reona

「LIVE AT SOTO」(OREO RECORDS OR−01)
REONA

 タップダンサーのリーダーアルバムで、共演者が林栄一、瀬尾高志……という仰天のメンバー。まあ、およそまともな音楽とは思えない。これはどうしても聴きたかったアルバムなのだが、瀬尾さんか高岡さんのツアーを聴きにいったときの物販で買えるだろうと思っていた。しかし、まさかこんなことになろうとは……ということで悶々としていたら、瀬尾さんが通販をはじめたので購入。聴いてみて正直、びっくりした。ちょっとスピーカーのまえでひっくりかえるような衝撃だった。それはたぶん、内容もさることながら、録音のすばらしさにかなりのウェイトがあるのだろうが、この3人による演奏がいかに素敵かということをこれからぐだぐだ書いてもしかたがない。もう……聴いてもらうしかない。さっき「およそまともな音楽とは思えない」と書いたが、たしかにそうでした。このぶっ飛んだ、アンドロメダか馬の首暗黒星雲に届くような音楽は、すべての価値観をひっくり返すような、すごいエネルギーを秘めた演奏なのだ。大量のがらくたを全力でぶちまけたようなレオナのタップは、私のタップダンス観をぶち壊してくれた。泰山が砕け散るような、と言ったら古臭いか。巨大な高層建築が、ピラミッドが、凱旋門が、エッフェル塔が崩壊するような凄さなのだ。今のところ私はまだこのひとのタップを生で見たことはないのだが、見たら死ぬかもしれない。そんな気がするほど、凄まじい演奏であることがこのCDでもわかる。それはつまり、録音もすごいということで、録音はあの「カエル」の高岡さんなのである。いいに決まってる。何度聴いてもいい。林栄一のアルトはすごい。そんなことはわかっている。いつもながらに天井や壁を突き抜けるような、スピーカーを貫くようなアルトの音とフレーズは近作のなによりまして凄まじい。しかし、そのすべてを操っているのがこのタップなのだということがなにより感動である。そしてその高岡のチューバが、闇のなかから立ち上がる瞬間はなんともいえずすごい。私は最近、高岡さんのダウンロードしか聴けないフィールドレコーディングの音源を聴いて、チューバが登場した場面でそのあまりのかっこよさに(怪獣が出現したような凄さがあった)感涙した(文字通り)ことがあったが、ここでの高岡さんは録音に演奏に大活躍ではないか。そしてそして、瀬尾さんのベースも、はちゃめちゃに暴れるメンバーをしっかりと押さえつつ、ズドーン! と自己主張している。4曲目のベースのアルコソロとピチカートソロのすばらしさはすばらしいとしか言いようがない。そしてもちろん林栄一のアルトが全編を縫うように活躍している。このひとのすばらしさは、日本の宝、とか世界のなんたらかんたらとか言う言葉では語りつくせない。ジャズという音楽の歴史のうえに生まれた宝としか言いようがない。しかし、そういったすごい演奏家が集まったからといってすごい演奏が生まれるわけではない。本作は、本当に、マジで、稀有に、そういう瞬間が訪れた、訪れまくった一夜の記録、ということだと思う。5曲目の「平和に生きる権利」を聴いていると、ベースソロもアルトの音もタップも、目のまえにいるかのような臨場感があり、幸福な気分になる。録音の凄さをひしひしと感じる瞬間である。最終曲「ゴースト」でのタップとアルコベースのデュオもそのあとの林のアルトのリードを軋ませる高音部での狂気のソロ、そしてテーマから「ゴーイン・ホーム」へ至る展開には拳を振り上げるしかない。とにかくドラムやパーカッションの代わりとしてのタップではなく、三つ(あるいは四つ)の楽器が対等に絡み合う演奏であって、その手に汗握るスリルはこの音源に最高の形で収録されている。これは、音楽史に残るような傑作だと思う。おおげさ? とんでもない。