chris pitsiokos

「PAROXYSM」(CARRIER RECORDS CARRIER029)
CHRIS PITSIOKOS  PHILIP WHITE

 うー、燃える! これは凄いぞ。アルトのクリス・ピッツイオコスとエレクトロニクスのフィリップ・ホワイトのデュオ。クリス・ピッツイオコスは、札幌のJOEさんに教えてもらったYOUTUBEを観て興奮のるつぼになった、近年まれにみるめちゃくちゃド変態的なアルトで、フラジオというより、リードが軋んでる感じの「キョキョキョキョ……」という音、あるでしょ。あれがまず基本なのである。こういう吹き方をときどきするひとはいるが徹頭徹尾これで押し通すというのはなかなかできることではありません。やったとしても、薄くてぺらっぺらの音しか出なかったりするが、このひとは循環呼吸とノイジーな吹き方をさまざまに組み合わせて、そこに狂気のような情熱を注いで、ひとつの演奏として完成させている。しかも楽器に引っ張られておらず(サックスでめちゃくちゃしようとすると、そうなることも多い。つまりどんな音が出るのかわからないまま出たトコ勝負で即興をするのだ)、完全なコントロールがなされている。それは共演者へのレスポンスの見事さではっきりとわかる。こういう演奏はほんと大好き。傑作だと思う。ピッツイオコスのソロアルバムというのもものすごく聴きたいが、ダウンロードのみらしい。CD−Rでいいから、物理的アルバム出してくれよーっ。

「MAXIMALISM」(ELEATIC RECORDS ELEA001)
CHRIS PITSIOKOS/WEASEL WALTER/RON ANDERSON

 上記アルバムを聴いたときは、ピッツイオコスの相方はフィリップ・ホワイトしかいない! と断言しようと思ったのだが、本作を聴くとまた考えが変わり、本作での共演者ふたりがめちゃくちゃ凄くて、ピッツイオコスの相方はウィーゼル・ウォルターとロン・アンダーソンしかいない! と断言しようかと思っている。まあ、それぐらい本作での3人のコラボレーションはばっちりで、なんといってもアルトのアコースティックなスピード感がすばらしい。徹頭徹尾、めちゃくちゃなフリーインプロヴィゼイションなのだが、狂気のように異常にグルーヴする。ペッドボトルニンゲン他でおなじみのロン・アンダーソンの変態かつ思い切りのいい、鉈でぶった切るようなギターのリズムが鍵のような気もするが、とにかく完全に私好みの音で、聴いていてカッコよさに慄然とする。それにしても最近はアルトの逸材が多いなあ。ピエロ・ビットロ・ボン、ピーター・ヴァン・ハフェル、吉田野乃子、そしてピッツイオコス……みんな楽器が超上手くてしかも頭が超おかしい。うらやましい。テナーもがんばってほしいよね。本作はかっこいいだけでなく、何度聴いても聴きあきないだけの深みもある。ピッツイオコスは、即興だけでなく、コンポジションのひとでもあるらしいが、こういう演奏を聴いているかぎりでは、「作曲? アホか! わしゃひたすらアルトでギャーギャー、ブイブイいわすんじゃ!」という姿勢のように思えるが、きっと非常に醒めたところもあるのだろう。上記アルバムのレビューでも書いたが、共演者に対するレスポンスの見事さ、ぴったりと付ける感じが、狂熱的なブロウのなかに突然現れるあたりは、とてもクールである。おそらくマグマのように煮えたぎる音を、べつの自分が冷静にコントロールしているのだろう。そして、楽器への習熟はたいしたもんだと思う(上から目線ですいません)。ただ単にぎゃーぎゃー言わしているのではなく(そう聞こえるかもしれないが)、フラッタータンギングやハーモニクスなどの小技をびしびし決めまくるあたりは、(何度も書いているが)アイデアというか狙いがはっきりしていて、しかもそれを瞬時に楽器から導き出せるだけのテクニックがあり、共演者とのやりとりもずぶずぶと深い……いやもう言うことないんじゃないですか。しかも、思い切った激しくでたらめなブロウもちゃんとやってくれる(3曲目とか)。フリーだなんだといって、共演者の音を聴くという最低限のこともできていない(そのくせ楽器は高いものをいろいろ持っているし、自分の楽器のどこをどうすればどういう音が出るのかということもわかっていないような連中は、こういう演奏を聴いて悔い改めるべきだと思うよ。ドラムもすばらしいし、ギターはもちろんである。傑作だと思う。多くのひとに聴いてほしい。

