「CHARLES & JOE」(WIDE SOUND JAZZ PRODUCTION WD172)
GIANLUCA RENZI ALL STARS ORCHESTRA PLAYS THE MUSIC OF CHARLES MINGUS AND JOE HENDERSON
2008年に出たときすぐに買って聴いた記憶があるが、私はイタリアのジャズにはかなり疎いので(カルロ・アクティス・ダートとかイタリアン・インスタビレ・オーケストラとかステファノ・デ・バティスタとかエンリコ・ラヴァとか……好きなひとはけっこういるのだが)、このリーダーのベースのジャンルカ・レンツィというひとのことを全然知らない。たぶん、メインストリームジャズのひとだからだと思うが、ではなぜこのアルバムを聴いたのかというと、ジョー・ヘンダーソンの曲を3曲とミンガスの曲を4曲やる、というコンセプトもすばらしいが、10人編成のビッグコンボで、テナーがマウリツィオ・ジャンマルコとマックス・イオナータのふたり……というめちゃくちゃすごい顔ぶれ。ほかのメンバーも、私ですら知っているファブリツィオ・ボッソ、ロベルト・ロッシ、ピアノのピエトロ・ルッス、ドラムのロレンツォ・トゥッチ、アルトのダニーレ・ティタレリ(と読むのか? なんで知ってるかというとロベルト・ガトーのアルバムに入ってたからだ)……というマジのオールスターメンバーなのだ。全曲のアレンジをレンツィが手掛けた意欲作だが、レンツィは2008年にニューヨークに渡っており、これだけのメンバーをよく揃えて録音できたなあ……と思っていたら、本作はイタリアのテアーノ・ジャズ・フェスティヴァルのライヴであり、たぶん一時帰国して凄腕の仲間たちを集めた……というところではないだろうか。とにかくすごい面子である(さっきも書いたけど、イタリアのジャズに疎い私がびっくりしているのです)。10人編成で、しかもソロイスト揃いなので、ざっくりした譜面なのかと思っていたらさにあらず、リトルビッグバンドとかラージアンサンブルとかいった感じではなく、バリトンサックスが低音でヴァンプし、トランペットがハイノートをばしばしヒットし、サックスがちゃんとソリを吹くという、まさにビッグバンドサウンドなのである。そして、各々のソロは、なにしろスタープレイヤーばかりなのでめちゃくちゃすばらしい。ボブ・ミンツァーやチャールズ・トリヴァー、ボビー・ワトソン……といったこれまたすごい面子がライナーに言葉を寄せていて壮観である。ただ、ひとつだけわからんのは、どうして「ミンガス」と「ジョー・ヘンダーソン」なのか、ということで、けっこう長いライナーを読んでも、このふたりの組み合わせの意味がよくわからなかった。ただ単に、リーダーがこのふたりを好きだから、ということではないだろう。そこになにか音楽的意味があるのだと思う。そして、聴いてみると、最初がジョー・ヘンダーソンの曲3曲、後半がミンガスの曲4曲という構成だが、まったく違和感なく溶け合って聴けます。1曲目は、ブルーノートの超有名曲「インナー・アージ」で、バリトンサックスの低音からはじまり、そこにあれよあれよといろいろ重なっていき、出し惜しみなくあっという間に軽快なビッグバンドサウンドがぶちかまされる。そのあと一番手のソロはけっこう長いベースで、たしかにこのひとがリーダーなのだが、ビッグバンドの1曲目の最初のソロがベースというのもなかなか大胆な……と思っていたら、これがなんともすばらしいソロでそのあとの空気感をしっかり作っていてすばらしい。そのあとはマウリツィオ・ジャンマルコのテナーソロ。めちゃくちゃすごい。私は勝手にイタリアのコルトレーン〜マイケル・ブレッカーだと思っていたひとだが、ここでも芯のある音色で硬派なソロを繰り広げ、超上手い(この録音時は45歳である。普段はロートンメタルだと思うがこのアルバムでは白いマウピ(ブリルハートかアーブ?)を使用している)。トランペットソロはアンディ・グラヴィッシュというひとでこのひともめちゃ上手い。そのつぎはダニーレ・ティタレリのアルトで、このひともめちゃ上手い。