hans reichel

「STOP COMPLAINING/SUNDOWN」(FREE MUSIC PRODUCTION FMPCD36)
HANS REICHEL DUETS WITH FRED FRITH AND KAZUHISA UCHIHASHI

 これは私にとって大事な大事な大事なアルバム。そもそもギターが嫌いだった。とくにエレキギター。たぶん中学のころ、挫折した苦い経験があるからだと思うが、管楽器をやってる身としては、カポをはめたらキーが変えられるとか、半音や全音でずらしていくフレーズも簡単だとか(管楽器ではめちゃめちゃ難しい)、音量もアンプでいくらでも大きくなるし、エフェクターその他で音色その他もどんどん変えられるし、エレクトリック関係のものとも相性ばっちりだし、リズムもコードも出せるし……とにかく「敵」だと思っていた。そんな具合に、もともとギターというものに良い印象を持っていない私にとって、ジャズギターなるものはほんとどうでもいいものだった。けにー・バレルもバーニー・ケッセルもジョー・パスもジム・ホールもなにがおもろいのかさっぱりわからない。単音で弾くだけなら管楽器の表現力のほうが上だと思っていた。好きなジャズギターは、そうですなー、ウエスとグラント・グリーンぐらいでしょうか。パット・メセニーもジョンスコもワタナベカヅミもいまひとつピンとこない。ブルースのひとはみんな好きなんです。それこそサン・ハウスやロバート・ジョンソンからアルバート・キング、バディ・ガイにいたるまでみんな。でも、フリー・ジャズのギターについても、ソニー・シャーロックやウルマー、デレク・ベイリー……そういったひとも、好きは好きなのだが、管楽器のほうがずっと好きだった。めちゃめちゃ好きだったのは高柳昌行さん。このひとはでもギターというより、またちがうものだと思っていた。そういうギター嫌いが180度変わったのは、内橋和久というひとの演奏を知ってからで、とにかく、こういうような理由で好きなのだ、とか関係なく、はじめて聞いた瞬間から、あまりに凄くて、あまりに私好みの音楽で、あまりにすんなりわかって、あまりにかっこよくて、驚いてしまった。それ以来、ギターについての考え方が変わり、ああ、なんといううらやましい、フリージャズとかインプロヴィゼイションに適した楽器だ、と思うに至ったわけだが、その大転換のきっかけのひとつは、ここに収録されている演奏、つまり、ハンス・ライヒェルとのデュオを観たことだったと思う。それまでも内橋さんの演奏はずっと観てて、凄い凄いと思っていたのだが、このハンス・ライヒェルとの共演が、まるで100年間一緒に演奏している同志のような、完全にわかりあえている、えげつないぐらい凄いものだったことで、私はめろめろになってしまったのです。それが、あのFMPからリリースされたときは興奮しましたなあ。聴いてもらったらわかると思うけど、このふたりのデュオには、あらゆる音楽の要素、いや、人と人との関係の要素が入っている。いろんな意味でのスピード感、スリル、ハーモニー、コードチェンジ、ドライヴ感……。前半には、ライヒェルとフレッド・フリスとのデュオが入っていて、これもめちゃくちゃすばらしい演奏なのだが、内橋さんとライヒェルのデュオには、それに加えて、かなりのユーモアセンスが盛り込まれている。演奏しながら、音で笑いあっているような瞬間が多々ある。共演して間もないふたりがここまで深く深く分かりあった会話をしていることに単純に感動した。インプロヴィゼイションとか即興とかいうけど、ほんまにおもろいんか、と思ってるひとに薦めたいです。即興の楽しさが詰まった最高の演奏。たぶん買ってから100回ぐらい聴いたと思うけど、飽きないっすねー。内橋さんはソロをはじめ、いろんな組み合わせの演奏がたくさんあるけど、私にとっては(この場に居合わせたという理由だけでなく)このアルバムは外せません。ハンス・ライヒェルの早すぎた死は本当に本当に残念です。もう一回話を蒸し返すと、ギターという楽器が好きになったのは内橋さんのおかげです。でも、それは演奏を観た(聴いた)だけじゃなくて、いろいろ直接教えてもらったことも大きいかも。今では、あらゆるギター奏者が大好きです(嘘です)。傑作。必聴。