「GORDIAN TWINE」(NEW ATLANTIS RECORDS NA−CD−023)
CHRIS PITSIOKOS TRIO

(めちゃくちゃごく一部で)話題のクリス・ピトシオコスだが、これまで聴いたアルバムはどれもデュオだった。本作が私が聴いたはじめてのトリオ作品だが明らかに他作品とは主人公ピトシオコスの態度(?)がちがう。気が狂っているかのようなキイキイしたフラジオでまるで電子音のようにひたすらノイジーに吹きまくり続ける……という突き抜けたようなやり方に衝撃を受けていたのだが、本作ではベースが入っているせいなのか、ちゃとフレーズを吹いている。しかも、中音域、低音域でも吹いている。しかも、「間」をあけて、休んでいる部分もある。しかも……どれだけ「しかも」が続くねん! というわけで、本作はオーネット・コールマン以来のピアノレス・サックストリオの伝統が感じられるような部分もある、けっこう普通のフリー「ジャズ」になっていて、しかもそれがめちゃくちゃうまく、クオリティ高いという、とてもとても喜ばしい出来上がりなのである。そうかあ、このひと、かなりクレヴァーな、そして基礎的なものも、高度なテクニックも身につけたハイブロウなミュージシャンなのだなあ……とあたらめて思った。しかし、だからといって「そうか、ちゃんと伝統を理解したうえでめちゃくちゃやってたのね。愛いやつ」……とはもちろんなるわけではない(一部のジャズファンはそう思うかもしれないけど)。結局おもろいかどうかなのだが、サックスの音で空間を引き裂き、時空を捻じ曲げ、ひたすら突進するような従来の演奏に比して、もっと融通無碍で自由自在なところを示した本作での演奏はものすごく楽しく、しかも気合いの面ではこれまでの作品と変わらない。でも、たぶん相当上手いんだろうなと思ってはいたが、やっぱりな……という感じもあって、そのことは悪い気持ちはしなかった。当分このひとからは目が離せませんよ、マジで。

「LIVE PERFORMANCE AT PALISADES IN BROOKLYN FEBRUARY 8TH 2015
WEASEL WALTER/CHRIS PITSIOKOS DUO

 上記アルバムについていたボーナスCD。上記のように書いたけど、やっぱり本作におけるデュオのような強烈にノイジーな演奏を聴くと、「うひーっ! おそれいりました!」と自然に頭が下がるのであります。とても短い演奏ではあるが、この凄まじい演奏には、とてつもないエネルギー量がぶちこまれていて、狂喜乱舞する。やっぱりこのふたりのデュオはすばらしい。

PROTEAN REALITY(CLEANFEAD RECORDS CF358CD)
PROTEAN REALITY

 これはクリス・ピトシオコスのリーダー作ではなく、バンド名義の作品のようだが、まあ基本的にはピトシオコスがリーダーシップを取っているように聞こえる。内容は、エレベの入ったトリオで、「GORDIAN TWINE」と共通したものを感じる。つまり、デュオだとひたすらフリークトーンやノイジーな音を吹きまくる彼が、ベースが入ると、ちゃんと(というのも変だが)フレーズを吹く。しかもめちゃくちゃ上手い。楽器のコントロールも完璧で、音も素晴らしいし、フレージングも前後のつながりがしっかりある(つまりソロにストーリーがある)もので、ドラムやベースとのインタープレイもあって、正直、文句のつけようがない演奏なのだが、私にとって大事なことはそういう点ではなく、このひとの狂気が現れているかどうかなのだ。本作でのピトシオコスは、やっぱりおかしい。変である。それは主にフレージングやコンポジションに現れていて、アコースティックノイズマシーン的な彼の演奏に比べると一聴おとなしく聴こえるかもしれないが、トリオのバランスをときに壊そうとするかのようなアグレッシヴな吹き方をしながらも、めちゃくちゃにならず、変態的なフレーズを猛烈な勢いでつむいでいくのはたいへんな自己抑制と集中力とテクニックの産物だと思う。狂気と知性を同時に感じさせるこういうミュージシャンが最近多いように思える。しかも、スピード感があって、グルーヴがあって、音楽として心地よいのだから、なにも言うことはない。ピトシオコス最高。というわけで、ピエロ・ビットロ・ボンと並んで、「来日してほしいミュージシャン」リストの現在筆頭である。

