「THE WORLD OF BOOTS RANDOLPH」(WOUNDED BIRD RECORDS WOU963)
BOOTS RANDOLPH
ブーツ・ランドルフは、リッチー・コールとの共演盤「ヤケティ・マドネス」でその名前を知った。これはすばらしいアルバムで愛聴盤である。リッチー・コールのアルバムは、エディ・ジェファーソンの入っている「ハリウッド・マドネス」や「キーパー・オブ・ザ・フレイム」なども結局売っぱらってしまった。あのぺらぺらしたアルトの音が嫌なので、しかたないのだが、この「ヤケティ・マドネス」だけはリッチー・コールの短所と思える部分が全部長所として聞こえるので、もちろん今でも置いてあります。で、最近、ふと目についたのでなにげなーく本作を購入したのだが、これはブーツ・ランドルフのベスト盤的な内容だった。本作があまりによかったので、思わずいろいろと注文してしまった。それぐらいよかったです。このマウピ、なんだろうなあ……リンクでないことは明らかだが、ラーセンかなあ。よくわからない。とにかく音が最高である。そしてプレイもすばらしい。こういうタイプのテナーは、たとえばサム・テイラーやシル・オースチン、のちにはキング・カーティスなどがいるが、彼らはたいがいブルース、ジャズ、R&B畑をルーツにしているのに対して、ブーツ・ランドルフはヒルビリーやカントリー・アンド・ウエスタンがバックボーンにある点がちがうといえばちがう。「ヤケティ・マドネス」は、カントリー・アンド・ウエスタンにおけるフィドルの甲高くキイキイしたフレーズをサックスに置き換えたようなプレイが特徴的だったが、本作を聴くと、もっとドスのきいた、腰の据わったブロウのできるひとなんだなあ、と思い知った。大スタンダードもポップスも映画音楽もジャズもぜんーぶ飲み込んでの豪快かつ繊細な演奏にはしびれるほかない。フリージャズだのインプロヴァイズドだのなんだのといってるが、私は結局「テナーの音」が好きなのだなあと思うのは、こういうひとを聴くときの感動と興奮のしかたが、それらを聴くときと同じだからである。ええなあ、ブーツ・ランドルフ。
「YAKETY SAX!」(SONY MUSIC SPECIAL PRODUCTS AK44356)
BOOTS RANDOLPH
一時、ブーツ・ランドルフにはまり、いっぱいアルバムを買いまくったなかの一枚。まあ、要するにベスト盤ですな。私は、なんとなくずっとリッチー・コールとやった「ヤケティ・マッドネス」(最高!)のイメージがあったので、カントリー・アンド・ウエスタンとかヒルビリー系ブロウテナーなのだ思っていたが、こうしてまとめてたくさん聴いてみると、そういう枠ではとらえられない、もっとブラックミュージックの伝統に立った、深みもガッツもあるテナーマンだということがわかった。白人音楽のひとというイメージは完全になくなった。どちらかというと(かつての)サム・テイラーとかシル・オースチンに近い、ブルースブロワーでムードテナーなひとだと思う。とにかく音はすばらしいし、めちゃめちゃうまい。ブルースフィーリングもたっぷりで、ムードっぽい曲ももちろんだが、短い演奏でもブロウ系の曲は熱くなったら手がつけられない暴れっぷりである。パーカー系のバップもやる。日本ではあまり評判にならんひとだが、ヘボいハードバッパーのマイナーなアルバムを宝物のように珍重しているよりは、こういう名人芸を聴いたほうがずっとスカッとするけどなあ。
「LIVE」(SONNY MUSIC ENTERTAINMENT AK52414)
BOOTS RANDOLPH
ブーツ・ランドルフが好きでしねー、というと誰それ? という顔をされることもしばしばだが、アメリカでは大スターである。ナッシュビルのいわゆるヒルビリーサックスの第一人者で、そのあたりについては私はまったく知らないが、ヒルビリーやカントリー・アンド・ウエスタンのフィドルをテナーサックスに置き換えたような感じなのかもしれない。膨大なアルバムが出ていて、どれもこれもすばらしい。ヒルビリーサックス独特なのか、このひとだけの技なのかはしらないが、かなりタンギングとかアタックに必殺のテクニックが駆使されていて、それらが本当にサラッと使われていてびっくりする。とんでもない高等技術ばかりなのだ。その一方で、太い音色とギャーッというフラジオをいかしたホンカー的な超エキサイティングなプレイや、ベン・ウエブスター的なとろけるようなサブトーンのバラードなどもめちゃくちゃ上手い。つまり、完全なエンターテインメント・テナー・サックスなのである。スタンダード、ポピュラー曲、ロックンロール曲、映画音楽、カントリー曲……などをレパートリーとしており、どれもこれも(ある種ルーティン的なソロなのかもしれないが)めちゃくちゃ上手く聴かせる。