とにかく出てくるひと出てくるひと全員上手いので、ひたすら聞き惚れるばかり。ソロを盛り立てるアンサンブルからテーマに戻るあたりも完璧で、あー、これはかっこええわ……と思った。このライヴはジョー・ヘンダーソンが他界して数年後なわけだが、もし本人が存命でこの演奏を聴いたらすごく喜んだと思う。2曲目はマイルストーンのアルバムの表題作で、これもよく知られた曲だと思う(「NARCISUSS」と誤記されているが正しくは「NARCISSUS」)。テーマが終わると4ビートになり、ロベルト・ロッシのテクニカルかつ豪放なソロのあと、マックス・イオナータのソロがフィーチュアされる。端正にはじまるが、次第にガリガリ盛り上げていくすばらしいソロ。しかし、最後までクールさは忘れない。ピアノソロのあとのボッソのソロは、ほんまに目を剥くほどのすばらしさで驚愕(完璧なテクニックと構成力、エモーション、歌心……などを兼ね備えている)。最後はガンガン盛り上げてエンディング。3曲目はこれもブルーノートの人気曲で、軽快なアレンジ(やや優等生的か?)に仕上がっている。テーマが終わると4ビートになり、ダリオ・チェッキーニのバリトンがフィーチュアされる。ごつごつした巖のような感じのソロでなかなか手応えがあって楽しいが、なぜこのとき「肉」と漢字で書いた服を着ているのが気になる。つづくトランペットソロはグラヴィッシュで、やはりものすごく上手い。とくに高音のコントロールが抜群である。そのあとマックス・イオナータのテナーソロ。柔らかい音色で着実にしっかりとフレーズをつむいでいく美味しいソロだが、先入観のせいかジョー・ヘンダーソン的な要素を感じられる……ような気がしたりする。4曲目以降はミンガスで、なかなか渋い選曲である。まずは「デューク・エリントンズ・サウンズ・オブ・ラヴ」。ダリオ・チェッキーニのバスクラからはじまり、トロンボーンがテーマをリードし、フルート2本とミュートトランペット、バリトンサックス(とバスクラ)……を使ったアンサンブルがそれを包み込む。マウリツィオ・ジャンマルコのめちゃくちゃ私好みのメカニカルかつ歌心あふれるテナ―ソロがフィーチュアされる。短いがすばらしいピアノソロを経てアンサンブルに戻る。5曲目は「O.P.」でリーダーであるジャンルカ・レンツィのベースソロをひたすらフィーチュアした曲だが、すばらしいベースソロでひたすら聴き惚れる。ファブリツィオ・ボッソの明快でとにかく上手いソロ、イオナータのちょっとざらついた音色の超かっこいいロングソロ……上手すぎる! そして最後のアンサンブルもめちゃくちゃ盛り上がって、もう終演かと思いきや、そこからテンポが半分になったり、戻ったりしているところにテナーとトランペットがチェイスする、という展開で、そのままバシッと終わる。なるほどー。6曲目は「プリ・バード」に入ってる曲で、アルトとトロンボーン、ピアノがフィーチュアされる。ラストは今日本のミュージシャンもさかんに取り上げている「ベター・ギット・イン・ユア・ソウル」で一種のソロ回し的な展開である。リーダーの力強くかなり長尺のベースソロ(まるでゴスペルのようなサウンド)にはじまり、そのあとアンサンブルになって、ソロ回し。テナーふたりのソロは短いが手応えあり。アルトソロもすばらしい。バリトン、トランペット(プランジャー)、トランペット(オープン)、トロンボーン……いずれも見事なソロで芸術的であり、かつ、職人芸的である。ピアノ、ドラムもソロをして、全員がソロを回した時点でアンサンブル(かっこいい!)からテーマに戻る。ひとりとしてとりこぼしがありません。しかも、「この曲はソロ回しね」的なやっつけ感もなく、ちゃんと曲として音楽として味わえるのがすばらしいです。破綻のない手堅い展開ではあるが、そのなかでやるべきことをやった感がある演奏。しかし、結局、なぜジョー・ヘンダーソンとミンガスなのか、という疑問は氷解しなかったが、そういうことをあまり考えずに、かっこいいモダンジャズビッグバンドだと思って聴けばこれは最高であります。傑作。