「ONE EYE WITH A MICROSCOPE ATTACHED」(ELEATIC RECORDS ELEA002)
CHRIS PITSIOKOS QUARTET

 強烈な個性で大注目のクリス・ピッツィオコスだが、本作はエレキベース、エレキギター、ドラムに自身のアルトというすごくまともな編成。音楽も、まあかなり変といえば変ではあるが、ドラムとのデュオなどでみせる、あの頭のおかしい、鋭い針のように研ぎ澄まされた感じはなく、パワフルでストレートである。もちろん適度に歪み、ねじ曲がり、たわんではいるが、全体としてみると、ピッツィオコスのコンポジション、アレンジ、4者がからみあって一丸となり突き進むところなど、普遍的な「音楽」の快感にのっとったものであり、アバンギャルドなものが好きなリスナーでなくても、十分楽しめる……と思う。フラジオというよりリードミスのような軋みから、しっかりした芯のある音までつかいわけ、変拍子や複雑なテーマをびしっと決めるあたりはさーすが現代のアルト奏者である。なんというか、曲や、リズムや、その音色や、ソロの端々から「才気」があふれまくってる感じだ。1曲目、複雑だがダンサブルなベースとドラムのリズムからはじまり、そこにピッツィオコスの息の長いフレーズがからまりついた瞬間、わけのわからないものが生み出される。途中ででてくるめちゃかっこいいテーマ、そして、周到に用意された第二テーマとおぼしきものなど、かなりのたくらみが仕掛けられているにもかかわらず、ピッツィオコスのアルトは、それを吹き鳴らし、爆走し、舞いあがることで本人が快感を味わっていることを隠そうともしない。一筋縄ではいかない音楽だが、そう、ここには快感がある。ていねいに解体されてはいるが、ビートもグルーヴもあるし、メロディーだってじつはたっぷりあるのだ。曲のテーマはどれもかなり難しく、サックスで演奏するのは困難なものが多いと思われるが、まあ、自分で作ったんやからしゃあないよね。しかしそれをこうしてバシッと吹き切り、メンバーと合わせるというのは、このひとは演奏技術も相当レベルが高いのだ。ベースもギターもドラムも、リーダー同様に高い技術と音楽性を持っていると思われ、その4人がくっついたり離れたり裏切ったり歩み寄ったりしながら最後には怒濤の一体感を見せてきりもみに狂っていくあたりは、これこそ音楽のかっこよさの極致であります。曲も、どの曲もタイプが異なり、コンポーザーとしての才能もめちゃくちゃあることがわかるが、とにかくソロだアンサンブルだ作曲だと切り離して考えることなく、全部がひとつになっていてこの芸術を生んでいるのだから、もう細かいことはどうでもよくなるのである。ぜひ日本に来て、このすばらしい音楽を生で聴かせてほしいと切に切にセツニ願う。自身の運営するエリアティック・レコードからのリリースだが、ミックスとマスタリングをウィーゼル・ウォルターがやっている。傑作!

