「BREAKTHROUGH」(BLUE NOTE BT−85122)
THE DON PULLEN GEORGE ADAMS QUARTET
結局、この偉大なバンドの音楽はアルバムには収まりきらなかったというのが今の実感である。何度も生で観たが、それに匹敵するほどの内容をもったアルバムは残念ながらない。残されたアルバムはどれも上出来だとは思うが、ライヴのあのマグマのような熱気と宗教儀式のような陶酔を味わわせてくれる作品はついぞなかった。本作も「ソング・フロム・ジ・オールド・カントリー」なども演っているが、マウントフジのあの狂熱とはほど遠い、かっちりした作品になっている(そもそもテーマの吹き方が違うのである)。本作の聴き所は「ソング・フロム……」ではなく、ほかの曲で、とくに、アダムスの妙なノリというか、太い音色でブキブキ吹いているような印象なのにじつは逆に浮遊感漂うフレージングとやや細いが美しくて透明感のある音色をたっぷり味わえるという意味でバラードが感動的である。ほんとに個性のかたまりのようなひとで、たしかに白目を剥いてフリークトーンをピーッピーッと憑かれたように吹きまくったり、単純なトリルだけで客を熱狂の渦に叩き込むような側面もあるのだが、楽器コントロールは完璧だし(テーマメロディをフラジオをいれて吹くあたりも、地味ながらきっちりこなしているし、じつはソプラノもうまい)、フレージングもバップフレーズからモーダルなもの、歌心もあって、歌伴もできるという、フリージャズのテナーという言葉ではくくれない、守備範囲のひろいテナー奏者だった。小さいライブハウスでの演奏では、自分のソロが終わると、マウスピースを楽器から抜きとって、PAのうえに置き、それを拝んだり、ぐるぐると空中を指で掻き回したり、と奇行が目についたが、演奏はそういうイメージとは裏腹にしっかりした、地に足のついたものだった。ミンガスバンドでの映像を見ると、かなりの修羅場をくぐりぬけたような、ドスのきいたプレイで、ああ、このひとは即興云々より「血」で演奏しているなあ、そういうことをミンガスから学んだのだな、と納得してしまうような凄まじいものだが、そのあたりがアダムス〜ピューレンバンドのライヴでは十分感じられたものの、こういったスタジオのアルバムでは片鱗しか伝わってこないのが残念といえば残念。ブルースを歌ったりしても、スタジオ作ではそれがなんというか空回りしている感じ(ユーモア感覚でやっているように受け取られてしまう)なのだ。なお、双頭バンドだが、ピューレンの名前が先にあるので、便宜的にピューレンの項に入れておく。
「FROG ISLAND MUSIC FESTIVAL 1987」(JAZZTIME JT095)
GEORGE ADAMS/DON PULLEN QUARTET
アダムス〜ピューレンカルテットのアルバムは多々あれど、その最高傑作といわれると、海賊盤である本作を挙げるしかないので困る。とにかく本作はサイコーッなのである。アダムス〜ピューレンカルテットはマウントフジでも単独でも何度も生で観たが、あの凄まじいノリと、楽器というものを野放図に軽々と扱い、普通の弾き方、吹き方ではないのに、この楽器は本来こういう風に演奏されるものか、とリスナーに納得させてしまうような説得力が半端ないあの絶頂期のこのバンドの、コテコテでくどくてかっこよくて、そして実は案外すがすがしい魅力のすべてがこの海賊盤には詰まっているのだ。音質も超良好で、どこにも文句のつけようがない。ときおり音のバランスがおかしくなるが、興奮してマイクに近づきすぎたりしているせいだと思われるので、それもまた味わいである。あと、ちょこっとスピーカーがハウってる瞬間もあるが気にならない。アダムスもピューレンも、等分に主役の座を譲らず、すごいソロを繰り広げているし、キャメロン・ブラウンのベースの活躍ぶりもこの録音ならよくわかるのだ(5曲目でのえげつないソロを聴くまでもなく、普通のバッキングだけで凄いっす)。1曲目は「ブレイク・スルー」に入っていたあの曲で、それが見違えるようにいきいきとした演奏になっているし、5曲目は「ソング・フロム・ジ・オールド・カントリー」で、これも「ブレイク・スルー」のバージョンとは別物のようにエキサイティングな演奏。アダムスはごていねいにテーマを2回繰り返すのだが、テーマは一回で3コーラス分なので、6コーラスということになる。長いねー。スタジオ作品だと若干空虚に聞こえなくもないアダムスのブルースシャウトもここではばっちりはまっている(4曲目)。アダムスの豊潤でエロティックな音色やピューレンの粒だったピアノのタッチも存分に味わえるのだから、聞くしかない。「蛙島ミュージック・フェスティバル」という名前がいいですね。ああ、もちろんダニー・リッチモンドもばりばり張り切ってます(最後の曲のイントロで大フィーチュアされる)。このグループの一番美味しくて濃いところをしっかりとらえた傑作!