「LOOK FOR THE BLACK STAR」(ARISTA−FREEDOM RECORDING AL1011 0698)
DEWEY REDMAN
このアルバムはけっこう好き。デューイ・レッドマンというおっさんは残念ながら亡くなってしまったが、めちゃめちゃ好きだった。うまさとか下手さとかそういったレベルをこえて、とにかく個性の塊だった。クラシックなどでは「はぶかれて」しまうようなこういう個性派をちゃんとグレイトミュージシャンとしてはぐくむところにジャズという音楽の良さがあると思う。しかし、じつをいうと、本作ではまだデューイの個性は全開ではない。あの、技術ではない(というと変な表現だが)、情念のハーモニクスや、しゃべりながら吹く演奏など、まさに「自由人」という言葉がぴったりする奔放なソロはまだもうちょっと先に開花する感じだろうか。でも、私は本作が好きです。タイトルがいいじゃないですか。インパルスの「イヤー・オブ・ザ・ビヒアラー」はカット盤がよく売っていたので早くに入手して聴いていたが、本作はけっこう探して、後年入手した記憶があるので愛着もひとしおだ。でも、さっきも書いたようにデューイ・レッドマンという稀代の変態テナー吹きのリーダー作としては、その変態度がやや薄く、当時のフリージャズによくあるタイプの演奏とでもいおうか、いろいろ試してるんだけど全員一丸の爆発とまではいかないんだよなあこれが的な演奏である。とくに本作はピアノがしっかりしていて、というか、しっかりしすぎていて、演奏の方向性をしっかりと定めてしまい、「ちゃんとした」ジャズになっている。チューンも、オーネット・コールマン的なポストバップ風の曲や、楽しくやりましょう的なリズム主体の曲などいろいろあるのだが、ソリストのふんぎりがいまいちで、中だるみする演奏もある。でも、そういった試行錯誤的な演奏のなかで、このあと存分に花を咲かせるデューイの凄味というかオリジナリティが脈々と息づいている感じである。いやー、しかしほんまにこのひととか、ドン・チェリーとかレスター・ボウイーとかユーゼフ・ラティーフとか聴いてると、力をもらえるなあ。好き勝手なジジイという感じで。
「LIVING ON THE EDGE」(BLACK SAINT CDSOL−45008)
DEWEY REDMAN QUARTET
こんなアルバム知らんなあ、と思ってジャケットをつくづく眺めていると、そういえば昔見たような気もするなあ……となんとなく思い出したが、聴いたことはない。というわけで、廉価盤が出たのを機会に購入して聴いてみた。ジェリ・アレン、キャメロン・ブラウン、エディ・ムーアという剛腕なメンバーがそろっているのだが、演奏曲目のなかに「イフ・アイ・シュッド・ルーズ・ユー」とか「レジー・バード」とかが入っている。大丈夫なのか? と恐る恐る聴いてみると、1曲目「ブー・ブードゥープ」からレッドマンは快調すぎるぐらい快調で、音も軽やかで、フィンガリングもスムーズに飛ばしていく。なーんか引っ掛かりがなさすぎるぐらいちゃんとした演奏。レッドマンがぐじゃぐじゃっとクラスターみたいに吹いても、ドラムとベースは過度に反応せず、そのままじっとランニングを続けているが、そのせいかもしれない。ソロとしては、ジェリ・アレンのピアノのほうがよほどぶっ飛んでいる。キャメロン・ブラウン、エディ・ムーアもええソロやけどハードバップ的で、そのあときっちりテーマに戻る。というわけで、ものすごく「ジャズ」を感じさせる演奏だ。2曲目はたぶんレッドマンはアルトを吹いている。フリーな演奏だが、レッドマンはすべてのフレーズをきっちりと吹いている。途中無伴奏ソロになるところは、グロウルというより「なにか言いながら吹いている」感じが良くわかる。激烈極まりないフリージャズ、というのではなく、フリーフォームなのになぜか普通の4ビートジャズを聴いているような気分になる演奏。最後、なんかパッと終わる。3曲目はオリジナルのマイナーブルースで、レッドマンは本当に素直すぎるぐらい素直な演奏をしている。解説者は「ハンク・クロフォードばりのスムースな艶っぽいブルースプレイは百戦錬磨のデューイならでは」と書いているが、正直、ハンク・クロフォードのほうがよほど個性的な演奏だと思うぐらい、ここでのデューイは「普通」で驚く。4曲目はパーカーやナベサダでおなじみの「イフ・アイ・シュッド・ルーズ・ユー」で、ここでもアルトを吹いていると思う。アルトだと、デューイ・レッドマンの音色の個性が薄まるので、ちょっと残念。それになんとなく淡白な感じになる(それはこのアルバムを通して言えることでもあるが)。ものすごく変なリズムのブレイクのあとデューイのアルトソロがはじまるが、リー・コニッツを聴いているようなあっさりした演奏である。随所に「おっ」と思うような瑞々しいフレーズが聞き取れるが、それはじつはデューイ・レッドマンに求めているものとは微妙に違うのだ。5曲目はジェリ・アレンとのデュオで、レッドマンの無伴奏ソロになった途端、なにかしゃべりながら吹くというあの奏法が突然ぶっこまれる。このあたりはすごく面白いし、そこへまた突っ込むジェリ・アレンのピアノもかっこよく、本作の白眉といっていい演奏。というか、全編ジェリ・アレンとのデュオでもよかったかも。ふたりの個性爆発の演奏。ラストはコルトレーンの「レイジー・バード」で、またアルト。この曲の演奏だけ聴いたら、デューイ・レッドマンとは思えないかも。コードからコードへきっちりと縫うように演奏していくのだが、だからなんやねん、と思わんでもない。というわけで、デューイ・レッドマンの作品としては相当オーソドックスなものでありました。レーベルがブラックセイントなので、レーベルの要望というわけでもなく、本人がこういう風にやりたかったということだと思うが、不思議。