「BEFORE THE HEAT DEATH」(CLEAN FEED CF408CD)
CP UNIT

 シンプルなバンド名。意味深なタイトル。そして内容だが……最高! クリス・ピッツィオコスを最初に聴いたときは、アルトからひたすらえぐいノイズを発信しまくるぶっとび狂気系のプレイヤーなのかと思っていた。インタビューで、コンポジションを重視している、みたいなことを言っていたのを読んで、はあ? なに言うとんねん、と思った記憶があるが、本作はまさにコンポジションとアレンジとソロの完璧な融合であって、もうとにかく聴いていて快感すぎてボーッとしてしまうぐらい凄い。このひとのアルトは、ノイズを完全にコントロールできていて、自分の語彙として使いこなしている。最近のひとはみんなそうだよね。集団即興の場面でもアルトのノイジーでグチャグチャな音がなぜか粒立ち、クリアに聞こえてくる。それだけ楽器がしっかり鳴っているのだろう。そして、書く曲がめちゃくちゃエグくて、めちゃくちゃ面白くて、めちゃくちゃアイデアに満ちている。どの曲も似たものがない。異常に強い個性である。ええ曲書くよなー。しかもかなり難しいアレンジだが、それが演奏の切っ先を鈍らせていない。逆にエネルギーを与えている。そして「アホ」である。3曲目のラストの繰り返しなんか、アホとしか言いようがないぞ。メンバーも彼の意を汲んですばらしいプレイで応えている。みんな自分を出し切っているのに、結果的にピッツィオコスの音楽になっているのだ。購入してから何十回も聴いたが(収録時間が短いということもあるが)、気持ちよすぎる! 麻薬だ。これは麻薬だ。まさしくジェットコースターのような30分。いや、ほんまに傑作なので広く聴かれてほしいです。

「SILVER BULLET IN THE AUTUMN OF YOUR YEARS」(CLEANFEED RECORDS CF481CD)
CHRIS PITSIOKOS CP UNIT

 CDというものは、それがいくら欲しいやつでも、発売されたとき(もしくは日本に入ってきたとき)にパッと買えるかというとそんなことはなく、懐具合と相談しなければならない。本作は、当然だが絶対に聴きたいアルバムなわけで、本当はすぐに欲しかったのだが、金がなくてしばらく断念。ようやく買えるようになったときは某ユニオンは在庫なし、取り寄せになっていた。しかたなく取り寄せてもらうことにしたのだが、一カ月後に「オーダーしたけど入ってこなかった」というメールが。最近、これよくある。たいていの場合、私はそこでめげてしまった、まあ、べつに聴かんでええか、とあきらめてしまうのだが、本作に関しては、「なんとかして入手しなくては」とあちこち探し廻り、結局、海外から直接買うことになった。まあ、普通に買えたときは金がなかったのだからしかたがない。というわけど、発売からかなり遅れて聴いたわけだが、いやー、待った甲斐がありました。めちゃくちゃええやん。まあ、ええのはわかってたけど。基本的にサックス、ギター、ベース、ドラムという編成なのだが、それだけとは思えないぐらいたくさんの音が詰まっていて、それがあちこちでぶつかり合って破裂してる感じ。360度でさまざまな種類の花火が同時に上がっていて、全部見るのは不可能……みたいな状態で、とにかくいろんなところに目を(耳を)向けないとこの演奏の全貌はわからんだろう。だが、わからなくてもいいのだ。何度も聴いて、そのときそのときに注意が向かった、おもしろいところを見つけて楽しめばいい。曲もアレンジもソロもなにもかもが超シリアスでひたすらハードでパワフルで過激極まりない演奏だが、なかには遊び心も感じられる。斜めに構えたニヒルさ、適当なところで止めない過剰さ、自分がなにをやっているか、やろうとしているのかを完全に把握しているクールネス、共演者に求めるものの高さ……など、どれもこれも聴いていて息が詰まる感じなのだが、それが全然嫌じゃないというか、息苦しさがとんでもなく快感なのだ。6曲目(ガチンコフリージャズみたいな演奏)のラストがブチ切れる感じで終わるのは何度聴いても録音ミス?と思ってしまう。めちゃくちゃやなあ。7曲目の果てしなく延々続くヘビー極まりない循環呼吸の嵐と最後のマルチフォニックス、そして次の瞬間にはめちゃくちゃむずかしい譜面をクールに決めるあたりは、もうかっこよすぎて倒れそう。いやいやいや、どの曲も凄いけど、この曲は飛び抜けて凄いんじゃないでしょうか。3曲目のタンギングとかノイズ奏法もすごいなあ(曲も組曲的でめちゃくちゃすごいっす)。ライヴは2回観ることができたのだが、あのえげつないライヴでの超絶なパフォーマンスを体験したあとで聴いてもこのCDでの演奏は凄すぎるとしか言いようがない。これを聞いて驚かないサックス奏者がいるだろうか。ノイズ、特殊タンギング、サーキュラー、マルチフォニックス……などのオルタネイティヴな奏法をここまでマスターしているうえ、それらを複雑に組み合わせてなんだかすごいものに仕上げてしまうし、わけのわからない作曲(比喩ではなく、なんでこんな曲書くのか本当にわけがわからんのです。どの曲も一本調子のものはひとつもなく、起伏に富むような工夫がされている)をして、しかもそれをバリバリに吹きこなしてしまう。アナログシンセの使い方もセンスあるー。天才としか言いようがないです。将棋のなんとか何段(よく知らん)みたいなもんか? 9曲目はやけにポップ。インプロウィゼイションも2曲入っている。ラストの10曲目はノイズの嵐が壮大なオーケストラのように昇華していき、快感。似たような曲がひとつもないので、一気に全曲聴き通せます。傑作。