グロウルやサブトーンやトリッキーなタンギングや濁ったスクリーム……などは完全に自家薬籠中のものにしており、的確な時に的確な形で使われる。サム・テイラー、キング・カーティス、そしてこのブーツ・ランドルフに共通しているのは、とにかく流麗でめちゃくちゃ上手い、ということ。つまり、テクニックがえげつないぐらいすごく、しかもそれをあまり感じさせないのだ。そして、ブルースの魂を持っているということ。本作はライヴ(しかも「ブーツ・ランドルフ・クラブ」でのライヴ)なので、曲間のしゃべりがものすごく長くて、困ったもんだが、客は大ウケである。ビッグバンドを従えて、完璧なアンサンブルと完璧なテナーソロがキマりまくる。ボーカルも達者(洒脱とかヘタウマとかではなく、マジウマなのだ)で、とにかくゼニのとれる演奏というやつである。ジャズ、ポップ曲、スタンダード……どれもいいが、やはりヒルビリーナンバーがいきいきとしているし、客受けもいちばんいいような気がする。6曲目の途中で引用フレーズとかを吹くと、異常なほどウケて、大爆笑が起きる。列車の真似とかもすごくウケている(ブルースハープとかブルースギター、ブルーグラスなんかでも必ずやるトレインピースっちゅうやつの伝統ですな)。選曲もいいし、ブーツ・ランドルフをはじめて聴くなら、本作はぴったりだと思います。日頃はフリージャズとかノイズとかインプロヴィゼイション系ばかり聴いているが、こういう「上手いテナーサックス」はいつまでたっても大好きであります。
「THE GREATEST HITS OF BOOTS RANDOLPH」(CBS SPECIAL PRODICTS AK44355)
BOOTS RANDOLPH
代名詞ともいえる「ヤケティ・サックス」を冒頭に置き、「スモーク・ゲッツ・イン・ユア・アイズ」「スターダスト」「いそしぎ」といったポピュラーなバラードを切々と歌い上げ、「ジェントル・オン・マイ・マインド」「プラウド・メアリー」「ユー・ヴ・ロスト・ザット・ラヴィン・フィーリン」といったポップヒットを軽快かつドスをきかせてブロウし、「ヘイ・ジュード」をメロディを大事にさらりと流し、「ビッグ・ダディ」「ワバッシュ・キャノンボール」といったカントリーはもちろん軽妙達者で……と大衆娯楽テナー奏者ブーツ・ランドルフの面目躍如たるヒット曲ばかりが並んでおり、演奏は悪かろうはずがない。しかし、ジャケットには曲名が書いてあるだけで、作曲者名も演奏者名も録音場所・日時もなんのデータもないのだ。ブーツ・ランドルフはだれでも知ってるから、このCDを買うやつはそれ以外の細かい情報なんて気にしない。ただ、ブーツ・ランドルフのアルバムだ、とわかればいいのだ……そんな大雑把な販売方針を感じる。なにしろ、ジャケットの裏にも表にも「字」しか書いてないのだ。そんなええ加減さも、こういう歌謡曲的なサックスアルバムにはふさわしいですね(CBSがこんなことでええのかという気はするが)。中身は保証付き。安定のブロウです。
「YAKETY SAX」(BEAR FAMILY RECORDS BCD15459)
BOOTS RANDOLPH
1曲目の冒頭、サックスの音にあまりにエコーがかけられていてそれだけで笑えてしまうぐらいである。ベースもドラムも「ぼよよん、ぼよよん……」と揺れていてすごいです。そして2曲目がタイトルにもなっている「ヤケティ・サックス」のオリジナルバージョン。まさにブーツ・ランドルフの代名詞ともいえる大ヒットナンバー。「ヤケティ・ヤック」という曲にインスパイアされた曲らしいが、ここに収められているのは58年のRCA録音であり、それほどヒットしなかったらしい。その後、63年にモニュメントレコードに録音したバージョンが大ヒットし、ビルボードチャートに上った。69年、イギリスのコメディアンのベニー・ヒルが「ベニー・ヒル・ショー」のテーマに使用してさらに知名度は上がったが、ここに収録されているバージョンもすばらしい。3曲目は「ヘイ、エルヴィス」という、プレスリーとの共演、吹き込みも多いランドルフならではの曲。と、まあ、こんな感じで26曲が収録されているが、どれも短い演奏ながら、カントリー・アンド・ウエスタン、ロカビリー、ジャズ、ブルース……などの要素がからまりあったポップミュージックであり、アメリカ音楽と胸を張って言えるようなすばらしい音楽ばかりである。ある意味、ゲイトマウス・ブラウンと共通項があるのではないか……とか思ったりして。曲ごとに手を替え品を替え、リスナーを楽しませようという気概に満ちた演奏ばかりである。とにかくこんなすごいテナーはなかなかいないので、本作がブーツ・ランドルフを知るきっかけになってくれればたいへんうれしい。テナーサックスの魅力が極限まで詰まったすげーアルバムである。傑作。(「YAKETY SAX!」というソニーのアルバムとは別物です)