phil ranelin

「INSPIRATION」(WIDE HIVE RECORDS PCD−23557)
PHIL RANELIN

 不勉強で全然知らなかったが、その昔、トライブというレーベルがあって、そこの主催者のひとりが、このフィル・ラネリンという人らしい。トライブのアルバムが何枚か復刻されるにともない、フィル・ラネリンの新作が吹き込まれることになり、それがこのアルバムなのだ。バンドはパーカッションを含む4リズムに5管編成というビッグコンボで、それに曲によって4人のサックスがゲストとして加わる。演奏自体は、70年代のブラックジャズというか、ウディ・ショウとかビリー・ハーパーに代表されるようなモーダルな新主流派っぽいやつ。ほら、ずっとベースがオスティナートを弾いてるような、アレですよ。曲は全部、フィル・ラネリンのオリジナル。これが、めちゃめちゃかっこいい。もう、すっごい才能だと思う。で、プレイはどうかというと……うーん、トロンボーンはかなり衰えているみたい。たぶん、70年代はバリバリだったんじゃないかなあ。金管楽器は衰えるのが早いから……。ソロがどうのというより、一定の音をキープするのがもうむずかしくなっている。速いパッセージなどはごまかしがきくが、吹きのばしがよれよれなのだ。いっぱい入ってるサックスの人たちも、まあまあの人あり、ちょっとうまい素人程度の人あり。なかでは、ゼン・ムーサというアルトの人がいちばんよかった。私がこの盤を買った原因である、ファラオ・サンダース(1曲のみ参加)はどうかというと、ミュージック・マガジンでは皮肉っぽい調子で最近はいつもこんなもの、みたいな書き方をされていたが、実はかなりよかった。少なくとも、ほかの7人のサックス奏者に比べると、音色もフレーズも個性はあるし、独特の雰囲気に染め上げてしまう力もたいしたもの。これからギャーっといきそうなときに終わってしまうのが惜しいが、1曲のみ参加なら、けっこう健闘しているのでは? 少なくとも私は失望はしませんでした。ファラオより、ほかの連中がもっとがんばらなあかんやろ。