「CHILD OF ILLUSION」(CLEAN FEED CF498CD)
CHRIS PITSIOKOS SUSANA SANTOS SILVA TORBJON ZETTERBERG

 クリス・ピッツィオコスとトランペットのスザナ・サントスとベースのトルビョルン・ゼッターバーグのトリオ。たしかゼッターバーグは来日もしている北欧のひと。たぶん全部即興なのだと思うが、三人ともアコースティックで、なんというか自分を律しているというか、完璧に楽器や演奏をコントロールしてなにかを作り出そうという切実な思いが感じられる。八方破れなところがない。ピッツィオコスも意外なほど即興的なアンサンブルというか音のからみというかつながり具合を意識して、あのアナーキーなブロウを控えめで、逆にそれがピッツィオコスの魅力を際立たせている。しかし、ダブルタンギング上手いなあ。フラッタータンギング、スラップタンギング、フラジオ、マルチフォニックス、サーキュラー、ノイズ、フリークトーン、パーカッシヴな演奏などなどなどなど、現代サックスで使われるオルタネイティヴなテクニック(いや、もうオルタネイティヴな奏法ではなく、基本奏法なのかもしれない)がすべて網羅されている気がする。すごいよなあ。しかも、音色の美しさ、タンギングの正確さ、きれいさなどもこういう編成だとよくわかる。それに、本作ではかなり軽く吹いてるような感じで、それがまたいいんですなー。テクニック的な話ばかりになってしまっているが、音楽的内容が最高であることは言うまでもない。ベースのゼッターバーグもウッドベースからさまざまなカラフルな音色やリズムを引き出し、そのうえ音もめっちゃ良くてほれぼれする。音が裏返って悲鳴みたいに聞こえるアルコもかっこええなあ。トランペットも、そこまでの引き出しの多さは感じられないが(低音でのぶるぶる震えるような表現はかっこいい)、すごくセンスのいいパンチを繰り出し、トライアングルの一角を担っている。というか、逆にストレートな演奏をすることがこのトリオでは非常に印象的に聞こえる。かなりスカスカの即興で、その分、各人がなにをやっているのかがよく聞き取れて楽しい。特殊なテクニックを使っていない部分も、めちゃくちゃ面白くて、普通にサックスを吹き、普通にトランペットを吹き、普通にベースを弾く……その音色とリズムとフレーズだけですばらしい即興が生み出せるのだ、ということも本作は教えてくれる。なんだかよくわからないジャケットとともに、大推薦したいです。三人が対等のトリオのようだし、ミックスはゼッターバーグが行っているのだが、最初に名前が書いてあるピッツィオコスの項に入れておく。

