red prysock

「CRYIN’MY HEART OUT」(SAXOPHONOGRAPH BP−502)
RED PRYSOCK

 レッド・プライソックは、超有名なジャズシンガーの兄を持っているが、本人もホンカーの世界ではめちゃめちゃ有名である。ホンカー系のアンソロジーではスター扱いである。タイニー・グライムズのロッキン・ハイランダーズで名をあげたテナーマンだが、このアルバムを聴けばわかるように、正直いってめちゃめちゃうまい。音も、ホンカーにありがちな、空虚な馬鹿でかい音をむりやり鳴らしている……という感じではなく、楽器がぶるぶる震動しているのがはっきりわかる。テクニックもものすごくあるし、フレーズも多彩かつ流暢で、そのうえここぞというときには血管ぶち切れの大ブロウを展開するが、それも、ホンカーにありがちな、前後の脈絡無く、突如熱くなる、というアホなやりかたではなく、ちゃんと順序を踏んで自然にクライマックスに持っていくので違和感がない。聴いていて、本人の感情の高まりにちゃんとリスナーがついていける、そういうソロの組み立て方ができる巧者である。しかも、そのスクリームの迫力は他を圧倒する。たいしたもんだ。ブローテナー、ホンカーとしては、これ以上は求めようがない。ムーディーな曲も達者に吹くし、おそらくジャズミュージシャンとしても一流の腕を持っているはずだ。このアルバムは、そんなプライソックの全貌がわかる最高の一枚。ブローテナーファンにとってはマストアイテムだろう。

「SWINGSATION」(VERVE RECORDS 314 547 878−2)
RED PRYSOCK

「CRYIN’ MY HEART OUT」とも一曲もかぶらない必携盤。1曲目の「ハンド・クラッピン」という曲のホンキングがあまりに凄すぎて目が点になる。この曲は英文ライナーによるとDJが番組のテーマとしてずっとかけ続け、有名バスケットボールチームがウォームアップのときにもずっと流していたり、ジュークボックスにはかならず入っていた……というぐらいヒットしたそうだが、それもわかる。とにかく、ひたすらの圧倒的なホンクなのだ。すばらしいよね、このエネルギーの無駄な放出! この曲がどれぐらいヒットしたかは、本作に「フット・ストンピン」「ヘッド・スナッピン」という明らかに柳の下の泥鰌を狙った曲が入っていることでもわかる(どれもかなりゴリゴリのホンキングの曲!)。2曲目の「ロックン・ロール」という曲はあまりロックン・ロールっぽくない。シャッフルっぽいリズムにヴィブラホンも加わって、どちらかというと可愛らしい演奏(でも、アンソロジーなどによく入っているので耳なじみのある曲だ)。ヴァーヴの「スウィングゼイション」というシリーズで古いスウィング系のミュージシャンのアルバムが11枚ぐらい出たとき、ホンカー系のものとしてレッド・プライソック、シル・オースティン、サム・テイラーの3枚が発売されたのだが、ほかのふたりに比してレッドの本作はややサウンドがジャズ寄りというかオールドスタイルな気もするが、内容は負けてはいない。