「INCOGNITO」(ENJA RECORDS TKCB−71854)
TONY REEDUS
トニー・リーダスがリーダーなのだが、共演者がゲイリー・トーマス、スティーブ・ネルソン、そしてデイヴ・ホランドとなれば聴くしかない。いやー、すごいですね。ディープな音楽性に加えて圧倒的なパワー。曲者揃いの3人のプレイが凄いのはわかるが、なによりリーダーの激しいドラムが全編通して演奏を引っ張っている。1曲目のゴリゴリの激しい曲・演奏でもうめちゃくちゃかっこいい。ドラムもすごいし、ゲイリー・トーマスのテナーがとにかく最高で、聴いてると胸を掻きむしられるというか「ギャーっ」と叫びたくなる。いやー、死ぬほどかっこよくないですか? 2曲目は打って変わってゆったりとスウィングするリズムにゲイリー・トーマスのめちゃくちゃすごいフルートソロがフィーチュアされる。テナーと遜色ないすごいフルートが吹けるひとで、鬼に金棒である。3曲目もスウィングビートの曲だが、ゲイリー・トーマスがテナーを吹きだすと途端に硬派でシリアスな雰囲気になる。このくねくねとした斬新で不気味(?)なフレーズをアジャストトーンの硬質な音色で全力で吹くからこんな感じになるのだろう。スティーヴ・ウィルソンのビブラホンも同じく硬派な雰囲気。4曲目はスタンダードで、ホランドのベースとフルートのデュオで幕を開ける。ビブラホンとフルートのからみもいいけど、それにしてもフルートすばらしいですね。それをバックアップするベースとドラムも最高。この辛口の雰囲気は絶妙であります。5曲目はぶっ速い曲で、ビブラホンとテナーが絡み合いながらソロを取るような趣向ではじまるが、とにかくテナーソロが凄すぎる。音色もフレーズもすばらしいのだが、このタンギングというかアーティキュレイションが死ぬほどかっこいいのだよなー。ホランドの「凄まじい」としか言いようがないベースソロもすごいぜ。最後もテナーとビブラホンの掛け合い(?)になるのだが、めちゃくちゃ盛り上がる。6曲目はリーダーのトニー・リーダスの曲だが、テナーとベースが甘さのかけらもないソロを展開していて最高である。バラードなのだが、このひとはええ曲を書きますなー。エンディングのテナーも凄い。7曲目はホランドの曲で、ベースがパターンを弾くモーダルな曲だが、ゲイリー・トーマスのゴリゴリのテナーがフィーチュアされている。このひとのソロは、音色とフレーズを聴くだけでとにかく血沸き肉躍る。ビブラホンのソロもかっこよくて、それをプッシュしまくるドラムとベースにも感動。躍動感と言う言葉はこういうときに使うべきなのか。とにかくトーマスもネルソンも、リズムのうえで好きにソロをしているのではなく、心に残るようなフレーズを奏でようと心掛けているのがわる。ラストの8曲目は、おいおい……という感じで「バイバイ・ブラックバード」。よく歌うドラムソロではじまりゲイリー・トーマスのテナーとのデュオでテーマ〜ソロになる。このデュオは、コルトレーン〜エルヴィンといおうかコルトレーン〜ラシッド・アリといおうか、そういう真っ向勝負なもので、聴きごたえ十分。あー、こういう一番好きかも。バイバイ・ブラックバードとか関係ないじゃん、と言い切れるようなただただ、ひたすらのドラムとテナーのデュオ。トニー・リーダスもだが、ゲイリー・トーマスもめちゃくちゃがんばっている。いやー、圧倒的で壮絶な演奏。傑作だと思います! 日本語ライナーノートはあまりにひどいので読まないほうがいいです。こんなこと書くなら断ればいいのに。