「RIDING PHOTON TIME」(ELEATIC RECORDS ELEA004)
CP UNIT

 CPユニットというがシンプルなドラム、ベース、ギター、サックスというカルテットによる演奏。しかもライヴ(ドイツとオーストリア)。しかし、痛風のときの尿酸ぐらい尖りまくっている。えげつないほどのフリーインプロヴィゼイション(とにかくどんなに凄まじいスクリームも循環呼吸で吹けるのだ)としっかりした音での複雑極まりないコンポジションパートがフツーに同居していることには驚くしかない。何度かライヴに接したのに、「なにがなんだかわっかりませーん」という状態になっている。まあ、それはたとえばピーター・エヴァンスとかもそうだな。目のまえで聞いていてもどういう風にやってるのかわからない。ここで聴かれるクリス・ピッツィオコスのサックスも、たとえばこの超早いスラップタンギングだが、もはや異常としかいいようがないぐらいのスピードである。ダブルタンギング(?)もすごい(というかダブルタンギングなのかどうかももはやわしにはわからん!フラッタータンギングにも、シングルタンギングにも聞こえる)。フラジオと低音を交互に吹くテクニックにしても、アルトサックスという楽器から出せるかぎりの種類のノイズを操り、オルタネイティヴなテクニックも駆使しまくり、超高音から低音まであらゆる音域、あらゆる音質で循環呼吸をしまくり、複雑怪奇なテーマをバシバシにあわせまくる……という、どれを取っても「音楽を聴く快感」に満ち溢れたことの数々、しかもどれも異質なものを見事に組み合わせ、繋ぎ合わせ、ライヴ感たっぷりに提供するのは超人的な離れ業としか言いようがない。吹いているライン(ノイズじゃない部分るも、ギザギザした独特のフレージングでこの人ならではのリズム感のあるものだが、フリージャズのひとのようにバップのパロディのような感じではなく、すごいオリジナリティなのだ(というような表現しかできない)。しかも、原始的で野蛮な「どばーっ!」という勢いもある。こうしたすべてが怒涛のごとく迫ってくるのだから、聞いていると快感とか感動を通り越して恐怖を感じるほどである。そして、それらの裏にあるたいへんな音楽的素養と練習(!)に思いをはせることになる。普通はこういう音楽を評するに「変態!」のひとことをもってするべきかもしれないが、あまりに凄すぎて、これが世界の音楽の王道なのでは、と思ってしまったりする。いや、もしかするとそうなのかも。少なくとも私は、この音楽の曲もリズムもハーモニーもソロも全部含めてど真ん中に感じております。ギターもベースもドラムもかったええ! なお、なぜか曲がどれも最後にブツッと切れる。ライヴの演奏を無理矢理(というかわざと)切れ目を入れているような感じだ。全体が短いのも逆に密度の高さを感じられてよい。めちゃくちゃ傑作!

「ONE FOOT ON THE GROUND SMOKING MIRROR SHAKEDOWN」(RAMP LOCAL RL48)
CP UNIT

 クリス・ピッツィオコス率いるCPユニットによる作品。1曲目はいきなりギターの無伴奏ソロからブルーズがはじまる。めちゃくちゃオーソドックスなブルーズなので逆にびっくりするぐらい。全員が入って4分ぐらいしたあたりで吹き伸ばしの不協和音によるテーマ(?)。アルトソロは最初、ブルーズのコードをことごとく外していくようなていねいで知的な演奏。ドルフィーというかビバップ的なものも感じられ、ピッツィオコスとしては珍しいのではないかとも思う。最後は電車の音みたいなものも聞こえて、フィールドレコーディングなのか? 2曲目は複雑なテーマのあとギターとアルトがぶっちぎるようなソロをからませるが、これもまたビバップ的な演奏でとても落ち着きを感じる。ベースとアルトのデュオになるが、これもいわゆるジャズ的な即興に聞こえる。そのあと、ドラムとギターのデュオから全員が入る集団即興になっていくが、このパートもきっちり統制が取れている。そのあとテーマ。3曲目はドラム〜パーカッションソロで始まり、そこにベースやらギターが入ってくる。不気味で不穏を雰囲気。アルトがやっと入ってきて、高らかに朗々とテーマを吹きはじめるが、このサックスのテーマの不安感はすごい。聴いていて楽しい気分になるひとはいないだろう。すばらしいです。テクニック的にいえばスラップタンギングの連打とか、マジですごいのだが、とにかくソロに入っても、ああ、こういう言葉を使いたくないが、ドルフィーを連想せずにはおれない。もしかすると、いわゆるドルフィフォロワーのなかでももっともドルフィを感じざるをえないのではないか、というぐらい(フレーズが似ているという意味ではない)その音楽的な姿勢の同一性を感じる。エレクトロニクスの処理も効果的で、この切迫感は、うーん、何度も言ってしまうが、やっぱりドルフィー的である。ギターソロも同じ空気感でうごめく。いやー、かっこいいです。この3曲目が本作の白眉と言っていいと思う。4曲目はベースソロではじまり、そのバックでわけのわからないノイズが奏でられる。そして、アルトとギターによる変態的なテーマがはじまり(どの曲も変態的ではあるが)、アルトが小刻みなフレーズをひたすら吹きまくり、ベースががっつりとそれを受け止める、という即興が続く。ギターが入り、全員がノイジーではあるが非常にすっきりした集団即興を展開する。録音のせいもあってか、めちゃくちゃクリアでわかりやすい演奏である。エンディングも見事。これまでのピッツィオコスの作品と比べると、伝統的なブルーズやフリーミュージックとの関わりも意識されているような気がして、その分、そういう音楽の聴き手にとっても聞きやすいかもしれない(そんなことないかもしれない)。正直、従来の不穏さ、奔放さ、トンガってる感じ、わけのわからなさ、えげつないノイズ……などは控えめだが、おとなしい、ということはなく、ぐつぐつと煮えるようなコンポジションとインプロヴィゼイションが心地よい。