グロウルやスクリーム、ホンクといったホンカー必須の技術をシレッとした顔でこなし、聴衆をめちゃくちゃ盛り上げるけど、サックスの音は終始ビシッとしているシル・オースティンやサム・テイラーに比べると、プライソックは古きホンカーの伝統というか、ひたむきで汗だくでときには逸脱し、全体のバランスを崩すほどのブロウを見せる。年齢的にもキャリア的にもだいたい同じぐらいなので、これはテナー奏者としての資質の違いだろう。どの曲もタフでラフでガッツのある最高のブロウが記録されている。アンサンブルも適度に荒くて、カンサスシティジャズっぽい雰囲気もある。フラジオの音域でもただのスクリームではなく、ちゃんと音程のあるフレーズを吹いたりして、ああ、上手いな、と思わせる。8〜9曲目当たりを聴くと音色も基本的にはメロウで、サックス奏者としてのしっかりした基礎を感じる。それにしてもブルースが多いです。こういうタイプのブロワーは、ブルースと循環、あとはムーディーなバラードというのが基本なのだが、循環系の多いひと、ブルースの多いひとなどにざっくりわかれる。プライソックはほとんどブルースのようであります(1曲目と13曲目の2曲以外は全部ブルース!)ジャズ的には1曲目にブルー・ミッチェル、5曲目にディッキー・ウエルズが入っていたりするが、どうせソロもそれほどないのであまり関係ない。一応きちんとパーソネルが書いてあるがあてにはならない。ギターが入ってるのに記されていなかったりするからね。というわけで、レッド・プライソックのことにちょっと触れると、17歳のときにサックスをはじめ、除隊後ハーレムのバーでタイニー・グライムズと出会い、バンドに加わった。グライムズのバンドをなんやかんやで辞めて、ロイ・ミルトン(ジャンプブルースでは超有名)のバンドに入り、ばっちりなじんだあと、タイニー・ブラッドショウのバンドでロイ・ブウランやワイノニー・ハリスなど超スターボーカリストのバックを務めるかたわら自己のグループでバリバリこういうR&B系のインストの吹き込みをした……ということらしいです。英文ライナーの冒頭に「だれも彼のことをウィルバートとは呼ばない。このシーンに登場したときから彼はレッドだったのだ」とあるのがめちゃくちゃかっこいい。「チャーリー・パーカーの伝説」に収録されているアーメッド・バシーアの発言のなかに、パーカーとレッド・プライソックがボウリングゲームのマシンで遊んでいたとき、レッドがいまいちだったので、パーカーが「こっちへよこしなさい。このゲームのやり方を教えてあげよう。どんなデームでも私のほうが勝つのだから!」と言ったとき、レッドが「どんなゲームでも、と言ったね」「どんなゲームでもだ!」と言われたのでレッドが「音楽でも勝てるかい」と言うとパーカーは「それはちがう。音楽とこれとは、まったくべつなものだ。音楽は芸術だ」と応えたというエピソードが心に残っている(このエピソードがどこに載っているのか調べるために3時間ぐらいかかった。わしゃなにをしとるんやろ)。高校生のときに読んだときはレッド・プライソックという名前を見てもまるで知らなかったのだが、後年こうしてよく知るようになると、パーカーはレッドのようなホンカーも自分と同一の芸術家であり、個々のアイデンティティがあると思っていたのだなあ、という感慨を持ったのだった。稀有なテナーブロワーだったこのひとの業績をまとめて聴けるアルバム。ぜひ聴いてください。

