのフリーキーなソロ。かっこええわなあ。こういうのは何度聞いてもとにかくかっこええのだ。ベースがキャッチーな感じのリフを弾き出し、最初とはかなり曲調が変わってエンディングになるのも面白い。3曲目は露骨な変拍子(7拍子系)の曲だが、ホーンが入るとハードバップに聞こえる。そういう作風のひとなのだろうな。マーズのソロはノリノリで、何拍子とか考えていないブロウのようで、やっぱり上手いひとなのである(あたりまえか)。4曲目は、集団即興的にはじまり、ビシッと決まったかっこいいコンポジションとフリーなパートが交互に出てくる趣向。これがものすごいのです。いやー、このひとたちはすごいわ。マーズはたぶんアルト。ええ曲や。最後はフェイドアウト。5曲目はめちゃくちゃ速いテンポでベースがソロを弾かされる(?)イントロのあと、けっこう複雑なテーマが出てくる曲。いやー、これも変な曲やなあ。リーダーのダン・フィリップはかなり変てこなひとに違いない。でも、かっこいいんです。弾きまくるギター。ひたすら咆哮するサックス。これだこれだこれが聞きたかったんだ、とスピーカーのまえで拳をあげる私。セカンドテーマはまさにハードバップ的。ジェブ・ビショップのトロンボーンもアル・グレイのように豪快に唸りを上げる。しかし、中盤からフリーキーになっていき、リフが入ると鬼のような凄まじいブロウに……。あー、かっこいいっす! ラストのカデンツァも壮絶! 6曲目もシンプルだが不穏な雰囲気のアンサンブルではじまり、どうなるのかな……と固唾を呑んで聞いていると、そのアンサンブルだけで終わる、という……そうか、そう来たかーっ! という感じの演奏。7曲目はシリアスで不穏な(これ、多いよね)アンサンブルがしずしずとはじまり、しずしずと進行していく。とても重い感じのアンサンブルである。そこからフリーな集団即興のパートになり、ここがなかなかの醍醐味である。そういうことに関しては手練れがそろっているので、延々と続く。いやー、すばらしいですね。とか言ってるうちにテーマが出て、エンディング。つまり、最初と最後以外はフリーリズムの即興なのである。本作の白眉といっていい演奏。ラストはタイトルチューン。変拍子に聞こえるが……3・4・4・5の普通の4拍子系なのか。あちこちにノイズが仕込まれていたりしてええ雰囲気である。ヘヴィな曲調で、アンサンブルだけの曲なのだが、それだけで十分満足する。いやー、かっこいい。こういうアルバムを文字通り「コンポジションと即興の融合」というのだろう。これほどうまくいった例はなかなかないのでは? 傑作!