「SPEAK IN TONGUES」(RELATIVE PITCH RECORDS RPRSS004)
CHRIS PITSIOKOS ALTO SAXPHONE SOLO

 クリス・ピッツィオコスがアルトでひたすら無伴奏ソロをぶちかましたアルバム。ピーター・エヴァンスと並んで、管楽器の無伴奏ソロではひたすら圧倒的な演奏を聞かせてくれる。とにかくずーーーーっと循環で吹いているのだが、それによって音圧とかフレーズが軽減されることになく、フリークトーン、オーバートーン、マルチフォニックス、各種タンギング……といったオルタネイティヴな奏法使いまくりの演奏が一種のたわみも、よどみもなく「ぐわあああああっ」と続いていく。呆れかえるばかりの凄まじい演奏で、これが私も吹いているアルトサックスから出てくる音なのか……と信じられない思いである。同じようなことをするアルト奏者は世界中にいるが、音の強み、厚み、凄み……などがまるでちがうのだ。しかも構成力もある。どんな言葉を使っても、この迫真の演奏を表現するのは難しい。このひとにはっては、完全に「息継ぎ」というものは意味をなさない。あらゆる管楽器奏者にとって息継ぎ問題は重大であるはずだが、クリス・ピッツィオコスにおいてはサックスは息継ぎが必要な楽器ではない。これは強いぜ! たぶん本人が書いていると思われるジャケットに「SPEAK IN TOUNGUES AND HOPE FOR THE GIFT OF INTERPRETATION」とあるが、「TONGUE」のつづりが違う点もどうも気になるのだった。あー、もう、とにかくかっこよすぎて死ぬ。かっこよくて、かっこよくて、かっこいい……めちゃくちゃかっこいいアルトの無伴奏ソロ。興奮の坩堝。そんなものがあるか! と言うひとがいたら、ぜひ聞いてみてくれ! 傑作!

「FIRST BRUSH」(1039POOL 1039−001)
CHRIS PITSIOKOS JAVIER AREAL VELEZ KEVIN MURRAY

コロナ禍下で最近の動向がいまひとつわからないピッツィオコスだが、これは2020年1月のニューヨーク録音。これからたいへんな時期に突入する、というぎりぎりのタイミングでの録音だと思われる。ピッツィオコスのアルトは、あいかわらずものすごいスピード感で、ひたすらぶっ飛ばす。あらゆる変態的なテクニックがそこに盛り込まれており、それをいちいち聴き分ける必要もない。そして、ギターもドラムもピッツィオコスと同等のスピードを持っていて、並んで疾走する。濃密で爽快でキチガイじみた、そしてアイデアに満ちた演奏だが、全体の時間が21分しかないので、これはきっちり対峙して聴くしかない。逃げるわけにはいかん。ピッツィオコスのアルバムはこれまでのやつもだいたい収録時間が短いのが多いが、そのあたりは計算して作っているのだろう。「えげつない濃ーいやつをやるけど、あんまり長くないからしっかり聴いてや」的な感じか。3人の即興のコラボレーションが(これは悪口ではまったくないのですが)とても古い意味で三者対等の絡み合いになっていて、ひたすら興奮する。最後のほうになるとだれがどの音を吹いたり弾いたりしているのかわからん、ぐらいの混沌とした状況になるがそれもまたすごいですね。