「BATTLE ROYAL」(MERCURY RECORDS PHCE−6003)
RED PRYSOCK VERSUS SIL AUSTIN

 ただのテナーバトルのアルバムだと思うことなかれ。グレイ〜ゴードン、スティット〜アモンズ、ロックジョウ〜グリフィン、ジャケー〜フィリップス、ゴードン〜グリフィン、スティット〜ホロウェイ、ロリンズ〜コルトレーン、ファットヘッド〜クレイ、コーン〜シムズ……などなど、この世にテナーバトルのチームは数あれど、本作ほどの内容を持った演奏はなかなかないのだ。それは、「ホンカー的に」ということであって、上記のバトルチームはどれも、ただの殴り合いじゃないですよ、音楽的成果もちゃんとありますよ、ということを標榜しているわけだが、このふたりはタイトルからして「バトル・ロイヤル」だし、冒頭にふたりのテナーマンがボクシングの試合前の会見よろしくお互いに相手をあおるような発言をして、そこから演奏がはじまったかと思ったら、音楽的成果がどうのこうのというような生易しいものではなくて、相手をぶっ潰そう、自分が目立とう、勝とう……というバトルを繰り広げるのだ。それはすがすがしいし、一直線、まっしぐらなのだ。しかも……じつは協調、信頼などによる音楽的な成果ももちろんめちゃくちゃあるのだが、それはプロレスの試合がじつはエンターテインメント的な興行である、というのと同様で、隠されている。しかし、ジャケー〜コブとかコブ〜ロックジョウとか世に珍しいテナーバトルのタネは尽きまじ……だが、このプライソックとオースティンというふたりにバトルをさせたプロデューサーの慧眼には感心する。つまり、ジャズとホンカーのちょうど中間あたりに位置しており、しかもめちゃくちゃ上手い、という、盛り上がること間違いない人選なのだ。ジャズテナーふたりを呼んでくると、「無意味な叫び合いに終始するのではなく、互いに協調しあった、バトルというより共演であって、繊細な絡み合いの結果としてすばらしいデュエットが生まれた」みたいなことになってしまうし、完全にホンカーのふたりを呼んでくると、最初から最後までひたすら相手のやってることを無視してギャーッ、ダダダダダダ……と叫びまくり吠えまくり、これならだれでも一緒じゃん、ということになるが、このふたりは本当に完璧でこのあと恒常チームを組んだらさぞかし面白かっただろうと思う。そして、これはどうでもいいことなのだが、このふたりのバトルはオットーリンク(のメタル)とベルグラーセン(のメタル)マウスピースのバトルでもある(プライソックがリンクでオースティンがラーセン)。このあたりを聴いているだけで私としてはあまりの面白さにへろへろ……となるのだが、いかがなもんでしょうか。レコードの裏ジャケットには、「世界テナーサックスチャンピオンシップのため」と書かれているのもいいですなー。それぞれのリーチとかウェイトとかも滅茶苦茶書いてあって、曲も「ラウンド・ワン」とか書いてあるのも洒落っ気だろうが、本作の内容にはぴったり合っていると思う。1曲目はふたりでしゃべりのバトル(?)をしたあと、ミディアムファーストのブルースになる。先発はプライソックで太い音色にグロウルを交え、美味しいフレーズを連発しまくって爽快である。見事なまでのめくるめくフレージング、ここぞというときの強烈なスクリームの連打、おなじみダブルタンギング、そして必殺のホンク……という怒涛の演奏に聴き惚れていると、(これはプライソックの勝ちやな)と思えてくる。それぐらいすごいブロウである。そのあとを受けて、最初は軽く出てくるオースティンだが、めちゃくちゃ上手い。プライソックが右チャンネルでしきりに言葉で煽るのが邪魔なほどの流暢なソロ。ほとんど5つぐらいしか音を使っていないのに、すばらしい説得力のあるブロウ。しかし、後半次第に加熱してきて、ホンクが始まる。おお、来たーっ! という感じで、火の玉のような熱血なソロが展開してそれが頂点に達したあたりでバトルになる。これは本当に聴きもので、テナーバトルのお手本のような最高のチェイスだと思う。スタジオ録音だが、スタジオ内の熱気はすさまじかったと思う。最後はリフでフェイドアウト。2曲目はケニー・バレルのギターが先導するミディアムスローのブルース(ケニーズ・ブルースというタイトルになっているが、テーマのない即興だと思う)。プライソック先発でワンコーラスずつ吹いていく。そのあと4バースになるが、バトルという感じではなく、ふたりでゆったりしたブルースの世界をフレーズを積み上げながら作り上げていくような演奏で、コテコテである。ケニーバレルのギターソロがはじまったかと思うとファイドアウトするのは惜しい。ラストの14分に及ぶ「A列車」はオースティンが先発で、スウィングテナーとしての本領を発揮するような、ただただ快調なブロウで圧倒的だ。こういう演奏を目指しているひとはコピーしたらきっとためになると思うぐらいのいいソロ。つづくプライソックも緊張感を保ちつつ、クオリティの高い、熱いブロウを繰り広げる。しかも、A列車でもなんでもないただのブロウの素材、というわけではなく、ずっときっちりA列車であるのがすばらしい。オースティンよりもややホンク魂があるのか、途中何度かグオーッという感じでグロウルするのがかっこいい。4バースになるが適度にホットさを保ちつつも、興奮して破綻することなく、音楽的な内容を優先したような、歌心、スウィング感などの点でも最高の、手に汗握るバトルだと思う。本当に「協調」という感じのバトルで、見事な「技」であり「芸」であり「音楽」だと思う。見事です。すばらしい! 傑作としか言いようがない。テナー吹きでないと興味を抱かれないかもしれないが、これは最高です!なお、完全に対等のバトルで勝利者はいないが、プライソックの名前が先に出ているのでその項に入れた。