「ART OF THE ALTO」(RELATIVE PITCH RECORDS RPRSS012)
CHRIS PITSIOKOS

 クリス・ピッツィオコスのソロ作。タイトルに「アルト」となっているとおり、サックスというよりアルトサックスに対するこだわりが感じられる。いきなり怪獣が咆哮するような激烈なノイズの連打ではじまる大迫力の演奏だが、ほとんどが循環呼吸が使われており、ハーモニクス、特殊タンギング、フラジオではないリードの軋む音などサックスのあらゆるオルタナティヴなテクニックのオンパレードである。しかし、もちろんテクニックの羅列になってはいない。逆に、アルトということに偏執狂的にこだわったうえでの狂気の暴走をクールにコントロールしているという感じで、その異常さを芸術の域にまで高めているこの表現にはひたすら感動するしかない。あー、かっちょええ。ほんまかっちょええ。ときにはメロディアスな部分もあるのだが、全体の印象としてはやはりノイジーな音を即興的に完璧に構成していく感じで、やはり「天才」という言葉を使いたくなる。この乾いたクールさ、なにかを言ってるようで実はなにも言ってない、ただただ「音」の感触だけの表現に徹した演奏……のようで、やはりものすごく豊穣なことを伝えている音楽……とたとえば阿部薫のソロのように、孤高でクールのようだがじつはめちゃくちゃウェットな(と言い切ってしまうといろいろ反論もあると思うが)演奏との比較……みたいなことは正直、あまり意味のあることとは思えない。あれもあり、これもあり、なのだ。精神性とか言い出すとややこしくなるので、そういうあたりはできるだけ避けて通りたい(音楽評論家は避けて通れないかもしれないですね)。阿部薫の演奏に精神性があって、クリス・ピッツィオコスの演奏は即物的(?)だというと、即物的な音楽が精神性のある音楽よりあかんのか、ということになり、先日死んだ友達の小説家津原泰水が言ってた「自分はアイデアとかなくても小説が書ける。原稿用紙に無意識に書いた単語からでも小説が書ける」みたいな意味のことを言っていたのを思い出す。それと、精神性とかいうのなら、たとえばファラオ・サンダースなどのスピリチュアルジャズというのはどうなんだ、と思うが、ああいうのは私は(めちゃくちゃ好きなのだが)非常にいかがわしくて、そこがいいのだと思っている。そういうことをつきつめていくと、阿部薫の演奏は精神性があるのかそうではないのか、そもそも精神性のある演奏とはなんなのだ……みたいな泥沼に入っていくのでほとんど意味のない議論のような気もする。ただ、先日のあの立花秀輝の傑作アルトソロアルバム「イクスサックス」もそうだが、モノとしてのサックスに対するこだわりが行き過ぎて、ひたすらクールな音楽的表現を生んでいるのだと思うので、そういうのが自分はめちゃくちゃ好きなのだ、と再認識した。とにかくもう全編でたらめ、というのもひかれるが、オルタナティヴな表現方法を野放しにせず、コントロールするというクールネスにもひかれるのだ。山下洋輔さんがかつて、素人が楽器でめちゃくちゃをやったら、ひと晩はすごく面白いことができるかもしれないが、それを客のまえで毎晩やり続けることはむずかしい、という意味のことを言っていたような記憶があり、まだガキだった私はそれを読んで、けっこう反発を覚えたのだ。まあ若気の至りですね。だからアート・アンサンブルのような、素人が遊んでるような表現を含んだフリーミュージックにひかれるようになったのだが、今は、逆に、こういう「狂気をコントロールしている」ひとによりいっそうの狂気を感じるようになっていて、魅了されてしまうのです。めちゃくちゃさをめちゃくちゃとして際立たせるためのテクニックを冷静にきちんと練習することの異常さ……みたいなものが好きなのです。わけのわからない文章になったが、まあ、そういうことです(どういうことや)。傑作。みんな聴いて!